魔王のいない世界で勇者になるには

蛍雪月夜

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3-3 商隊の役割

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大きな教会に通され一息つく。

門から続く一番大きな道を真っ直ぐに進んだところにそびえ立つこの教会は、村の中心地に位置しているようだった。

壁画やステンドグラスには装飾の美しい剣を持った金髪の少年が描かれていた。高い技術力を伺わせるそれらは、どれも、この村と不釣り合いなほどきらびやかだった。

礼拝堂には、可動式の長椅子が並べられていた。

夜までにはこれらを片付け、商隊はこの礼拝堂に滞在する。

カパーは何人かの村人の記憶を覗き、現状の確認をしていった。

カパーと見つめ合った者達は、皆、青い顔をして座り込んでいく。

「やはり作物は育ちませんか……。厳しいですね。魔法を使える者も年々減ってきている……。水や食料を得ようにも奴らが居ては、そうやすやすと外には出られない……。ですか。」

今回もここに滞在する間にできるだけ奴らの数を減らしましょう。と約束し、食料を村長に売り渡した。

「隊長さん、ここに来る回数を増やすことはできないのですか……?正直今のままでは飢え死ぬ者が出る……。」

この村の村長が、カパーに詰めよった。紺色に染められた踝までの装束には襟元と袖口に見事な刺繍がしてあった。これらの刺繍はこの村の大事な財源となっている。

「そうしたいのは山々なのですが……。ですが、そうですね。勇者様に1度打診してみましょう。」

カパーはそっと一歩下がった。

「本当ですか……!?ありがたや……!ありがたや……!勇者様ならきっとなんとかしてくれます!どうか……!どうかよろしくお願いいたします!」

「えぇ。勇者様ならばきっと……。」

彼は、袖から出した扇でさりげなく口元を隠しした。

ウッドが見るともなしに村長とカパーのやり取りを見ているとリンクスが話しかけてきた。

「ここの村さ、もともと壁とかなくて、ここいらの平原を遊牧民みたく移動してたんだよ。でも、あのトカゲ共の被害が酷くてさ。カムペっていうんだけど……」

100年程前、彼ら遊牧民の嘆きを知った初代勇者が、草原に光の障壁を作り、いくつかのセーフティスポットが誕生した。

その後、勇者の加齢とともに光の障壁は消えていき、最後に残ったこの地に物理で壁を作りセーフティスポットとした。

しかし、一ヶ所に留まることとなった結果、あのように待ち伏せされるようになったのだとか。

カムペの撒き散らす毒により大地は枯れ、作物は育たない。定期的に商隊が寄り、魔法で畑の浄化や戦闘訓練等を行い村人のサポートをしてきたが、それもそろそろ限界がきているようだった。

「何より元々遊牧民だった奴らをひとところに留まらせるのは、彼らを死なせるようなものだよね~。

今の勇者様じゃ光の障壁なんてできないだろうし……どうせまた、一時凌ぎを作るだけなんだけどね~。

ま、そうだとしても、村人を勇気づけるのも俺たちの役目だからさ。悩み事とか聞いてやって。」

そう言ってリンクスは広場の方に歩いていった。

教会の前にある広場では小さなお祭りのようなものが開催されていた。

広場の中心には、人の背丈ほどの高さの焚き火が組まれ、その周りでは様々な料理が広げられている。

焚き火を囲み皆が笑い合っている様は、ウッドにとっては初めての光景だった。

「商隊が来るとさ、こうやって皆でご馳走食べて、バカ騒ぎして、また頑張ろー!って鋭気を養うんだって。

商隊の皆さんようこそ~。っていう意味もあるんだろうけど。俺たちの存在が節目になってるんだよ。」

弦楽器や笛の陽気な音色が聞こえてきた。男女で手を取り合いダンスを楽しむ者たちもいる。

さ~て、俺もたまには真面目に働くかぁ~と伸びをすると、リンクスから魔物が消えていった時と同じ光が立ち上った。

「リンクスだ!!!ネコさんやるの!?!?みたいみたい!!!」

リンクスの光を見て村の子ども達が集まってきた。

「ネコさんじゃなくてヤマネコな!」 

まぁ、似たようなもんだけど……等といっているうちにリンクスの姿が変わっていく。

爪は鋭く、牙が生える。耳は顔の横ではなく頭の上へ現れた。長くしなやかなしっぽはヤマネコそのものだった。

「リンクス……魔法使えるのか!?」

「魔法……つっても、変身魔法と身体強化だけな。今回みたいな毒を撒き散らす奴らとは相性悪くてさ……戦闘じゃ役立たずなんだわ。まぁ、だからこそできることもあるわけなんだけど……。」

すると今度は武器を持った男達がぞろぞろとやってきた。

「リンクス!今日こそ仕留めてやるぜ!特訓の成果を特と味わいやがれ!」

「言うねぇ。いいぜ!来いよ!一太刀でも浴びせられたら好きなもん食わせてやんよ!」

リンクスが挑発するようにクイクイっと人指し指を上下させると、彼めがけてひゅっと剣が振り下ろされた。リンクスは軽く後ろに飛びかわす。

すると躱したさきには、別の男が槍を構えて待っていた。リンクスは片手で槍を掴み、軸にするとテコの原理で男を弾き飛ばした。

人間離れした身軽さで次々と男達を薙ぎ倒していくリンクス。時折身体の一部から光が立ち上り、驚異の身体能力を見せつけた。

おらおらおらおら!どうしたどうした!そんなんじゃ、一太刀どころか指一本俺に触れねぇぞ!とリンクスが吠えると、まだまだ!と男達が立ち上がる。

「言っただろうが!魔物相手に一対一で勝てると思うな!頭を使え!束になってかかってこい!俺に勝てねぇようじゃ、一生外になんか出らんねぇぞ!」

そう言いながら、一合二合と爪で剣を受け流す。死角からの突きを軽く身を捩って躱すとその勢いのまま相手の男を蹴りあげた。

どれほどの時間がたっただろうか。リンクスも男たちも肩で息をし、汗で髪が顔に張りついていた。

「本日の訓練は以上!各自明日までに反省点をあげてくるように!……なんてな!

連携良かったぜ!相当訓練したんだな!扱える武器の種類も増えてたし!すげぇよ!」

リンクスが嬉しそうな声をあげると、ぱっ!と男達の顔が明るくなった。

「やることなくて暇だったからな!」

「暇なわけないだろう!」

「もっと誉めてくれたっていいんだぜ!」

と男達は口々にリンクスにこれまでの日々を話し始める。

「まてまてまてまて。話なら後で聞くから!いっぺんに話すな~。」

リンクスと男達の会話を眺めていたが、ウッドはそっとその場を離れた。その場にいるのが、なんだか、少し、違うような気がして。

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