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034.
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午後2時、一条邸応接間。
一条邸は和風の屋敷である。故に、応接間もソファではなく、豪奢なテーブルではあるが、畳に座布団。
四人のお嬢様は示し合わせたように制服姿だった。横一列に並んで座布団の上に正座している。
対する瞳は座ることを拒否した。立ったまま腕組みし、四人を睨み下ろしている。
たとえば怒りが目に見えたとしたら、瞳の怒りゲージはMAXだろう。
美人が怒ると迫力がある、とはよく聞く。よく聞くが、目の当たりにするとは思っていなかった美作である。美作も立ったまま瞳の少し後ろに控えているが、瞳の怒りは伝わってくる。それを正面から受け止めて小さく震えている少女たちを少しだけ、ほんの少しだけ不憫に思った。
ここの控えの間には田中たち世話係が居ると聞いているが、そんなもの瞳にはどうでも良かった。
すぅ、と大きく息を吸い込んで思い切り怒鳴りつける。
「この、バカ娘どもが! 狐なんか呼び出して手遅れになったらどうするつもりだ! 死んでから後悔しても遅いんだぞ!」
「す、すみません!」
「ごめんなさい……」
「でもあれは天使さまで……」
この期に及んで言い募ろうとする少女に、瞳はあぁ? と視線を向ける。
「天使なんかそう簡単に召喚されてたまるか。アレは次元が違う」
「えぇ……」
「いいか。『コックリさん』『エンジェルさん』『キューピットさん』、他にも呼び方はあったか? あれは全部同じものだ。その辺の適当な霊を呼ぶ一種の降霊術だ」
「そんな……」
「さほど力のない者がやれば特に悪いものを呼び寄せる。今回で痛感したな? あれは、やってはならないものだ」
「…………」
黙り込む少女たちに、瞳は小さくため息をついて彼女たちとテーブルを挟んでしゃがむ。座りはしない。
「お前たちの事情もあるんだろう。オレにはそれは分からない。だが、心配してくれる者たちがいることも忘れるな」
少女たちは一様にはっとした表情をする。
おそらくは今朝目覚めた時の使用人たちの様子を思い出していることだろう。
親がどうであったとしても、使用人たちは皆心配している。『依頼』が来たことがその証拠だ。
「それから、一条さやか」
「は、はい!」
瞳にはどの少女がどんな名前だったのかはどうでもいい。とりあえず、返事をした少女に目を向けた。
「一条邸に祠があるだろう。案内しろ」
「ほこら……?」
「稲荷だ。小さな神社のような社があるだろう」
瞳が説明すると、控え間に続いている襖がスラリと開いた。
正座をして、膝の前に両手をついた使用人が瞳に言う。
「わたくしが、ご案内いたします」
「……頼む」
使用人に案内されるまま、庭を進む。後ろには美作、そして少女たち、その使用人たちが続く。
祠は、庭の外れにあった。
小さな社、赤い鳥居。
だが、その存在は忘れられたように周囲は荒れていた。
「一条の」
「はい」
「これは修復できるか」
「は……」
「できれば周囲も整えてくれ。稲荷は繁栄の神だ。ここに祀られているということは一条の繁栄も意味する。逆に疎かにすれば衰退するだろう。大切にしてやってくれ」
「なんとかいたします」
強い決意を秘めた顔で頷いた使用人に頷き、瞳は少女たちを見る。
「どうした。ここに居るのは天使どころか神だぞ」
次元が違うけれど、とは言わないでおく。
「神さま……」
同じ制服姿なので、誰がさやかなのか分からないから、瞳はわざと彼女たちを見ずに言う。
「花をそなえてやったそうだな。大層喜んでいたぞ」
おかげで殺されるところだったけどな。
神の妻になるとはつまり生け贄と同じだ。
「みんなで参ってやれば喜ぶだろう。さて、オレはお役御免だな」
嬢たちへの暴言を責められる前に、と瞳は一条邸を後にする。美作もそれに続いた。
美作の車は門の前に横付けしてあって、いつでも帰れる状態だった。
そこへ。
バタバタと走るような足音がした。
「あの……!」
複数の、声がかかる。
あー、と瞳は思った。暴言に対する抗議だろう。
覚悟して振り向くと、そんなことはなかった。
「お嬢様を助けてくださって、ありがとうございました」
「ご忠告も。あなた様に言われなければお嬢様たちは気付いてくださいませんでした」
口々に感謝されて、瞳は面食らう。
ぱちぱちと目を瞬かせて美作を見れば、彼は苦笑していた。
「お役に立てたなら良かったです。が、彼に対する報酬はそれぞれの術者を通してきっちりお支払いくださいね」
にっこりと笑いながら言う美作が、玄武に見えた気がした。
一条邸は和風の屋敷である。故に、応接間もソファではなく、豪奢なテーブルではあるが、畳に座布団。
四人のお嬢様は示し合わせたように制服姿だった。横一列に並んで座布団の上に正座している。
対する瞳は座ることを拒否した。立ったまま腕組みし、四人を睨み下ろしている。
たとえば怒りが目に見えたとしたら、瞳の怒りゲージはMAXだろう。
美人が怒ると迫力がある、とはよく聞く。よく聞くが、目の当たりにするとは思っていなかった美作である。美作も立ったまま瞳の少し後ろに控えているが、瞳の怒りは伝わってくる。それを正面から受け止めて小さく震えている少女たちを少しだけ、ほんの少しだけ不憫に思った。
ここの控えの間には田中たち世話係が居ると聞いているが、そんなもの瞳にはどうでも良かった。
すぅ、と大きく息を吸い込んで思い切り怒鳴りつける。
「この、バカ娘どもが! 狐なんか呼び出して手遅れになったらどうするつもりだ! 死んでから後悔しても遅いんだぞ!」
「す、すみません!」
「ごめんなさい……」
「でもあれは天使さまで……」
この期に及んで言い募ろうとする少女に、瞳はあぁ? と視線を向ける。
「天使なんかそう簡単に召喚されてたまるか。アレは次元が違う」
「えぇ……」
「いいか。『コックリさん』『エンジェルさん』『キューピットさん』、他にも呼び方はあったか? あれは全部同じものだ。その辺の適当な霊を呼ぶ一種の降霊術だ」
「そんな……」
「さほど力のない者がやれば特に悪いものを呼び寄せる。今回で痛感したな? あれは、やってはならないものだ」
「…………」
黙り込む少女たちに、瞳は小さくため息をついて彼女たちとテーブルを挟んでしゃがむ。座りはしない。
「お前たちの事情もあるんだろう。オレにはそれは分からない。だが、心配してくれる者たちがいることも忘れるな」
少女たちは一様にはっとした表情をする。
おそらくは今朝目覚めた時の使用人たちの様子を思い出していることだろう。
親がどうであったとしても、使用人たちは皆心配している。『依頼』が来たことがその証拠だ。
「それから、一条さやか」
「は、はい!」
瞳にはどの少女がどんな名前だったのかはどうでもいい。とりあえず、返事をした少女に目を向けた。
「一条邸に祠があるだろう。案内しろ」
「ほこら……?」
「稲荷だ。小さな神社のような社があるだろう」
瞳が説明すると、控え間に続いている襖がスラリと開いた。
正座をして、膝の前に両手をついた使用人が瞳に言う。
「わたくしが、ご案内いたします」
「……頼む」
使用人に案内されるまま、庭を進む。後ろには美作、そして少女たち、その使用人たちが続く。
祠は、庭の外れにあった。
小さな社、赤い鳥居。
だが、その存在は忘れられたように周囲は荒れていた。
「一条の」
「はい」
「これは修復できるか」
「は……」
「できれば周囲も整えてくれ。稲荷は繁栄の神だ。ここに祀られているということは一条の繁栄も意味する。逆に疎かにすれば衰退するだろう。大切にしてやってくれ」
「なんとかいたします」
強い決意を秘めた顔で頷いた使用人に頷き、瞳は少女たちを見る。
「どうした。ここに居るのは天使どころか神だぞ」
次元が違うけれど、とは言わないでおく。
「神さま……」
同じ制服姿なので、誰がさやかなのか分からないから、瞳はわざと彼女たちを見ずに言う。
「花をそなえてやったそうだな。大層喜んでいたぞ」
おかげで殺されるところだったけどな。
神の妻になるとはつまり生け贄と同じだ。
「みんなで参ってやれば喜ぶだろう。さて、オレはお役御免だな」
嬢たちへの暴言を責められる前に、と瞳は一条邸を後にする。美作もそれに続いた。
美作の車は門の前に横付けしてあって、いつでも帰れる状態だった。
そこへ。
バタバタと走るような足音がした。
「あの……!」
複数の、声がかかる。
あー、と瞳は思った。暴言に対する抗議だろう。
覚悟して振り向くと、そんなことはなかった。
「お嬢様を助けてくださって、ありがとうございました」
「ご忠告も。あなた様に言われなければお嬢様たちは気付いてくださいませんでした」
口々に感謝されて、瞳は面食らう。
ぱちぱちと目を瞬かせて美作を見れば、彼は苦笑していた。
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