【完結】落とし物は、虹色の。

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「おはようございまーす。清掃にきましたー!」


俺はあれから拠点を隣の街に移し、シハーヴと出会う前と同じ生活をしている。
結局のところあいつはきっと愛し子を欲しがっただけで、別に俺じゃなくても良かったはずだ。
セックスの最中聞いた話によれば(うろ覚え)、俺の羽には膨大な魔力が含まれているとか。抜けたやつ燃やしてたけど、あれはかなり勿体無いことしてたんだろうな、多分。

だから置き土産に羽を数本引き抜いて置いてきた。引き抜くのは初めてで、なかなか痛かったけど、単に力が欲しいならこれで俺のこと諦めてくれるはず。
だから羽の数本くらい安いもんだ。


「おやおや、今日も元気ねぇ。今日は客間をお願いしたいの。」


玄関から顔を出すお婆さんが今日の俺の雇い主。
エンちゃんってのは、こっちの街に来てから使ってる俺の名前だ。あの鳥の名前がグリューエンだったから、そこから貰った。
神力とやらを結構食ったはずだ。だから名前借りるくらいいいだろ。


これから先、神力は二度とあげられないだろうけどさ。



「客間ですね。分かりました。終わったらまた声掛けますから。いつものように裁縫でもして待っててください。」

「ふふふ。ありがとう。よろしく頼むわね。」

「はーい。」


ハタキや布巾を手に気合を入れる。
俺はやっぱり一人でも生きていける。


だから、少し寂しいだなんて思うことがあっても、気のせいだと思うことにしたんだ。




そして、相変わらず俺の家はあの森の中。
引っ越すなんて考えられなかった。
やっぱここが一番居心地がいい。静かだし、桃みたいな甘い実は食べ放題だし、すぐに水浴びもできる。
元の世界と違って、季節の変わり目もなく、ほぼ年中暑いから、こんな澄んだ湖はかなりありがたい。

今日も今日とて、仕事から帰って真っ先に向かったのは湖だった。



「はぁ~・・・・・・生き返る・・・・・・」


温泉があれば尚よかったが、贅沢は言ってられないし、昼間は暑くて温泉は入ってられないだろうから、やっぱ、湖様様だ。

パシャっと、手に集めた水をあたりに撒くと、水面がキラキラ輝いて見えて本当に綺麗だ。ついでに翼も出してしまえば、水面はさらに輝きを増す。
自分から生えているものとはいえ、この世のものとは思えないほどこの翼は美しい。


「・・・シハーヴも、綺麗って言ってたな・・・」


ぼーっと、油断した時あの三日程度の日々をつい思い出してしまう。

もう、あれから数ヶ月は経った。
この森に帰ってきて数日間は体にもあのスポーツのようなセックスの余韻があったし、シハーヴがつけた痕が無数に残っていて、自分の体を見るたびに思い出していた。

それが段々と薄くなるに連れて、シハーヴのことも忘れられる気がした。
だけど、未だに、こんなにも鮮明に思い出してしまう。


「・・・初体験が忘れられないとか・・・何処ぞの箱入り息子だよ・・・」


また独り言を呟いて、頭まで湖に浸かる。
コポコポと、口から出た泡が水面に浮かんでは消えていく。
そんな風にあいつのことも忘れられたらいいのに。



そんなことばかりを考えていたある夜のことだった。














獣達が騒いでいる。
真夜中なのに、どうも辺りが落ち着かない。
獣の言葉は分からないけど、何となく感覚で伝わってくる。

多分魔物と呼ばれるものが、近くを通りかかっているのだと。



「・・・それにしても今日は・・・一段とあれだな・・・」


明日からしばらく仕事はない。
と言うか、街の大きなお祭りとかで、今日までが鬼ほど忙しかった。
お祭りの間は清掃を入れる家が少ないし、俺も祭りを見てみたかったから仕事は一旦入れないことにした。
だから、今の俺は完全無職。おお、何と恐ろしい響き。
祭りが終わって活力を分けてもらったらまた頑張ろ。働くの別に嫌いじゃないしな。


家のドアを少し開け、顔だけ外に出してみた。

「・・・血の匂いがする。」

生臭い血の匂いが、夜風と一緒に流れてきた。
強いものが弱いものを狩って食べるのは、自然の摂理かもしれないがこの騒ぎ方はそう言うことじゃない。



「もしかして・・・人間が襲われてんのか・・・?」


獣達は何か俺に伝えようとしている気がする。
俺は翼を広げ、あの桃に似た実を一つ手に取りポケットに突っ込んだ。


「・・・すでにバラバラの状態だったらどうしよう。」

殺人現場はさすがに考えただけでゾッとした。
そうなってないように祈りながら、俺は血の匂いがする方へ、翼を大きく動かした。


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