流刑王ジルベールは新聞を焼いた 〜マスコミの偏向報道に耐え続けた王。加熱する報道が越えてはならない一線を越えた日、史上最悪の弾圧が始まる〜

五月雨きょうすけ

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最終話 七つの刃

導入

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 聖オルタンシア王国最後の王ジルベールは国外へと追放された。

 当時、この出来事は悪しき権力者を打倒した国民の勝利とこぞって酔いしれていたが、後世の歴史家たちは口を揃えてこう言う。

『ジルベールは敗北したのではなく、沈む船から脱出したのだ。
 ジルベールが追放されなければ聖オルタンシア王国の崩壊は数十年遅れたかもしれない。
 古来より続いた王の権威が斜陽となった時代において、かの王ほど調整能力に長けた人間が王の座にいたことは奇跡的な幸運である。
 まだ若く健康で、国教会や国防の要といった重要人物たちの信頼は厚く、長期政権が期待できた。
 もし、かの王が30年王位についていれば、封建政治から民主政治への転換もスムーズに行うことができたという見方が強い。
 当時の市民は自ら救世主を追い出してしまったことになる。
 しかし、ジルベールは何を失っただろうか?
 何も失っていない。
 敵と無能な愚民から解放されて、献身的な味方に支えられて、生まれてはじめての自由を謳歌できるようになった』

 ジルベールが追放されてから国内で発生した疫病の蔓延やダールトンの虐殺事件により国は大きく揺らいだ。
 だが、そのことすらこれから王国を襲う苦難の前触れでしかなかった。


 ヒストリア美術館に展示されている彫刻家ゴシュマー作の彫像『獅子を穿つ七つの刃』はその名の通り、強大な獅子が七本の剣に刺されて断末魔の悲鳴を上げているものだ。
 これは聖オルタンシア王国の終焉をモチーフに作られた作品であり、獅子は王国そのもの、剣は王国を倒した七人の人物を意味している。

 一人はジルベール王。
 かの王は善政を行い、王国の寿命を伸ばしもしていたが、ジルベールの付け火という前代未聞の弾圧事件を起こした。
 結果、王が法に裁かれるという王権の弱体化を自ら示してしまい、王国崩壊の引き金を引いた。

 一人はダールトン。
 かの王が正しく国教会から国王に認められていれば、ジルベール王が最後の王となることはなかった。
 ダールトンは王でもなく公爵でもなく民でもない。
 記録上は不明な人間が王を僭称していたということになっている。
 言うまでもなく、王国末期の混沌を引き起こした張本人だ。

 さて、残りの五人については、ジルベールの追放まもない頃のエピソードと共に語るとしよう。
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