Paradox world

紅 匠

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一章 出会いと約束

豪雨

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 ネットカフェから出発し、少し歩いたところで、ぽつぽつと、雨が降ってきた。初めは傘をさしてしのいでいたが、急に土砂降りになり、続いて叩きつけるような雨に変わった。

「やっべぇ...合羽着た方がいいな...」

僕は「瑞稀!」と、瑞稀を屋根の下に連れていき、僕のカバンから合羽を取りだし、渡す。

「傘、邪魔になるから、これ着て行動しよう」

軽く首肯して、彼女は傘をたたみ、合羽を着た。それに続いて、僕も合羽を着た。1度、時計を確認してみると、2時半をすぎ、3時に近づこうとしていた。かれこれ、休憩もなしに1時間ほど歩いていたのだと思うと、一気に疲れがおしよせてきたが、今日中にはあちらに着きたいという思いが、僕の背中を押してくれた。


 叩きつけるような雨はいつしか横なぶりの、目の前が見えないほどの豪雨になっていた。歩いても歩いても、ほぼ前に進まない。一歩一歩、風に押し戻されるような感覚を覚えながら、ゆっくり進んでいった。

 ...あれからどれだけ歩いただろうか。未だに雨は止むことを知らず、眼前は霞切っていた。

「はあ...はあ...」

吹き付ける強い風に体力をどんどん奪われていき、しまいにはほぼ身動きが取れなくなっていた。周りは何も見えない。

「瑞稀!瑞稀!どこにいるんだ!」

彼女を探すには、叫ぶしか方法がない。

「誠哉くん!ここにいるよ!」

ざあざあと、大きな音を立てる雨の中彼女も叫び、僕の手を握る。

「瑞稀!1回、大きなビルの中に入ろう!このままじゃ危険だ!」

僕は声を振り絞って、彼女に伝える。

「わかった!どこのビル?」

「右手にある!大きな電気のついてるビル! いくよ!」

僕が簡単に説明して、彼女の手を引く。離さないように、しっかり握って。

そのまま、ゆっくり、ゆっくりと自動ドアに近付き、開いたと同時に、中に飛び込む。

何か重いものから開放された気分だった。エントランスの社名を見てみると、そこには

「株式会社杵島作業所きしまさぎょうしょ

と書いてあった。杵島作業。日本で有数の技術を持つ企業で、日本の名だたるカメラメーカーのイメージセンサーの作成、記憶装置の半導体など、様々な製品を手掛けていることを聞いたことがある。どうやら、ここがその本社ビルらしい。

僕ははっとして、スマホの電源をつける。通知の欄には、荒川さんから、

「了解です。いつでも待ってます」

そうひとこと、返信が来ていた。それを確認した僕は瑞稀を呼んで「ここに一回座ろう」と、椅子に座った。
 そして、このビルがどこにあるのかを確認するために、ブラウザを開く。まだLTE通信網は生きているようで、普通に検索もできた。ホーム画面が出たのと同時に検索窓に

「杵島作業所 本社ビル所在地」

そう検索した。検索結果のトップには住所こそ出なかったものの「東京メトロ副都心線 西早稲田から徒歩約3分」と、そう書かれてた。ということは、ここ近辺は北参道ということ。僕はTwitterを開き、荒川さんに

「本日、かなりの雨天のため到着は明日午前中もしくは午後になると思います。」

そう送信した。外は雨で霞み、これ以上ここから動くのは危険そうに感じたから。時計は4時を指しており、まだ早いと思ったが、今日の行動は終了すると決めた。

「瑞稀。今日の行動は終わりだ。きつい雨の中、おつかれ」

そういい、僕は瑞稀の頭をわしゃわしゃと撫でる。

「ちょ...誠哉くん...やめてよ...」

撫でた途端、瑞稀は僕の手を払おうとしてきた。これ以上やっても彼女が嫌がるだけだろうと思ったからこれ以上はやめた。

「誠哉くん、たぶん、上の階のオフィスとかに給油ポットとかあるかもしれないからさ、見に行こうよ。考えてみたら、まだ何も食べてないからさ」

「おっそれいいね」と僕が返したあと、重い荷物は自分たちにだけわかる所に置いて、上の階のオフィスへと向かって行った。

上の階へ昇ったら、ちょうど目の前にそのフロアの地図が置いてあった。僕はそれを手に取り、中身を見る。どうやら給湯室は2,4,6,8階の同じ場所にあることがわかった。そのことを彼女に伝え、僕と彼女は給湯室へと向かった。
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