世界の涙を拭う旅 〜霊が見える少年は伝説の英霊に弟子入りして英雄の道を歩む〜

五月雨きょうすけ

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第五章 家族の物語

第28話 英雄集結

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「あ、アレクサンドル……!?
 き、貴様如きがアアアアアアッ!!」

 ジラントが怒りの表情で腰に下げた剣で背後に立つアレク兄さんに切り払おうとした。
 トロルすらひとたまりもない猛烈な一撃。
 だが、それをアレク兄さんは短剣の鍔で器用に受け止めた。

「なにっ!?」

 受け止められるとは思っていなかったジラントに隙ができる。
 そこにアレク兄さんの高速の斬撃が二閃、三閃と刻まれる。
 たまらずジラントは至近距離から黒い影を伸ばすがアレク兄さんはそれをヒラヒラとかわしきって僕のそばに立った。

「あ、アレク兄さん!?
 すごい……どうして」
「“どうしてそんな力を持っていたのに僕には隠していたの!?”
 って言うんだろう」

 えっ!?

 アレク兄さんの横顔を覗き込む。
 間違いなくアレク兄さんの顔貌。
 だけど、その表情は違う。
 人を食ったような態度に悪ぶるように釣り上げた口角。
 僕は、この人を知っている————!?

「ケケケ。ま、その問いはダブルミーニングで通用するな。
 隠していたんじゃない。
 発揮できなかったんだよ。
 俺本来の体は性能が低いからな。
 怨霊の真似事は気分悪いが、強い身体を操るってのは悪くねえ。
 最弱の称号は今度こそ返上だ」
「ザ、ザコルさんっ!?
 どうして!? 消えたはずじゃあ」
「んなもんブラフに決まってんだろ。
 お前を成長させるにも、このクソ野郎を葬るのにも俺が盤面に乗ってたら手が進まなかったからな」

 アレク兄さんの口からザコルさんの軽口が聴こえてくるのはとても不自然な感じがする。

『随分、登場に時間かけたじゃない。
 もう戻ってこないのかと思ったわよ』
「へっ。俺が愛しのセシリアを置いておくわけねえだろ。
 この借りはベッドで返してもらうぜ」

 余裕綽々といったザコルさんだが、ジラントは次の手を動かしていた。

「ザコル……成程、見えてきたぞ。
 アリスタルフがそれほどの力を得た理由が!」

 奴の手が掲げられると周囲に待機していた怨霊たちが一斉にセシリア目がけて突っ込んできた。
 さらにはジラント自身が黒い影を放ってきた。
 全方位から一斉に攻められるセシリアを完全に護る術はない。
 身を挺してジラントの影は受け止めたが、他の怨霊は見逃してしまう。
 兄さんに憑依しているザコルさんでは霊体に触れることはできない。

「ちくしょおおおっ!!」

 自分の不甲斐なさに思わず声を上げたが、

『泣き喚く暇があれば詠唱の一節でも行わんかい』
『まったくだ。未熟者め』

 脳を叩くように響く懐かしい声。
 振り返ると全ての怨霊はセシリアには届いていなかった。

 それもそのはずだ。

 たとえ、万の軍勢が押し寄せてきたとしてもあの二人を出し抜くことはできない。
 なぜならば、それが英雄というものだからだ。

「ベントラ師匠! ナラ師匠!」

 獅子を思わせる大男は大剣で霊を薙ぎ倒し、細身の老人は魔力で生成した蔦でセシリアを守り切った。
 三英傑の加勢。
 それはジラントにとって最悪ではあるが想定内の事態だったようだ。

「やはりな……すでに廃れきった魔法の使い手で恐ろしく頑強な肉体。
 才能に恵まれただけではこうはいかん。
 数百年ぶりの自分の思い通りになる手駒、随分力を入れて育てたようだな」
『カカカカ……そりゃあのう。
 生者の身体に逃げ込み、霊体の攻撃を受け付けぬ貴様を討つには生者の協力が
 不可欠じゃった。
 憑依することも考えたが生憎貴様のように負の感情を喰らう怨霊には成り下がっておらんのでな。
 仕損じる可能性の高い賭けをするよりも祠に隠遁し霊魂の消費を抑えて機会を待っていたわけじゃ』

 なるほど……待てよ、じゃあ今兄さんに憑依しているってことは!?

 ザコルさんの方を向くと目があった。

「ま、そういうわけだ。
 長々と賭け事遊びをしてきたのも勝負勘を養う役に立ったぜ。
 今この時に俺たち三英傑は持てる全てをベットする賭ける
 凶王ジラント。
 お前の首級が先に逝った仲間たちへの手土産だ」

 短剣を逆手に持ち直し構えるザコルさん。
 そのそばにベントラ師匠が立つ。

『我々が編み出し、磨き上げた技や魔法はすでに弟子リスタに託し終えている。
 後は貴様のような邪悪を始末すれば大手を振って天の国に渡れるというもの。
 観念してもらおうか』

 ベントラ師匠は大剣を構え、その切っ先をジラントに向けた。
 その瞬間、ジラントの顔が真っ赤に染まり、こめかみに血管が浮かび上がった。

「調子づくなよ!!
 我に怯え何百年と逃げ惑っていた分際で!!」

 瞬間、ジラントの全身から黒い影が放出される。
 針葉樹の葉のように細長く鋭い影が逃げる場所もないほどに迫り来る。
 だが、師匠たちは落ち着いていた。

『【焔式防壁呪文リグ・フランメ】』

 ナラ師匠は炎の壁を作り出し、僕とセシリア、父さんにニナまでも一手で守りに入った。

『フン。ヌシは判断が遅い。
 じゃから身を挺して護るなどという愚策しか取れんのじゃ。
回式急速治癒呪文エクス・キュア】』

 右手で防御壁を左手で僕の傷を治癒するナラ師匠。
 とてつもない魔法の使い手だ。

『さて、リスタよ。
 とりあえずベントラとザコルで削るところまではするが、我々ではヤツにとどめはさせられん。
 霊体ではあの騎士の身体に触れられず、憑依したザコルでは霊体に攻撃を加えることはできない。
 肉体を破壊すれば霊体を引き摺り出せるじゃろうが、長年の悪行の蓄積で桁外れのオドを有しているあの肉体は何度でも再生する。
 どう考えても先にこちらがまいってしまう。
 となれば————』
「僕が最大威力の攻撃魔法で肉体も中の霊魂も一撃で消滅させる」
『上出来じゃ! さっさと始めい!』

 ふぅ、と息を吐き両手で球を持つようにして魔力を集中させる。
 通常、大出力の魔法を放つ際は魔法陣を作り、それを発射口にする。
 しかし、今回はその発射口を作る魔力すらもすべて攻撃に使いたい。
 だから僕が作り出したのは魔力を蓄積させた球体魔法陣。
 魔力の爆弾と化したこれは僕にとって最大の攻撃手段だ。

「できた……コイツをぶつければ————」
『待ちなさい!
 そんなの使ったらあなたも爆発に巻き込まれるわよ!』

 予想通り、セシリアが噛みついてきた。
 だが、ナラ師匠がそれを止めた。

『心配するな。
 そうはならんように取り計らってやるわい』
『でも!』
『ワシらにとっても、コヤツは可愛い愛弟子じゃ。
 まだまだこっちに来てもらうわけにはいかんからの』

 余裕のある笑みを見せるナラ師匠。
 セシリアは口をつぐんだ。

『行けっ!!』

 一声上げたナラ師匠の左手がさらに魔力を練り上げる。
 防壁を後ろから貫くように放たれた魔力の奔流はジラントに直撃し、身体を飲み込んだ。

「ちいっ! 小賢しい!!」

 ジラントは苛立ちを吐き捨てた。
 生者の肉体を持つジラントにダメージはない。
 しかし、奴の体から放出されていた黒い影はすべて消滅し、次の手を打てないようだ。
 そこにザコルさんが追撃する。

「へへ、どんどん動きが鈍ってきているぜ。
 いくら傷を回復できても精神的な焦りは消せないようだな。
 ほれ、次々重ねていくぜ。
 こちとらテメエ殺すためにたっぷし時間をかけてきたんだからな!」

 ベントラ師匠とナラ師匠がジラントの影を封殺しているおかげでザコルさんは攻撃に専念できる。
 完璧なコンビネーションだ。
 ユーレミア王国の歴史における最大の英雄たち三英傑。
 時代が異なる彼らが共闘しているこの光景は神話のできごとのようなものだ。
 その対処に躍起になっているジラントは暴風のような攻勢に紛れて近づく僕を察知できていなかった。

「くらええええええええっっっっ!!」

 ザコルさんの背後から飛び出した僕はジラントの胸に球系魔法陣を叩きつけ、魔力を解放する。

「【解式破滅呪文カタストロ・スフィア】!!」

 球系魔法陣は光り、膨れあがろうとした。
 それを見たジラントの顔は引き攣り、なんとか回避しようと後ろに下がろうとしたが、

「遅い」

 ザコルさんが膝の腱を切り落とす。
 ジラントは動く手段を失って叫ぶ。

「お、おのれえええええええええええっ!!!」

 それでも逃れようとついには身体から霊体だけ抜け出そうとする。
 しかしそれも、

『入っておれ!!』

 ベントラ師匠が身体を羽交い締めするようにしてジラントの霊体が抜けられないようにした。
 これでジラントは逃げの手を完全に塞がれた。

「や、やめろおおおおおっ!!
 お前や兄もタダでは済まんぞ!!」

 僕を脅し、攻撃を妨げようとする。
 最後の最後まで往生際が悪い。

「僕は師匠たちを信頼している」

 そう言ってザコルさん、いやアレク兄さんの手首を握った。
 瞬間、ザコルさんは憑依を解きアレク兄さんの身体を明け渡した。

『ぶっ飛べ! リスタああっ!!』

 ザコルさんは渾身の飛び蹴りで僕を突き飛ばした。
 さらに僕と入れ替わるようにナラ師匠がジラントに接近し、破裂寸前の球形魔法陣ごと魔力の壁で包み込んだ。

『さて、弟子の全魔力とワシの障壁。
 どちらが上かのう』

 ナラ師匠が笑った————刹那、雷が叩きつけられるような音がして光の柱が立ち昇った。
 僕の放った球系魔法陣は爆発し、その魔力でジラントは魂も肉体も跡形もなく消滅した。
 その余波はナラ師匠の障壁で堰き止められた。
 おかげで父さんたちはもちろん、僕とアレク兄さんの身体も無事だった。

 だけど…………

『ククク……まだまだじゃの。
 ワシならこんな障壁吹き飛ばしておったわい』
『ああ。だがまあ、十分だろう。
 霊体とはいえ俺たち三人を一撃で消し去るのだから』
『ああ、上出来上出来。
 よくやったな、リスタ』

 爆発に巻き込まれ霊核を損傷した師匠たちもまた消えようとしていた。

「師匠……ごめんなさい。
 僕が、もっと強ければ、師匠たちを……」

 僕が謝ろうとすると、ザコルさんが止めた。

『手段を選ぶことも加減することもできる相手じゃなかったさ。
 どのみち、祠を出たふたりや憑依を使った俺たちに大して時間は残されていなかったんだ。
 惜しむ必要なんてこれっぽっちもない』
「どうして、みんな僕は悪くない僕は悪くないって許そうとするんだよ……
 兄さんも、母さんも」
『それはお前がまだまだガキで周りは大人だってことさ。
 お前も逆の立場になれば分かるよ』

 その言葉がザコルさんの最後の言葉だった。
 三人の魂は光の粒に変わり、蛍の群れのように宙を舞い光の尾を引いて、やがて消えていった。
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