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第六話 彼女が幸せなら、かまわない
彼女が幸せなら、かまわない④
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昨日の深酒がまだ残っているのか頭が鈍く痛かった。
とはいえ、それを理由に寝こけるわけにも行くまい。
無理やりベッドから降りて、日課の剣の鍛錬をするために中庭に出た。
剣の鍛錬、と言えば聞こえはいいが、ただのストレス解消だ。
目を閉じて敵を思い描く。
敵は凄まじく強い剣士。
体格も膂力も私よりも上。
そして顔はジャスティンやダールトンの顔をしている。
その敵とシルバスタンで戦うのだ。
奴の放つ斬撃を受けて、避けて、返して、隙を誘う。
隙が見えた瞬間、全身全霊の斬撃を放つ。
一閃、それだけでいい。
どれだけ強かろうと人間は剣で斬られれば死ぬ。
もっとも刃のないシルバスタンでは骨を折るのが精一杯だが。
闇の中を超高速で動き回る敵を追いかけていくうちに噴き上がった汗とともに体内の酒は抜ける。
スッキリと目が覚めたような爽快感。
想像で組み上げた敵の動きを完全に捉える。
「ハアアアアアッ!!」
気合いとともに一閃を放つ。
忌まわしい顔をした敵の首が泣き別れになる————
ガキィィィィンッ!!
「な!?」
突然響き渡った金属音と手に伝わった衝撃に目を見開いた。
「良い一撃だ。
速く重くしなやかで、鍛錬の深さが見受けられる」
ニヤリと笑うディナリスの剣に私の渾身の一閃は受け止められていた。
しかも彼女が剣を握っているのは左手だけ。
プライドが傷つかないわけではないが、敬意と好奇心が勝った。
「さすがだな。
片手間に鍛えている程度の剣では歯が立たないか」
「謙遜しなくていい。
想像している敵がはたからでも分かるほどの集中された鍛錬。
放たれた斬撃の速度もキレも申し分ない。
それもその酷い業物で……
王様が自衛で身につけるレベルの剣ではないな」
「自衛さ。心を守るために剣を振るっている。
それより、昨夜はすまなかったな。
初対面のレディに愚痴や嘆きを聞かせてしまって」
私が謝るとディナリスは笑った。
「本当にあなたは王様らしくない。
王とはもっと役立たずで迷惑な存在であるべきだ」
「だったら私は実に王らしい」
釣られて笑ってしまう。
どうも彼女といると気楽で心を許してしまう。
彼女が王都の住民でなく、自由だからだろうが。
「バルトは?」
「二日酔いに苦しんでるよ。
その辺の侍女に介抱を頼んできた。
どうやら今日の出立は無理そうだ」
「いいのか、主君を放っておいて」
「介抱は私の仕事ではないからな。
それに陛下といた方が私も楽しめそうだ」
そう言って私の肩や胸、腰や太ももをペタペタと触ってくる。
「良い体だ。余計な肉はもちろん飾りのような筋肉もない。
その細腕であの威力の剣を振るえるということはよほど気が練り上げられているということか」
「あまり気安く触れないでくれ……
王の権威に傷がつく」
「ウソだな。
気安いボディタッチでも興奮していることを恥じているんだろう。
生娘みたいで、なんだか背徳的な悦びを覚えてしまうな」
見透かされてる……さすがだ。
ニタニタと笑うディナリスの手を引き剥がして言い返す。
「からかうのはやめてくれ。
ハニートラップを疑ってしまう」
「すまない、すまない。
昨日の話を聞いて少しは優しくしてやろうと思ってな」
「無用だ。
元々、私とフランチェスカの間に愛などないんだ。
男として、自信を失うというか傷ついたのはあるが、それだけだ」
私の言葉を聞いてディナリスは鼻で笑った。
「ハ、あなたはどうにかして自分が納得できるように言い訳をするのだな。
それでも納得できない事があるから、虚空に敵を描いてそれを斬り伏せる戯れをするんだ」
彼女は私に背を向けてツカツカと歩き、10メートル程離れたところで向き直った。
「手合わせしよう。
長旅で対人の稽古が行えなくてな。
コッチも欲求不満なんだ」
舌舐めずりして誘うように手招きしてきた。
ああ、やっぱり彼女は良い。
自由でしなやかで見ていて惚れ惚れする。
「私もお願いしようと思っていた。
貴殿ほどの使い手と剣を合わせる機会なんてそうはないからな!」
私は木剣を持ってくるように従者に伝えた。
とはいえ、それを理由に寝こけるわけにも行くまい。
無理やりベッドから降りて、日課の剣の鍛錬をするために中庭に出た。
剣の鍛錬、と言えば聞こえはいいが、ただのストレス解消だ。
目を閉じて敵を思い描く。
敵は凄まじく強い剣士。
体格も膂力も私よりも上。
そして顔はジャスティンやダールトンの顔をしている。
その敵とシルバスタンで戦うのだ。
奴の放つ斬撃を受けて、避けて、返して、隙を誘う。
隙が見えた瞬間、全身全霊の斬撃を放つ。
一閃、それだけでいい。
どれだけ強かろうと人間は剣で斬られれば死ぬ。
もっとも刃のないシルバスタンでは骨を折るのが精一杯だが。
闇の中を超高速で動き回る敵を追いかけていくうちに噴き上がった汗とともに体内の酒は抜ける。
スッキリと目が覚めたような爽快感。
想像で組み上げた敵の動きを完全に捉える。
「ハアアアアアッ!!」
気合いとともに一閃を放つ。
忌まわしい顔をした敵の首が泣き別れになる————
ガキィィィィンッ!!
「な!?」
突然響き渡った金属音と手に伝わった衝撃に目を見開いた。
「良い一撃だ。
速く重くしなやかで、鍛錬の深さが見受けられる」
ニヤリと笑うディナリスの剣に私の渾身の一閃は受け止められていた。
しかも彼女が剣を握っているのは左手だけ。
プライドが傷つかないわけではないが、敬意と好奇心が勝った。
「さすがだな。
片手間に鍛えている程度の剣では歯が立たないか」
「謙遜しなくていい。
想像している敵がはたからでも分かるほどの集中された鍛錬。
放たれた斬撃の速度もキレも申し分ない。
それもその酷い業物で……
王様が自衛で身につけるレベルの剣ではないな」
「自衛さ。心を守るために剣を振るっている。
それより、昨夜はすまなかったな。
初対面のレディに愚痴や嘆きを聞かせてしまって」
私が謝るとディナリスは笑った。
「本当にあなたは王様らしくない。
王とはもっと役立たずで迷惑な存在であるべきだ」
「だったら私は実に王らしい」
釣られて笑ってしまう。
どうも彼女といると気楽で心を許してしまう。
彼女が王都の住民でなく、自由だからだろうが。
「バルトは?」
「二日酔いに苦しんでるよ。
その辺の侍女に介抱を頼んできた。
どうやら今日の出立は無理そうだ」
「いいのか、主君を放っておいて」
「介抱は私の仕事ではないからな。
それに陛下といた方が私も楽しめそうだ」
そう言って私の肩や胸、腰や太ももをペタペタと触ってくる。
「良い体だ。余計な肉はもちろん飾りのような筋肉もない。
その細腕であの威力の剣を振るえるということはよほど気が練り上げられているということか」
「あまり気安く触れないでくれ……
王の権威に傷がつく」
「ウソだな。
気安いボディタッチでも興奮していることを恥じているんだろう。
生娘みたいで、なんだか背徳的な悦びを覚えてしまうな」
見透かされてる……さすがだ。
ニタニタと笑うディナリスの手を引き剥がして言い返す。
「からかうのはやめてくれ。
ハニートラップを疑ってしまう」
「すまない、すまない。
昨日の話を聞いて少しは優しくしてやろうと思ってな」
「無用だ。
元々、私とフランチェスカの間に愛などないんだ。
男として、自信を失うというか傷ついたのはあるが、それだけだ」
私の言葉を聞いてディナリスは鼻で笑った。
「ハ、あなたはどうにかして自分が納得できるように言い訳をするのだな。
それでも納得できない事があるから、虚空に敵を描いてそれを斬り伏せる戯れをするんだ」
彼女は私に背を向けてツカツカと歩き、10メートル程離れたところで向き直った。
「手合わせしよう。
長旅で対人の稽古が行えなくてな。
コッチも欲求不満なんだ」
舌舐めずりして誘うように手招きしてきた。
ああ、やっぱり彼女は良い。
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