3 / 3
放課後のコロッケ
しおりを挟む
吉田愛喜は何をするにも1人だった。
高校生ながら、親の都合でひとり暮らしをしていて、クラスメイトとも全く話さないので正真正銘のぼっちなのだ。
今日も下校のチャイムが鳴ったらすぐに教室の扉を開けて、誰よりも早く下駄箱へと向かい、外履きに履き替えた後、早歩きで校門へとたどり着く。校門を抜けるとイヤホンをカバンの中から弄り、両耳にセットする。
イヤホンからはボーカロイドの曲が流れていて、
僕が流行りのバンドやアイドルの曲が分かれば、ぼっちじゃない未来もあったのかもしれないと感じて、虚しさが押し寄せてくる。
下校の道は案外好きだった。いつも少しだけまわり道をして、小さな街の商店街に立ち寄るのが下校時間の醍醐味だった。
商店街の中にあるコロッケ屋さんは、僕の叔母さんが働いていて、お肉が非常に詰まっていて美味しく、味付けも絶妙だった。
ぼっちとはいえど腹は減る。僕だって年頃の男子高校生なのだ。
いつも通り叔母さんに挨拶を済ませ、コロッケを1つ注文する。
香ばしい匂いを放ったアツアツのコロッケは、お腹の虫を大音量で鳴かせた。
「いただきます」
店前のベンチに座り、ひとりでそう呟いて、ひとくち。またひとくちと口の中をコロッケでいっぱいにする。ホクホクしながら頬張り、リスみたいに口を膨らませる。幸せ。うれしい。
「あれ、吉田じゃん!何してるの?」
背筋がゾワっとした。リラックスしていた心は一気に臨戦態勢へと入った。
顔をあげるとクラスメイトの吉住さんが自転車にまたがっていた。
「いや、あの、これは、その」
ホクホクしながら必死に言葉を繕おうとするが、全く出てこない。
「ごめん!びっくりさせちゃったよね。ゆっくり食べなよ」
吉住さんは申し訳なさそうにこちらに微笑む。
吉住さんは席が前のクラスメイトだ。
髪の毛を金色に染めていて、隣のヤンキー高校との生徒とも関係があると噂をされている。ちなみに髪を染めるのは校則違反だ。
そのせいか、まわりのクラスメイトからは少し怖がられていて、距離を置かれているように思う。
しかし、実は優しい女の子であること僕は知っていた。
数学の授業で先生に当てられた時、いつも通り僕はしどろもどろになった。まわりのクラスメイトは知らんぷりで、「かわいそうに」と今にも声が聞こえてきそうな雰囲気だった。焦りは加速していくばかりで、その場しのぎの回答を考えていた時だった。小さな紙がそっと後ろにまわってくる。そこには問題の答えらしきものが書いてあって、咄嗟に僕はその回答を読み上げた。
先生は、「お、よく勉強してるな」と言い、解説を始める。
その日の休み時間、僕は初めてクラスメイトに自ら話しかけた。
小さな声で「さっきはありがとう」と伝えると、
吉住さんは「いいってことよ!」と筋肉ポーズをして、ニカッと微笑むのだった。
そんな吉住さんが今目の前にいる。
クラスメイトの殆どは部活動に入っているので、この時間に商店街で遭遇することは滅多にない。
どうしてだろうと思っていると、吉住さんは勝手に説明をはじめた。
「私、部活やめたんだー。やめたっていうか、校則違反でやめさせられちゃったっていうか。ねえ、せっかくだから私の愚痴きいてよ!」
お得意のニカッと微笑む笑顔に導かれるまま、僕はイヤホンを外して吉住さんの話を聞くことにした。吉住さんは自転車から降りて、僕の横に腰掛けた。
「そ、そもそも何の部活だったの?」
「あちゃー、そこからか!サッカー部のマネージャーだったんだよ、こんな見た目だけど」
「そうなんだ。ど、どうして辞めちゃったの?」
「実は三角関係に巻き込まれてさー。キャプテンとエースがそれぞれ私のこと好きになっちゃったみたいで。あ、私は別に好きじゃないんだよ。それを見た別のマネージャーが嫉妬しちゃって。先生に過剰に私のことを悪く言ったみたいなんだよね。まあ金髪だし。それを理由に辞めさせられたって感じかなー」
マシンガントークで吉住さんは辞めた理由を説明した。
「それは大変だったね...」
「そうなんだよー。結構真剣にやってたのになあ。そういえば吉田は放課後はいつもここに来てるの?」
会話の矛先がいきなり自分に向いたことにビクッとなる。気づけばコロッケは冷めていて、あと1口でなくなるところだった。僕は深呼吸をして、ゆっくりと口を開く。
「実は叔母さんが働いているんだ。ここのコロッケはすごく美味しくて、ほぼ毎日きてる」
「そうなんだ!私も食べてみようかな。
あ、すみません!コロッケ1つもらえますか!」
カウンターの奥から「はいよ~」と叔母さんの声が聞こえてくる。
「あの人が吉田の叔母さん?」
「そうだよ。割烹着がよく似合う叔母さん」
「ほんとだね!吉田って視点がおもしろいね」
真っ直ぐなその笑顔から僕は目を逸らし、ラストひとくちのコロッケを口の中に放り込んだ。
「部活終わった後は商店街のお店、ほぼ閉まってるからなー。部活は残念だけど、新しい放課後の楽しみができた気がする!」
偶然の出会いだったけど、吉住さんの人生に少しだけ別の彩りが加わった瞬間だった気がして、心まで少しホクホクしていた。
それから僕と吉住さんは放課後に商店街で会うことが多くなった。
アツアツのコロッケを食べる時だけは、1人じゃなくなった。
高校生ながら、親の都合でひとり暮らしをしていて、クラスメイトとも全く話さないので正真正銘のぼっちなのだ。
今日も下校のチャイムが鳴ったらすぐに教室の扉を開けて、誰よりも早く下駄箱へと向かい、外履きに履き替えた後、早歩きで校門へとたどり着く。校門を抜けるとイヤホンをカバンの中から弄り、両耳にセットする。
イヤホンからはボーカロイドの曲が流れていて、
僕が流行りのバンドやアイドルの曲が分かれば、ぼっちじゃない未来もあったのかもしれないと感じて、虚しさが押し寄せてくる。
下校の道は案外好きだった。いつも少しだけまわり道をして、小さな街の商店街に立ち寄るのが下校時間の醍醐味だった。
商店街の中にあるコロッケ屋さんは、僕の叔母さんが働いていて、お肉が非常に詰まっていて美味しく、味付けも絶妙だった。
ぼっちとはいえど腹は減る。僕だって年頃の男子高校生なのだ。
いつも通り叔母さんに挨拶を済ませ、コロッケを1つ注文する。
香ばしい匂いを放ったアツアツのコロッケは、お腹の虫を大音量で鳴かせた。
「いただきます」
店前のベンチに座り、ひとりでそう呟いて、ひとくち。またひとくちと口の中をコロッケでいっぱいにする。ホクホクしながら頬張り、リスみたいに口を膨らませる。幸せ。うれしい。
「あれ、吉田じゃん!何してるの?」
背筋がゾワっとした。リラックスしていた心は一気に臨戦態勢へと入った。
顔をあげるとクラスメイトの吉住さんが自転車にまたがっていた。
「いや、あの、これは、その」
ホクホクしながら必死に言葉を繕おうとするが、全く出てこない。
「ごめん!びっくりさせちゃったよね。ゆっくり食べなよ」
吉住さんは申し訳なさそうにこちらに微笑む。
吉住さんは席が前のクラスメイトだ。
髪の毛を金色に染めていて、隣のヤンキー高校との生徒とも関係があると噂をされている。ちなみに髪を染めるのは校則違反だ。
そのせいか、まわりのクラスメイトからは少し怖がられていて、距離を置かれているように思う。
しかし、実は優しい女の子であること僕は知っていた。
数学の授業で先生に当てられた時、いつも通り僕はしどろもどろになった。まわりのクラスメイトは知らんぷりで、「かわいそうに」と今にも声が聞こえてきそうな雰囲気だった。焦りは加速していくばかりで、その場しのぎの回答を考えていた時だった。小さな紙がそっと後ろにまわってくる。そこには問題の答えらしきものが書いてあって、咄嗟に僕はその回答を読み上げた。
先生は、「お、よく勉強してるな」と言い、解説を始める。
その日の休み時間、僕は初めてクラスメイトに自ら話しかけた。
小さな声で「さっきはありがとう」と伝えると、
吉住さんは「いいってことよ!」と筋肉ポーズをして、ニカッと微笑むのだった。
そんな吉住さんが今目の前にいる。
クラスメイトの殆どは部活動に入っているので、この時間に商店街で遭遇することは滅多にない。
どうしてだろうと思っていると、吉住さんは勝手に説明をはじめた。
「私、部活やめたんだー。やめたっていうか、校則違反でやめさせられちゃったっていうか。ねえ、せっかくだから私の愚痴きいてよ!」
お得意のニカッと微笑む笑顔に導かれるまま、僕はイヤホンを外して吉住さんの話を聞くことにした。吉住さんは自転車から降りて、僕の横に腰掛けた。
「そ、そもそも何の部活だったの?」
「あちゃー、そこからか!サッカー部のマネージャーだったんだよ、こんな見た目だけど」
「そうなんだ。ど、どうして辞めちゃったの?」
「実は三角関係に巻き込まれてさー。キャプテンとエースがそれぞれ私のこと好きになっちゃったみたいで。あ、私は別に好きじゃないんだよ。それを見た別のマネージャーが嫉妬しちゃって。先生に過剰に私のことを悪く言ったみたいなんだよね。まあ金髪だし。それを理由に辞めさせられたって感じかなー」
マシンガントークで吉住さんは辞めた理由を説明した。
「それは大変だったね...」
「そうなんだよー。結構真剣にやってたのになあ。そういえば吉田は放課後はいつもここに来てるの?」
会話の矛先がいきなり自分に向いたことにビクッとなる。気づけばコロッケは冷めていて、あと1口でなくなるところだった。僕は深呼吸をして、ゆっくりと口を開く。
「実は叔母さんが働いているんだ。ここのコロッケはすごく美味しくて、ほぼ毎日きてる」
「そうなんだ!私も食べてみようかな。
あ、すみません!コロッケ1つもらえますか!」
カウンターの奥から「はいよ~」と叔母さんの声が聞こえてくる。
「あの人が吉田の叔母さん?」
「そうだよ。割烹着がよく似合う叔母さん」
「ほんとだね!吉田って視点がおもしろいね」
真っ直ぐなその笑顔から僕は目を逸らし、ラストひとくちのコロッケを口の中に放り込んだ。
「部活終わった後は商店街のお店、ほぼ閉まってるからなー。部活は残念だけど、新しい放課後の楽しみができた気がする!」
偶然の出会いだったけど、吉住さんの人生に少しだけ別の彩りが加わった瞬間だった気がして、心まで少しホクホクしていた。
それから僕と吉住さんは放課後に商店街で会うことが多くなった。
アツアツのコロッケを食べる時だけは、1人じゃなくなった。
1
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
お気に入りに登録しました