天国に一番近い駅〜死のうとした僕を救ってくれた人〜

紅 匠

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プロローグ

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    日も落ちかけた夏の夕、僕は重い足を引きずりながら、鞄を一つ肩にかけて、駅へ向かう。あいつらに蹴られた足がまだズキズキと痛む。
毎日、毎日、人を殴って蹴って、一体何が楽しいのか、そんなことを考える。でも、そんな憂鬱な日々も遂に今日、終わる。

「どこか遠くに行こう。どこか綺麗なところへ。そこで、人生の幕を閉じるんだ。」

     どこに行こうか、ぼーっとそれを考えながら、駅に繋がる一本道を歩く。「海辺にしようかな」とか、「いっその事、山奥の田舎ってのもいいな」とか。

 だが、やっと苦痛な日常から解放されるというのに、あまり喜びを感じない。やっぱり死ぬことにいささかの抵抗があるのだろうな...
     
    そうこうしている内に、僕は駅の改札の前に着いていた。ここで切符を買って改札をくぐれば、いよいよ最後だ。しかし、ふと足元がすくむのを感じる。

「今日は引き下がって普通に家に帰るか」

 僕はボソッと呟く。

やっぱり死ぬのは怖い。

 いや、でも今日帰ればまた明日も苦痛を味わう事になる。結局、どうしたらいいんだ...と自問自答を繰り返す。次の電車が来るまでは、あと20分ほどだ。一応何処にでも行けるように一番高い切符だけは買っておく。このくらいの時間があれば決心くらい出来るだろう。

 そうしてまた自問自答の周回に入っていると、何故か奥の方から電車が走って来る。時計を見る。時計の文字盤は
「17:27」
を指していた。おかしい。次の電車は35分の筈だ。それまでは一両もこの駅には通過すらしない。困惑している僕を他所に電車はそのままホームに入ってきて、停止した。

 見れば見るほど変な電車だ。中には乗客が誰も居ない。それに電車自体も初めて見る車両だ。決して新型な訳ではない、むしろ何十年も前の物のようだ。

 数秒後、ガシャリという音と共に全ての扉が開いた。

 まるで僕を招いているかのように。

 僕は何かこの電車に得体の知れない力のような物を感じた。それが果たして良いものなのか、悪いものなのかは分からない。でももうこの際そんな事はどうでも良い。僕は何処行きかも確認せず、反射的に改札をくぐり、電車に乗りこんだ。

 僕が乗ったのとほぼ同時にドアが閉まり、すぐさま発車した。本当に僕が乗るのを待っていたようだ。車内にはやはり、僕以外誰も居ないので、適当なところにどかっと座り、鞄を横に置いた。

「どこに着くか分からないけど、この本だけは最後まで読んでしまうか...」
 
 僕は残り三十ページくらいの本を持ってきた鞄から取り出して、読み始める。この本の主人公も僕と同じだ。死にたがってる所とか、絶望してる所とか。だが僕と違うところが一つだけある、

コイツは最後には救われた。

 結局、残り三十ページ位だから、すぐにクライマックスを迎え、そのクライマックスも終わり、本を閉じる。

 しかし本を鞄に片付けようとしたその時、ふと一つ不自然な事に気が付いた。全く次の駅に着く様子がない。もう軽く10分くらいは経ってるはずなのに。普通ならもう少なくとも2駅は通ってる筈だ。疑問に思い窓の外を見るとそこには闇しか無かった。完全な闇だ。一筋の光もない。まだ夕方だし、それに街の光も見える筈だ。
    
 どんどん不安になってきた。僕は本当に何処へ行ってしまうんだろう。考え込んでいると、急に強い睡魔に襲われ、うとうととし始める。そして僕はそのまま、倒れるように眠りに入った。
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