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083.

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「とりあえず瞳の様子も見たいから、明後日来るって!」
「は? 嫌だよ」
「即答じゃん!」
「だってあの人観察するような目で見てくるんだぞ、こわい」
「ああ、それはこわい」
「ふはっ!」


 円が至極真面目な顔で同意するから、思わず笑った。
 まあ、そもそも医者は観察することも仕事の一環ではある。


「……で?」
「ん?」
「何時に来るって?」
「ああ。この前と同じくらいだって」


 ということは、割と早朝の部類に入る。
 めんどくさいなぁ、とは思うけれど、今後もしかしたら瞳のかかりつけ医になるかもしれない男である。……あくまでも可能性だけれど。


「まあ、仕方ないな」


 少しくらいなら見られてやろう。


「円も、サンプルほしいもんな」


 実際の患者の。サンプル。
 何を診るのかは分からないけれど、状態をチェックするサンプルである。
 まあ、少し、いやかなり普通とは体質が違うけれど。


「ということは、明後日は別行動だな」
「えっ!」
「なに。弟子入りってそういうことだろ? 言っとくが、オレは弟子入りしてないからな」
「あー、そっか」


 ちょっと考えていなかったらしく、それはそれで瞳もびっくりするけれど、別行動であることが相当に寂しいようだ。


「まあ、がんばれ」


 瞳は円の頭をぽんぽんと撫でてやり、これで話は終わりとばかりに立ち上がった。


「悪い、ちょっとシャワー浴びる」


 ちょっとの間だけど外に出たせいか、やはりじっとりとした汗が気になる。
 円は頷いて、キッチンの方へ向かうから、夕食の準備に入るのだろうかと思っていたら、冷蔵庫から仕込んでいたらしいアイスティーを取り出す。


「水だしのアイスティー作っておいたから。シャワー終わったら飲む?」
「飲む」


 事務所で飲ませてもらったやつだ。飲まないはずがない。
 瞳はざっくりと着替えを準備して浴室へと入った。
 考えごとをしながらシャワーを浴びれば、なんだか時間がかかってしまって急いでリビングへ戻る。
 それを待っていたかのようなタイミングで、円がアイスティーをグラスに用意してくれて手渡してくれる。ひと口飲めば、やっぱり美味しかった。
 そうやって、穏やかに楽しく過ごす時間はあっという間に過ぎるもので。
 夜。瞳は昨夜と同じく早めに自室に戻った。


「さて」


 瞳は昨夜と同じく、部屋に結界を張った。カギをかけるのはやりすぎかとも思ったが、不測の事態もある。念の為だ。


『ヒトミー』
『ないしょー?』
「そう。内緒」


 瞳が昨夜と同じことをしているのが妖精たちにも分かるから、さわさわしていた妖精たちも静かになる。
 瞳は、まず美作にメッセージを送った。すぐに既読になり、美作からの着信がある。


「はい」
『瞳さま、今日はお疲れ様でした』
「いえ、美作さんも。……早速ですが、例の術者の件です」
『はい』
「今日はスーパー近くですれ違いました。聞き込みかもしれません」
『そうですか……。こちらも、少し進展が』
「どうですか?」
『まず、西園寺の残るもう一人の術者ですが。彼は完全な中立です。今の奥方の息子の警護に付いているそうですが、後継については本人の意思に任せているという意味でも信用できると思います』
「なるほど……」
『それで、その息子なのですが。最近悩んでいる様子なのだそうですが、理由を言わないらしいのです』
「悩んでいる……?」
『はい。なので気分転換にと、土曜日に少し外出する事になったそうなのですが』
「はい」
『そこで、瞳さまにお願いがあるのです』
「はい?」
『カウンセラーのマネごとをしていただけませんか?』
「カウンセラー、ですか?」


 突拍子もない、と思える美作の提案に、瞳は思案する。
 向こうの息子に顔がバレていないという点では瞳が適任なのだろう。だが、初対面の高校生ごときに悩み事を話したりするだろうか?


『わたしたちでは聞き出せないことも、瞳さまなら大丈夫だと思うのです。お願いいたします』


 重ねて請われて、瞳は了承する。


「わかりました。土曜日なら円は小田切さんのところへ行くはずなので大丈夫だと思いますけど、律さんには何と説明しますか?」
『そうですね……』


 上手い言い訳が見つからない二人に、思いがけないところから提案があった。


「……美作さん。太陰が律さんと二人だけで話したいことにすればいい、と言っていますが……」
『お願いできますか?』
「……大丈夫だそうです」
『では、是非』
「はい」


 これで、瞳と美作が揃って律のそばにいない理由が出来た。
 円の方は小田切に頼めばなんとかしてくれるだろう。


『予定は午後です。詳しく話を詰めますので、詳細は後ほど』
「わかりました。お願いします」
『ありがとうございます。では、おやすみなさいませ』
「……おやすみなさい」


 そう言って通話を切り、瞳は本当に大丈夫かな、と土曜日のことに思考を巡らせる。
 円と律の異母弟。どんな子なのだろうか。
 自分が上手く立ち回れなければ、今回の計画は台無しになるかもしれない。とにかく、やれるだけはやろう。どうにかなるさ、といつもの思考に切り替えて、瞳は部屋の結界とカギを外した。
 少しだけ緊張が解れると、眠気が襲ってくる。瞳はそのまま眠りへと落ちた。
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