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 次に目を開けた時は先程までは感じなかった肌寒さと、月明かりだけが頼りの暗闇が広がっていた。が、一点だけぽつりと光る何かがあった。

 その光は何故か身体全体が発光している人だった。
 その人は一歩一歩確実に私達に近付いてきた。
 レオンスさんは私を守るように私の前に立ち私を背中に隠した。


 その人は直ぐに私達の前までやって来た。


「何か私共に用でしょうか?」


 レオンスさんがその人に問いかけた。
 ピリついた空気が私にまで伝わってくる。

 レオンスさんの後ろからひょっこりと顔を出してその人を顔を覗いて見た。
 金色の腰まである長い髪に、金色の瞳。そして先がとんがった長い耳。まさに絵本やアニメで見る妖精の特徴に一致する。
 あれ絶対アイリスさんでしょ。


「お前……貴方たちは今その結界の中から出てきたのか?」

「ええ、そうですが如何なさいましたか?」

「その結界の中にいるロニーという男に合わせて欲しい」


 男の人から出てきた言葉に思わず目を見開いてしまった。
 ロニー!
 ロニーってあれよね王弟殿下の名前。国王陛下が呼んでたもの。間違いない。
 だとすると、王弟殿下に態々逢いに来る妖精と言うと、、、


「アイリス……さん?」

「私の名前を知っているのか?」

「勿論です!!  というか貴方を探して結界の中から出てきたんです!」


 レオンスさんの身体をすり抜けアイリスさんとレオンスさんの間に身体を滑り込ませた。
 そして、アイリスさんの目の前に国王陛下から借りたネックレスを差し出した。


「これは?」

「結界の中に入る為の通行手当?みたいな物で、えーっと、つまりこれさえ付ければ結界の中に入りたい放題なんです。これを付けて今すぐにロニーさんに逢いに行ってあげて下さい!  彼すごいアイリスさんに会いたがってますから!」

「!!  そうか。……ありがとう。必ずこの恩は返す」


 そう言ってアイリスさんは細長い綺麗な首にネックレスを掛け、直ぐに消えてしまった。
 良かった。これで一件落着。
 離れ離れになってしまった両片思いの二人が沢山の困難を乗り越え結ばれる。
 嗚呼、なんて素晴らしいの。


「ゴホンッ  あの~どういう事か説明してもらっても?」


 感動に浸っていると後ろから声がした。
 すっかりレオンスさんの事が頭から抜けてしまっていた。
 まずい。どうやって説明するか。
 でも今は説明なんかよりも二人の恋路を見ていたい。


「説明は後です!  今すぐに戻りますよ!  ほら魔法!」

「ちょ、もう魔力が切れる寸ぜ」

「そんなのいいですから、ほら早く!」

「はー、分かりましたよ」




 本日三度目の浮遊感を経て王弟殿下の部屋の前の廊下まで戻ってきた。
 よし、これで二人を見れると思った矢先国王陛下と眼鏡の人に詰め寄られてしまった。


「あの男は一体何なんだ!  何をしに外に出ていったんだ!!」
「あれは妖精王アイリスですよね!?  何故妖精王が居るのですか!!」

「ちゃ、ちゃんと説明しますから、一気に話しかけないで下さい!」


 二人がアイリスさんを見たということは無事に王弟殿下のとこに着いたってことかな?
 良かった良かった。

 騒ぐ二人を沈めて先程の事を全てぶちまけた。
 二人が両片思いである事を重点的に。
 そして真の病は恋の病である事も。

 国王陛下は泡を吹いて倒れ、眼鏡の人は正気を失い硬直し、唯一正気を保っているレオンスさんは口角をこれでもかと言うぐらいにあげている。


「そういう事だったんですか。ついに殿下にも春が来たんですねー。しかも相手は妖精王って。この国も安泰ですね」

「レオンスさんは男性同士とか同性同士の恋愛に拒否感などは無いんですか?」

「別にありませんよ。そら様は無いように見えますけどどうなんですか?」

「私もありませんけど、って何で私の名前知ってんですか!?  」


 驚いた。
 私はまだ一度も名乗っていないのにレオンスさんの口から私の名前が出てきた。


「先程空様の部屋に行った時に紙に“朝比奈 空あさひな そら”書いてあったのでそれかな~って。名前呼び嫌でしたか?」

「いえ、別に良いですけど。てか、ずっと聞きたかったんですけど私の部屋の荷物どこにやったんですか?」

「ああ、それなら何が必要になるのかさっぱり分からなかったので、部屋にある物全てこちらに運んでおります。ご安心ください、傷一つ付けてませんので」


 傷を付けないのは当たり前として、何で、何で全部運んじゃうかなー。
 と言うか直ぐに帰るんだから荷物なんて持って来なくても良かったと思うんだけどな。
 あの時どれだけ不安になったことか。
 はぁーーーーーー。



 深ーいため息を心の中でついている時だった。
 王弟殿下の部屋の扉が開いた。
 王弟殿下が顔だけを覗かせて私を手招きした。


「ねぇ、ちょっと来て」


 駆け足で部屋に入ると中は蝋燭の火が消え、代わりに王弟殿下が漫画を読む時に見せたあの光が部屋を明るくしていた。

 王弟殿下に促されるまま私と、私の後について来たレオンスさんはソファーに座った。
 向かいのソファーにはアイリスさんが座っており、そのアイリスさんの上に王弟殿下は座った。
 早速イチャついてくれてんな。おい。


「貴方のお陰でまたこうしてロニーに会えた。本当に感謝している」
「僕からも、本当にありがと」

「いえいえ、そんな、」

「それで礼と言っては何だがこれを」


 アイリスさんから手渡されたものはホイッスルの様な小さな笛だった。


「何か困ったことがあったらそれを吹いてくれ。直ぐに駆けつける」

「ありがとうございます」

「あと、これは僕から。アイリスとまた会わせてくれたお礼と病気を治してくれたお礼」


 王弟殿下から手渡された物は綺麗な宝石が付いたイヤリングだった。


「ありがとございます。でも、私病気治してませんよ?」

「え?  治ってるよ。元々生まれつきあった病気は特に。今まで無いぐらいに身体が軽くて楽だし。もしかして自分で治しといて気付いてない?」


 全く分からない。
 王弟殿下が掛かってた病気って恋の病だけじゃないの?


「あんだけ魔力使っといて気付かないってこれは凄い聖女様になりそうだね、アイリス」

「そうだな。もしかしたらあの聖女を超えるやも知れないな」


 二人でクスクスと笑ってる。
 何が何だが分からないけどまぁ、二人が笑顔ならいっか。
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