笑うピエロは壊れてる

枝豆散弾銃

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スラム

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俺らは、スラムの端っこで座り込み

「リョウ・・・だったか?」
「ああ、前回会ったろ」
「ああ、そうだn・・・」

俺はその言葉を聞いて目を見開く

「お前も覚えてるのか?」
「はぁ?言ったろ。前回にも」

同じタイムリーパーの存在に心が震える

「じゃあ、この改変はお前の仕業か?」
「魔術のことか?」

俺は、そのことに頷く

「今回のやり直しが初めてだ」
「じゃあ、特典でもらったものはなんだ?」
「特典?」

リョウは首を傾げる

しらばっくれてる訳ではなさそうだな

「何でもない忘れてくれ」
「ん?ああ、わかった」

にしても、アテが外れたな
これからどうすべきか

それに、魔術について調べる必要はあまりない気もする
一旦、保留にしておくか

「それにしても、お前。貴族か何かなのか?」
「ん?ああ、ちょっと違うがそんなもんだ」
「絶対スラム出身だと思ってた」

まぁ、確かにな
スラム出身の奴らとはよく気があった
元が貧乏気質なのかもな

俺はそう思い苦笑する

「他の二人はどうした?」
「まだ会えない。会うのは2年後だ。」

そういい、リョウは空を見上げる

「あいつらはスラム出身じゃないのか?」
「ああ、元貴族だって言ってたからな。まだ会えない。・・・だから、今、修行中だ」
「そうか」

リョウは慣れたような形でそういった

「お前は俺を恨んでないのか?ほら、ユナ・・・だっけ?俺はあいつを殺した張本人だぞ」

俺は、リョウを見てそういうが慌てて首を振る

「あー、いや、なんでもない。なんか不安になってたみたい・・・」
「恨んでないよ。ユナはそこで死ぬ運命だった」

リョウは俯きながらそういう

「・・・お前、何回目だ?」
「21回目」

俺はそれを聞いて目を見開く
21回?およそ100年こいつは何度も繰り返しているのか?

俺は一回目だってのに、こんな・・・

「今度は全員救うって決めてるんだ」
「・・・俺もだ」

そこで会話が終わる
せっかくの記憶保持者と合流できたのに話が続かない

元々、仲良くはなかったし仕方ないなと思い
俺は立ち上がる

「暇になったら来る」
「わかった。」

俺は、そういいその場から立ち去る

謎が深まるばかりだが、今は俺も強くなることが最優先だな

と思い、家に帰ろうと歩いてしばらくすると
ガラの悪い男が女の子を囲んでいるのを見かける

「おい、金出せよ」
「おい、こいつ、どうする?犯すか?」
「顔も整ってるみたいだし、奴隷にでもして売っちまうのもありじゃねぇか?」

見て見ぬ振りをしよう
俺は、関わっちゃいけない

メリットはなく
デメリットは存在する

ここで、助けてしまって未来改変が起きたら
このきっかけがないと起こるはずの未来が起こらなくなってしまう可能性がある

そもそも、俺がここでやられてしまい殺されたりでもしたら本当に最悪だ

触れない
無視が最善策

でも、

俺は大きく溜息をついた

「俺、理不尽って嫌いなんだよな」

男を一人殴り飛ばしまっていて、女の子の前に立つ

「こいつよくも、囲め!!」

やっぱ、この体じゃ、殴ると手が痛むなー

体術は、一応学んだことがあるが
自慢できるほどでもない

こりゃ、相当ピンチだ

後ろから男Cが殴りかかってくるが気配を感じ取り、避ける

俺はそのまま肘をその男Cに打ち込もうとするが、前の男Aが殴りかかってきた

俺は、後ろの男Cに重心を預けてAを蹴り飛ばす
そして、後ろの男Cを押し飛ばし姿勢を戻すと

右にいた男Bの蹴りがきた
俺は、即座に腕でガードするが、痛みで腕の感覚が失われる

「最悪」

その隙をついて、AとBが起き上がる

「おい、こいつ腕もう使えねーはずだ。早く取り囲むぞ」

回り込もうとして、仲間から離れたAに急接近する

その勢いを持ったまま、体を捻らして顔面に蹴りを入れた

「やっと一人か」

まぁ、それはそうだ
漫画とかじゃ、こういう奴らは簡単にやられるけど、こいつらはこのスラムで喧嘩して生き残ってきたんだ
強いに決まっている

方や、何の苦労も知らずに平穏に生きてきたクソガキ。

どちらが勝つかは決まっているはずだ

俺がタイムリープしなかったらだけど

「くっそ。」

一人やられて、狼狽えたようだ
その隙を逃さず、俺は同じようにしてBを倒す

すると、Cはナイフを取り出してこちらに向かってきた
Cは、ナイフを突き出すが俺はそれを軽く避ける

そして体を捻らせCの首に手刀を勢いよく入れた

「ふぅ」

男達は全員、地面に倒れている
勝てたか

改造された脳がなかったら、とっくに負けていた
ここでタイムリープの恩恵に感謝することになるとはな

「あ、ありがとうございます」
「気にすんな」

俺はABCを抱え上げて路地裏へと移す

すると、最初にAが起きた
そして、他二人がやられてることに気がつき酷く怯えた表情をしていた

「こ、殺さないで」

俺はそれを見て、少し哀しい気分になってしまった

「はぁ」

この時代は、平和でよかったとタイムリープ前はずっと思っていた
だが、こいつらにとってはここも地獄
平和なんて言葉はこいつらにとって、どこにもなかったようだ

「だから、あの時代はスラム出身の人間が多かったのかね」

その地獄に慣れてるから
あの地獄にも耐え抜いたんだろうな

何もかも理不尽に奪われるあの地獄を経験した者としては、彼の非に何もいうことができない

だって、ああでもしないと生きていけないから

俺は、しゃがみ込みその男の頭を撫でる

「辛かったな」

子供が大人の頭を撫でる
そんなシュールな絵面だったが、男は何を感じ取ったか泣いていた

「だけど、他の人にもちゃんと気を配る広い心を持て。そうすりゃ、人生少しは楽しくなるぜ」

子供が大人に人生を諭すって違和感しかないな
しかし、これだけは言わせてほしい
俺はあの地獄でも仲間と楽しく生きていた

地獄は辛いだけじゃ生きていけない
かつて、俺が命を散らした様に

「ほら、さっさと行く。そいつら連れてな」
「はい」

俺は、AがBとCを見てうんうんと頷く
おそらくあいつらは、スラム出身だろう
スラム出身のやつらは、仲間想いが多い

「殺しなさいよ」
「・・・お前にはこいつらの生殺与奪権も俺に殺しを意見する資格もないはずだ」

俺がそういうとその女の子は目をカッと開いて意見してくる

「私はこいつらに襲われました。売られそうにもなりました。」
「結局、何もされてないだろ」

女の子は、俺の頬を叩く
反応はできたが、負傷したためか体が思うように動かず食らってしまった

「俺を叩く権利もないはずだ」
「そんなこと言ったら、あの人たちだって私を誘拐する権利はないはず」
「ああ、そうだな。でも、お前は何もされていない」

女の子が二発目のビンタをしようと右手を振り上げた瞬間、俺はその手を掴む
その次の瞬間、腕がジンジンとと痛みだす

しかし、それよりも殺しを命令してくる少女に腹が立っていた
人を簡単に殺してはいけない

ましてや、殺しを命令することなど

前回で人の死は嫌というほど味わった
あの喪失感。虚しさ。生きていたことを表すような温もり
もう人を殺したくないんだよ

「私は、何もされてない訳じゃない。私は・・・私は怖かったんですよ?」

女の子は怒りを露わにして、こちらを見てくる
俺はそれに溜息をつき言う

「お前、ここ初めて来るだろ」
「当たり前です。こんなゴミだめ、住民含めて全てを燃やすべきです」
「言うねー」

確かに、ここはゴミだめかもしれん
だが、ここで必死こいて生きているやつだっている
何の苦労もせずに生きてきた少女が燃やすべきなどと言っていいセリフではないはずだ

「だけど、あいつらは小さい時からその恐怖に苛まれていて、今は生きるのに必死なんだ。お前を襲ってきたとはいえ殺すことないだろ」
「逃すこともありません」

それに、散々やってきた俺がいうのもなんだが、殺しは厳禁だ

未来が変わる可能性が高い
強みである予測ができなくなるのが一番弱る
もう遅い気もするけどな

それに、俺が殺してしまった場合
こいつらは俺がいなければ、いや、タイムリープした俺がいなかったら死ななくて済んだ

そんな突然の理不尽は許せない

人の死の理不尽さは前で痛いほど味わってるからな

「あいつら、またやりますよ?」
「それがスラムだ」
「なっ」

そうしてないと生きる金がない
あいつらは国から人として認めてもらえていないから、職にもつけず、存在権という訳の分からない税金を払わせられている

払えなかった場合は・・・

スラム人は生きようとしているだけだ
ほかの人を不幸にするやり方は好ましくはないが仕方のないこと

国が悪いんだ
根源が悪い場合は、誰も悪くないしどうしようも無い

しかし、少女は俺にドン引きしたようで、俺から一歩下がる

「それだけの力を持っていながら、なぜ」
「力は持っているからだ。強い奴が人を簡単に殺したら、弱い人間は生きていけなくなる。お前が大嫌いな、このスラムみたいに。」

俺じゃあ、まだ足りてないかもしれないな

「あなた今、自分より弱い人間をボコボコにしたの忘れてない?」
「ん?あれは、正当防衛だからいいんだ」

少女は、俺に溜息をつく

「まずは、助けてもらったことに感謝します。お名前は?」
「ケンタロウだ」

知りもしない相手に本名教える訳ないだろう
しかも、スラムで
すまん。ケンタロウ、犠牲になってくれ

「ケンタロウ様。覚えました。このお礼は必ず」

どっちのお礼だろうなぁー

「一人で帰る気か?今、襲われたばかりなのに」
「・・・ケンタロウさん。送っていってください」

俺は苦笑いしながらいいぞと答えてスラムの外まで送っていった
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