建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF

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第8章 通貨制度構築編

第203話 大晦日の大掃除

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 今年最後の日・大晦日!

 実はクリスマス同様、クリスマス・大晦日・新年の三点セットは一ヶ月ほど前から、この日はこういうことをやるということをお知らせしてある。
 そういうわけで、今日はどの家も大掃除の真っ最中。
 今日は確実に晴れるように、前日に空へ飛んで、雨雲を消し飛ばしてきた。

「アルトラ~、ベッドの下とかどうすル~、一回どかすカ?」
「そうね、今日晴れてるし、窓から外へ出して干そうか」
「結構重いゾ? リディアがクラーケンに戻って運ぶカ?」
「いや、家の中で戻られたら、部屋壊しちゃうでしょ?」
「ムー! じゃあどうするんダ!?」

 さて、どうしようか。クイーンサイズとかキングサイズとか、そんな超でっかいベッドでもないし、筋力強化の魔法かけて運び出せばそれほどではないかな。

「私が運ぶから良いよ。とりあえず敷いてある布団とサメ (※)をどかしておいて」
   (※サメ:アクアリヴィアの水族館で買った抱き枕。第87話参照)

 筋力強化の魔法をかけて、まずは自分のベッドを持ち上げて外へ出した。

「じゃあリディアのも頼ム!」
「よしきた!」

 リディアのベッドも外へ出す。

「カイベルのは?」
「私はもう大掃除自体終わりました」
「「早っ!!」」

 ベッドは既に庭に干してあった。

「お手伝いしますか?」
「う~ん、じゃあいつもやってもらってばっかりだし、今日くらいはゆっくり休んでくれて良いよ。必要があった時に声をかけるわ」
「わかりました」

 流石カイベルさんだ!

「アルトラ~、机はどうすル?」

 机かぁ……物が無いって言っても、作業用の道具とか入ってるのよね。
 何の作業用かって? イラスト描くのとフィギュア作りに決まってるじゃない!
 あ、作ったフィギュアもたまには掃除してあげなきゃ。

 リディアに至っては、川で拾った石が綺麗だからとか、変わった形の木の枝や樹皮を拾ったとか言う理由で引き出しにゴチャゴチャ入ってたりする。
 木の実とかも「おやつに食べる」的なことを言って、そのまま放置しっぱなしの状態だったりとか。虫とか涌いてないでしょうね?

「リディアも机の中のソレ、そろそろ整理したら?」

 私からはゴミにしか見えないけど、敢えてゴミとは言わない。本人にとっては宝物かもしれないし。

「そうだナ……これももう別に要らないかナ……」

 あら? 割と成長してた?

「この石も綺麗だけド、石は所詮石だしナ……川に戻しておク」

 何か……現実的に考えるようになってきたのかな……八歳で。もうちょっと夢見て良い年頃だと思うけど……

「これはこの間エレアースモで歩いた時に綺麗だったから拾ってきた石だけド……どうしようカ?」

 手のひらに乗る程度の大きさの石が綺麗に半分に割れたもの。断面になっていて、紫がかっている。
 その「どうしようカ?」には何の意味が含まれてるんだろう? 川で拾ったものじゃないけど川へ投げて良いかどうかってことかな?
 そんなことを考えてると、カイベルが横から口を出した。

「それ、アンエレアス鉱石(※)の欠片ですよ。少量ですが希少鉱石なので捨てるのはお勧めしません」
   (※アンエレアス:架空の完全絶縁鉱石。第127話参照)

 偶然にもそんなの拾って来てたのか!?

「いらないんなら、私が処理しておくよ」

 売れるなら売って、リディアにお小遣いとしてあげようか。

「いいっ! 自分で持ってることにすル! 後で何かの役に立つかもしれないシ」

 大抵の場合「後で何かの役に立つ」は立たないことが多い。
 まあ、本人が持ってるって言うんならしょうがないか。

 その後、机の中を整理して、その他の石とか木の棒とかはホントに良いと思ったものだけを残して粗方片付けられた。
 木の実は幸いなことに虫が涌いてることはなかった。

「じゃあ机動かしてその裏を掃除しようか」
「やっぱりクラーケンになった方が力が出ると思ウ」
「って言ったって、巨大化するわけにはいかないでしょ?」
「腕輪は付けたまま戻ル! 大きさはこのままでクラーケンになル!」

 それならまあ良いか。
 大きさをそのままにクラーケンに戻った。

「じゃあ机ズラすよ?」

 二人で机を動かす。
 机を動かし終わっても、人型になろうとはしないためリディアに聞いてみる。

「人型に変身しないの?」
「この方が色々出来るかラ、今日はこのままで良いヤ」

 ああ、触手が十本もあるから、拭き掃除しながら掃き掃除出来たりするのか。

「窓拭く時なんか一度に出来るゾ?」

 それって便利……なのかもしれないけど、脚を沢山動かす分、疲れも数倍なんじゃ……?
 それに処理しなきゃいけない情報が増えるから、頭も疲れる気がする。

「机の裏側ってほこり多いんだナ……」
「机をわざわざ動かさないといけないことを考えると、流石にカイベルも普段そこまでは掃除してないだろうしね」

 先日使った『沢山集めるくん』では吸引し切れなかったのかな?
 机に引っかかって吸い付いてこなかったとか、そんなところか。
 机の裏を掃除し終わって、元の位置に戻した時にリディアに質問された。

「今思ったけド、アルトラってよく筋力強化の魔法使ってるよナ?」
「よくわかったね」
「急に魔力が膨らむ時があるかラ、そうなんじゃないかなっテ。さっきもベッドを外に運ぶ時そうなってたかラ」

 ステータス強化の魔法使うと、リディアにはそういう風に見えるのね。

「アルトラって永続で魔法をかけられる凄く珍しい魔術師なんだロ? 何で永続でかけられるのに筋力強化を永続で使わないんダ? そしたらいちいちかけ直さなくても良いのニ」
「筋力強化に限らないけど強化系の魔法って、普段と力の調整の仕方が変わるからずっとかけっぱなしだと生活に支障が出るのよ。筋力強化ならちょっと握っただけで物を壊しちゃったりするから。だから重い物持つ時とか、私や周りに危険が及びそうな緊急の時にしか使わないわけ。これは戦闘も含まれるんだけど」
「ふ~ん、そうなのカ」
「はい、じゃあ窓拭きよろしく」

 と言いながら雑巾を六個渡す。

「ハ~イ」

 クラーケン形態のリディアは、四本の触手を足として土台に使い、六本の触手を使って器用に窓を拭く。

「強い力を上手く調整できるんなら、ずっとかけっぱなしも手なのかもしれないけど、生活の安全を第一に考えるならその都度かけた方が良いからね」

 話ながらカーペットを床から剥がして外へ干す。
 カーテンも外に干しておこう。
 これらはあまり干したりしないから、大晦日ってことで良い機会だから今日は全部外に干しておくか。
 部屋掃除が終わって洗面所に行くと、鏡、洗面台、お風呂、あとトイレは既にカイベルが全部やってくれたみたいだ。カビも水垢も無くピッカピカ。

 その後、カイベルがどこへ行ったかと思ったら、ケルベロスの犬小屋の掃除をしていた。
 ケルベロスは外へ出ると寒いのが分かっているため、カイベルが掃除している間は部屋の隅に行って丸まっていた。
 掃除する場所が時間と共に変わるため、カイベルが掃除する場所を変える→ケルベロスが移動した先で丸くなる→カイベルが掃除する場所を変える→ケルベロスが移動した先で丸くなるを繰り返していた。
 地獄の門の仕事しなさいよ!

 犬小屋掃除が終わった後、地獄の門を掃除しようとしたため――

「あ、そこから先はカイベル入れないよね? “生きてる人”だから!」

 と、急いで制止して、私が地獄の門の掃除に付く。
 この地獄の門、ケルベロスが門から戻って来た者を食い殺す習性があるため、生きてる亜人ひとが万が一にも門の先へ行かないように、創成魔法で生者は通れないようにしてある。 (第29話参照)
 カイベルは自動人形オート・マトンであるため、恐らく生者にはカウントされず、通り抜けることができてしまうと予想している。
 門が生者を通さないことは、もちろんリディアも知っているため、ここでカイベルが通り抜けでもしたら一気にカイベルの存在自体が怪しくなってしまう。
 私以外が周知しているカイベルは“地球で転移に巻き込まれた人間”のはずなのに、ここを通り抜けられたら、その時点から“人間ではないナニカ”だと疑いを持たれてしまう。
 ――と考えたが、その後よくよく考えたら、カイベルがそんなことに気付いてないはずがないから、別に制止する必要は無かったかな。

「そうですね。では、門についてはよろしくお願いします。私は門壁の方を掃除してきますので」
「リディアも門壁をお願い」
「エーッ! 門壁長いヨー!」
「簡単にで良いから!」

 年の最後の大晦日くらい門を掃除してやらないと、数千年か数万年か知らないけどずっと放置状態だったから汚れがこびりついている。拭き掃除程度じゃ大して綺麗にはならんと思うけど、毎年か数ヵ月ごとかわからないけど少しずつやれば徐々に落ちていくかもしれない。
 私が掃除している間に、亡者が一人地獄へ入って行った。

「よし! 大掃除は終わりとしましょうか」
「門も門壁もあんまり汚れ取れたように見えないけド、良いのカ?」
「良いのよ、数千年のこびりつきなんて簡単に取れるもんじゃないんだから今日だけでやらなくても」
「ならいいカ」
「あとは日が落ちる前にベッドやらカーペットやらを運び込めばOKかな」
「ヤッター! 終わっター!」
「じゃあ、お昼食べようか」


   ◇


 お昼ご飯を食べ終わった後――

「じゃあリディアは友達のお手伝いしてくるナ!」

 町へ駆けて行ってしまった。
 まあ、ベッドも私が外に出したし、運び込むのはリディアがいなくても問題無いでしょう。
 さて、日が暮れるまで私も町の様子を見に行ってくるか。
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