呉れ呉れ

灰寂

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「じゃあ、俺もうちょっとサボってくるから。お大事に~」


部屋に着くと、クーガはそう言ってどこかへ行ってしまった。
自らサボると明言するなんて呆れを通り越してもはや清々しい。
サボったことなんて二、三回ほどしかないなと思いながら後ろ姿を見送った。
言われた通り休もうと部屋に入る。

ベッドに腰をかけると、急に緊張が解けたように脱力感と気だるさが僕を襲った。
それにひどい眠気も。薬が効いてきたのかな、と思いながらベッドに倒れこんだ。
せめてドアくらい閉めないと・・・。
鉛のようなまぶたに抗ったが、負けてしまった。



タンタンタン。軽めの足音が廊下に響く。途中でリズミカルな音が停止した。そっとドアを開く手。


「え・・・妖精・・・?」


目線の先にはレイがいた。
寝ているレイに男は戸惑っているようだ。
普通はドアを開けて無防備に寝るなんてことはしないので、当然の反応である。
男は中へ入るか迷っていた。しかし躊躇いを振り切って、部屋の中へ入りドアを閉めた。
鍵はかけなかった。無断入室であるが、とにかく彼が起きるまでは部屋に居座ろうと決めたのだ。
だが、じっとしているとお日様が魔法をかけにやってくる。
男は眠気に誘われてうとうとと船をこぎ始めた。ついにはドアに寄りかかって完全に眠ってしまった。



ふっと意識が浮上する。のろのろと自分の額に手を当てて、熱を測る動作をする。
手があったかいのか頭があったかいのかわからなかった。そのまま首に手を当てると、首はひどく熱かった。
一応もらった薬を飲むか、とテーブルに目を向ける。
目の端に映った違和感にすべてが停止する。んーと?


 とりあえずベッドから起き上がり、ドアの前で眠りこけている男のところまで近づいた。
どうして僕の部屋に知らない人がいるんだ?このままにしておくか、揺すって起こすかを考えながら眺めた。
見られていることに本能が気づいたのか、男は唸りながら身じろぎをした。
起こすのも面倒臭いなと思い直して、僕は薬を飲むことにした。
熱がある気がするってだけで薬に頼るのはどうかと思うけど。


コップに水を入れて薬を飲もうとしてやめた。何か食べないといけないんだった。
でも部屋に大したものはなかったような。
ガサゴソと食べ物を探していると、後ろから眠そうな声が聞こえた。


「・・・起きたのぉ?」


バッと振り返ると、ドアの前で伸びをしている男がいた。


「起きたの?ってこっちの台詞なんだけど・・・。」


つい皮肉っぽくなってしまったのは仕方がないと思う。
男はふぁ~っと欠伸をしながら、んーっと伸びをして立ち上がった。


「そっかぁ、俺も寝てたのかぁ・・・。」


まだ眠そうである。
男は立ち上がってそのまま水の入ったコップを一気飲みした。どうやら目が覚めたようで謝られた。


「あ、ごめん。勝手に飲んじゃった。」


謝るとこはそこなのだろうか。
僕が無言でいると、彼はコップに水を入れてテーブルの上に戻した。
わざわざ戻さなくていいんだが。
それさえ言うのも億劫で置かれたコップを取り、水を飲みほした。
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