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第四章 生贄の村
第15話 英雄ならば
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夜の森は星の光すら届かない真っ暗闇で、光を求めて火を焚いた。
ターニャに食べ物と水をやって、僕は尋ねる。
「君を攫ってくるように頼まれた。
その人はクエルの街の人で、そこそこえらい人なんだけど……」
「もしかしてヨゼフっていう男の人?」
「知っているのか?」
「一応。お母さんに聞かされていたから」
「お母さんは村にいるの?」
「半年前に聖霊様の儀式に選ばれた」
「聖霊様?」
「お兄さんが生贄がどうとかいってたヤツ」
「あ……」
あまり意識していなかったけれど他の人にはセシリアもザコルさんも怨霊も見えていないから、僕が一人で喋って飛び回ってただけに見えるのか……気をつけなきゃ。
「お兄さん。
聖霊様の儀式を邪魔しちゃったのはよくないことだよ」
「儀式だって?
君みたいな女の子をモンスターに喰わせるのが!?」
「痛いのは一瞬で、死んだ後は聖霊様になってお腹いっぱい食べられるし、村の人を守る大切なお役目だってばば様が言ってた」
彼女には見えていない。
この儀式で死んだ者たちが怨霊となったことも身を焼く呪いに苦しみ続けたことも。
頭に血を上らせているとザコルさんが僕の隣に座り、語りかけてきた。
『こんなもんだ。
文字通りお前とは見えているものが違う。
考え方が違うのも当たり前だろう。
いちいち気にするな。
無理やりでも町で普通の人間と暮らしていれば狂った価値観は矯正される。
特に子どもだしな』
ターニャの手前、返答することはできない。
だけど、僕は知りたかった。
ザコルさんは大丈夫なんですか、って。
怨霊化されるのが怖いんじゃない。
ただ妻や子どもがあんな姿になるほどに世を呪って死んでいったことに胸を痛めているんじゃないかって。
僕の考えていることが顔に出てしまっていたのか、セシリアが僕の気持ちを代弁してくれる。
『ザコル。あなた大丈夫なの?
もしショックを受けてるなら祠に戻った方が』
『バカ言え。聞いてなかったか?
今に始まった話じゃねえって』
そう言ってザコルさんはセシリアにデコピンをくらわせた。
ターニャが眠りに落ちた後、彼は珍しく過去の話をしてくれた。
『最弱不敗の英雄……って思わせぶりな異名をぶら下げていても要は仲間に恵まれただけさ。
俺の戦闘力は戦闘職としては凡庸以下だからな。
ただ自分で言うのが憚られないくらい人たらしでね。
自分の力じゃどうにもならないと分かっていたから、他人に頼ることに長けていた。
各地で集めた強力な味方を沢山引き連れて、竜や魔族を退治して、最終的には邪神ヘタロスを葬った。
それも前に立っていたわけでもなく中心にいたからリーダーみたいに扱われて俺の名が目立って残った。
謙遜抜きでそんなシケた話さ。
俺の英雄譚ってヤツは』
「……いや、スゴいでしょう?
強い英雄がいたかもしれませんけどそれをかき集めたのも束ねたのもザコルさんじゃないですか。
アンタがいなけりゃ世界が滅んでたワケだし」
僕が率直な気持ちを伝えると、セシリアもうんうん、と同意する。
『伝わっている三英傑の話でもザコルのものは少し毛色が違うわ。
ベントラ様やナラ様はその強さや偉大さを褒め称えるものであるのに対して、ザコルのは仲間の大切さや鮮やかな機転が見どころなの』
『別にアイツらと並べ立てられたかったワケじゃないさ。
昼間も言ったとおり、俺は俺が守りたい世界のためにできることをやった。
ただ……俺は根っこのところで凡人だったのよ。
世界を救ったならそれ相応の地位について脇を固めるべきだったんだ。
それができなかった俺は自分が死んだ後、自分に近しい者たちがどうなるかなんて考えていなかった。
俺の妻や子どもの多くは、権力者に『英雄の血を繋ぐ者』ということで権力闘争に利用され、多くが暗殺の対象になった。
それに邪神とはいえヘタロスだって神な訳でそれを殺す事は禁忌に触れる事だ。
俺の血を持つ者は迫害を受けることもあった。
タチアナもそんな一人だったんだろう。
俺が死んだ後、娘のナージャと実家のあるコナー村に戻ったけれど、閉鎖的な村の人間からすれば曰く付きの英雄の元からの出戻りだ。
優しくする理由がなく、生け贄にはうってつけだったろうよ。
ククク、聖霊様になるどころか怨霊になって呪いを撒き散らされるなんて良いしっぺ返しだ』
普段はおちゃらけていてお気楽なザコルさんが自嘲するように語るのは胸に来る。
ベントラ師匠やナラ師匠とは毛色は違うが、根本的なところでは英雄で、ブレない正義を抱え、悲壮な過去を背負っている。
こんなザコルさんを見るまで、そんな当然のことを実感していなかった。
燃える薪がパチパチと弾ける音が響く。
静まりかえり僕らはしばらく黙りこくっていたが、僕が沈黙を破った。
「よし! じゃあしっぺ返しついでに村の人たちに分からせてあげましょうか!
自分達がやっていることがどれだけ馬鹿げてるか!」
パチン! と拳で手のひらを打って鳴らす。
驚いた顔でザコルさんは僕に尋ねる。
『おいおい。何するつもりだよ。
さっきも言ったとおり、何百年も続けている儀式をやめさせるのは難しい――』
「だからって放っておけないでしょう。
ここで止めなきゃ同じことの繰り返しだ。
モンスターや怨霊を倒す事と同じくらい人間同士のトラブルの解決は必要な事ですよ」
どうすれば村の人たちに分からせられるか。
そんなことを考えている僕の顔は笑っていたに違いない。
ターニャに食べ物と水をやって、僕は尋ねる。
「君を攫ってくるように頼まれた。
その人はクエルの街の人で、そこそこえらい人なんだけど……」
「もしかしてヨゼフっていう男の人?」
「知っているのか?」
「一応。お母さんに聞かされていたから」
「お母さんは村にいるの?」
「半年前に聖霊様の儀式に選ばれた」
「聖霊様?」
「お兄さんが生贄がどうとかいってたヤツ」
「あ……」
あまり意識していなかったけれど他の人にはセシリアもザコルさんも怨霊も見えていないから、僕が一人で喋って飛び回ってただけに見えるのか……気をつけなきゃ。
「お兄さん。
聖霊様の儀式を邪魔しちゃったのはよくないことだよ」
「儀式だって?
君みたいな女の子をモンスターに喰わせるのが!?」
「痛いのは一瞬で、死んだ後は聖霊様になってお腹いっぱい食べられるし、村の人を守る大切なお役目だってばば様が言ってた」
彼女には見えていない。
この儀式で死んだ者たちが怨霊となったことも身を焼く呪いに苦しみ続けたことも。
頭に血を上らせているとザコルさんが僕の隣に座り、語りかけてきた。
『こんなもんだ。
文字通りお前とは見えているものが違う。
考え方が違うのも当たり前だろう。
いちいち気にするな。
無理やりでも町で普通の人間と暮らしていれば狂った価値観は矯正される。
特に子どもだしな』
ターニャの手前、返答することはできない。
だけど、僕は知りたかった。
ザコルさんは大丈夫なんですか、って。
怨霊化されるのが怖いんじゃない。
ただ妻や子どもがあんな姿になるほどに世を呪って死んでいったことに胸を痛めているんじゃないかって。
僕の考えていることが顔に出てしまっていたのか、セシリアが僕の気持ちを代弁してくれる。
『ザコル。あなた大丈夫なの?
もしショックを受けてるなら祠に戻った方が』
『バカ言え。聞いてなかったか?
今に始まった話じゃねえって』
そう言ってザコルさんはセシリアにデコピンをくらわせた。
ターニャが眠りに落ちた後、彼は珍しく過去の話をしてくれた。
『最弱不敗の英雄……って思わせぶりな異名をぶら下げていても要は仲間に恵まれただけさ。
俺の戦闘力は戦闘職としては凡庸以下だからな。
ただ自分で言うのが憚られないくらい人たらしでね。
自分の力じゃどうにもならないと分かっていたから、他人に頼ることに長けていた。
各地で集めた強力な味方を沢山引き連れて、竜や魔族を退治して、最終的には邪神ヘタロスを葬った。
それも前に立っていたわけでもなく中心にいたからリーダーみたいに扱われて俺の名が目立って残った。
謙遜抜きでそんなシケた話さ。
俺の英雄譚ってヤツは』
「……いや、スゴいでしょう?
強い英雄がいたかもしれませんけどそれをかき集めたのも束ねたのもザコルさんじゃないですか。
アンタがいなけりゃ世界が滅んでたワケだし」
僕が率直な気持ちを伝えると、セシリアもうんうん、と同意する。
『伝わっている三英傑の話でもザコルのものは少し毛色が違うわ。
ベントラ様やナラ様はその強さや偉大さを褒め称えるものであるのに対して、ザコルのは仲間の大切さや鮮やかな機転が見どころなの』
『別にアイツらと並べ立てられたかったワケじゃないさ。
昼間も言ったとおり、俺は俺が守りたい世界のためにできることをやった。
ただ……俺は根っこのところで凡人だったのよ。
世界を救ったならそれ相応の地位について脇を固めるべきだったんだ。
それができなかった俺は自分が死んだ後、自分に近しい者たちがどうなるかなんて考えていなかった。
俺の妻や子どもの多くは、権力者に『英雄の血を繋ぐ者』ということで権力闘争に利用され、多くが暗殺の対象になった。
それに邪神とはいえヘタロスだって神な訳でそれを殺す事は禁忌に触れる事だ。
俺の血を持つ者は迫害を受けることもあった。
タチアナもそんな一人だったんだろう。
俺が死んだ後、娘のナージャと実家のあるコナー村に戻ったけれど、閉鎖的な村の人間からすれば曰く付きの英雄の元からの出戻りだ。
優しくする理由がなく、生け贄にはうってつけだったろうよ。
ククク、聖霊様になるどころか怨霊になって呪いを撒き散らされるなんて良いしっぺ返しだ』
普段はおちゃらけていてお気楽なザコルさんが自嘲するように語るのは胸に来る。
ベントラ師匠やナラ師匠とは毛色は違うが、根本的なところでは英雄で、ブレない正義を抱え、悲壮な過去を背負っている。
こんなザコルさんを見るまで、そんな当然のことを実感していなかった。
燃える薪がパチパチと弾ける音が響く。
静まりかえり僕らはしばらく黙りこくっていたが、僕が沈黙を破った。
「よし! じゃあしっぺ返しついでに村の人たちに分からせてあげましょうか!
自分達がやっていることがどれだけ馬鹿げてるか!」
パチン! と拳で手のひらを打って鳴らす。
驚いた顔でザコルさんは僕に尋ねる。
『おいおい。何するつもりだよ。
さっきも言ったとおり、何百年も続けている儀式をやめさせるのは難しい――』
「だからって放っておけないでしょう。
ここで止めなきゃ同じことの繰り返しだ。
モンスターや怨霊を倒す事と同じくらい人間同士のトラブルの解決は必要な事ですよ」
どうすれば村の人たちに分からせられるか。
そんなことを考えている僕の顔は笑っていたに違いない。
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