イヤホンを外したら。

安達京介

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放課後のコロッケ

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吉田愛喜は何をするにも1人だった。
高校生ながら、親の都合でひとり暮らしをしていて、クラスメイトとも全く話さないので正真正銘のぼっちなのだ。
今日も下校のチャイムが鳴ったらすぐに教室の扉を開けて、誰よりも早く下駄箱へと向かい、外履きに履き替えた後、早歩きで校門へとたどり着く。校門を抜けるとイヤホンをカバンの中から弄り、両耳にセットする。
イヤホンからはボーカロイドの曲が流れていて、
僕が流行りのバンドやアイドルの曲が分かれば、ぼっちじゃない未来もあったのかもしれないと感じて、虚しさが押し寄せてくる。

下校の道は案外好きだった。いつも少しだけまわり道をして、小さな街の商店街に立ち寄るのが下校時間の醍醐味だった。
商店街の中にあるコロッケ屋さんは、僕の叔母さんが働いていて、お肉が非常に詰まっていて美味しく、味付けも絶妙だった。
ぼっちとはいえど腹は減る。僕だって年頃の男子高校生なのだ。
いつも通り叔母さんに挨拶を済ませ、コロッケを1つ注文する。
香ばしい匂いを放ったアツアツのコロッケは、お腹の虫を大音量で鳴かせた。
「いただきます」
店前のベンチに座り、ひとりでそう呟いて、ひとくち。またひとくちと口の中をコロッケでいっぱいにする。ホクホクしながら頬張り、リスみたいに口を膨らませる。幸せ。うれしい。
「あれ、吉田じゃん!何してるの?」
背筋がゾワっとした。リラックスしていた心は一気に臨戦態勢へと入った。
顔をあげるとクラスメイトの吉住さんが自転車にまたがっていた。
「いや、あの、これは、その」
ホクホクしながら必死に言葉を繕おうとするが、全く出てこない。
「ごめん!びっくりさせちゃったよね。ゆっくり食べなよ」
吉住さんは申し訳なさそうにこちらに微笑む。

吉住さんは席が前のクラスメイトだ。
髪の毛を金色に染めていて、隣のヤンキー高校との生徒とも関係があると噂をされている。ちなみに髪を染めるのは校則違反だ。
そのせいか、まわりのクラスメイトからは少し怖がられていて、距離を置かれているように思う。
しかし、実は優しい女の子であること僕は知っていた。
数学の授業で先生に当てられた時、いつも通り僕はしどろもどろになった。まわりのクラスメイトは知らんぷりで、「かわいそうに」と今にも声が聞こえてきそうな雰囲気だった。焦りは加速していくばかりで、その場しのぎの回答を考えていた時だった。小さな紙がそっと後ろにまわってくる。そこには問題の答えらしきものが書いてあって、咄嗟に僕はその回答を読み上げた。
先生は、「お、よく勉強してるな」と言い、解説を始める。
その日の休み時間、僕は初めてクラスメイトに自ら話しかけた。
小さな声で「さっきはありがとう」と伝えると、
吉住さんは「いいってことよ!」と筋肉ポーズをして、ニカッと微笑むのだった。

そんな吉住さんが今目の前にいる。
クラスメイトの殆どは部活動に入っているので、この時間に商店街で遭遇することは滅多にない。
どうしてだろうと思っていると、吉住さんは勝手に説明をはじめた。
「私、部活やめたんだー。やめたっていうか、校則違反でやめさせられちゃったっていうか。ねえ、せっかくだから私の愚痴きいてよ!」
お得意のニカッと微笑む笑顔に導かれるまま、僕はイヤホンを外して吉住さんの話を聞くことにした。吉住さんは自転車から降りて、僕の横に腰掛けた。
「そ、そもそも何の部活だったの?」
「あちゃー、そこからか!サッカー部のマネージャーだったんだよ、こんな見た目だけど」
「そうなんだ。ど、どうして辞めちゃったの?」
「実は三角関係に巻き込まれてさー。キャプテンとエースがそれぞれ私のこと好きになっちゃったみたいで。あ、私は別に好きじゃないんだよ。それを見た別のマネージャーが嫉妬しちゃって。先生に過剰に私のことを悪く言ったみたいなんだよね。まあ金髪だし。それを理由に辞めさせられたって感じかなー」
マシンガントークで吉住さんは辞めた理由を説明した。
「それは大変だったね...」
「そうなんだよー。結構真剣にやってたのになあ。そういえば吉田は放課後はいつもここに来てるの?」
会話の矛先がいきなり自分に向いたことにビクッとなる。気づけばコロッケは冷めていて、あと1口でなくなるところだった。僕は深呼吸をして、ゆっくりと口を開く。
「実は叔母さんが働いているんだ。ここのコロッケはすごく美味しくて、ほぼ毎日きてる」
「そうなんだ!私も食べてみようかな。
あ、すみません!コロッケ1つもらえますか!」
カウンターの奥から「はいよ~」と叔母さんの声が聞こえてくる。
「あの人が吉田の叔母さん?」
「そうだよ。割烹着がよく似合う叔母さん」
「ほんとだね!吉田って視点がおもしろいね」
真っ直ぐなその笑顔から僕は目を逸らし、ラストひとくちのコロッケを口の中に放り込んだ。
「部活終わった後は商店街のお店、ほぼ閉まってるからなー。部活は残念だけど、新しい放課後の楽しみができた気がする!」
偶然の出会いだったけど、吉住さんの人生に少しだけ別の彩りが加わった瞬間だった気がして、心まで少しホクホクしていた。

それから僕と吉住さんは放課後に商店街で会うことが多くなった。
アツアツのコロッケを食べる時だけは、1人じゃなくなった。


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