君に出会えたこと

七海さくら/浅海咲也(同一人物)

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第3章 3日目①

 翌日。オレは午前中をベッドの上で過ごした。
 だって、目が。
 泣きすぎちゃって、目の腫れが引かないんだよ……。
 ホント、情けないったら。
 こんな顔じゃ、誰にも会えませんて。

(特に、高見)

 あいつ、絶対、自分のせいだって思って責任感じるに決まってる。
 昨日の事があるからさ。
 だけど、泣いた理由は、それだけじゃないもん。だから尚更、高見にだけは、今の顔は見せたくない。
 濡れタオルで目元を冷やして。

(顔がふやけそー……)

 なんてバカな事を思ってると、和巳ちゃんがスイッとタオルを取って。

「真純クン。気分転換に屋上行かない?」

 って誘われて。
 オレもいいかげんヒマだったから、和巳ちゃんと屋上に向かう事にした。
 今のオレには、屋上って、あんまりいいイメージないけど。和巳ちゃんと一緒ならいいかなって思ったんだけど。
 和巳ちゃんにそう言ったら、笑われた。逆だよって。
 いわく。

「真純クンと僕が二人で屋上にいるなんて、『襲ってください』って言ってるようなものだからね。ボディガードも無しにそんな所行ったら大変なコトになるよ」

 だそうで、屋上から階段に続くドアの向こう側には、和巳ちゃん御指名のボディガード役の橋本がいる。
 ちなみに橋本は、空手・柔道・合気道の有段者なのだそうで、現在、校内で彼に勝てる者はいないのだそうだ。
 なんでそんなに強いんだよ……。
 頼りにしてますけどね。襲われるの、嫌だし。

「あー。雨降りそうだね」

 どんよりとした空を見上げながら、和巳ちゃんがぼやく。
 たしかに、雨が降る直前の空って雰囲気だった。肌に触れる空気も、湿気が多く、雨のにおいが混じってる気がする。
 オレはゆっくりとフェンスに指を絡ませ、眼下を見下ろした。高台に建ってるから、見晴らしがいい。
 昨日は、景色なんか見てる余裕なかったけど。ここの周りって、何もないんだ。
 遠くに、街並は見えるけど。周辺は緑に囲まれてて、ホント静か。自然の中にあるって言ったら聞こえはいいけど、早い話が、田舎の山の中。
 まあ、こんな所にあるから全寮制なんだろうけど。環境はいい方だよな。うん。
 入試の時にも、校舎の方へは来たはずなんだけどね。あの日のオレ、めちゃめちゃ余裕なかったから。周りを見るどころか、試験を最後まで受けるのが精一杯。合格した事が奇蹟に思えるくらい、サイテーだった。
 入試の前日に、母親が亡くなった。
 入院していた病院で自ら生命を断つのを、オレは止められなかった。
 この高校に入るのが故人の希望じゃなかったら、オレは試験なんか受けなかっただろうと思う。
 生前からの母の希望だった。父さんの、母校なのだそうだ。
 ここの姉妹校である女子校の生徒だった母さんが試験監督のバイトをした年。受験生として来校した父さんが母さんに一目ボレしたというのが、二人の馴れ初めなのだと聞いていた。
 そんな理由もあってか、母はオレがこの学校に入ることを切望したのだ。
 そうじゃなかったら、母親が自殺した翌日の試験なんか、受けに来ない。
 母さんが最後に望んだ事。そして、生前に約束した事だったから。
 オレが母さんの為にできる、最後のことだったから……。
 あ、やばい。ちょっとブルーになってきたかも。
 でもオレ、なんでか自虐的な事を考えちゃったんだよね。

「ねー、和巳ちゃん」
「んー?」
「例えばさぁ。今、記憶を取り戻したら。オレ今度は、この三日間の事を忘れちゃうのかなぁ……?」

 保健室で目覚めた事とか。高見の優しさとか。和巳ちゃんに慰めてもらった事とか、ドアの向こうで守ってくれてる橋本の事とか。食堂のお兄さんたちがくれた好意なんかも、全部。
 今の、この思いも。
 4ヵ月分の記憶と引き替えに、3日間を忘れてしまうのかな。
 記憶喪失では、よくある事例だって、聞いたことがある。
 失っていた記憶を取り戻した時、記憶喪失だった事実を忘れてしまう……って。
 じゃあ、オレの場合は?
 思い出したくない訳じゃない。記憶を取り戻したいのに。
 時間がかかれば、かかる程。忘れてしまうかもしれない時間も増えていく。
 ほんの短い時間かもしれない。だけど、オレにとっては大切な時間なんだ。
 思い出したい。でも、忘れたくない!

「分かんないよ。忘れちゃうかもしれないけど、覚えてるかもしれない」

 困ったように笑いながら、和巳ちゃんはオレを見つめて言った。
 気休めなのかもしれないけど、その言葉でオレが慰められたのも事実だった。

「僕としては、覚えててもらいたいけどね。……それも、翔吾クン次第かな?」

 後半は呟くようだったから、うまく聞き取れない。

「……え?」

 って聞き返すと。

「真純クンが忘れちゃっても、僕たちは変わらないって言ったの」
「………」

 誤魔化された気がするんだけど。
 でも和巳ちゃんは、二度も言うつもりはないらしく、ニコニコ微笑みながらオレを見つめてる。

「真純クンの髪って綺麗だよねー」

 羨ましい、っていう感じに言われて、驚いた。
 和巳ちゃんの言葉がいきなりだったのもあるけど、何より、そんな風に言われたの初めてだったから。
 だって、この髪のせいで、さんざん苦労したんだ。いや、髪のせいだけじゃない事もあったけど。
 でも。

「オレ、この髪キライだったよ」
「なんでっ!?」

 って、思いっ切り怪訝けげんな顔されても……。
 だって。

「この髪のせいで変な言い掛かりとか付けられる事、多かったから。街で男にナンパされるなんて、まだいい方でさ。毛色が変わってるってだけで、変なヤツに付け回されたり。さすがに、言葉が通じなかった時は、どうしようかと思ったけど。でも、最悪だったのは中学一年の時。生活指導の先生に個室に連れ込まれて、無理矢理髪を黒く染められた」

 しかも、痴漢まがいの事までされて、オレはそれが原因で転校までしたんだ。
 髪の色に限った事じゃない。外見に関することで、良かった思い出なんかない。

「真純クン……」

 声に出さなかった言葉が聞こえたように、和巳ちゃんは泣きそうな目でオレを見た。
 そんな顔をしないでほしくて、オレは微笑んで見せる。
 もう終わった事だから。

「そういうのが原因なのか分からないけど。オレね、中学卒業まで、家族以外の誰かを好きになる事って無かったんだ。でも……ここでは違う気がする……」

 俯いて、言葉を選びながら言った。
 記憶の中のオレは、恋をした事もなければ親しい友人もいなかった。
 でも、ここにいたオレは、違うように思える。4ヵ月間で変わっていたような気がするんだ。
 だって、和巳ちゃんがここにいる。橋本も高見もいる。
 何より、オレ自身が彼らを信用してる。今までのオレなら、絶対考えられない。
 記憶は無くなっても、心は変わってないのかもしれない。そういう事ってあるのかな?
 だから、思い出したい。

「……あのねー。翔吾クンと僕って、同じ中学だったんだー」

 何かを考えるようにしてから、和巳ちゃんはおもむろに話しだした。

「翔吾クンて、昔から人当たり良かったから女の子にモテてさ。しかも、来るものは拒まず去るものは追わずって言うの? さすがに二股は無かったけど、告白されたら付き合うクセに、執着心がまるで無くてさ」
「……嘘。だって水沢会長が、高見の独占欲はただ事じゃないって……」

 高見がモテそうなのは予想ついてたけど。だって、カッコイイもん。
 だけど、執着心が無いって言葉が、水沢会長が高見に言ったセリフと正反対で。オレは思わず呟いてた。
 そしたら和巳ちゃんは、にこっと笑って頷いたんだ。

「うん。高校に来てから変わった。ある人に会ってから、執着しまくりの独占欲の塊。僕なんか、呼び方まで変えさせられたよ」
「は?」

 呼び方? って名前? なんでっ!?

「それまではね、名前を呼び捨てで呼んでたんだ。僕も翔吾クンも。それがいきなり、僕の事は『北原』って名字で。僕は今更名字でなんて呼べなくて、『クン』付け。その理由っていうのがさ」

 くすくす笑いながら、息継ぎみたいにそこで言葉を区切って。

「名前を呼び捨てにするのも、されるのも。ある人に限定したいからなんだって」

 かわいいよね、なんて言いながら和巳ちゃんが更に笑った。
 オレは一瞬、呆然としてしまったけれど。
 すぐに、くくっと笑って頷いた。
 ホント、かわいい。子供みたいだ。
 そう思って笑って。でも、オレの顔から笑みが消えていくのが自分で分かった。
 高見の、その執着の対象が。

「その人が、高見の『大切な人』……?」

 それって、瀬名のこと……?
 そうなんだろうな、と思った。けど。
 和巳ちゃんは何も言わず、ただ微笑んだだけだった。
 その代わり。

「翔吾クンを、知ってあげて」

 って、謎掛けみたいな言葉を。

「和巳ちゃん?」

 『思い出して』ではなくて、『知ってあげて』って言った。
 それは、クラスメイトとして? ルームメイトとして? それとも、友達?
 どういう風に、知ればいい?

「真純クン。ひとつ、教えてあげる。真純クンが記憶をなくす前の夜ね、僕の部屋に泊まったんだ」
「え?」

 泊まったって、昨夜みたいに?
 和巳ちゃんは、オレの聞きたい事を察したのか、黙って小さく頷いてくれた。

「その時、翔吾クンとケンカしたって言ってた」
「ケンカ!?」

 高見とケンカ!? オレが?
 高見が怒ったのかな? いや、可能性としては、オレが勝手に怒ったって方がありそうだ。
 で、オレが部屋を飛び出して、和巳ちゃんたちの部屋に乱入して。

「それで、昨夜みたいに和巳ちゃんに慰めてもらった……?」

 昨夜感じた既視感を思い出して、そう聞いた。
 和巳ちゃんはゆっくりと、だけど大きく頷いて。

(ああ───……)

 心の中で、何かが解けたような気がした。
 何なのかまでは分からない。
 だけど、きっかけになるような気がした。
 思い出すきっかけに、なればいいと。
 不意に、ポツリと頬に冷たさを感じて、空を見上げた。

「雨……?」

 上向いた顔に、ポツポツと何粒かの雫が落ちてくる。

「降ってきちゃったね。濡れないうちに戻ろう……」

 って言ってくれたんだけど、オレは濡れたい気分だったんだ。

「もう少し、頭冷やして行くから。和巳ちゃん、先に戻ってて」
「……風邪ひくよ」

 咎めるみたいに言われて、微笑みだけ返した。和巳ちゃんは諦めるようにため息をついて。

「分かった……。じゃあ、先行くけど。雨がひどくならないうちに戻ってね」

 念を押されて、苦笑しながら頷いた。そのオレの返答を確認してから、和巳ちゃんは橋本が向こう側にいるドアへ向かった。
 少しずつ強くなってくる雨を身体に受けながら、和巳ちゃんの後ろ姿を見送って。ドアの向こうにその姿が消えてから、オレはその場に座り込んだ。
 足を投げ出して、背中をフェンスに預けて空を見上げた。強くなってきた雨のせいで、目を開けていられない。
 痛い程に打ち付けてくる雨を全身で受けながら、オレは考えをまとめようとしていた。
 4日前、オレは高見とケンカをして、和巳ちゃんの部屋に泊まって。その翌日に、高見の目の前で階段から落ちて。
 そして、4ヵ月分の記憶を失ったんだ。
 なんで、階段なんかから落ちたんだろう。
 どうして、ケンカなんかしたんだ?
 その辺のことが、カギになってるような気がしたんだ。
 オレは両手で膝を引き寄せ、そこに頭を押しつけた。
 パニックを起こしかけてるのが自分で分かった。

(違う……)

 ホントはそうじゃない。
 オレは、あれからずっと、落ち着いてなんかなかったんだ。
 保健室で目が覚めてから。高見の名前が分からなかった時から。
 冷静だなんて嘘だ。本当は焦ってた。いつだって、自分に苛立ってた。
 平気なフリをして、自分自身さえ騙してたんだ。
 たぶん、本当に落ち着いていられたのは、あの時だけ。
 そう、ぼんやりと思った時。
 ガチャリとドアが開いた音がして。足音がゆっくりと近付いてきた。ほんの少しだけ目線を上げると、雨の降る中、誰かの足元が歩いてくるのが見えた。
 顔を上げて、その人物の顔を確認して。

「……濡れるよ」

 もう手遅れだろう言葉を言ってやった。
 降り始めからここにいたオレは、服も髪もびっしょりだったけど。それこそ、髪から水滴がぽたぽたと滴るくらいに。
 そして、今来たばかりの高見の身体も。かなり濡れてしまっていた。

「風邪、ひくから。戻ろう」

 差し伸べられた手を見つめて。
 どこか安心している自分を感じながら。

「なあ……4日前のケンカって、何が原因だったんだ?」

 できるだけ感情を出さないようにして聞いた。
 高見が困ったような表情になったけど、オレは視線を外さなかった。

「古城……」
「言ってくれないなら、ここを動かない」

 脅すみたいに言った。
 高見が、オレをここから連れ出したいんだって事を分かってて、そう言ったんだ。
 案の定、高見の綺麗な顔が歪む。
 だけど。

「教えられない」
「……なんで?」

 喘ぐみたいな声になる。
 それでも高見は何も言おうとはしなかった。ただ、辛そうな瞳でオレを見ているだけだった。

「高見……っ」

 責める声は情けなく擦れていた。

「言ったら、お前が困る」
「なに、それ……」
「大したことじゃない」
「なら、教えてくれてもいいだろ?」
「今は言えない」

 今は、って。じゃあ、いつならいいんだよっ!?
 睨んでやったけど、高見はそれに気付いているのかいないのか。オレの腕を掴んで立たせようとする。

「行かないって言っただろっ」

 泣きそうな声で叫んで、振り払った。
 ちくしょ、なんでこんな声になっちゃうんだよっ。

「なら、俺も行かない」

 って、あっさり切り返されて。

「え……?」
「お前が行かないなら、俺もここにいる」

 思いもしなかった言葉が返ってきて、オレは何て言ったらいいのか分からなくなる。

「なに、言って……」

 呆然としてるオレなんかおかまいなしに、高見はオレのそばに膝をつく。
 顎を掴まれて顔を高見の方に向けて固定されて。

「それとも、水沢会長みたいに無理矢理連れて行ってあげようか?」

 水沢会長……って、高見?
 無理矢理って、お前、何言ってんのか分かってんのかっ?
 たぶん、昨日の事を引きずってるんだろうけど、オレは何も言えず、視線を逸らすこともできずにいた。
 雨の中、見つめ合うこと十数秒。
 高見はいきなり、オレの身体を抱き上げやがったんだ。

「うわ、ちょ……っ! 高見……っ!」

 綺麗な顔して、こいつ意外に腕力あるんだよ。
 もろお姫様抱きにされて、オレは怒りよりも恥ずかしさを覚えた。手足をバタつかせて抵抗しようとしたら。

「じっとしてないと、落とすよ」

 って脅かされて。オレは仕方なく抵抗を諦めた。しかも、バランスを取るために高見の首にしがみつく形になってしまう。
(軽々と抱き上げんなよなーっ!)

 小柄とはいっても、同じ男であるオレを平然と抱き上げて歩きだした、高見の顔を窺いながら。

「このまま部屋まで行くの……?」

 って聞いたら、高見はオレを抱いたままで器用にドアを開けて中に入って、微笑んだ。

「もちろん」
「やだよ、恥ずかしいだろっ!? 下ろせよっ!」

 二人してずぶ濡れなのに、こんな格好で歩いてたら、何言われるか分からないじゃないかっ!

「下ろしたら逃げるでしょ?」
「当然だろっ!?」
「だからダメ」
「………っ!」

 淡々と答えられて言葉を失った。
 ちくしょう。キスの後、初めて顔を合わせて、気まずく感じてるのはオレだけかよっ。
 誰かに見られるのが恥ずかしくて、オレは高見の胸に額を押し付けて顔を隠していた。
 部屋に着いたら、オレはそのままバスルームに連行された。濡れたシャツのボタンに手をかけられて、慌てて制止する。

「自分でやるからっ」

 高見はすんなりと動きを止めてくれて。

「ちゃんと温まってね。それから、鍵はかけないでおいて。後から着替えとか用意して入れてあげるから」

 って、忠告というか注意をされた。
 オレがコクコクと頷くのを確認してから、高見はバスルームを出ていく。
 濡れちゃって脱ぎにくい服を脱いで、すっかり忘れてた包帯を外して。温かいシャワーを浴びた。
 夏の雨だからってバカにはできない。
 けっこう長い時間、雨に打たれていたせいで、オレの身体はかなり冷えてしまっていたんだ。
 身体を洗っている時に、高見がドアを開ける気配がして。すぐに閉まって、着替えを持ってきてくれたんだと理解した。ソープの泡を流しながら、薄くなってきた身体中のアザを見て。

「あー、痛みもかなり引いたよな……」

 と呟いた。
 アザの色も引いてきたし、触ってもそれほど痛まないし。すり傷もほとんど治ってるしさ。頭のこぶも大丈夫。
 後は……。

「記憶だけなんだけどなぁ……」

 ため息混じりに呟いた。
 高見の言い付けを守って、しっかり温まりながら。

「なんで、階段なんかから落ちたんだろ」

 濡れた髪を両手で撫で付けるようにしながら考えた。
 どう考えても、階段落ちして全身打撲なんて納得できない。
 そこまで運動神経鈍くない、と思う。
 何かに気を取られてたとしか思えない。

(高見……だよな。たぶん)

 ケンカしたっていう話だしさ。
 ちゃんと話した方がいいんだろうな、きっと。
 和巳ちゃんが言ってた、『翔吾クンを知って』っていうの、こういう事かな?
 そうは思ってもさ。
 はぁーっと、ため息をついて。
 迷っていても、何も進展しないっていうのは分かってるんだけど。
 のぼせる前に立ち上がって、伸びをした。
 高見が用意してくれた着替えのシャツに腕を通そうとして、不意に鏡に映った自分の姿が目に留まった。
 違う。正確には、首筋。
 小さな、鬱血したような痕がある。
 なんだろうと思って、そこへ手を持っていって。指で触れたその場所に、覚えがあって青ざめた。

(あ……っ!)

 昨日の。

(水沢会長がつけたキスマーク!)

 やばい……。
 『あの野郎、よくも』って思いもあるんだけど、それより更に、『やばい!』って思いの方が大きい。
 だって、これけっこう目立つ!
 服の襟とかに隠れない位置なんだよ。オレは今気付いたけど、高見とかは昨日の段階で絶対に気付いてるっ!

(和巳ちゃんが、何があったか見当つくって言ってたのは、これか……)

 オレとしては隠してたはずなのに。これじゃ、バレバレじゃん。
 あー、もう……。なんで気付かないかな、オレ。
 オレはタオルを頭からかぶってバスルームを出た。
 もうバレちゃってるんだろうから、無駄だっていうのは分かってるんだけどね。
 最後の悪足掻きっていうか。気付いちゃったら、オレ自身が恥ずかしいワケで。
 なるべく、キスマークが目に付かないようにしたかったんだ。
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