人狼さんの封印といた

ぼたにかる

文字の大きさ
6 / 24

6・人狼の治療

しおりを挟む

私は子供みたいにわあわあ泣いた。
エントさんはただただ優しく抱き締めて柔らかい声で労ってくれた。
私の一挙手一投足すべて嘲笑っていた人間の男達とは大違い。
あいつらは恐い。
思い出すだけでも震えが止まらない。
もうエントさんに殺されちゃったのにまだ恐い。
でも、エントさんがもうおしまいって言ったから。
出来るだけ忘れられるように頑張ってみよう。

こんな恐怖、きっとすぐに薄れるはず。
……が恐いとか、思わなくなるはず。
平気。平気。
平気だって、思わなきゃ。


「…………そう言えば左頬が痛くない」
「うん。もうそこの傷は完全に癒えてますよ。傷跡一つ残ってません」
「えええぇ?? あんなにザックリいってたのに??」
「人狼の僕が舐めて癒やしたのだから当然です。ホラ、ご覧なさい」

エントさんはどこからか手鏡をひょいと取り出して、私の前に差し出してくれた。促されるまま手鏡の中をのぞき込む。

「…………本当だ」

黒髪黒目、いつも通りの私の顔だ。
傷跡なんてなんにもない。
あんなに穢らしくこびり付いていた血も精液も綺麗さっぱり拭って貰っていて、昨日の私と同じに見える。酷い目に遭った事なんてちっとも無かったかのような、考え方が歪む前の私と全く同じに見える。
いや、心なしかお肌が前よりモッチモチで綺麗になっているような。
ちょっと美白になったような?
まさかエントさんの唾液の効果? いやまさかね。
でも私お肌のお手入れとかあんまり興味なくて、カッサカサの荒れまくり肌だった。でも今は、私の肌とは思えない感じの美肌になってるよなあ。こんなに綺麗な色白美肌じゃなかった筈だよねえ。
人狼の唾液まさかの万能美容液か?? や、逆に恐いわ。
例えそうだったとしてもまあ、悪い事じゃないから深く考えるのは止そう。

「フーカの瞳は神秘的ですね。濡れたような吸い込まれそうな美しい黒。ずっと見つめていられそうです……」
「えええ?? 私の国には腐るほどいますよ黒目なんて。私の目なんかよりエントさんの瞳の色の方が綺麗じゃないですか。抜けるような青空みたいな綺麗な青で」
「僕の瞳なんて、この地方ではそこら辺にぽこしゃかいますよ。フーカの瞳の方が美しいです。でも金狼はちょっとレアですけどね」
「金色……キツネ……」
「オオカミです!」

エントさんはちょっとぷんすかしながら、尻尾をパッタパッタと敷布に叩き付けつつも、私の髪を優しい手つきで撫でている。

「髪も、こんなにツヤツヤと輝く黒い毛並みは初めて見ます。フーカはどこもかしこも美しいですねえ……」

眼鏡越しの美しい青の瞳をうっとりとさせながら囁いてくる。

「美の化身みたいなエントさんに言われても」
「! 僕はフーカにとって好ましい外見ですか? だったら嬉しいです」

にこにこと満面の笑みで尻尾を振るエントさん。
揺れる尻尾にぴこんと機嫌良く立っているオオカミ耳を見ると、強ばりがちな心がふうっと、ほどかれていくる感覚がする。
だって三角の耳は人間にはない。尻尾があるなら人間じゃない。
だから私は安心できる。

「有り難うございますエントさん。私の血なんて美味しくもなかったでしょうに、治療のために気持ち悪いモノ舐めさせてすみません」
「フーカの血は甘くて美味しかったですよ? 大変心満たされました。そんな事より、まだ何処か痛むところはありませんか?」
「甘いんだ……私の血……。ええと、痛いところは全くないです。右肩も、おおお凄い完治している……!」

私は槍に突き刺されたばっかりだった筈の右肩をくるんくるんと回転して見せた。一ミクロンも痛くない。

「凄すぎる。人狼の唾液万能か」

私の上げた感嘆の声にエントさんは眉をハの字にさせて哀しそうな表情を浮かべた。オオカミ耳はぺたんと伏せられ、尻尾もしゅんと大人しくなる。

「フーカの言うように万能だったら良かったんですけど。ごめんなさい。残念ながら違ったのです」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。

汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。 元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。 与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。 本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。 人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。 そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。 「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」 戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。 誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。 やわらかな人肌と、眠れない心。 静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。 [こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

淫紋付きランジェリーパーティーへようこそ~麗人辺境伯、婿殿の逆襲の罠にハメられる

柿崎まつる
恋愛
ローテ辺境伯領から最重要機密を盗んだ男が潜んだ先は、ある紳士社交倶楽部の夜会会場。女辺境伯とその夫は夜会に潜入するが、なんとそこはランジェリーパーティーだった! ※辺境伯は女です ムーンライトノベルズに掲載済みです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...