建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF

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第19章 土の国ヒュプノベルフェ探訪・アルトラの解呪編

第561話 土の国観光計画

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 タナカさんの部屋に集まり、明日の予定を話し合った。

「私は朝からムラマサ寺院へ解呪に行くから、後で合流かな」
「時間かかるのカ?」
「見当も付かない。まあ二九九人も居るわけだし、それなりに時間がかかるんじゃない?」
「お主は何番目に解呪されるのだ?」
「それが、順番とか書いてないんだよね……この紙」

 この当たりクジ、ナンバーに類するものは何も書いてない。一応裏側も見てみるものの記述は無し。
 普通こういうのは番号振ってあって、その当たり番号の順番にってのがトラブル無く行事を勧めるコツだと思うんだけど……

「カイベ――」

 『――ル、何か分かる?』と聞こうと思ったが、一度も行ったことがない“はず”のカイベルに聞いて的確な答えが返って来ては不自然と思い、慌てて言葉を呑み込んだ。
 不安だから誰か付いて来てもらいたいが……

「私と一緒に解呪の儀式見に行くヒト~」

 と、一緒に行ってくれるヒトを募ってみるものの……

 ……
 …………
 ………………
 シーン

「そりゃそうか。みんな観光地行きたいか……」

 カイベルに付いて来てもらうのが安心で良いのだが、彼女にはリディアとネッココを引率してもらわないといけない。

『だって呪い解くの見てるだけでしょ!?』
「退屈そうだしナ」

 ぐぬぬ……
 リディアとネッココは否定的意見。
 まあ……この二人は子供だし、儀式見て面白いと感じる年じゃないから、この言い草も仕方ないわ。
 誰も手を上げない寂しい状態が続く。
 と思ったら、目をつぶりながら手を上げる人物が二人……フレアハルトとナナトスだ。

「わ、我らは今回お主の護衛として来ておるからな……お主を放っぽって別のところに行くわけにも行くまい……」
「お、俺っちも……給料も発生してるッスし……」

 確かに彼らには要人警護の名目で付いて来てもらっているから、“仕事”として来ているわけだ。
 しかし、二人の表情からは“行きたくない感”がありありと伝わって来る……
 まあ、きっと暇を持て余すだろうしね……ここまで付き合って同行してくれただけで良しとするか。
 護衛とは言え、外国に来ているのだから観光で見ても回りたいだろう。

「うん、まあ私の命を脅かすような事態なんて滅多に起こらないだろうから、二人も観光してきて良いよ」

 地球では要人警護が持ち場を離れるなんて論外中の論外だが、鋼の肉体と魔王の能力を併せ持つ私を殺せる人物なんて、多分この魔界に一桁人数しか存在しないだろう。具体的に言ってしまえば六人 (と不確定要素の+α人)だけ。
 不意打ちですら殺される可能性は限りなく低い。
 ここに来ることを知っているのも、リーヴァント周りと土の国くらいだろうし、二人が護衛から外れても特に問題無いと言えそうだ。

「「 本当か!?ホントッスか!? 」」

「後で護衛が持ち場を離れたと問題になったりとかせぬだろうな?」
「私は問題にしないけど……リーヴァントが知ったらお小言くらいは言うかもね」
「よし! リーヴァントさんに知られたら、俺っちもイチにーからお小言言われるし、知られないようにするッス!」

 そこからはもう嬉々として観光議論に加わる。

   ◇

 そしてタナカさんが用意してくれたパンフレット片手に、どこへ行くかの議論が始まった。

「この発掘現場ツアーなんてどうッスか? ツアー料払えば発見した魔石や宝石はそのまま貰って良いそうッスよ?」
「宝石を貰えるのか!? それは良いな! 我も行きたい」
「えー! 汚れるだロ?」
「汗水流すのは中々気持ちいぞ?」
「汗なんて旅行先でかきたくないゾ?」
『一日中土に埋まってる私が言うのもなんだけど、旅行先来てまで土塗れになることかしら!?』

 ナナトスとフレアハルトは身体動かすタイプの観光地に行きたいらしい。
 が、それを否定的に見る子供組リディアとネッココ

「この魔石・宝石展などどうでしょうか?」
「並んでる石見るだけッスよね? それ面白いッスか?」
「リディアはキラキラした石好きだゾ?」

 リナさんは魔石・宝石に興味あり。それに同調するリディア。

「我もキラキラした石は好きだが、それは貰えるものなのか?」
「貰えるわけないでしょ、展示会なんだから……多分手なんか出ないくらい高価な展示だと思うよ。まあ……用途の無いクズ石くらいなら記念品として貰えるかもね」

 多分小さくて、輝きも無く、魔力含有量も微少量の本当に価値の無さそうな石だろうけど……

「クズ石だと? それでは貰っても意味無いな。だったら断然発掘した石を貰える発掘現場だな。そっちならお宝は見つけた者の物だぞ!」
「手の出ない展示物見るくらいなら俺っちは楽しみながら掘ることを選ぶッス!」

 そうは言うものの発掘に参加して簡単に効果の高い魔石や、純度の高い宝石が出るものだろうか?
 発掘できてもせいぜい数千ストルンとか一万数千ストルン、運が良ければ数万ストルンとかその辺りが関の山だと思うが……
 ただ、侮れないことに、二十万分の三を当てた超吉の男ナナトスが発掘に乗り気なのよね。
 余談だが、魔石と宝石を併せ持つレア鉱石も極々稀に発掘されるらしい。宝石展のパンフレットに参考資料として載ってるが、目ん玉飛び出るくらいバカ高い。

「あ、スポーツ大会やってるそうッスよ? 見に行ってみないッスか? サッカーだって!」
「リディア、ルールよく知らんシ……」
『私も……』
「私もサッカーはルールがちょっと……バスケなら学生時代やってたんですけど……」
「バスケットボールはまだ土の国ではあまり普及してないですね。現在はマイナーなスポーツです」

 とタナカさんが説明してくれる。
 リディアとネッココは、うちでテレビ見る時アニメか時代劇しか見ないからな……
 そういう私もサッカーはルールをよく知ってるわけではないからスポーツ観戦はパスかな……
 リナさんもルールよく分からんらしい。

『あ! 植物園なんてのもあるのね! 行きましょうよ!』
「えー! 動かない木より、動いてるヒトが見たいッス……ってことでサッカー観戦を。あ、でもその隣に虫園なんてのがあるッスね! 植物園よりそっちの方が面白そうッスよ!」
『私そっちはパスだわ! 葉っぱ食べられたら嫌だもの!』
「それは大丈夫ダ! リディアが守ってやル!」

 植物園はネッココの希望。ユグドの大森林という植物しか無いような環境で生まれ育っているから、乾燥地帯の植物にも興味があるらしい。
 ただ、気を付けなければならないのはこの場所、隣に虫園が併設されていること……泣き叫ばなければ良いが……

 その後――

「こっちはどうッスか?」
「いや、こっちの方が……」
「我はこれが良いと思うのだが……」
『私はあっちが良いわ!』

 ――などと、あれやこれやと議論をするも全然話がまとまらず……

「はいはい! ストップストップ! この話し合いいつまで経っても終わらなそうだからもうまとめます! 幸いにも男子組と女子組で行きたいところが綺麗に分かれてるようなので、二手に分かれることにしましょう」

 人数も多いし、我の強いのが何人も居るから終わりゃしない!

 その結果、女子組は乾燥地で育つ植物園⇒魔石・宝石展へ、男子組はスポーツ観戦⇒発掘現場へということになった。
 引率は男性組タナカさん、女子組カイベル。

 男子組は、『行く順番逆じゃない?』とも思うが、発掘現場で汚れる前にスポーツ観戦するらしい。

「土の国って、プロのスポーツあったんですか? 私はまだ水の国と雷の国くらいにしか無いって聞いてましたけど……」
「う~ん……まだ正式な協会が出来ていないという感じでしょうか。現地に呼ばれて、用意してもらったスペースを使って野球やサッカー、その他のスポーツをやる感じですね。まだ興行レベルという感じでしょうか。なので、その都度その都度試合会場の大きさが違います。時にはこじんまりしたフットサルみたいなスペースになることもありますよ」
「へぇ~」

 なるほど、競技団体自体はもう既に存在するけど、正式なスポーツとは認められてない段階ってわけね。でも盛んなようだし、すぐに正式なスポーツになる可能性は高いってとこかな。
 まあ、男子組にはきちんと視察してきてもらおう。うちもスポーツの概念が発生しつつあるし。

「女子組は魔石・宝石展か……みんな光物好きだな」

 どの種族も光ってるものは綺麗に見えるらしい。
 フレアハルトもドラゴン族特有 (?)の『宝物を集める』という種族の性質的にはこっち側だと思ったが、宝石を貰えるわけではないと分かったら、スポーツの方に興味があるようだ。現在は身体を動かす方に興味が傾いてるという感じ。

「じゃあ、二手に分かれることになったし、最終合流地点はアーテラスタワーなんてどうッスか? 第二首都ルガイア市街が一望できるって言ってたじゃないッスか!」
「そうだね。比較的フィンツさんとの合流地点も近いし、最終的な合流場所をそこにしましょうか。タナカさん、タワーの閉館は何時でしたっけ?」
「十七時ですね」

 何で太陽が無い場所なのに、そんなお役所仕事なのかしらね……?
 『暗くなったら閉める』なら分からんでもないんだけど……

「じゃあ十六時半までに集合。展望台に上って、閉館後に近くで食事して駅へ向かいましょう」

 明日のスケジュールもまとまった。

「それじゃ解散としましょうか」
「あ、皆様、お風呂も地下一階となっています」
「ここお風呂あるんですか!? 水の少ない国なんでお風呂がある施設は少ないって聞いてますけど!?」

 事実、街中には住民が入れるように銭湯が多数あることを確認済み。

「セレブの方々御用達のホテルですから。水の少ない国とは言え、風呂は欠かせないかと」

 ニッコリ笑うタナカさん。

「ただ……仰られる通り、水が少ない国ですので個室に風呂を設えてはおりません。大浴場だけに限りますが、よろしければどうぞ」
「よし! じゃあ話もまとまったし、お風呂入って明日に備えて寝ましょうか!」

   ◇

 一方、その頃のクリューはいつものようにアルトラ邸を訪れていた――

「今日のご飯は何でしょうね。農作業で汗を流したしお肉とかだと良いんですけど」

 とアルトラ邸に到着。
 ドアを開けようとしたところ……

 ガチャガチャガチャガチャッ

「あれ? 鍵かかってる…………ああ、そういえば今日居ないんでしたっけ? 全員居ないなんて珍しい。ってことは…………まさか今日の夕飯は無し?」

 そこでドアに貼ってある紙に気付く。

 ┌──────────────────────┐

  クリューへ

  冷蔵庫にギョーザとシュウマイが入ってます
  温めて食べてね

 └──────────────────────┘

「ギョーザとシュウマイか。今日は中華ですか。美味しそうなんですが…………家の鍵……開かないんですけど……」

 少し考えた末に――

「し、仕方ない……不法侵入になりますが……」

 ――【闇の道ダークロード】を使い、自身の影からアルトラ邸内部の影へ移動。
 この能力は影から影へ移動できる、ほぼ死神専用の移動魔法。

「入り口に書き置きがあったわけですし、多分問題にはしないでしょう。さて冷蔵庫冷蔵庫」

 食事を用意。

「台所入らないから気付いてませんでしたが、この家……既にレンジまであったんですね。電気も来ているし、何も無い村だったと聞いてましたがもうすっかり文明的だ」

 レンジで中華を温め、テーブルに着いて一人メシ。

「さて、いただきます」

 夕飯を用意されてもシンと静まり返った部屋を見て、死神として今まで無かった感情が口を突いて出る。

「美味しいですけど……今日は何だか少し寂しいですね……」
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