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接近
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「あ、春佳、ほらそこ間違ってる。その2個目の計算式。」
「え、ホント?どこ?」
「ほら、ここ。」
博くんが私のノートの間違っている計算部分を指差す。私の前に伸びた色白で少し骨張った手が大人っぽい。
家庭教師をしてくれてる従兄弟の博くんは賢くて優しい。東京の大学に通っていて、週に一度私の勉強を見てくれている。
1時間半の中で、1教科または2教科をその日の様子で見てくれて、その教え方はとてもわかりやすいし、そしてとても優しい。だから私は博くんのことが好きだ。
勉強の途中の休憩時には、東京のこと、大学のこと、友達のこと、いろんな話を聞かせてくれて、私の憧れは大きくなる。私のたわいもない子どもっぽい話も飽きずによく耳を傾けてくれる。勉強が大事だと重々わかっているが、休憩時のお喋りがこのうえなく楽しい。
「春佳はちょっとケアレスミスが多いな。」
「よく言われます…。」
「どうしたらミスを減らせるかなぁ…。」
「私なりに気をつけてはいるんだけど…。」
「ホントに?どうやって?」
「え、えーと、見直しするとか?」
ありがちなこと言ってるな、と自分で思いつつ、今のところ正直それしかしてないので、言ってみた。
「見直しってさ…。書き終わったものってもう終了してる前提で見るから、実際間違ってるところがあってそれを見たとしても見落としやすいんだよね。」
そうか、見てるようで見てないのか…。
「だから、書き終わってから見直しするより、式を書く前に再確認したり、1問毎に軽くチェックしたりしたほうがいいんじゃないかな。」
面倒だな…、でも現状そのほうが良さそうだな…。私が博くんの話を聞きながら黙って頷こうとしたとき、
「ちゃんと聞いてる?」
左から顔を覗きこまれてドキッとした。すぐ近くに博くんの顔がある。顔を傾けているせいでサラサラの前髪が分かれて額をちらっと見せている。
「聞いてるっ。ちゃんと聞いてるよ。…てゆーか近いよ、博くん。」
ドキドキして、博くんの顔を手で押し退けた。
「ああ…。ごめんごめん。」
博くんは謝りながら姿勢を戻してくれたけど、しばらくドキドキが治まらなかった。
「春佳、かわいいね。」
博くんは私の頭の上で右手をポンポンと軽く弾ませた。
次の日の昼休み、
「ところで、春佳はさ、あの博くんと、どうなってるの?」
彩子に唐突に聞かれた。昨日のことを思い出し、ドキッとする。
一緒にいた琉那にも
「そうだね、昨日カテキョーの日だよね?どんな感じなの?」
興味津々に聞かれた。
「どうって?」
ドキドキしながらわざとらしく聞き返す。
「だってほら、前に春佳、博くんのこと好きかも、って言ってたじゃん?」
「う、うん…」
彩子がグイグイ聞いてくる。
「勉強教えてもらってる間、部屋に2人だけ、なんでしょ?それって…、どんな感じなの?」
琉那も突っ込んでくる。
「どんな感じと聞かれても…。いつも勉強教えてもらって、ちょっとお喋りして、それで…。」
「それで?」
食い気味に聞いてくる2人。
「昨日はちょっと焦ったかな。やっぱちょっと接近されると、ドキドキする。」
「接近!?え、どうゆうこと?なにしたの?」
2人の声が大きくなる。
「ちょっと、2人とも声!そんなに興奮しないでよ。計算ミス指摘された時と、ちょっと私の反応が鈍かった時に、腕やら顔やらがだいぶ近かっただけだよ。」
正直に状況を説明した。
「なんだ、そうゆうことか…。でも接近するなんて…、ついに進展があったのかと…。」
彩子がほぅっと胸を撫で下ろすジェスチャーをしながらも、ブツブツと独り言を続ける。
「進展てなによ?」
私が聞き返すと、今度は琉那が、
「やっぱりほら、…キスとか?」
ダイレクトに聞いてきた。
私は昨日の近距離で見た博くんの顔を思いだし、顔が熱くなる。
「し、してない。してないよ。」
焦って手を顔の前でパタパタと左右に振り、全力で否定した。
でも、もし、また昨日みたいなシチュエーションになったら…。
私は期待してしまうかもしれない…。
顔が火照るように熱いまま、午後の授業を受けた。昨日の博くんの手やサラサラの髪、額、眉、目、何もかもが私をドキドキさせる。
どうしよう、来週、博くんと顔合わせられないかも…。
それから一週間は、博くんのことが頭に浮かぶ度に、それを払拭しようと、一心不乱に問題を解くことにした。
そして、気が気じゃないまま一週間が過ぎた。
私は自室で勉強道具を出して、もうとにかく練習問題を解きまくっていた。いつものように顔を合わせて挨拶して雑談して、の流れで始められる気がしない。
「春佳?こんにちは?」
部屋のドアが開くと同時に博くんの怪訝そうにする声が聞こえた。
『ごめん、博くん、今日やっぱり無理。見れない。博くんの顔見れない。』
変だと思われてるとわかってるけど、下をむいたまま、問題を解くしかなかった。
机の横の博くん用のイスが、私の横に置かれて、博くんがスッと座る。
「どうしたの?春佳。その問題、急ぎ?」
「う、うん。そう。明日までにやらないと…。」
ノートから目を離さずに答える。
「そっか、じゃあそれちょっと見せて。」
と、私の前に博くんの白くて少し骨張った大人っぽい腕が伸びてきた。
私の鼓動が速くなる。顔が赤くなっている気がする。
博くんが私のノートをチェックしている間も、ずっと下を向いているしかなかった。
『どうしよう…、赤くなってるのわかっちゃう…。顔あげられないよ…。』
「あのさ、春佳、この問題はね。」
と、博くんがノートを差し出しながら近づいてくる。私はどうにも顔が上げられない。
「春佳どうしたの?なんかおかしいよ、顔が赤いみたいだけど、体調よくない?」
ついに聞かれた。私は何も言えずふるふると頭を左右に振る。
「ちょっとこっち見てごらん」
『ヤバい』と思ったのと同時に、私の頭は博くんの両手で挟まれていた。そしてそのまま半ば強引に顔を上げさせられた。
「どうしたの?大丈夫?」
少し困ったような表情で、でも優しく問いかける博くんの顔を見たら、なぜか涙が…
「春佳?」
どうしよう、困らせてる…。涙が止まらない。私は「大丈夫」と言おうとしたけど声が震えて言葉にならず、とにかく首を横に振った。
「落ち着いて、春佳。わかった、わかったから、ほら、ゆっくり呼吸して。」
博くんがいつもの優しい調子で声をかけてくれる。言われた通りにゆっくり息を吐いて吸ってみる。涙の流れが少しおさまってくる。すると、次の瞬間、博くんの顔がスローモーションみたいに近づいてきて…、
私の唇に博くんの唇が重なった。
柔らかくて温かくて、フニャっとして…。
『キスしちゃった…。』
博くんは私から顔を離すと、私を自分の胸のほうへ抱き寄せ、私の背中をポンポンと優しくたたいた。
「ごめん、かわいくてつい…。」
そう呟いてから
「大丈夫?落ち着いてきた?」
と続けた。
私は力の抜けてしまった身体を博くんに預け、黙ったままコクンと頷いた。
そのあとは、よく覚えてないけど、いつも通り勉強を教えてもらったと思う。
ノートの計算は進んでいたし、宿題のレポートなんかも見てもらった様子がある。
博くんもいつもと変わらず帰って行った。
でもホントによく覚えていない。
夜になって、私はベッドにもぐり、初めてのキスを思い出した。はっきりと思い出される情景に、嬉しいような恥ずかしいような、でもなんだかとても温かく優しい気持ちになって…、とにかく今日のことを大切に心にしまっておこうと思った。
私の「博くんのことが好き」という気持ちもこのまま大事にしよう、と思った。
「え、ホント?どこ?」
「ほら、ここ。」
博くんが私のノートの間違っている計算部分を指差す。私の前に伸びた色白で少し骨張った手が大人っぽい。
家庭教師をしてくれてる従兄弟の博くんは賢くて優しい。東京の大学に通っていて、週に一度私の勉強を見てくれている。
1時間半の中で、1教科または2教科をその日の様子で見てくれて、その教え方はとてもわかりやすいし、そしてとても優しい。だから私は博くんのことが好きだ。
勉強の途中の休憩時には、東京のこと、大学のこと、友達のこと、いろんな話を聞かせてくれて、私の憧れは大きくなる。私のたわいもない子どもっぽい話も飽きずによく耳を傾けてくれる。勉強が大事だと重々わかっているが、休憩時のお喋りがこのうえなく楽しい。
「春佳はちょっとケアレスミスが多いな。」
「よく言われます…。」
「どうしたらミスを減らせるかなぁ…。」
「私なりに気をつけてはいるんだけど…。」
「ホントに?どうやって?」
「え、えーと、見直しするとか?」
ありがちなこと言ってるな、と自分で思いつつ、今のところ正直それしかしてないので、言ってみた。
「見直しってさ…。書き終わったものってもう終了してる前提で見るから、実際間違ってるところがあってそれを見たとしても見落としやすいんだよね。」
そうか、見てるようで見てないのか…。
「だから、書き終わってから見直しするより、式を書く前に再確認したり、1問毎に軽くチェックしたりしたほうがいいんじゃないかな。」
面倒だな…、でも現状そのほうが良さそうだな…。私が博くんの話を聞きながら黙って頷こうとしたとき、
「ちゃんと聞いてる?」
左から顔を覗きこまれてドキッとした。すぐ近くに博くんの顔がある。顔を傾けているせいでサラサラの前髪が分かれて額をちらっと見せている。
「聞いてるっ。ちゃんと聞いてるよ。…てゆーか近いよ、博くん。」
ドキドキして、博くんの顔を手で押し退けた。
「ああ…。ごめんごめん。」
博くんは謝りながら姿勢を戻してくれたけど、しばらくドキドキが治まらなかった。
「春佳、かわいいね。」
博くんは私の頭の上で右手をポンポンと軽く弾ませた。
次の日の昼休み、
「ところで、春佳はさ、あの博くんと、どうなってるの?」
彩子に唐突に聞かれた。昨日のことを思い出し、ドキッとする。
一緒にいた琉那にも
「そうだね、昨日カテキョーの日だよね?どんな感じなの?」
興味津々に聞かれた。
「どうって?」
ドキドキしながらわざとらしく聞き返す。
「だってほら、前に春佳、博くんのこと好きかも、って言ってたじゃん?」
「う、うん…」
彩子がグイグイ聞いてくる。
「勉強教えてもらってる間、部屋に2人だけ、なんでしょ?それって…、どんな感じなの?」
琉那も突っ込んでくる。
「どんな感じと聞かれても…。いつも勉強教えてもらって、ちょっとお喋りして、それで…。」
「それで?」
食い気味に聞いてくる2人。
「昨日はちょっと焦ったかな。やっぱちょっと接近されると、ドキドキする。」
「接近!?え、どうゆうこと?なにしたの?」
2人の声が大きくなる。
「ちょっと、2人とも声!そんなに興奮しないでよ。計算ミス指摘された時と、ちょっと私の反応が鈍かった時に、腕やら顔やらがだいぶ近かっただけだよ。」
正直に状況を説明した。
「なんだ、そうゆうことか…。でも接近するなんて…、ついに進展があったのかと…。」
彩子がほぅっと胸を撫で下ろすジェスチャーをしながらも、ブツブツと独り言を続ける。
「進展てなによ?」
私が聞き返すと、今度は琉那が、
「やっぱりほら、…キスとか?」
ダイレクトに聞いてきた。
私は昨日の近距離で見た博くんの顔を思いだし、顔が熱くなる。
「し、してない。してないよ。」
焦って手を顔の前でパタパタと左右に振り、全力で否定した。
でも、もし、また昨日みたいなシチュエーションになったら…。
私は期待してしまうかもしれない…。
顔が火照るように熱いまま、午後の授業を受けた。昨日の博くんの手やサラサラの髪、額、眉、目、何もかもが私をドキドキさせる。
どうしよう、来週、博くんと顔合わせられないかも…。
それから一週間は、博くんのことが頭に浮かぶ度に、それを払拭しようと、一心不乱に問題を解くことにした。
そして、気が気じゃないまま一週間が過ぎた。
私は自室で勉強道具を出して、もうとにかく練習問題を解きまくっていた。いつものように顔を合わせて挨拶して雑談して、の流れで始められる気がしない。
「春佳?こんにちは?」
部屋のドアが開くと同時に博くんの怪訝そうにする声が聞こえた。
『ごめん、博くん、今日やっぱり無理。見れない。博くんの顔見れない。』
変だと思われてるとわかってるけど、下をむいたまま、問題を解くしかなかった。
机の横の博くん用のイスが、私の横に置かれて、博くんがスッと座る。
「どうしたの?春佳。その問題、急ぎ?」
「う、うん。そう。明日までにやらないと…。」
ノートから目を離さずに答える。
「そっか、じゃあそれちょっと見せて。」
と、私の前に博くんの白くて少し骨張った大人っぽい腕が伸びてきた。
私の鼓動が速くなる。顔が赤くなっている気がする。
博くんが私のノートをチェックしている間も、ずっと下を向いているしかなかった。
『どうしよう…、赤くなってるのわかっちゃう…。顔あげられないよ…。』
「あのさ、春佳、この問題はね。」
と、博くんがノートを差し出しながら近づいてくる。私はどうにも顔が上げられない。
「春佳どうしたの?なんかおかしいよ、顔が赤いみたいだけど、体調よくない?」
ついに聞かれた。私は何も言えずふるふると頭を左右に振る。
「ちょっとこっち見てごらん」
『ヤバい』と思ったのと同時に、私の頭は博くんの両手で挟まれていた。そしてそのまま半ば強引に顔を上げさせられた。
「どうしたの?大丈夫?」
少し困ったような表情で、でも優しく問いかける博くんの顔を見たら、なぜか涙が…
「春佳?」
どうしよう、困らせてる…。涙が止まらない。私は「大丈夫」と言おうとしたけど声が震えて言葉にならず、とにかく首を横に振った。
「落ち着いて、春佳。わかった、わかったから、ほら、ゆっくり呼吸して。」
博くんがいつもの優しい調子で声をかけてくれる。言われた通りにゆっくり息を吐いて吸ってみる。涙の流れが少しおさまってくる。すると、次の瞬間、博くんの顔がスローモーションみたいに近づいてきて…、
私の唇に博くんの唇が重なった。
柔らかくて温かくて、フニャっとして…。
『キスしちゃった…。』
博くんは私から顔を離すと、私を自分の胸のほうへ抱き寄せ、私の背中をポンポンと優しくたたいた。
「ごめん、かわいくてつい…。」
そう呟いてから
「大丈夫?落ち着いてきた?」
と続けた。
私は力の抜けてしまった身体を博くんに預け、黙ったままコクンと頷いた。
そのあとは、よく覚えてないけど、いつも通り勉強を教えてもらったと思う。
ノートの計算は進んでいたし、宿題のレポートなんかも見てもらった様子がある。
博くんもいつもと変わらず帰って行った。
でもホントによく覚えていない。
夜になって、私はベッドにもぐり、初めてのキスを思い出した。はっきりと思い出される情景に、嬉しいような恥ずかしいような、でもなんだかとても温かく優しい気持ちになって…、とにかく今日のことを大切に心にしまっておこうと思った。
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