魔王のいない世界で勇者になるには

蛍雪月夜

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8-1 祭りの役割

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「リンクス!!!カムペがでた!畑のところ!!!」

ウッドは息も絶え絶えに広場へ走ってきた。

戦場を離れる際、カムペは皆、少女を囲みジリジリと距離をはかっていた。

村人達はやつらの出てきた穴から離れた位置で息を殺し、じっとしている。

全ての村人がある程度離れるまで、少女は声を上げながら派手に立ち回り、カムペの気を引いていた。

「こちらですよ。」

カムペが村人へ意識を向けるとヒラリと少女が視界を塞ぐ。

「余所見は赦しません。」 

振り上げられた蠍の尾は、少女の声に反応し、村人ではなく、少女へと振り下ろされた。

「あなた達の狙うべきは私でしょう?」

ヒラリヒラリと少女を乗せながらも軽やかに躱すルウォ。

少女が祝詞を唱えるとユニコーンの身体が光に包まれる。光に包まれたユニコーンは、トントントンと、カムペを踏み歩いた。

彼に踏まれたカムペは刻印が刻まれ、やがて光に蝕まれ、消えてゆく。

カムペを消せるのはルウォだけではなかった。

少女は、祝詞を唱え言霊を両手に溜めるとふぅ~っと息を吹き掛けカムペ目掛けて吹き飛ばした。

彼女の唱えた言霊がふわふわと宙に浮きカムペの上へ降り注ぐ。

言霊にあたったカムペはルウォに踏まれた時と同様に光に蝕まれ消えていく。

ウッドは少女と同じくカムペの近くにいたが、彼らは何故か少女ばかりを狙っていた。

まるでウッドが見えていないかのように。

ウッドが初めてカムペと対峙した時よりも、より狂暴に、より獰猛に、より理不尽に少女へと襲いかかっているようにさえ見えた。

「早く!行って!私だけでは時間稼ぎしかできないの!!!」

少女の言葉に呼応するようにルウォのしっぽがウッドの背中をバシッと叩いた。

彼女の戦いに魅入ってる場合じゃない!ウッドは広場目掛けて走り出した。

広場へ行くには、カムペの出てきた穴のすぐ横を通らねばならない。

緊張で足が震える。それでも、勇気を振り絞り全速力で駆け抜けた。 

覚悟を固めたわりには、意外にもあっさりと通れてしまった。 

思っていたよりもずっと早く走れてしまったのもあるだろうが、それ以上に、カムペは少女に狙いを定めていた。

広場迄はかなり距離がある。間に合うだろうか。いや、間に合わせなくてはならない。  

ウッドは全力で走った。いつもよりなんだか力がわいてくる。身体が軽い。これが基礎トレの成果なのだろうか。

今ならどこまででも走っていけそうな気さえした。

この時間ならみんな、広場にいるはずだ。焚き火を囲み食事をしているだろう。

もしかしたら討伐部隊も帰ってきてるかもしれない。そんな淡い期待を胸に走った。



「ど~したよ?そんな慌てて~」

夜闇の中でも、彼のトパーズの瞳はすぐに見つけられた。

焚き火の炎にも、松明の灯りにも、負けないその瞳を、大きく見開きながら、真っ黒な彼は問うた。

今日も広場では人の背丈ほどに組まれた焚き火が豪快に燃えていた。

ウッドの表情を見て、いつもの呑気な声が少し慌てている。

「リンクス!!!カムペでた!畑のところ!!!」

ぜぇぜぇと息も絶え絶えに報告する。

「またか……。何匹くらいでた?」

「わかんない……。たくさん。」

「たくさん……?それ、どんな状況だよ……。」

「今、ルウォとエイルが戦ってる」

「は?エイルが!?あいつじゃ時間稼ぎにしかならねぇぞ!?」

バッとリンクスの表情が変わる。

「まずいな……今日はまだ、討伐部隊が帰ってきてないんだよ。

とりあえず、待機部隊にこの事を伝えて向かってもらう!お前は隊長を探しだして報告しろ!いいな!」

リンクスは手短に指示を出すと礼拝堂の方へ走り出した。



カパーさんを探さなくては。リンクスの指示に従い歩き始める。そうは言ってもどこにいるのか皆目検討がつかない。

急がなくてはいけないのに、どうしたらいいんだろう……。

頭を抱えると、ふと、脳裏に村の木門が浮かんだ。

「行かなきゃ……。」

ウッドは何かに導かれるように門の方へと走り出した。

少女は無事だろうか?間に合うだろうか。
走る。とにかく走る。今の自分にできることはそれしかないのだ。

無力な自分が腹立たしかった。

畑からここまでかなりの距離を走ってきたと思う。だが、不思議とまだ身体が軽い。まだ走れる。


門が見えてきて心臓が跳ねた。よかったここまで来ればカパーさんに会える!何故かそんな気がした。

あと、ちょっと!もうひとふんばり!

ラストスパートとばかりに限界いっぱいに速度を早めた。

ついた!カパーさん!と声かけるも、誰もいない。

「カパーさん?カパーさん!カパーさん!!」

何度も呼んだがやはり返事はない。

何故ここに来てしまったのだろうと恥ずかしくなった。

何故かはわからないが根拠のない自信があったのだ。

急いで戻ろうと門に背を向けたが、ぐいっと背中を引かれたような気がして振り返る。

そこには誰もいない。なんだったんだろう……?なんて立ち止まって考えていると、ギギギギギと重い音がして徐々に門が開いていった。

討伐部隊の帰還だ。

部隊の先頭を率いているのは待ちわびた姿だった。

栗毛の馬に跨がり白い外套を目深にかぶった彼に駆け寄る。

「カパーさん!!!」

「おっと!いきなり馬の前に飛び出してくるなんて……。どうしましたか?何かあったのですね?」

カパーは飛び出してきたウッドを避けるように手綱を捌き、馬を止めた。

ぐっとウッドを覗き込むと、大層なものをつけていますねと、笑った。

「エイルが戦っているのですね?それで討伐部隊に救援を?」

カパーはウッドに手を伸ばし馬上へ引き上げた。

おかしいな……まだ、何も言っていないのに……。赤い目で見つめられた記憶もない。ウッドは馬上へ上がりつつ首をかしげた。

「ここでは部隊の妨げになりますね。詳しいことは後程伺います。場所は?」

ウッドを自分の前に乗せ、馬を進ませる。

討伐部隊の面々は次々とカパー達を抜き、大通りを駆けていった。

「一番大きい畑だよ。奥の方にあるやつ!」

「そうですか。この事は他には?」

「リンクスが知ってる!お前は隊長を探せって言われたよ。」

「では、待機部隊は既に動いていると見ていいでしょう。」

わかりました。とカパーは思案するように沈黙する。やがて、声を張り上げた。

「カムペが村内にでたようです!余力のある方は10騎程ワタクシに続いてください!残りの者は回復しつつこちらで待機を!エイルが戦闘中です!」

少女の名前が出たとたんにザワッと周囲が乱れた。

「隊長、御供します。」

黒馬に乗った騎士がカパーに並んだ。

「私も、連れていってください」

大鹿に乗った青年もカパーの背後についた。

魔獣使いビースターでもよろしければ」

サラマンダーに乗った少年も加わった。

「よろしい。急ぎますよ!」

カパーは一気に加速した。



問題の畑に戻ると既に大勢の人間が戦っていた。

「リンクス!!!」

カパーが声を張り上げると程なくして黒い影がシュタッと現れた。

「状況は?」

「エイルはまだ耐えていますが、量が多いのでなんとも。待機部隊30名を総動員していますが、実質戦っているのは10名ほど。残りは村人の避難に割いています。」

まるで知らない人みたいだった。真っ黒い彼が、こんなにも、温度のない声を出すなんて知らなかった。

いつも、彼の居場所を教えてくれるトパーズの瞳も、冷たく見えた。

「よろしい。そのまま村人の避難を最優先に。どうせ村人らが散れば消えるのです。対カムペ戦闘は彼らに任せましょう。我々はエイルを連れていきます。」

そういうと、カパーはウッドの腕を軽く叩いていった。

「ルウォを呼んでください。貴方にしかできないことですよ。」

突然のことに全く頭がついていかないが、ひとまず呼んでみた。

オレにしかできないって……どういうこと……?

「ル……ルウォ~……ルウォ?」

「もっとしっかり。自信をもって。ちゃんと彼を求めてください」

「……。ル…ルウォ~!!!ルウォ!!!来て!!!」 

自信を持ってといきなり言われても困る……が、やるしかない。腹を決めて叫んでみる。ルウォに届くようにしっかりと。すると、ぽわっと身体が暖かくなった。

ぽわぽわと少しずつ自分の身体から、白銀の光が漏れだし始めた。

やがて、ドドドッドドドッという、聞きなれた音がして、ルウォが姿を現した。 

いや、あいつ本当にルウォか……? 

いつも、眩いほど白く輝いているルウォの身体が薄黒く汚れている。

ブチ模様だったかな?と、思うほど黒くなっている部分すらあった。

ルウォが嘶きながらクイッと首を上下に動かすと、カパーは馬の首を、もと来た方へ巡らせた。

「行きましょう。あまり時間がないようだ。」

ルウォを先導するようにカパーが走り始める。全速力でとばしているようだがそれでも魔獣の速さには叶わない。

追いつかれ、抜かされた。

「ヘリオス!我々では追いつけません。先導を!」

「おまかせを!」

サラマンダーに乗った少年は「はっ!」とサラマンダーに拍車をかけると、あっという間に見えなくなった。

魔獣使いビースターの皆さんは、ヘリオスに続いてください。ルウォが我々を抜いていったということは、間に合わない可能性が高いでしょう。」

そう、言いきるか言いきらないかのうちに、遠くで火柱が上がった。

「間に合いませんでしたか。」

その後、空に向けて2回火の玉が上がった。

「進むそうです。我々は片付けを。」

馬を進めていくと、焦げ臭いにおいが漂ってきた。住宅街にも関わらず、周りが焼き焦げている。地面にはカラッカラの炭が落ちていた。ウッドと同じくらいの大きさはありそうだ。

「ヘリオス……市街地では魔法は控えめにと……。いえ、彼なりに村の被害を考えてのことなのでしょう……。みなさん、準備はいいですね?」

そういうと、ずるっずるっという音と共にカムペが現れた。いや3~4匹はカムペだが、あとの数匹はカムペですらない。

黒いグッチゃっとした影だった。

「隊長。ここは私だけで十分です。お先へ」

黒馬に乗った騎士が進言した。彼は既に刀を抜いている。

「えぇ。任せましたよ。3分差し上げますから、追い付いてくださいね。」

「片付けるには申し分ないですが、隊長の馬に3分で追い付けとは、無茶を仰る。ですが、やってみせましょう。」

騎士は、ニヤリと笑うと、馬を駆り立てた。

騎士に続いてカパー達も馬を進める。サービスですよ。とカパーが呟くとカムペ達は一瞬だけ動きを止めた。その隙に騎士がカムペを一気に仕留めるのが見えた。

そこから先は、転々とカムペが落ちていた。まるで、穴の開いた袋が通ったかのように転々と。

カパーについてきた騎士達は1騎、また1騎とカムペ討伐のためその場に残り、隊列から外れていった。

やがて、村の出入口まで来ると、カパーは木門を開け外へ飛び出した。

門の外では大量のカムペとカムペのなり損ないが、討伐部隊と戦っていた。

カムペの中心にいるのはエイルだ。

エイルとルウォがカムペを生み出していた。

「なんで……?」

だって……エイルも、ルウォも、味方……だよね?モンスターを倒してたよね……?

今、目の前でモンスターを生み出している彼女は……何???

ウッドには訳がわからなかった。少女の身体から次々と黒いもやが現れ、やがて、カムペの形を成す。

ぽろり、ぽろり、と、彼女の身体から現れるカムペは討伐部隊のみんなを無差別に襲っていた。

「彼女は穢れを祓う力があるとされていますが、その実、彼女の持つ力は穢れを吸い取る力なのです」

カパーはフードを外しつつ答えた。大勢の前でフードを外している姿にウッドは驚いた。

「多少であればルウォの加護で浄化されますが、カムペとの戦闘は彼女らのキャパシティを越えるものだったのでしょう。

受け止めきれなかった穢れは、このように外へ解き放たれます。彼らを止めるには全て吐き出してもらう他ないのですよ。」

カパーは狐のような細い目を開き、赤い目が現れる。爬虫類を思わせる大きな口は口角が上がっていて始終笑っているように見えた。

「行きますよ」

そういってカパーは馬の腹を蹴ると、戦場のど真ん中に繰り出した。

深紅の髪と赤い耳飾りが揺れる。突然現れたカパーを仕留めようとカムペ達はカパーを仰ぎ見た。その瞬間カムペ達の動きが止った。

その隙に他の者らが片っ端から切り伏せていく。

「名前を呼んで!」

カパーがウッドに鋭く指示を出す。

「カパー……さん……?」

「ワタクシではなく!!!」

「ル……ルウォ……?」

「……。……。」

カパーは、お気付きではなかったのですね。と、いうと馬を操りながら続けた。

「いいですか、貴方には今、ルウォの加護がついています。ユニコーンの加護には様々な効果がありますが、その中でも浄化の力を使っていただきたいのです。」

「浄化の力?」

「穢れを祓い、穢れから守る力です。今、彼女らは闇の中にいます。名を呼び、貴方が道標となるのです。できますね?」

「わかんないけど、わかった!!!オレやってみるよ!」

「その意気です。では、戻りますよ!」

カパーは広範囲に広がるカムペ達に満遍なく術をかけていたが、ウッドの決意と共に中心地へと戻ってきた。

「ルウォ!!!エイル!!!」

ウッドが2人の名を呼ぶとぽわぽわとウッドの身体から白銀の光が漏れだし始めた。

「続けて!!!」

カパーは手綱を裁きながら、カムペ達の動きを封じている。

「ルウォ!!!エイル!!!こっちだよ!!!帰ってきて!!!」

ウッドの身体から出た光がルウォの身体に触れると、黒いもやの色が一瞬薄くなった。

ルウォはブルブルと身震いし、苦しそうに首をふった。こちらをギロリと睨み付ける。

頭を下げ、しっかりと角をウッドの心臓へ向けると、ひとっ飛びで懐へ飛び込んで来た。

「くっ!!!」

カパーが手綱を引き愛馬をいきり立たせる。嘶きながら前肢を高く上げた栗毛の相棒は、カパーの思惑通り下からルウォの気道を強かに蹴り上げた。

ゆらりとルウォの巨体が揺れ身体からカムペが溢れ出る。

「カスターニア!!!」

主人の声に下ろしかけていた前肢を無理矢理持ち上げ、身体を捻ってカムペを躱す。

カパーは、栗毛の相棒がカムペの毒に触れなかったことに安堵しつつその場から距離を取った。


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