笑うピエロは壊れてる

枝豆散弾銃

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動きづらい身

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「結構帰るの遅くなっちまったな。もうこんな時間か」

時計を見ると時計は20時を指していた
明日も学校だってのに

あの校長がいなかったら、スラムに行くこともなかったってのに

そして、あの女!!
送って行ったが俺の家と真逆の方向じゃねぇか

しかも、途中でここまででいいですってなんだよ
まぁ、俺はスラムを抜けたら解散だと思っていたのに

街の反対方向まで超えやがって 

今日だけで街内一周した俺の気持ちを考えろ

そう脳内で悪態をつきながら塔の中に入ると

エントランスでセツナが大泣きしていた

「おに、おにぃちゃ帰って来ないぃぃぃ」

何事かと思い、足が止まる
セツナは大量の涙と共に鼻水も出ていて
せっかくの美少女っぷりが台無しだった

すると、従業員が俺に急いで近づいてくる

「何があった!?セツナを泣かせたのはどこのどいつだ。ぶっ殺してやる」
「マサト様!!マサト様がいつまで経っても帰ってこないから、捨てられたとセツナ様が勘違いされていて」

俺はそれを聞きとりあえず自分の頬をぶん殴ってから
大慌てでセツナの元へ向かい抱きしめる

「よしよし、兄ちゃんは帰ってきたぞ。捨ててなんかないぞ」
「兄ちゃぁぁぁーーーー」

何で俺は、こんな小さくて数時間帰ってこなかっただけで大泣きする寂しがり屋な子を前回は置いていってこの家を出て行ったんだろうな

小さく、小刻みに震えていて弱そうだが、俺を抱きしめる力はとても強い

どれだけ離れたくないか、すぐにわかる

「お前をもう見捨てないから」

俺はそう誓った

数分してセツナは泣き止んだが、俺にしがみついたままウトウトと寝てしまう

俺はおんぶしようと少しセツナから離れるが
即座に目を覚まして抱きついてくる

俺は、やっとの思いで泣き疲れたセツナをおんぶして寝室まで移動してベットで寝かせる

俺はセツナが手を離してくれないのでセツナの隣に座った

俺も今日は疲れたな
そう思いベットに横たわり、眠りにつこうとすると、コンコンとドアがノックされる

「入っていいぞ」
「失礼します」

そこには、知らない侍女がいた
制服を着崩して、スカートも短い
同年代には見えるが化粧は厚く、制服に可愛さを求めきったギャルのようだった

私服ならまだわかるが、仕事場でそれかと思う

「若。今日は、どこに行っていたんですか?」
「ちょっと、スラム街にな」
「!!若がですか!?まぁ、不思議ではありませんが、貴方は御三家の御子息なのですよ?ちゃんと考えて行動してください」

俺はあっこれ馬鹿にしてるなと思い、適当に頷く
しかも、ノリが合わなそうだ

俺は「はいはい乙乙」と適当に返事をしながらも新しく買った空白のノートを開く

優先すべきことでもなにかに書いておこうと思い、雑貨屋にも寄った

ついでに色々なことも調べようと思っていたが
記憶が鮮明なのはギリギリ3年前と言ったところだったので手がかりは全くと言っていいほど手に入らなかった

まぁ、早く帰ってればよかったってのが結論だな

それにしても、5年前に起こったことなんて詳細どころか何が起こったのかさえもほとんど覚えていない

学校にも殆ど行かずに引き篭もってたからなぁ

俺がノートを書いていくと最初の5ページほどだけで埋まってしまうだろう

さて、どうしようかね

「怪我はしてないですか?」
「はいはい乙乙。ところで、シズカはどこだ?」
「あの女は、今、謹慎中です」

その侍女はそう答える

「なぜだ?」
「若が帰って来なかったのが問題かと思われます。」

そうすぐに返してくる
早く帰ってればよかった案件パート2

それにしても、こいつ本当に侍女か?
普通はもう少し、オブラートに包むだろ

なぜ代理をこいつに任せたか
シズカのツテを疑う

「どこにいる?」
「第二塔です」

今は、セツナも爆睡している
すぐに帰れば問題ないか?

そう思い、立ちあがろうとするとセツナが俺の腕を掴む

「置いてかないで」

寝てなかったのかよ
それとも脊髄反射か?

俺は、小さい溜息をつきセツナの頭を撫でる

「安心しろ」
「ん。」

俺はセツナをお振り、外に出る

「ダメです。今行ってはいけません。そうメイド長がおっしゃっています」
「はいはい乙乙。少し散歩するだけだ」
「・・・・それなら、まぁ」

チョッッッッロ

俺は堂々と外に出てエレベーターな乗り込み
一階のボタンを押す

セツナが眠たそうにしていたのでしゃがんで背中を差し出す

すると、ぎゅっとセツナは背中に手を回してくる
俺はそれを確認してからセツナを持ち上げた

「余談なんだけどさ、シズカは第二塔のどこに幽閉されてるんだ?」
「えー、たしか、5階のA室です」
「了解」

俺はまっすぐ第二塔に向かいエレベーターに乗り込む

「え、え、ええええ、ちょっちょっと待ってください。怒られるの私です!!」
「あぁ、安心しな。ちょっとここに用があるだけだから」
「そ、それなら、・・・・・なんで5階押すんですか?」

俺がエレベーターの5階のボタンを押したと同時に
一度安心した侍女が上目遣いでこちらを見てくる

「あぁ、そこにちょうど用があってな」
「嘘です。会いに行く気ですね」
「それが用事だからな。嘘はついてない」

俺はそういい5階で下りる

「お前は外に出てろ」
「でもぉ」
「命令だ。従わなかったらありもしないことを親父に流す」

侍女は、地団駄を踏みながらエレベーターの中へと戻る

権力って便利ぃ

その時、ボソリと鍵がかかってるから大丈夫かと言う声が聞こえた

やっぱり甘いな

「ちょっと待ってろ、セツナ」
「ん。」

俺はセツナを座らせ、ドアノブをガチャガチャと回す
案の定、鍵が掛かっていて開かない

「シズカー?」

呼びかけても反応がない
ふぅ
つまりそういうことだ

「セツナいい言葉教えてあげる」
「?」
「開かぬなら~壊してしまおう~スーオラッ」

俺は、ドアに向かってタイキックをかますとドアが吹っ飛ぶ

体が弱くても、体の感覚を忘れてなければ結構力入るなと思い、感心して部屋の中に入っていく

セツナは俺のズボンのポッケを握ってついてきた

「よ」

部屋に入ると、私服姿のシズカが現れた
まぁ、会いにきたんだから当然いるよな

黒い無地の半袖シャツの大きく膨れ上がった部分の横から伸びる白く透きりそうな二の腕
ヒラヒラとした布が縫い付けてある黒い短パンが餅のように柔らかそうな足を主張する

シズカの私服を見るのは何気に13年振りだ

俺は強く目に焼き付けて、一生忘れないように脳内保存した

「私が、ドアの前に立ってたらどうするつもりだったんですか」

シズカが俺のぶち壊した扉を眺めながら立ち上がる
・・・・確かに

着替え中だったら?
寝巻き姿だったら?
寝ていたら?

仲が悪化していたのではないだろうか
俺は何もなかったことに感謝しつつ一つの結論に至る

「結局、そうじゃなかったからいいじゃないか」
「はぁ、相変わらずですね。ユリナには悪いことをしました」
「誰だそれ」
「先程の代理の侍女です。あの子が泣き叫ぶ声がここまで聞こえましたよ」

あの侍女、ユリナって名前だったのか
なんか聞いたことある気がするけど、まぁいっか

「俺の従者は、お前しかありえないんだよ。逃げられると思うな?死んでもお前のところに戻って追いかけるからな?」

しっかり、死んで戻ってきたしな

「普通は、俺について来いみたいなことを言うところじゃないですか?」
「お前がついてこないから、俺が一生追いかける羽目になってるんだ」

俺がそうドヤ顔で主張する
するとシャツの膨れ上がった部分の下でシズカは腕を組む

すると、体は年頃の男子なので視線がそこに集中させられる

「はぁ、若はヤンデレという奴ですね。面倒臭いです」
「ははは、何とでも言え。」

さっきの侍女にも思ったが、ここのメイドは礼儀作法を知らないのだろうか

まぁ、何をとは言わないがガン見している俺も礼儀の片鱗も持っていないが

するとセツナが眠いのか俺のポッケを引っ張る

「椅子用意します」

俺は、シズカが慌てて用意した椅子に腰をかけるとその膝の上にセツナが乗ってくる
それをジト目でシズカが見てくる

「仲がとてもよろしいのですね」
「そりゃ、俺らヤンデレ兄妹だしな」

セツナがヤンデレってなぁにと聞いてくるが俺は知らなくても生きていけることだから気にしなくていいよと返し、セツナの頭を撫でる

すると、眠そうに俺を背もたれにして眠ってしまう

「まぁ、いいです。何の御用ですか?」
「いや?幽閉されたって聞いたから様子見に来ただけだけど」

シズカのジト目が深まり、瞳の色が薄くなっていくように感じる

「そのためだけに私の部屋のドアを壊したのですか?」

確かに壊した意味は全くないな
だが、開けない方が悪い

しかし、シズカは一人部屋もちのメイドだったか?
あの後の5年間、色々ありすぎて忘れてたな

「俺らの部屋くる?」
「馬鹿にしてます?」

シズカはあーだこーだと文句を言ってくる
宿代がもったいないから二人部屋で一緒に寝泊まりしたじゃないか。未来でだけど

前のシズカなら、仕方ありませんねの一言で済んだのに
諦められてる?そんなことはない・・・はず

「・・・ですね。やっぱり」
「ねむ・・・」

そう言って、セツナがシズカのベットの上に移動して毛布にくるまる

「あぁ、こら、ここで寝ない」
「私の部屋ですよ?」

俺が起こそうとベットに乗りセツナを揺らそうとするとぐっすりと寝るセツナの顔が映り込んだ

今度こそは確実に寝たのか、寝息が安定したテンポで聞こえてくる

早いな

慌てるシズカが、セツナを起こすわけにもいかず俺のことを無表情でポカポカと叩く

ははは、昔のシズカは活力であり溢れてるな
ねっむ

そう思いながら、俺も眠りに落ちた
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