ロイヤルシークレットナイト

いがむり

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ほんぺん

2.あなたは魅力で満ちている 下

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昼になり、食堂には沢山の生徒たちが昼食を買いに訪れていた。その出入口から外に出てきたのは二人の男子生徒。

「あぁ~やっと外に出た」

「食堂はいつも人が多いからね」

「でも、混んではいないんだよなあ」

「学園独特のシステムのようだね」

出てきた男子生徒は、王子とルーカス。二人の片手にはそれぞれ食堂で人気の焼きそばパンとカレーパンを持っていた。

「俺やエリーは別に家から頼んでも問題はないと思うぞ?」

「でも、こういうのも悪くないと思うけど」

「ハーイソーデスネー」

「あはは、こういうことにはまるで興味がないよね」

「俺はそういう難しいことより、体を動かす方が性に合っていますよーだ」

元々貴族出身者にとって、食べ物を購入する経験はまず少ない。また、この学園の食堂のシステムは他の学び舎とは異なっている。昼食を購入するにあたり、それぞれの教室の扉付近にある食券を購入する。その時に発行された色付きプレートには、それぞれ番号が記入されている。そして色と番号が呼ばれるとそのプレートがなくなる代わりに購入した昼食が現れる、混雑解消システムである。

「エルバート様、ルーカス殿」

歩きながら声をかけてきたのは、先程リリィに呼ばれて授業中に教室から退室したフェザーだった。

「フェザー」

「只今戻りました。お時間をお掛けし、申し訳ございません」

頭を下げるフェザーに王子はフェザーの肩に手を置いた。

「フェザーはいつも堅いよね」

「そうだそうだ。あ、フェザーお前、昼飯は?」

「はい、先に済ませました」

フェザーが昼食を取る姿を二人はあまり見ない。食べるといっても女生徒や友人等から貰った王子とルーカスへの菓子折りの毒見をしている姿しか見かけたことがない。昼食のことを尋ねると、“済ませました”の一言で片付けられてしまうのだ。

「フェザーが昼食取っているところ一度も見たことないぞ?俺」

「私もないね」

フェザーは首ごと視線を逸らす。

「従者である俺たちが側にいないでどうする」

「……はい」

「私たちと共に食べてはくれないのかい」

「…………申し訳ありません」

王子とルーカスは顔を見合わせる。ここまで頑なに言質を取らせてもらえないのか。フェザーは今までの態度からどう判断しても、どこでも護衛をする生真面目な人物だったはず。何か理由があるに違いない。

「う~ん、フェザーが済ませたなら、私も昼食止めとこうかな」

「それはなりません。食事は人間にとって生命の維持に必要です」

「じゃあ、どうして俺たちと食べないんだ」

フェザーは、真一文字に閉じていた口を重々しく開いた。

「は、恥かしながら……少食、なもので」

「「え(は)?」」

予想もしなかった斜め上の理由に、二人は素っ頓狂な声を発した。フェザーは両手で顔を覆った。

「騎士でありながら、食事に無頓着だったもので……いつの間にか食事をするより訓練を重視していた結果こんなことに。お恥かしい」

食事を忘れるほど訓練していたことにも問題があるが、いや大ありだが、それよりもまず言いたかったことが、二人にはあった。

「フェザーって真面目なようで、そうでもなかったんだね」

「俺も思った」

「あまりにも恥ずかしく……申し訳なく思い、それならなるべく早く済ましてしまおうか、と」

行動が突飛。確かに支障が出ていないが、そこまでして隠したいほど少ないのか。二人は呆れを通り越して笑った。

「ふふふっ、そういうことだったのか」

「あ~、笑った。別に問題ないだろ。ていうか、そんなだから肉がつかないんだよ!」

しかし、と食い下がるフェザー。有無を言わせないと王子は人差し指を上に向け、提言する。

「なら、命令。明日から私たちと昼食を共にすること」

「……はい」

フェザーは返事をした後も表情からはあまり見えないが不服そうだった。

 

 

 

午後、俺たち三人は待ちに待った実技訓練のため、軽装備に着替えて校舎外のグラウンドに来ていた。フェザーは更衣室に来る直前に教師に刃が尖っていない剣を持ってくるように頼まれていたが。

「先生も人使いが荒いな」

「ルーカスが一番頼まれそうなのに」

「いい意味で言っているのかな~?エルバート様~」

「使い勝手が良さそうって意味で」

「それただのパシリだろ」

「よく分かったね」

「それくらい誰でも分かるぞ~」

あーだこーだ話している内に、近づいてくる足音が聞こえて二人して後ろを振り返ると、両脇に大量の剣を抱えたフェザーがこちらに向かっていた。

「お待たせして申し訳ございません」

「いや、大丈夫。それにしても多いね」

「予備室あるもの全て持ってくるようにとのことでしたので」

「それ抱えて一人でここまで来たのか」

「はい」

何食わぬ顔で大荷物を抱えて立っているフェザー。

(細っこい体して力あるな……)

フェザーに初めて会った時は、貧弱そうな外見で騎士よりも魔法使いの方が納得したものだった。それから真面目過ぎるほど真面目。こいつはどこかの古株大臣かってくらい堅苦しかった。

(初めに比べると少しは柔らかくなった……のか?)

「先生の所に行っておいでよ。待っているから」

「はい、では」

一礼して歩いてくフェザー。歩き方も軸がぶれておらず、姿勢がいい。やはり、体は細いが。

「パルメット先生殿」

「あ、ああ、ご苦労だったな」

「いえ」

(いや“先生殿”って)

どっちかにしてやれよ。呼ばれた本人もちょっと戸惑っていたぞ。

「全員に渡してくれるか」

「はい」

(そのまま使われているし)

この授業じゃあ体格差もあってか、男子生徒と女子生徒で分かれて授業を受ける形式になっている。結局そんなことしても実践では体格差のある敵と剣を交えることだってあるんだがな。

「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

「どうぞ」

「どうも」

近くにいた生徒から片っ端に渡しているが、

「意外だね」

「俺も思った」

あの真面目なフェザーのことだから、一番初めに渡すのは護衛対象であり主人であり、この国の王子であり、今俺の隣にいるエリーだと思った。どういう風の吹き回しだ……?

(お、戻ってきた)

「遅れて申し訳ありません」

「それよりも、なんですぐこっちに来なかったんだ?王子第一主義なフェザーさんがよー」

「生徒の顔を覚えるため、それから顔と名前を一致させるため、が主な理由」

(他にもあるみたいだな)

「ふーん」

「へえ」

「……」

微妙な空気が漂う。それ以降三人は教師が集合をかけるまで続いた。

 

 

 

「今日の訓練には実際に騎士として王に仕えている者を連れてきた。国の盾であり人々を守るということ、そして騎士とは何たるかを学びなさい」

「「「「「はい」」」」」

元気のいい生徒の返事を聞いた教師は満足げに頷いたが、

「とは言ったものの……遅いな。任務が遅れているやもしれん」

と苦々しく言う教師は、生徒に前々回から授業開始直後に行っている基礎の構えと二人一組で打ち合いの練習を言い渡した。

「軽く見て、今日は奇数人かな」

辺りを見、大まかに人数を数えた王子はそう言いつつ、二、三回振りながら剣の感触を確かめている。それを見たルーカスが鞘から抜き、好戦的に構えた。

「やるか?」

是と言う代わりに、王子も剣を構えつつフェザーに向けて言う。

「じゃあフェザーは後でね。ルーカスが相手してくれるって」

「承知しました」

フェザーは一歩下がって二人の様子を観戦する姿勢をとった。

「いや、俺まだ何も言ってないよな?まあ別にいいっ——」

ルーカスが言い切らない内に打ち合いが始まった。幼少期から多くの時間を共にした二人にとって授業形式の打ち合いなど軽い運動に過ぎず、金属の打ち合う音がグラウンドに響いた。個人練習をしていた生徒も、ペアで打ち合いをしていた生徒も、教室移動で偶然グラウンド近くを歩いていた生徒らも、一同が彼らに視線を向けた。視線を向けられている当の本人たちは、気付いているのかいないのか、笑いながらフェイントを仕掛けつついなし合っている。どちらも様になっている動きと表情が、周囲を魅了し観客を呼び寄せていた。

「準備運動くらいにはなったな」

「ルーカス、少し鈍ったんじゃないかい」

汗を流しながらも息を整える二人。黄色い声が近くからも遠くからも聞こえる。フェザーは目を動かして観衆の動きを見る。

「そんなことはないだろう?な、フェザー」

「はい。エルバート様もルーカス殿も動きに機敏さが見え、剣をいなす速さも初日より増しておられます。フェイントをかけつつ相手を騙し、隙を生む発想も技術も良いと思われます。ですが、ルーカス殿の集中力が散漫し、僅かに左側からの攻撃対処が疎かになっておられたのが見受けられました。エルバート様は剣を左側に振った後に力んでおられたので、そこからの返しに必要以上の力がかかってしまい敵から見れば隙になりえるかと」

剣を持つのもあまりなかった生徒らでは分からないであろう二人の動きについて、さも平然と言ってのけるフェザー。

「エルバート様もまだまだってことだな」

「集中力を欠いていたルーカス殿には、言われたくないなあ」

「ぐっ、これだけの人だかりで気にならない訳がないだろぉ!」

ルーカスは王子に半目を向ける。王子も辺りを見、自分たちが中心にいることに内心苦笑しつつアルカイックスマイル。その笑みに女子生徒は軽く酔いしれ、男子生徒は目が眩んだ。

「これが王家の嗜み……!」

誰もツッコミがおらず教師のリアクションに一同目を逸らす。気を取り直して、と咳払いをし、腕を組みなおした教師に皆も察知したのか蜘蛛の子を散らすように各々自主練に戻り始めた。王子とルーカスも次はフェザーとルーカスだと剣を鞘に納める。ルーカスは次の相手であるフェザーを見た。準備をしているかと思いきや微動だにせず立ったまま目を閉じていた。

「フ、フェザっ」

刹那、フェザーは手を肩辺りまで挙げる。二人が目を瞬くと人差し指、中指、薬指で二つの小さな刃物が挟まれていた。そして、刺さるほどの殺気を二人も感知するとフェザーは刃物を挟んだ手を下ろす。

「はーっはっはっはー!」

殺気を放った張本人が大笑いながらも上空から太陽を背にして大剣を振りこちらへ飛んでくる。一方フェザーは迎え撃つそぶりもない。上から攻撃が降りかかり、フェザー以外生徒は敵襲に反応が遅れ、更には姿を現してからも気づいてすらいなかった。教師だけは顔に手をあて、溜息を零していた。そして、上からフェザー目掛けて振り下ろされた大剣は轟音と共に周囲に余波による砂塵を起こす。生徒たちは堪らず目を閉じた。僅かな悲鳴と風が止み、恐る恐る閉じていた目を開ける――そこには、国の紋章が描かれた装備をした巨漢と地面を抉るほどの威力で振り下ろされたであろう大剣の上に平然と立つフェザーの姿があった。フェザーは何を考えているのかも分からない表情で教師へ視線を向けた。

「先生殿」

「はあ……頼む」

呆れた物言いで教師は、呼んだ本人に返答する。これは、二人にとってはよくあることのようだ。本人も是と捉えたのか、大剣と比較するまでもなく戦闘用にしては使い物にもならない、授業に用いるはずの剣の鞘を抜き、ゆっくりと抜いた鞘を持つ手を後ろに回した。フェザーの持つ剣は依然、抜かれた位置のまま水平に持っている。

「只今より騎士団長ヴァンサン・シェーンフェルダーによる騎士団訓練を実演する!フェザー・ウィンドも騎士団長同様、国を守る騎士団の一員であり実践経験を数多くこなしている。彼らから学べるものは全て見て盗むように」

再度集合した生徒らも今までの出来事から驚きの連続で動揺を隠せない。王子もルーカスも周囲と比べると表情には表れていないが同じだった。今まで見たこともないフェザーの騎士団としての力量を直に自らの眼で見られることもあって、動揺よりも期待の方が心情では大きかったが。

「……エリー」

「うん。お手並み拝見、といったところかな」

 

 

 

「騎士団長殿」

「俺の挨拶は受け取ってくれたようだな」

「あんまりですよ。もっと他に無かったんですか」

「普通に現れてはサプライズに欠けるだろう?」

普通に会話しているようにみえるが、当の本人たちは絶賛戦闘中である。教師の開始の合図を皮切りにフェザーは背にして持っていた鞘を騎士団長に投げつけ、騎士団長はフェザーごと大剣を振り上げた。しかし、フェザーは持ち上げられた威力をそのままに高く跳び上がり宙で二、三回転しながら後方に避けられたため鞘のみを真っ二つに切るのみ。未だ着地していないフェザー目掛けて大剣を大きく横一文字に振り、その豪速余波から真空波を作り出した。空中にいるためフェザーは攻撃を避けられるはずもない、観衆は開始早々フェザーの敗北を悟った。教師は観衆の考えを察したのか、一喝。

「まだ終わっていないぞ」

そう言い終わらない内にフェザーが一瞬。一瞬で騎士団長の背後にいた。

「「え(は)っ⁉」」

瞬きも忘れ釘付けになっていたはずの王子とルーカスもこれは驚きを隠せず声を漏らす。フェザーの物理的な移動方法が分からなかった。無情にも彼らが移動原理を思案する時間を与えず戦闘状況は異常な速度で変化していく。背後を取ったフェザーは斜めに騎士団長を切りつける、その寸でのところで大剣の柄頭で受け止めた。

「わざとですね」

「まあな」

地面に着地したフェザーと対峙するように後ろに振り返る騎士団長。その顔は褐色肌に堀の深い目鼻立ちをしており、“豪快”の二文字がよく似合った。

「その体は国を守る盾の如く、その攻撃は要塞をも貫く破壊力と剛腕を持ち、人望も厚い。そして国内最強の騎士」

フェザーの言葉に歯を見せほぼドヤ顔の笑顔になる騎士団長。

「それが俺、パギシウェル王国騎士団長ヴァンサン・シェーンフェルダーだ!」

決まった、と言わんばかりの顔に思わず半目になるフェザー。

「さて、ここからはちゃんとやらないとな」

「遊びも程々に。これだから騎士団長殿は“体力オーガ”の異名が付けられたんですよ。他の人のことも鍛えるならその人のことも思ってやらなければなりません」

「げ、始まった」

「げ、とは何ですか。げ、とは」

そう言いつつ再び戦闘態勢になる二人。とはいえ構えているのは騎士団長のみ。襲撃から今までの攻撃を“遊び”と一括りに言って見せる二人を、生徒たちは異様に見えた。どのくらいの場数を踏めば大剣から風を出すほどの速さを繰り出せるのか、どのくらい経験を積めば軽々とあの変則的な動きが出来るのか。生徒たちは初めて騎士団の強さを知った。そして、王子とルーカスも改めて国を守る騎士の重要さと守られているということの意味を認識したことだろう。憧れの言葉に織り交ぜて。

「次はこちらから」

「おう!どこからでもかかって来い」

咆哮のように答える騎士団長。フェザーは開始時と同じように構えない。しかし、一歩足を下げると、姿が消えた。次の瞬間には騎士団長と剣を交えるフェザーがいた。火花が二度散ると再度距離を取り、今度は走る姿が目視出来る速度に落とし先程と同じ攻撃をする。フェザーに大剣が迫ると宙を回り距離を取る。休むことなく速さの違う攻撃を見せるフェザー。王子とルーカスは何処か見覚えがある彼の動きに首をかしげる。意図を察した教師は深く溜息を吐いた。

「フェザーに教鞭を頼むべきだったな」

そしてフェザーに背を向け、生徒たちに説明し始めた。

「今フェザーがしている動きは、全て授業で教えた基礎の構えだ」

教師に指摘されやっと合点がいった二人。速さを変えて基礎の動きを実戦形式で見せていた。

「いいか?現在教えた動きだけでも実際あれだけだ。基礎通りに上手く使いまわしてあれだけ動けているとも言えるが、実践となれば話は違ってくる。最初に二人が見せた動きと比べてみるといい、手練れからすれば穴だらけだ」

つまり、今のままでは本職に程遠いということ、生徒は教師の言外に聞こえた言葉に顔をしかめた。自分たちの腑抜けた怠慢を見抜くようだった。

「これから、訓練の厳しさが増す。力をつけるには基礎だけでなく応用が必要だぞ?加えて頭も使えるようになれば、柔軟な反応がしやすくなるし、何より——」

と後ろを振り返る教師。後ろには一通りの動きを終えたフェザーと騎士団長がこちらに向かって来る。その姿は正に国を背負って立つ責任と人々の平穏を守る意志や力を今日の授業で垣間見えた気がした。そんな生徒たちの視線や思考を感じ取った教師は企んだ笑みを浮かべる。

「彼らのようになりたいだろう?」

その言葉に王子とルーカス含め、生徒たちの気持ちは教師の一言に肯定したも同然だった。こうして、実演を終えた二人が生徒の元へ戻ると、輝いた目を向ける生徒たちによる怒涛の質問会になってしまった。因みにフェザーは二、三質問に答えた後、素知らぬ顔で王子とルーカスの元に帰っていた。王子もルーカスも、聞きたいことがあったのだ、戻ってきた張本人に。

「フェザー、お疲れ様」

「有り難う御座います」

「驚いた、そんなに戦えるなら騎士団の中でも有名なはずなんだけどな?」

王子も疑惑の人物に視線を向けるが、表情に変化はない。

「他の騎士団の方々が秀でているということです。それだけ」

平然と答えるフェザー。しかし、彼らは分かっていた。騎士団は確かに実力者で構成されているものの、実質一位の騎士団長と対等に剣を交えることのできる人物は限られてくる。王子が知る限りでも片手で足りるほどなのだ。その中にフェザーは含まれていなかった。しかし、

「フェザーは騎士団長と肩を並べられそうだよね」

「そんなことは——」

ありません、と紡がれるはずの言葉はフェザーの口元を覆った大きな手によって遮られた。

「あるぞ?なにせ、こいつ冒険者ギルドでは高ランクで有名だったからな」

やっと生徒たちから解放された騎士団長がそこにいた。フェザーは目線を騎士団長に向ける。

「ヴァンサン騎士団長」

「へえ、そうなんですか?」

今まで耳にしなかったギルドからの情報に二人共興味深げに耳を傾ける。

「おう!ギルドじゃあこいつ“狂戦士”なんて呼ばれて、こんな小さいのに腕力も脚力もあるんだよ——って、フェザー?」

口を塞がれていたフェザーは項垂れたまま反応がなくなっていた。塞いでいた手を放し騎士団長が体を揺さぶるも起きる気配はない。

「……やっべ、気絶させちまった」

青い顔をした騎士団長はどうしたものかと唸っている。気を抜くはずのないフェザーが騎士団長の手によってあっさり気絶させられた。気を許したのか、騎士団長の力が強かったのか……なんて二人して思考の渦を巻いていると、いつの間にか騎士団長はフェザーを俵担ぎで抱えていた。

「エルバート様、パルメット!こいつちょっとこいつ借りていくぜ!」

「あっ、おいっ!」

丁度授業の終わりを告げる鐘が鳴ったのと同時に走り出した騎士団長。王子と教師の返答を待たずして去っていった方向をただ唖然と見つめていた教師と生徒たちであった。

 

 

 

「調子はどうですか?」

誰もいない教室に二人の人物が向かい合う。空いた窓から二人の髪を優しく揺らす。先程俵担ぎから解放され、気絶したふりをしていたフェザーと、生徒と教師の目を掻い潜り、目的の人物と二人きりでの再会を果たすことに成功した騎士団長である。

「なんともないよ」

訓練時とは相対する様子に、もしこの場に誰かいたのなら驚きかねない。

「しかし、そのお姿も似合いますな」

「ヴァンサンは良い男になったね。女子供が寄って来たくなるのも分かる」

「はは、ありがとうございます。まさかあの“裏の鬼教師”とも言われたあなたが、今や一生徒とは」

「不老状態だから仕方ないよ。もっと大人っぽくなりたかったんだけどな~」

こればかりはどうしようもない、と眉尻を下げるフェザー。騎士団長も乾いた笑いを零す。未だこの時間に終わりを告げることは無く、ただ鐘の音が響く。そこには、ささやかながらも穏やかな時間が流れていた。

 

 

 

風が吹く。フェザーが寝起きする部屋に、一つ開け放たれた窓からカーテンがふわり、はためいた。差し込む光は小さな硝子の花瓶に反射し、そこにあるはずのブーゲンビリアは人知れず、オトメユリに変わっていた。
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