君に出会えたこと

七海さくら/浅海咲也(同一人物)

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序章

 頭が、痛かった。
 目を開けるのが、億劫だった。
 横になっているのに眩暈めまいがするような、不思議な感覚の中を漂っていた。
 頭はガンガンするんだけど、体はフワフワと浮いているような。たぶん、意識の半分はまだ夢の中だったんじゃないかと思う。
 朦朧もうろうとしている意識の中で、オレは自分の手を誰かが握っているらしいことに気が付いた。
 優しいぬくもりが、オレの手を包み込んでいた。
 オレは、それが誰なのか知りたくなって、ゆっくりと目を開けた。
 最初に見えたのは、少し高めの、味も素気もない天井。
 思わず、小学校の頃、朝礼で倒れた時のことを思い出した。特に病弱な訳ではなかったけれど、健康優良児という訳でもなかったオレは、校長先生の長い話の間に貧血を起こして倒れ、保健室に担ぎ込まれたという経験が何度かある。
 その、保健室で目を覚ました時の状況に、今の状態は良く似ていると思ったんだ。

(オレ………?)

 また倒れたのかな、とぼんやり思った。
 ベッドに寝ているのは分かるんだ。
 でも、自分の部屋じゃない。病院のベッドというよりは、学校の保健室のような気がした。
 オレは目を開けた目的を思い出して、ゆっくりと視線を周囲に巡らせた。
 寝起きのボーッとした状態のオレの視界に映ったのは、なかなかにハンサムな男の姿だった。
 もしかしてオレの事を心配しているのか、ひそめられた眉がもったいないと思うほどに、整った顔をしていた。クセのなさそうな黒髪が、サラサラと額にかかる。
 嫌味とか皮肉とか抜きで、マジでカッコイイと思う。
 そんなオレの視線に気付いたのか、そうじゃないのか。不意にこっちを見た顔と正面で目が合った。
 澄んだ瞳が綺麗だった。
 だけど。

「……真純ますみっ」

 安堵したような表情で名前を呼ばれて、オレは当惑した。
 だって。

「………だれ……?」

 消え入りそうな声で、オレは尋ねた。
 だって、知らない顔だった。これ程の美形なら、一度会えば忘れないと思うんだけど、覚えがない。じゃあ、なんでオレの名前を知ってるんだ?
 綺麗な瞳に傷ついた色が浮かぶのが分かってしまって、オレは胸が痛んだ。
 やっぱりどこかで会っていたのかと、もう一度、自分の記憶を探ってみるけど、それでも結果は同じだった。

「覚えて、ないのか?」

 ためらいがちに、確認するみたいに聞かれて、オレの心の中に焦りが生まれる。

(やっぱり、オレが忘れてるだけなのか!?)

 焦って思い出そうとすればする程、分からなくなってくる。
 思い出せない事で気が焦り、焦ったことで余計に考えがまとまらなくなって。オレはパニックを起こしかけてた。
 なんで? なんで思い出せない?
 どうして分からないんだ?

「あたま、いたい……」

 頭の奥が、痺れるように痛んで。
 助けを求めるように呟いていた。
 たぶん、ものすごく頼りない顔をしてたんだと思う。
 オレの手を包んでた手がゆっくりと頭の方に移動してきて。優しく、髪を撫でてくれたんだ。オレを安心させるみたいに、何度も何度も。

「いいよ、もう。大丈夫だから……」

 囁くように言われて。
 何がいいんだとか、何が大丈夫だとか。そんなことを深く考えるヒマもなく、オレは安心してしまっていたんだ。
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