目は見えなくなったけど、この世界で頑張りたい。

いがむり

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▲お話△

モクヒケンはありません

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深い闇、僕の体はゆっくりと沈む。なぜここにいるのだろうか……少し前まで僕——あれ、僕は一体……何が何だかよく分からなくなってきたけど、この場所はとても寂しい。

『……ユ……』

ん、何だろう。

『……ユーマ』

僕を呼んでいる……?その声に意識が浮上する。未だ遠くで聞こえるような感覚がするものの、ここ暫く聞いていなかったその声に閉じていた瞼を大きく開いた。

「デリー、っ……デリーだよね?」

『うん、ごめん。戻るの遅くなっちゃった』

申し訳なさそうに言うデリー。今までどこにいたの?どうして帰ってこなかったの?どうやって過ごしていたの?文句とか聞きたいこととか言いたいことは山ほどあるけど……今は、

「おかえり」

『うん』

「帰ってきてくれて、良かった」

『うんっ、ただいま……!』

数日で感覚を掴んだ魔力感知を使ってデリーのいるところに手を伸ばす。はっきりとした感覚は何一つないけれど、確かにここにいる。

おかえり、デリー……でも、

「今の今まで何していたのか、ちゃんと説明願います」

『えっ、も、モクヒケンは……』

「ちゃんと説明願います」

『は……はいぃ……』

この時、優真の表情は……身の毛がよだつほど、清々しい表情だったと明記しておく。



 
 
 
《ユーマ、なんだか嬉しそうだな》

優真を含めた家族全員で夕方の食卓を囲んでいると、ジギルがふと発したのが先程の言葉である。

「えっ、そう……かな」

手に持っていたスプーンを皿に置き、自分の頬に触れる。少し前までミューラから貰っていた食事も生体感知魔法の応用で、常時使用しながら自分で食事を摂ることが出来るようになっていた。そのことをミューラにも伝え、自分で食べられるようになったことに優真が一安心していた一方、彼女が微笑みを向けつつも心做しに寂しさを胸に抱いていたことに気付かぬふりをしていた。

《ユーマにぃ、にこにこ!》

「にこにこ、してる?」

《うん!》

《にこ~!》

メルとニルは、優真のあまり見ない顔に気付いたのか明るい声色である。

《何かいいことでもあったのか?》

「いいこと……」

そう言われて思い出すのはただ一つ。

「うん、あった……かな」






風のそよぐ音、葉が擦れ合う音、今日は雨が降り、雨戸や屋根に雨粒が当たり、ぱらぱらと降り注いでいる。優真は敷き布団の上に正座する。久方ぶりに戻ってきた彼の精に面と向かって問い詰めるためである。

「まずは——ありがとう」

『ごめ…………へっ?』

説教が始まると思いきや、感謝の言葉を述べた優真。デリーも思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

「戻ってきてくれて、ありがとう」

『怒ってない、の?』

恐る恐る尋ねてくるデリーに、子供みたいだなどと思いつつ、怒ってないい意を述べる。

「怒るより心配した、かな」

『心配』

「うん、僕が倒れて助けを呼びに飛んで行ったのに、その本人が戻ってこないんだよ?何かあったんじゃないかって」

『覚えていたの……?』

「ちょっと朧げだったけどね。僕が回復して、動けるようになっても魔力感知でも分からなかったし、いくら呼んでも返事は帰ってこない。ジル兄さんたちが傍にいてくれたけど、一番傍にいた精霊さんがずっと隣に居ないのは不安で——寂しかったよ」

デリーは怒られるよりも何倍も辛い事実を突きつけられ、罪悪感に何度も心を刺される思いだった。

『ごめん、ごめんね。心配かけて、何にも言わないで、すぐ戻ってこれなくて。本当にごめんなさい』

うえうえ、と嗚咽を漏らし、鼻をすする音を聞きながら、「戻ってきてくれたから、いいよ」となるべく優しく言葉を述べている内心、やり過ぎたかな、とほんの少し反省する優真だった。






説教(のような)話も少し落ち着いた頃、優真が口を開いた。

「なんで、遅くなったの?」

優真が尋ねると、そわそわしたような雰囲気を感じ取りながら、話し始めるのを待った。

『あ、あのね』

「うん」

『普段は使ってなかった魔法を使って助けを呼んじゃったから、少し疲れちゃって……元に戻るまで休んでたんだ。それで遅くなっちゃって』

そう、とだけ呟かれそのまま沈黙が続く。すっ、と息を吸う音が聞こえるとぐっと眉を顰め、俯いた。

「……僕のせいだ、ごめん」

『なんでユーマが』

「僕が倒れなかったら、体調不良に気付いていれば、デリーに負担をかけることなんてなかった」

デリーの言葉を遮るように紡がれた言葉には後悔が滲んでいた。そんな普段使わないことをさせてまで、と言いたげな表情だった。

「ごめんなさい」

『……ユーマ』

再度のしかかる沈黙は、優真にはとても重く、長く感じた。

『ユーマ』

「?」

徐に呼ばれて顔を上げる。すると、

『えいっ!』

「うっ」

眉間に僅かな衝撃。思わず声が漏れてしまった。

「(これは、もしかしなくてもデコピン……?)」

『これでおあいこ!』

「あいこ……」

『僕もまだまだ謝りたいけど、ユーマも謝るんじゃあ同じになっちゃうから、引き分け!あいこだよ』

いつの間にか勝負になっていて、可笑しくなってつい。

「——ふはっ!んふははっ」

声に出して笑ってしまった。こんなに笑えたのはいつぶりだろう。覚えがないから、もしかすると、初めてかもしれない。

『え?!なんで笑うのさ~!もお~』

「あははっ、んふ……ふはは」

『ユーマってばぁ~』

風の吹く音は先ほどより小さく、まだ雨特有の匂いはするものの、水たまりに滴る水滴の音が聞こえるのみ。雨は既に止んでいたらしい。まるで心と呼応しているようで、自然が、空気が励ましてくれているようで、僕の心は温かかった。



△▲△▲△
お久しぶりです!話がナメクジ並に遅い作者です……
ここまで読んで頂きほんとうにありがとうございますm(*_ _)m
これからも頑張って行きますが、なにぶんネタがなくなっている……(特に閑話の方が……)何か要望がありましたら是非コメント欄へ記入して頂きたいです。
お、オラにネタをォ……!
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