Paradox world

四章 この世界の正体

この世界との別れ

　鰆の件の後、数日間は全く何も起こらず、つかの間の休息が訪れていた。皆が好きなことをし、平和な空気が流れていた。だが、一つだけ平和とはほど遠いことがあった。それは一週間ほど前から延々と雨が降り続いていること、そして地震の頻度が多くなり、揺れもかなり強くなってきていることだ。

「もう、そろそろかな...」

旅の初めからずっと持っていたスマホのロック画面に表示された日付を見て僕は一言零し、ベッドの上に横たわった。かれこれこの世界に来てから十数日が経っている。「数学的矛盾の解消」という現象が発現するのはもう少しだろう。

-果たして、無事に帰れるのだろうか。それだけが気になってしようがなかった。

　ベッドに横たわった後すぐに立ち上がった僕は、あの日渡された小冊子を机から取り上げ、またベッドに横たわり、解読を始めた。同じところを何度も繰り返して読み、オフラインでも使えるスマホ用辞書などを使って内容を理解しようとする。が、簡単に要約できたとて、まったく理解ができない。それほどに高度な話なのだ。

「うーん...わからん。」

　もうこの際数学的矛盾の解消が起こるタイミングまで待てばいいのではないか。もしそれが一生起こらなかったらそれもそれでこの世界で生きるすべを見つければ何とかなる話だ。だが、元の世界に戻れるのならば、その一縷の望みに懸けてその解消の現象が起こるタイミングを見つけ出さなければならない。ここ数日酷使してきた脳が悲鳴を上げる。「疲れた」と。でも僕はやらなければならないのだ。瑞稀を、そして冬樹さんたちを元の世界に返すために。



　何度も何度も手掛かりになりそうなところを読み返し、頑張って理解しようと必死にに脳を動かした。考えて、考えて、ひたすら考えた。そして

「そうか...そういうことか...」

　一個の結論に、たどり着いた。

　この数学的矛盾の解消が起こるのはパラドックス現象が発現したとされる時間より14日後であることだった。