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 まずはどうやって同性愛でも良いというのを分からせるか。
 難しい所だけれど方法はあるっちゃある。
 私と一緒にここに来た鞄の中にBL漫画がある。それも一巻完結型の感動系ハッピーエンドのもの。しかも濡場なし。
 完璧ね。
 これ読ませれば何とかなるでしょ。

 鞄の奥底から漫画を取り出して目の前に差し出した。


「ねぇ、これ読んでみて。これ私が居た国の本なんだけど貴方と同じなの。男の子の主人公が男の子を好きになってしまって様々な葛藤と困難が降り掛かって来るけれど二人でそれらを乗り越えて幸せを掴むお話なんだけど、これ読んでみて。あ、読み終わったら貴方と貴方の想い人の話聞かせてもらうからね」

「?  分かった。☶☱☳☴」


 私から本を受け取ると外国語?の様な聞き取れない言葉を発した。
 するとバスケットボール程の光の玉が現れレースカーテンの中を明るく照らした。
 確かに暗いと読めないものね、

 王弟殿下は踊ろくべき速さで漫画を読んだ。多分私の倍以上の速さはあると思う。しかも泣きながら。
 分かる。すごい分かる。それ泣いちゃうよね。私も読む度に泣いてる。

 三十分もしない頃に王弟殿下は漫画を閉じた。


「これ、ありがと。少し元気出た」

「どー致しまして。それじゃ早速聞かせてもらおうか」

「……うん」


 それからポツポツと話し始めた。
 想い人はさんと言って妖精の王様らしい。

 まずここで質問攻めしてしまった。
 妖精王って何よ、妖精王って。アニメでしか見た事がないよ。
 でもここには沢山妖精が居るらしい。
 本当にここは日本では無いんだと実感してしまう。

 それで、そのアイリスさんとの出会いは王弟殿下が部屋で窓を開けて歌を口ずさんでいる時にふらーっとやって来たのが最初らしい。
 その時に「君の歌声をもっと聴きたい」と言われたのがきっかけでその後も会うようになったんだと。
 会うと言っても王弟殿下は元々病弱で外に出られないからアイリスさんが部屋に人目を盗んで通って会う様になるが、数ヶ月程経った頃に時に王弟殿下の元々の持病が悪化し、元いた王宮から今いる御屋敷に移り住んでからは一切会えなくて恋の病発症。

 そして現在に至ると……。

 途中途中惚れ気話を聞かされたけれど要約するとこうなった。
 王弟殿下の話を聞いていると相手も好意があったように思えてしまう。
 省いてしまったけれども王弟殿下が歌っている最中に頭や頬を撫でてきたり、そもそも膝の上に座らせて歌わせたり、他にもスキンシップが多かったらしいし。 
 でも、それだったらなんで王弟殿下が移り住んだだけで会いに来なくなるのか。


「なんでその男は会いに来なくなった訳?  普通好きな相手が病気って聞いたらお見舞いにでも何でも会いに来るでしょ」

「いや、違うんだ!  アイリスが悪いわけじゃ無いんだ。ただこの屋敷が行けないんだ。ここは偉大なる聖女様がお造りになられた結界の中にある屋敷で、この結界の中に入るには偉大なる聖女様の魔力が篭ったアクセサリーを付けなければ入れないんだ。でもそのアクセサリーは兄上と宰相が管理していて、本当にごく一部の信用されたもの達にしか渡されないんだ」


 あ~、なるほど。またまた偉大なる聖女様のお出ましね。
 一々偉大なるって付けなくて良くない?と言うツッコミは後にして、今はそのアクセサリーの確保が先決ね。
 ん?でも待ってよ、私そんなの付けてないんだけど結界の中に入れてるんですけど。
 いや、まあいいや。今はそれどころじゃ無いし。


「そのアクセサリーさえ持ってればこの結界には誰でも入り放題って訳?」

「そうだけど、何する気?」

「今からちょっとアイリスさん連れてくるね。私が連れてくる間に身だしなみ整えてなね!」


 ボサボサの頭を指さして言い、私はカーテンの中から飛び出した。
 後ろから何か声が聞こえるけれど無視して国王様を探しに廊下へつづく扉を開けた。
 早く見つかると良いな、と思いながら廊下に出たが案外直ぐに見つかった。

 この王弟殿下のいる部屋には入口が二つあるのだけれど、私が出た入口とは別の入口に三人片耳を扉に当てて聞き耳を立てていた。
 三人は私が部屋に出たのに気づくと一目散に私の方へかけてきた。特に国王様。ものすんごい迫力。


「聖女殿、ロニーの、弟は治ったんですか!?」

「まだです。けど治ります!  その為に今すぐにこの結界に入るのに必要だと言うアクセサリーを貸してください。今すぐに!」

「分かった」


 そう言って国王様は自分の首に下げていた物を渡してきた。
 よし、後は外に言ってアイリスさんを探すだけ。


「私を今すぐに結界の外に連れて行って下さい」

「分かった。レオ、今すぐに聖女殿を連れて行って差し上げろ」

「はい。ほら行きますよ」


 レオンスさんに差し出された手を取ると、この国に来た時と同じ浮遊感が全身を襲った。

 次に目を開けた時は先程までは感じなかった肌寒さと、月明かりだけが頼りの暗闇が広がっていた。が、一点だけぽつりと光る何かがあった。
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