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最終話 七つの刃
ジャスティン編
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「そうか。生まれたか、しかも二人も」
ジャスティンは新築した社屋の社長室にてオーギュストからフランチェスカの子の誕生を聞かされた。
なお、アンジュによって『オーギュストの子である事を隠してジルベールの子としている』ように彼らには伝わっている。
フランチェスカの思惑どおりに進んでいる。
今のところは。
「これで私は後の王の父、あなたは王の祖父だ」
「まだ分からんぞ。
なにせあのダールトンだ。
自分の種の子どもが産まれれば世継ぎにしたいと騒ぎ出す」
「ならば女遊びを禁じますか?
優しくするのはもう十分でしょう。
臣下の貴族からは反発も高まっていますし」
「まあ、そちらについても考えがある。
お前は素知らぬふりで貴族ごっこを楽しんでおれ」
「分かりました。
本当に叔父上は天才ですよ。
たった一人で何百年も続くオルタンシア王家の血を絶やしてしまったのですから」
「早合点するな。
まだ王族は生きている。
それに私は王家を滅ぼしたいわけではないよ。
無論、そんな貴重な場面に出くわせれば喜んで記者を送り込むがね」
オーギュストは相槌を打つように笑った。
実際、ジャスティンほど鮮やかに国王を追い落とした人間は歴史的に稀である。
武力で王を打倒したり、暗殺したりした者はいたが、自分で手を汚さず、煽動と挑発を繰り返して暴発を誘い、自滅に至らせたなどという者はいない。
王の権力が弱くなり、一般大衆が文字を読み情報を得ることができるようになった時代だからこそ起こり得たとはいえ、彼の手腕を疑う理由にはならない。
「では、もう行きます。
いやあ、実に楽しかった。
叔父上の描く舞台の中でも最高にして最大のものでしたね。
次の演目がどのようなものになるか、私も楽しみにしていますよ」
期待の言葉をかけてオーギュストは去った。
一人きりになったジャスティンは机の引き出しに忍ばせた一枚の写真を睨むように見つめる。
レプラの写真だ。
サンク・レーベン修道院に匿われていた頃に撮影した一枚。
世界で最も最初に使われた報道写真だ。
この写真だけはフィルムごとジャスティン直々に保有していた。
そのおかげでジルベールの付け火による焼失を免れて、再現像を行うことができた。
「ジルベールを乗せた船は帰ってこない。
沈没したと考えるのが普通だが、それを証明するものもない。
そして、煙のように消えた1000人以上の王都の民に怪我を負っていたはずのレプラ……」
ジャスティンはレプラと対峙した時のことを思い出す。
氷のように冷たそうな顔の皮の下に並々ならない忠誠心を秘めているのが瞬時にわかった。
意志の強そうな青い瞳と秋の麦畑を思わせる黄金色の髪は昔ながらの貴族美人。
頭はキレ、口も達者。
ジルベールを影で支えながら、その実、主人よりも王の器を備えていた。
運命の女に出会った気分だった。
しかし愛に目覚めたわけでは無い。
こんなに嫌いなタイプの女がこの世にいることを知って、思わず震えたのだ。
ジルベールを守るために立ちはだかる姿も、甘んじて身を引く姿も全てが目についた。
見惚れて、欲しくなって、汚したくなって、壊してやりたくなった。
「お前ほどの悪役、残りの人生で観ることができるだろうか?
オーグの言うとおり、ジルベールの追放劇は私にとって一世一代の名舞台だったかもしれないな」
以降、しばらくの間、ウォールマン新聞による過剰な偏向報道はなりを潜める。
再びウォールマン新聞が、ジャスティン・ウォールマンが歴史の表舞台に関わるのは、彼の望んだとおり、聖オルタンシア王国の終末の事となる。
ジャスティンは新築した社屋の社長室にてオーギュストからフランチェスカの子の誕生を聞かされた。
なお、アンジュによって『オーギュストの子である事を隠してジルベールの子としている』ように彼らには伝わっている。
フランチェスカの思惑どおりに進んでいる。
今のところは。
「これで私は後の王の父、あなたは王の祖父だ」
「まだ分からんぞ。
なにせあのダールトンだ。
自分の種の子どもが産まれれば世継ぎにしたいと騒ぎ出す」
「ならば女遊びを禁じますか?
優しくするのはもう十分でしょう。
臣下の貴族からは反発も高まっていますし」
「まあ、そちらについても考えがある。
お前は素知らぬふりで貴族ごっこを楽しんでおれ」
「分かりました。
本当に叔父上は天才ですよ。
たった一人で何百年も続くオルタンシア王家の血を絶やしてしまったのですから」
「早合点するな。
まだ王族は生きている。
それに私は王家を滅ぼしたいわけではないよ。
無論、そんな貴重な場面に出くわせれば喜んで記者を送り込むがね」
オーギュストは相槌を打つように笑った。
実際、ジャスティンほど鮮やかに国王を追い落とした人間は歴史的に稀である。
武力で王を打倒したり、暗殺したりした者はいたが、自分で手を汚さず、煽動と挑発を繰り返して暴発を誘い、自滅に至らせたなどという者はいない。
王の権力が弱くなり、一般大衆が文字を読み情報を得ることができるようになった時代だからこそ起こり得たとはいえ、彼の手腕を疑う理由にはならない。
「では、もう行きます。
いやあ、実に楽しかった。
叔父上の描く舞台の中でも最高にして最大のものでしたね。
次の演目がどのようなものになるか、私も楽しみにしていますよ」
期待の言葉をかけてオーギュストは去った。
一人きりになったジャスティンは机の引き出しに忍ばせた一枚の写真を睨むように見つめる。
レプラの写真だ。
サンク・レーベン修道院に匿われていた頃に撮影した一枚。
世界で最も最初に使われた報道写真だ。
この写真だけはフィルムごとジャスティン直々に保有していた。
そのおかげでジルベールの付け火による焼失を免れて、再現像を行うことができた。
「ジルベールを乗せた船は帰ってこない。
沈没したと考えるのが普通だが、それを証明するものもない。
そして、煙のように消えた1000人以上の王都の民に怪我を負っていたはずのレプラ……」
ジャスティンはレプラと対峙した時のことを思い出す。
氷のように冷たそうな顔の皮の下に並々ならない忠誠心を秘めているのが瞬時にわかった。
意志の強そうな青い瞳と秋の麦畑を思わせる黄金色の髪は昔ながらの貴族美人。
頭はキレ、口も達者。
ジルベールを影で支えながら、その実、主人よりも王の器を備えていた。
運命の女に出会った気分だった。
しかし愛に目覚めたわけでは無い。
こんなに嫌いなタイプの女がこの世にいることを知って、思わず震えたのだ。
ジルベールを守るために立ちはだかる姿も、甘んじて身を引く姿も全てが目についた。
見惚れて、欲しくなって、汚したくなって、壊してやりたくなった。
「お前ほどの悪役、残りの人生で観ることができるだろうか?
オーグの言うとおり、ジルベールの追放劇は私にとって一世一代の名舞台だったかもしれないな」
以降、しばらくの間、ウォールマン新聞による過剰な偏向報道はなりを潜める。
再びウォールマン新聞が、ジャスティン・ウォールマンが歴史の表舞台に関わるのは、彼の望んだとおり、聖オルタンシア王国の終末の事となる。
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