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 毛布から出ている王弟殿下の手を握った。
 これで本当に治るのかどうなのか。
 爪の先まで病的に白い肌は血の気が無いのではないかと思ってしまうほど冷たい。
 毛布の膨らみで病気のせいかとても小柄のように思える。
 お兄様の方はとてもガタイが良かったのに。

 まだまだ十代、二十代そこらで若いだろうに不治の病だなんて可哀想に、こんなに痩せ細っちゃって。
 なんか、ベッドに横たわる病人を見ていると父の事を思い出してしまう。
 一年ほど前に父は病気で他界したけれどその時もこんな風に寝たきりになって痩せ細っていったな。
 あの時はなんにもしてあげられなかったけれど、今回は、この子はどうか少しでも役にたちたいな。

(どうか治りますように)

 そんな事を願いながら空いている手で頭を撫でていた。
 すると、閉じていた瞼が開き目が合ってしまった。


「ん……だれ?」

「あ、えっと、私は、い、一応聖女?  らしいです?」


 急な問いかけにあたふたしてしまい、返事になっていない返事を返してしまった。
 が、王弟殿下にはこれで通じたらしい。


「また兄上が連れてきたの?」


 またってなに、またって。
 私以外にも連れ去られた被害者いるの!?
 いや、でも連れ去ったのは国王陛下では無いけれども、でも国王陛下?だし。


「お、お兄様と言うよりもレオンスさん?  いや、お兄様かな?  ごめんなさい、私もよくわかないんです……」

「いいよ別に。それよりも手離してくれる?」

「え?  あ! これは離しちゃ駄目なんです!  貴方の病気を治すためなんで!」

「いいよ、どうせ治らないし」


 そう口で言いながらも王弟殿下はとてももの寂しそうな顔をしていた。
 病気で倒れた父も同じような顔をしていた。もう全てを諦めたかのような、絶望したかのような。
 あの時、何も出来ない自分がすごく嫌だった。
 でも今は違う。聖女だか何だか知らないけれど、今目の前の苦しんでいる人を助けられるのは私だけなら頑張らないと。


「そんな事言わないで下さい、治らないだなんて決めつけないで下さい。私が絶対に治して見せますから、諦めないでください。貴方が元気になった姿を見たい人が沢山居るんです。その人の為にも頑張って下さい。それに貴方を治さないと私が日本に帰れないんです。早く治って下さい!」


 一気に捲し立ててしまった。最後の方は早口になってしまったけれどもどうやら伝わったらしい。そっぽを向いてしまったけれども、ボソッと「分かったよ」と言う声が聞こえた気がする。

 王弟殿下の手を両手で握り直して集中する。
 効果があるのか分からないけれど、心の中で(治れ治れ治れ)と何度も唱え続けた。




 が、全く手応えがない。
 もうかれこれ一時間以上はやってる気がするけれど、王弟殿下の身体に良い変化も悪い変化も無いんですけど。
 まだ時間かかるの?

 と言うか、そもそも私王弟殿下の病気がどんなものか知らないんですけど、もしかしたら知らないでやってたら効果ないとか?
 それか、心臓が悪ければ心臓の近くを、肝臓が悪ければ肝臓の近くを、とかってあったりするのかな?
 魔導書にはそんな事書いてなかったけれど、一応王弟殿下に病気の確認しとこうかな。


「あの~、ちょっと気になったんですけど殿下って何の病気何ですか?」

「分からない。医者でも分からない病気らしい。だから医者じゃ治せないんだって」


 詰んでますやん。


「あの、じゃあ具体的に何処が痛いとかありますか?」

「こう、頻繁に胸あたりがきゅ~って締め付けられてる。それにすごく息苦しいし一人になると涙が止まらなくなるし、食欲が湧かない」


 ん?すごく嫌な予感がする。
 胸が締め付けられる?
 すごく息苦しい?
 涙が止まらない?
 なんだか少女漫画で見た事ある様な病状だなぁ。
 確かヒロインの女の子が想い人の事を想像したり見たりすると発作的に怒るあれにとてもよく似ている。


「もしかしてですけど、それって誰か特定の人の事を考えている時によく起こりませんか?」

「んー?  確かに……そうかもしれない……。でもなんで分かったの?」


 少し考えた後に王弟殿下は首を縦に振るった。
 嫌な予感ほどよく当たるとはこの事か、、、
 それ、不治の病、違う。それ、恋の病。しかも無自覚パターン。
 どうりで手に触れても何も変化しない訳だよ。
 どうやって自覚させるっかなー。


「単刀直入に聞きますね。その人の事どう思ってますか?」

「えぇ!?  どうって聞かれても、そのすごく綺麗で、すごく優しくて、とても素敵な人だな、と思ってる」

「それで、その人の事好きですか?  恋愛対象として!」

「ななな、何を急に何を言い出すんだお前は!  不躾にも程があるぞ!」


 横になっていた上半身を勢いよく起こして顔を真っ赤にしながら反抗してきても、それはもう好きだと認めているような物なのに。
 てか、ものすんごく元気じゃ無いの。好きな人の事考えたら元気出ちゃった系?
 さっきまでの私の同情心を返して欲しいぐらい。


「はぁーーーーーーーーー。顔を真っ赤にされて言われてもねーー。好きなんですか?  どうなんですか?」

「す、す、好きとか嫌いとか以前に彼はだ。男同士で恋愛など、ある訳ないだろう」


 先程の勢いはどこに行ったのやら。唇を噛み締めて下を向いてしまった。
 分かりやすいヤツめ。
 男同士の恋愛が何だって?有り得ない?
 冗談はやめて欲しい。
 男が男を好きになっても良いじゃない。むしろ最高よ。

 それに早く恋の病不治の病を治してもらわないと私が家に帰れないんだから。
 とっとと治しちゃいますか。
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