世界の涙を拭う旅 〜霊が見える少年は伝説の英霊に弟子入りして英雄の道を歩む〜

五月雨きょうすけ

文字の大きさ
17 / 33
第四章 生贄の村

第15話 英雄ならば

しおりを挟む
 夜の森は星の光すら届かない真っ暗闇で、光を求めて火を焚いた。
 ターニャに食べ物と水をやって、僕は尋ねる。

「君を攫ってくるように頼まれた。
 その人はクエルの街の人で、そこそこえらい人なんだけど……」
「もしかしてヨゼフっていう男の人?」
「知っているのか?」
「一応。お母さんに聞かされていたから」
「お母さんは村にいるの?」
「半年前に聖霊様の儀式に選ばれた」
「聖霊様?」
「お兄さんが生贄がどうとかいってたヤツ」
「あ……」

 あまり意識していなかったけれど他の人にはセシリアもザコルさんも怨霊も見えていないから、僕が一人で喋って飛び回ってただけに見えるのか……気をつけなきゃ。

「お兄さん。
 聖霊様の儀式を邪魔しちゃったのはよくないことだよ」
「儀式だって?
 君みたいな女の子をモンスターに喰わせるのが!?」
「痛いのは一瞬で、死んだ後は聖霊様になってお腹いっぱい食べられるし、村の人を守る大切なお役目だってばば様が言ってた」

 彼女には見えていない。
 この儀式で死んだ者たちが怨霊となったことも身を焼く呪いに苦しみ続けたことも。

 頭に血を上らせているとザコルさんが僕の隣に座り、語りかけてきた。

『こんなもんだ。
 文字通りお前とは見えているものが違う。
 考え方が違うのも当たり前だろう。
 いちいち気にするな。
 無理やりでも町で普通の人間と暮らしていれば狂った価値観は矯正される。
 特に子どもだしな』

 ターニャの手前、返答することはできない。
 だけど、僕は知りたかった。

 ザコルさんは大丈夫なんですか、って。

 怨霊化されるのが怖いんじゃない。
 ただ妻や子どもがあんな姿になるほどに世を呪って死んでいったことに胸を痛めているんじゃないかって。

 僕の考えていることが顔に出てしまっていたのか、セシリアが僕の気持ちを代弁してくれる。

『ザコル。あなた大丈夫なの?
 もしショックを受けてるなら祠に戻った方が』
『バカ言え。聞いてなかったか?
 今に始まった話じゃねえって』

 そう言ってザコルさんはセシリアにデコピンをくらわせた。


 ターニャが眠りに落ちた後、彼は珍しく過去の話をしてくれた。

『最弱不敗の英雄……って思わせぶりな異名をぶら下げていても要は仲間に恵まれただけさ。
 俺の戦闘力は戦闘職としては凡庸以下だからな。
 ただ自分で言うのが憚られないくらい人たらしでね。
 自分の力じゃどうにもならないと分かっていたから、他人に頼ることに長けていた。
 各地で集めた強力な味方を沢山引き連れて、竜や魔族を退治して、最終的には邪神ヘタロスを葬った。
 それも前に立っていたわけでもなく中心にいたからリーダーみたいに扱われて俺の名が目立って残った。
 謙遜抜きでそんなシケた話さ。
 俺の英雄譚ってヤツは』
「……いや、スゴいでしょう?
 強い英雄がいたかもしれませんけどそれをかき集めたのも束ねたのもザコルさんじゃないですか。
 アンタがいなけりゃ世界が滅んでたワケだし」

 僕が率直な気持ちを伝えると、セシリアもうんうん、と同意する。

『伝わっている三英傑の話でもザコルのものは少し毛色が違うわ。
 ベントラ様やナラ様はその強さや偉大さを褒め称えるものであるのに対して、ザコルのは仲間の大切さや鮮やかな機転が見どころなの』
『別にアイツらと並べ立てられたかったワケじゃないさ。
 昼間も言ったとおり、俺は俺が守りたい世界のためにできることをやった。
 ただ……俺は根っこのところで凡人だったのよ。
 世界を救ったならそれ相応の地位について脇を固めるべきだったんだ。
 それができなかった俺は自分が死んだ後、自分に近しい者たちがどうなるかなんて考えていなかった。
 俺の妻や子どもの多くは、権力者に『英雄の血を繋ぐ者』ということで権力闘争に利用され、多くが暗殺の対象になった。
 それに邪神とはいえヘタロスだって神な訳でそれを殺す事は禁忌に触れる事だ。
 俺の血を持つ者は迫害を受けることもあった。
 タチアナもそんな一人だったんだろう。
 俺が死んだ後、娘のナージャと実家のあるコナー村に戻ったけれど、閉鎖的な村の人間からすれば曰く付きの英雄の元からの出戻りだ。
 優しくする理由がなく、生け贄にはうってつけだったろうよ。
 ククク、聖霊様になるどころか怨霊になって呪いを撒き散らされるなんて良いしっぺ返しだ』

 普段はおちゃらけていてお気楽なザコルさんが自嘲するように語るのは胸に来る。
 ベントラ師匠やナラ師匠とは毛色は違うが、根本的なところでは英雄で、ブレない正義を抱え、悲壮な過去を背負っている。
 こんなザコルさんを見るまで、そんな当然のことを実感していなかった。

 燃える薪がパチパチと弾ける音が響く。
 静まりかえり僕らはしばらく黙りこくっていたが、僕が沈黙を破った。

「よし! じゃあしっぺ返しついでに村の人たちに分からせてあげましょうか!
自分達がやっていることがどれだけ馬鹿げてるか!」

 パチン! と拳で手のひらを打って鳴らす。
 驚いた顔でザコルさんは僕に尋ねる。

『おいおい。何するつもりだよ。
 さっきも言ったとおり、何百年も続けている儀式をやめさせるのは難しい――』
「だからって放っておけないでしょう。
 ここで止めなきゃ同じことの繰り返しだ。
 モンスターや怨霊を倒す事と同じくらい人間同士のトラブルの解決は必要な事ですよ」

 どうすれば村の人たちに分からせられるか。
 そんなことを考えている僕の顔は笑っていたに違いない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

処理中です...