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この学校に入学して早ニ週間。
終礼ベルが鳴り響く廊下を、今日も僕は走る。
初めは先生も『廊下を走らない!』って怒っていたのに、もう諦めたみたい。
だから先生だって、クラスメイトだって、同じ科の先輩だって、誰も僕を止めたりしない。
早く、早く、会いに行かなきゃ。
僕は大好きな人のもとへ、今日も全速力で走る。
----------------⭐︎
「あー・・・クロヴィスなら・・・さっき訓練場行ったねぇ。」
「・・・・・・・・・ソウデスカ。」
「えっと・・・そのー・・・だ、だから、さ?ラウーくんは寮に帰ろっか。ね?」
「・・・・・・ハイ。」
もし僕の頭の上にも、この先輩みたいにふわふわの毛が生えた獣耳があったのなら、それはそれは力無くぺたんと垂れていることだろう。
僕の角はさすがに硬くて垂れないし、ふわふわな毛だって生えてない。
尻尾だってないから分かりにくいかもしれないけど、僕は絶賛落ち込み中なのである。
「今日も俺が送っていくから!ね、帰ろ?」
「・・・一人でダイジョウブデス・・・」
「え゛!?いやいやいや、それは悪い虫が寄って来そ、じゃなくて!えっと、あっ!見て!外!暗くなってきたし!ね?ね?危ないから、送らせて!?」
「・・・・・・・・・ハイ。いつも・・・スミマセン・・・」
「いーの!!いーの!!役得だから!全っ然気にしないで!!!」
「・・・・・・?」
『ほら、行こっか!』と僕が今来た道を歩き出すこの茶色と黒色が混ざった髪色、三角のふさふさな獣耳、そしてふわりとした毛がとっても気持ちよさそうな尻尾の先輩は、キツネの獣人のアントス先輩。
はあはあ息を切らした僕にクロヴィスさんの不在を知らせてくれる親切な人だ。
クロヴィスさんとは寮の部屋が同じで、とても仲が良いんだって。
「・・・僕も士官科に入ればよかったです・・・」
「まあ、何事も向き不向きがあるからさ。それにラウーくんは魔法科首席入学でしょ?めちゃ凄いじゃん。」
「士官科と魔法科の教室棟が別棟で、しかもこんなに遠いなんて知らなかったんです・・・」
「あー・・・竜人族がこの学校に入学するの珍しいもんね。知らなくて当然だよ。あっちの学校じゃダメだったの?」
「えっと・・・それは・・・」
僕は、こんな小さな体だけど一応竜人族。
この学校の大半は獣人族、あとは鳥人族。
竜人族は僕とあと数人だけだ。
僕が暮らしていた竜人族が多い国にも勿論学校はある。
だけど、僕はどうしてもこの学校に通いたかった。
「クロヴィスさんと一緒の学校がよかったんです・・・あ、僕が勝手に決めたことなので、クロヴィスさんには内緒ですよ・・・?」
「・・・・・・」
「ここは全寮制だし、家族みんな心配性だから説得に結構時間かかっちゃって・・・、それで一年遅れてようやく今年入学しました。」
「・・・・・・俺、泣いちゃう・・・・・・」
「え?!わっ、本当に泣いてる?!大丈夫ですか?!」
立ち止まった先輩は目頭を押さえていて、慌てた僕がハンカチを差し出すと「もっと泣いちゃう」と下唇を噛み、ハンカチを受け取って涙を拭いていた。
「クロヴィスさんは今年卒業ですし、軍の入隊も決まってるから、色々お忙しいのはわかってるんですけど・・・僕、しつこくて・・・ははは・・・」
「あいつ一発殴ってこようか?」
「ええ?!だ、大好きな人にっ、そ、そんなことできません!!」
「・・・・・・俺、やっぱ泣いちゃう・・・ぐすっ、」
「えええ?!アントス先輩!?」
さっきから登場する"クロヴィス"っていう人は、僕の自慢の幼馴染。
仕事の関係でよくお互いの街を行き来していた親の影響で、小さな頃よく遊んでもらっていた。
クロヴィスさんはユキヒョウの獣人で、白色と黒色が混じった毛色の獣耳と髪。
瞳は夕焼け空みたいな色の、とても綺麗な人。
小さな頃から体が大きくて、強くて、僕の一つ歳上。
僕はずっとクロヴィスさんのことが大好きだ。
でも成長するにつれ、会う機会が年々減り、手紙のやりとりだけに。
手紙の中のクロヴィスさんもいつも優しくて、益々僕は好きになっていったんだけど・・・・・
「昨日も少ししかお会いできなくて・・・あ!で、でも、それだけで僕は嬉しいと言うか、あの、」
「ラ、ラウーくん・・・俺の、心臓をこれ以上抉るのは・・・」
「アントス先輩は史科でしたよね。教室棟も士官科の隣だし、寮なんて一緒だし。同じ授業をとることも多いってクラスメイトが話してました。羨ましいです。」
「ラウーくん~~~~~~~~~」
「ええええ?!ご、号泣!!?ハ、ハンカチ足りますか?!」
「足゛り゛る゛~~~~~」
「あはははははははは!」
「うえ~~~~ん!!!いい子~~~~!!」
泣きじゃくるアントス先輩に魔法科の寮まで送ってもらい、無事寮に帰宅。
静かな廊下を通り過ぎ、パタン、と閉めた部屋の扉。
中には誰も居ない。
首席合格者は、何と一年生なのに一人部屋。
誇らしいことだけど、でも、今はそれが少し寂しい。
「・・・明日は会えるかなぁ。」
誰もいない部屋でポツリと呟く僕の言葉に、返事をしてくれる人はもちろんいなかった。
終礼ベルが鳴り響く廊下を、今日も僕は走る。
初めは先生も『廊下を走らない!』って怒っていたのに、もう諦めたみたい。
だから先生だって、クラスメイトだって、同じ科の先輩だって、誰も僕を止めたりしない。
早く、早く、会いに行かなきゃ。
僕は大好きな人のもとへ、今日も全速力で走る。
----------------⭐︎
「あー・・・クロヴィスなら・・・さっき訓練場行ったねぇ。」
「・・・・・・・・・ソウデスカ。」
「えっと・・・そのー・・・だ、だから、さ?ラウーくんは寮に帰ろっか。ね?」
「・・・・・・ハイ。」
もし僕の頭の上にも、この先輩みたいにふわふわの毛が生えた獣耳があったのなら、それはそれは力無くぺたんと垂れていることだろう。
僕の角はさすがに硬くて垂れないし、ふわふわな毛だって生えてない。
尻尾だってないから分かりにくいかもしれないけど、僕は絶賛落ち込み中なのである。
「今日も俺が送っていくから!ね、帰ろ?」
「・・・一人でダイジョウブデス・・・」
「え゛!?いやいやいや、それは悪い虫が寄って来そ、じゃなくて!えっと、あっ!見て!外!暗くなってきたし!ね?ね?危ないから、送らせて!?」
「・・・・・・・・・ハイ。いつも・・・スミマセン・・・」
「いーの!!いーの!!役得だから!全っ然気にしないで!!!」
「・・・・・・?」
『ほら、行こっか!』と僕が今来た道を歩き出すこの茶色と黒色が混ざった髪色、三角のふさふさな獣耳、そしてふわりとした毛がとっても気持ちよさそうな尻尾の先輩は、キツネの獣人のアントス先輩。
はあはあ息を切らした僕にクロヴィスさんの不在を知らせてくれる親切な人だ。
クロヴィスさんとは寮の部屋が同じで、とても仲が良いんだって。
「・・・僕も士官科に入ればよかったです・・・」
「まあ、何事も向き不向きがあるからさ。それにラウーくんは魔法科首席入学でしょ?めちゃ凄いじゃん。」
「士官科と魔法科の教室棟が別棟で、しかもこんなに遠いなんて知らなかったんです・・・」
「あー・・・竜人族がこの学校に入学するの珍しいもんね。知らなくて当然だよ。あっちの学校じゃダメだったの?」
「えっと・・・それは・・・」
僕は、こんな小さな体だけど一応竜人族。
この学校の大半は獣人族、あとは鳥人族。
竜人族は僕とあと数人だけだ。
僕が暮らしていた竜人族が多い国にも勿論学校はある。
だけど、僕はどうしてもこの学校に通いたかった。
「クロヴィスさんと一緒の学校がよかったんです・・・あ、僕が勝手に決めたことなので、クロヴィスさんには内緒ですよ・・・?」
「・・・・・・」
「ここは全寮制だし、家族みんな心配性だから説得に結構時間かかっちゃって・・・、それで一年遅れてようやく今年入学しました。」
「・・・・・・俺、泣いちゃう・・・・・・」
「え?!わっ、本当に泣いてる?!大丈夫ですか?!」
立ち止まった先輩は目頭を押さえていて、慌てた僕がハンカチを差し出すと「もっと泣いちゃう」と下唇を噛み、ハンカチを受け取って涙を拭いていた。
「クロヴィスさんは今年卒業ですし、軍の入隊も決まってるから、色々お忙しいのはわかってるんですけど・・・僕、しつこくて・・・ははは・・・」
「あいつ一発殴ってこようか?」
「ええ?!だ、大好きな人にっ、そ、そんなことできません!!」
「・・・・・・俺、やっぱ泣いちゃう・・・ぐすっ、」
「えええ?!アントス先輩!?」
さっきから登場する"クロヴィス"っていう人は、僕の自慢の幼馴染。
仕事の関係でよくお互いの街を行き来していた親の影響で、小さな頃よく遊んでもらっていた。
クロヴィスさんはユキヒョウの獣人で、白色と黒色が混じった毛色の獣耳と髪。
瞳は夕焼け空みたいな色の、とても綺麗な人。
小さな頃から体が大きくて、強くて、僕の一つ歳上。
僕はずっとクロヴィスさんのことが大好きだ。
でも成長するにつれ、会う機会が年々減り、手紙のやりとりだけに。
手紙の中のクロヴィスさんもいつも優しくて、益々僕は好きになっていったんだけど・・・・・
「昨日も少ししかお会いできなくて・・・あ!で、でも、それだけで僕は嬉しいと言うか、あの、」
「ラ、ラウーくん・・・俺の、心臓をこれ以上抉るのは・・・」
「アントス先輩は史科でしたよね。教室棟も士官科の隣だし、寮なんて一緒だし。同じ授業をとることも多いってクラスメイトが話してました。羨ましいです。」
「ラウーくん~~~~~~~~~」
「ええええ?!ご、号泣!!?ハ、ハンカチ足りますか?!」
「足゛り゛る゛~~~~~」
「あはははははははは!」
「うえ~~~~ん!!!いい子~~~~!!」
泣きじゃくるアントス先輩に魔法科の寮まで送ってもらい、無事寮に帰宅。
静かな廊下を通り過ぎ、パタン、と閉めた部屋の扉。
中には誰も居ない。
首席合格者は、何と一年生なのに一人部屋。
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誰もいない部屋でポツリと呟く僕の言葉に、返事をしてくれる人はもちろんいなかった。
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