キャンバスメモリアル

Daddy

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出会い

第16話 ズックと少年

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――ここはハンプという街。この世界で使われる思い出を残すキャンバスのほとんどを作っている街だ。
この街の住人はキャンバス職人がほとんどで、比較的裕福な暮らしをしている。
この街にズックという職人がいた。
ズックは比較的裕福なこの街で貧乏な生活を送っていた。

「…できたぞ。」
「おう。じゃあ、お代は置いとくぜ。酒ばっかに使うんじゃねえぞ。せっかくの腕がもったいねぇ。」
「……いらん世話だ。」

ズックが、柄の悪い男にキャンバスを渡していた。
男が置いていった金を持って、ズックは店に向かった。

「…酒をくれ。」
「またかよ。ズック飲み過ぎなんじゃねえか?」
「……いらん世話だ。」

ズックは酒を飲みながら、家へと戻っていた。
貧相な身なりの少年がズックに話しかけた。

「ズック!今日こそ、キャンバス作り教えてくれよ!」
「…また、お前か。俺は弟子はとらん。」
「そんなこと言わずにさぁ~。」
「…他所へいけ。」
「他所ってどこだよ?こんな格好のやつ家に入れてもくれねぇ。」
「…俺は弟子はとらん。」
「頼むよ~ズック。ズックみたいにいいキャンバス作りたいんだよ~」
「…俺のキャンバスはゴミだ。」

ズックはその場を離れていった。
少年は小さく呟いた。
「……ズックが1番腕があるくせに。」

ズックは家に着くと、倒れ込むように椅子に座った。
酒を片手にズックはそのまま眠った。

――ドンドン
扉を叩く音でズックは目を覚ました。

「おい、ズック!いるんだろ!」

ズックは椅子からゆっくりと立ち上がり玄関へと向かった。
扉の外にいたのは、昨日の柄の悪い男だった。

「……何の用だ。コンテ。」
「よお!ズック、またキャンバス頼むわ。」
「……1ヶ月だ。」
「じゃあ、1ヶ月後に来るからな~」

そう言ってコンテは去っていった。
ズックは深いため息をつきながら、鞄を持ち出し食料や酒、ナイフを入れていった。
そして、扉をあけ歩き出した。しばらく歩くとズックの前に少年が現れた。

「ズック!今からキャンバスの材料取りに行くのか?俺も連れてってくれよ。」
「…またお前か。いい加減諦めろ。」
「ハンプ山に行くんだろ?頼むよ~。」
「…諦めろ。お前にはまだ早い。」
「いいじゃん!あの山には木人形ウッドマンも出るんだろ?見てみたいしさ~」
「…駄目だ。危険だし、お前は弟子でも何でもない。」
「いっつもそれだ。じゃあ、帰ってきたらキャンバス作り見せろよな。」
「……」

ズックは何も言わずにその場を離れ、ハンプ山に向かっていった。
ハンプ山にはキャンバスの材料となる、亜麻が群生している。木人形ウッドマンという化け物が稀に出るため、職人以外ではあまり近寄らない場所だ。

「ちぇっ…」

少年は仕方なく家へと戻っていった。

――1週間後
少年はズックの家の前で待っていた。
いつもなら材料を揃えてズックが戻って来る頃だ。
しかしその日、ズックは戻ってこなかった。

――翌日、少年は再びズックの家に向かっていた。

「おい、昨日木人形ウッドマンがえらい出たってよ。」
「聞いたよ。職人連中が何人か怪我して帰ってきたらしいな。」
「これじゃしばらく、ハンプ山行けねーよ。」

街の人々の話し声が聞こえた。
心配になった少年は、急いでズックの家に向かった。

「ズック!いないのか?ズック!」

返事はなかった。ズックは不安になり、ハンプ山へと駆け出した。
ハンプ山へ続く道には警備が立っていた。
少年は警備に懸命に伝えた。

「ズックが…ズックがまだ山にいるんだ!」
「ズック?ズックって飲んだくれズックか?」
「そうだよ!そのズックだ。この前山に入ってまだ帰ってきてないんだ。」
「そうは言っても今、この山は危険だ。木人形ウッドマンが多い。しばらくしたら、入れるようになるから待っとけ。」
「それじゃ遅いかもしれないだろ!早く見に行ってくれよ!」
「見に行けったって…捜索隊を出すにも時間がかかるぞ?」
「頼むよ!ズックは1人で行ってるんだ!」
「すまないが、今は難しい。もう少し待っててくれ。」
「何だよ!じゃあ、俺が行くから通してくれ!」
「だめだ!危ないと言っただろう?どうしてもというなら職人を連れてこい。」
「……くそ!」

少年は街の職人の家を訪ね歩いた。
殆どの職人は少年の身なりをみると、話も聞かず追い返した。
中には話を聞いてくれた職人もいたが、山に入ることは「今は危険だから」と断られた。
少年は夢中で街中を駆け巡っていた。

――ドンッ

何かにぶつかり、少年は尻餅をついた。

「大丈夫~?そんなに慌ててどうしたの?」
「お前、周り見て歩けよ!危ないだろーが!」
「シキ、そんなこと言わない。ぶつかったんだから謝りなさい。」
「何でだよ!ぶつかってきたのこいつだろ!」
「あなたの方がお兄さんなんだから。」
「……すみません。」
「謝れて偉いね!シキ、この子の方が大人じゃない。」
「――ちっ、悪かったな、大丈夫か?」
「大丈夫です…。」
「そんなに慌ててどうしたの?」
「いえ…。」
「お姉さんに言ってみて!何か助けになれるかも!」
「ズック――知り合いのおじさんが山に入って帰ってこなくて…」
「大変だね。誰かに相談した?」
「…したけど、誰も助けてくれなくて。」
「よーし!わかった。じゃあ、お姉さんたちが助けてあげよう!」
「…いや、今は山危ないし、お姉さんたち街の人じゃないでしょ?」
「んーよくわからないけど、ぶつかったお詫びだと思って!ね、シキ。」
「……わかったよ。」

少年は涙が溢れた。見ず知らずの2人だったが、手を差し伸べてくれたことが、ただただ嬉しかった。

「あたしは、アカ。このぶつかった人がシキ。僕の名前は?」
「……俺は、リンネルです。」

リンネルの後ろに、大きくハンプ山見えていた――
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