【完結】オーロラ魔法士と第3王子

N2O

文字の大きさ
1 / 16

しおりを挟む
「────っ、待て!リーシュ!誤解だ!行くな!!」



"僕"の転移魔法が発動して、「あの方」の姿が見えなくなる瞬間、最後に聞こえた言葉だった。





"僕"ことリーシュ・ギデオンは、とあるド田舎の伯爵家次男である。
全ての者が魔力を持ち、日常生活には魔力が必要不可欠な世界。
もちろん魔力量には個人差があるが、リーシュは国でも上位の魔力を持った人間として生まれた。



16歳になった彼は国から認定を受けなければ名乗れない「魔法士」となり、当主の父や尊敬する兄の補佐、近隣の魔物討伐をしている。






「リーシュ、そろそろ・・・王都に行かないか?沢山誘いの話が来ているのだ。それからな、他にも婚約の話もあってだな・・・」




それなりに年季の入ったソファー。
向かい合って座る親子二人。
苦笑いの父、そして・・・・・・




「父上・・・もう何度もお伝えしましたが、あんなに人が多いところ、想像しただけで目が眩みます。嫌です。」

「し・・・しかし、だな・・・」

「それに学ぶべきものはこの地にたくさんあります。王都にこだわらなくてもいいのです。あと、婚約の話も全てお断りください。」

「り、リーシュぅ・・・」




ふぅーっと深い深い溜め息をつきながらリーシュはそう言うと、その綺麗な二重瞼の黒い瞳が細くなる。




「お前ほどの魔力量と魔力操作ができる者がなぜこちらに来ない!と、何度も何度も王都から手紙がくるのだよ・・・?」

「はあ、そうですか。」

「父さんは板挟み・・・」

「大変ですね。」

「リーシュぅ・・・」



犬で言えば、大型犬。
リーシュの父、名をガーディナー。
彼もまたかなり腕の立つ魔法士、そして当主ながら騎士並みの戦闘力を持った有能な男。
その男の頭上に垂れ下がった耳が見えたような気がした。
例えるなら・・・そう、シベリアンハスキー。
そこにはないはずの犬耳が、しゅんっと音を立てて下に垂れた。



ギデオン家の人間は代々魔力量が多く、魔力操作も得意であり、魔法士になるものが殆どで、その一族の特徴として美しい黒髪、濃い灰色、もしくは黒の瞳の者が多かった。
リーシュは肩甲骨あたりまで伸びたサラサラの髪、アーモンド型の真っ黒の瞳。
髪は濃い緑の髪紐でくるりと一つ結びにしている。
ここだけの話、若い領民たちからは、「黒の君」と呼ばれ人気があるのだ。
街に出てこないので、滅多にお目にかかれないが。



その整った容姿を本人は気に留めておらず、婚約者どころか「人が多いと魔力の"塵"も多いのです。疲れるところには行きません」と、きっぱり。
彼の興味関心は貴族云々よりも、家族のこと、領地の発展のこと、魔法のこと。
恋だの、愛だの、王都だの、殊更どうでもいいのだ。




「話はそれだけだけでしょうか?」

「ん?あ、ああ・・・そうだな。」

「では僕は森へ。魔物はお任せください。・・・ああ、王都からの手紙には適当に理由をつけて断ってくだされば構いませんので。」

「てきとう・・・」



「それでは」と言い残し、リーシュは得意の転移魔法で領地の森へと消えていった。
この転移魔法、ギデオン家以外に使える人物はほとんどいない秘法。
転移するときに発生する特有の光から別名「オーロラ魔法」とも呼ばれている。
その秘法を父の話から逃れるために使うとは・・・規格外もいいところ。



ゆらゆらと揺らめくオーロラのような光を残った部屋には、しゅんっと見えないはずの犬耳が垂れたガーディナーと、部屋の隅で終始それを見守っていた執事長のジョンソンが取り残されていた。




「・・・旦那様。」

「・・・ああ。」

「例の件、いかがいたしましょう。リーシュ様がああ言われましても、例の件となれば話は別です。」

「だろうな。」

「こうなれば強行手段、アレを準備致しましょう。」

「仕方がない。その手で無理にでも王都に連れて行こう。・・・あのお方達も人が悪い。リーシュの性格は少なからずご存知のはずなのに・・・」





この二人、"大人組"に残された猶予はもうなかったのである。
そうと決まれば大人組の行動も早いもので。



翌日起きたリーシュの腕には特注の魔力封じの腕輪がついていた。


しかも両腕に。



「何だろう、えらく綺麗な腕輪だな」と、ぼんやりする思考の中、かの有名な魔力封じ一族の家紋が入った腕輪と対面するリーシュ。
美しい目元をしぱしぱと何度も動かした彼の、言葉にならない叫び声が屋敷中に響き渡ったのはその直後であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【8+2話完結】氷の貴公子の前世は平社員〜不器用な恋の行方〜

キノア9g
BL
氷の貴公子と称えられるユリウスには、人に言えない秘めた想いがある――それは幼馴染であり、忠実な近衛騎士ゼノンへの片想い。そしてその誇り高さゆえに、自分からその気持ちを打ち明けることもできない。 そんなある日、落馬をきっかけに前世の記憶を思い出したユリウスは、ゼノンへの気持ちに改めて戸惑い、自分が男に恋していた事実に動揺する。プライドから思いを隠し、ゼノンに嫌われていると思い込むユリウスは、あえて冷たい態度を取ってしまう。一方ゼノンも、急に避けられる理由がわからず戸惑いを募らせていく。 近づきたいのに近づけない。 すれ違いと誤解ばかりが積み重なり、視線だけが行き場を失っていく。 秘めた感情と誇りに縛られたまま、ユリウスはこのもどかしい距離にどんな答えを見つけるのか――。 プロローグ+全8話+エピローグ

沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました

ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。 落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。 “番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、 やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。 喋れぬΩと、血を信じない宰相。 ただの契約だったはずの絆が、 互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。 だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、 彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。 沈黙が祈りに変わるとき、 血の支配が終わりを告げ、 “番”の意味が書き換えられる。 冷血宰相×沈黙のΩ、 偽りの契約から始まる救済と革命の物語。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい

市川
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。 魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。 そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。 不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。 旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。 第3話から急展開していきます。

オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる

虹湖🌈
BL
死にたかった僕を、生かしたのは――あなたの声だった。 滅びかけた未来。 最後のオメガとして、僕=アキは研究施設に閉じ込められていた。 「資源」「道具」――そんな呼び方しかされず、生きる意味なんてないと思っていた。 けれど。 血にまみれたアルファ騎士・レオンが、僕の名前を呼んだ瞬間――世界が変わった。 冷酷すぎる彼に守られて、逃げて、傷ついて。 それでも、彼と一緒なら「生きたい」と思える。 終末世界で芽生える、究極のバディ愛×オメガバース。 命を懸けた恋が、絶望の世界に希望を灯す。

過労死研究員が転生したら、無自覚チートな薬草師になって騎士様に溺愛される件

水凪しおん
BL
「君といる未来こそ、僕のたった一つの夢だ」 製薬会社の研究員だった月宮陽(つきみや はる)は、過労の末に命を落とし、魔法が存在する異世界で15歳の少年「ハル」として生まれ変わった。前世の知識を活かし、王立セレスティア魔法学院の薬草学科で特待生として穏やかな日々を送るはずだった。 しかし、彼には転生時に授かった、薬草の効果を飛躍的に高めるチートスキル「生命のささやき」があった――本人だけがその事実に気づかずに。 ある日、学院を襲った魔物によって負傷した騎士たちを、ハルが作った薬が救う。その奇跡的な効果を目の当たりにしたのは、名門貴族出身で騎士団副団長を務める青年、リオネス・フォン・ヴァインベルク。 「君の知識を学びたい。どうか、俺を弟子にしてくれないだろうか」 真面目で堅物、しかし誰より真っ直ぐな彼からの突然の申し出。身分の違いに戸惑いながらも、ハルは彼の指導を引き受ける。 師弟として始まった二人の関係は、共に過ごす時間の中で、やがて甘く切ない恋心へと姿を変えていく。 「君の作る薬だけでなく、君自身が、俺の心を癒やしてくれるんだ」 これは、無自覚チートな平民薬草師と、彼を一途に愛する堅物騎士が、身分の壁を乗り越えて幸せを掴む、優しさに満ちた異世界スローライフ&ラブストーリー。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

オメガバースの世界に転生!?アルファに生まれ変わってパパになります

みたらしのだんご
BL
オメガバースの世界に転生します。村でのびのびします。 ボーイズラブ要素はゆっくり出していきますのでしばしお待ちを

処理中です...