Paradox world

四章 この世界の正体

Seeyou again...

　僕が解消が起こる日を特定した夜、嫌な夢を見て、僕は目が覚めた。

　超巨大な地震が僕らを襲い、世界全体が崩れていく夢。僕と仲間は崩れた官邸の瓦礫に飲み込まれ息絶える。これが予知夢なのか、それすらわからない。ただただ恐怖を感じたのみだった。そしてもう一つ記憶に残っているのは地震が起こる瞬間の時刻と日付。夢の中で地震が起きた瞬間、僕はスマホを見ていた。そしてそこに表示されていた時間は、「14:00 8/28」。急に不安に襲われた僕は急いでスマホを見る。そこに表示された日付は、8月28日だった。

「今日じゃねえか...」

僕は絶句する。僕は死んでもいないのに2回も死の苦しみを味あわないといけないのかと。その後は恐怖で一睡もできなかった。



　そして、運命の時は、やってくる。

　1時前、皆が談笑していた時。突然下から大きく突き上げるような衝撃を僕は受ける。実際、僕の体は宙に浮かんでいた。その後勢い良く床にたたきつけられた。鈍い衝撃音が断続的に響き渡る。

「みんな！首相執務室へ行け！」

揺れが落ち着いたはいいものの、まだ倒壊を続ける官邸を皆走り抜ける。そして、天井で大きく揺れていたシャンデリアが落下し、冬樹さんに直撃した。がしゃぁぁんというガラスの砕ける高い音が響く。後ろを振り返ると、真っ赤に血で染まったシャンデリアと、その下で破片に体を貫かれた冬樹さんがいた。

「ふっ...冬樹さん！」

瑞稀が悲鳴を上げるように声を出す。彼の目に生気は一切宿っていなかった。僕らに何か言おうとしていたが、それは声にならなかった。肺を貫かれ、声が出なかったからだ。

「みんな！安全な場所に！急ごう！」

僕の声を聴いた紗彩と瑞稀がこちら側に走ってくる。そして僕らは執務室へと向かった。


「二人に言っておこう。あと30分後にこの世界は終わる。それまで無事に生きていれば、君たちは生きて帰れる。」

僕は二人を見据えてそう告げる。

「頑張って、耐えきるぞ。」

僕がそういうと、二人は頷いた。

そのままずっと待って...その時は訪れた。

　大地が唸るような重い音が聞こえてきた。それと同時に僕は体に浮遊感を覚えた。飛行機がエアポケットに入るような感覚だった。
だがその数秒後にはさらにまた床が傾く。体を預けていた壁が崩れ始めた。
　僕は下を見る。そこには恐ろしい光景が広がっていた。地面が割れ、すべてを飲み込もうとしていた。

　ふいに、冬樹さんが言っていたことを思い出す。「存在してはならないところに知性が存在した場合、それを消すように時間や空間が動く。」そういうことかもしれないと思った。本来なら存在していけない知性がPX現象のパラドックスによって存在してしまった。宇宙は、その矛盾を解消しようとしているのかもしれない。だとすれば、それはいつまでか。タイムリミットはあるのか。

　次のPX現象-それがタイムリミットではないのか。宇宙は、それまでに知性を排除しようとしている。ではそれを乗り越えたらどうなるか。再び「矛盾」が生じるということではないのか。それこそ冬樹さんの言っていた「奇跡」ではないのか。

　再び大地が唸りを上げる。もはや地震などというものではなかった。全員、宙に投げ出されていた。同時に、すべての音が消えた。そのとき、瑞稀が何かを僕に伝えようとしていた。が、その声は届かなかった。だが、言いたいことは理解できた。

「ま、た、あ、お、う、ね」

と、そして、次に光が消える。
　そして、最後に僕の意識が消えた。消える直前、謎の安心感に心は支配されていた。