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6・人狼の治療
しおりを挟む私は子供みたいにわあわあ泣いた。
エントさんはただただ優しく抱き締めて柔らかい声で労ってくれた。
私の一挙手一投足すべて嘲笑っていた人間の男達とは大違い。
あいつらは恐い。
思い出すだけでも震えが止まらない。
もうエントさんに殺されちゃったのにまだ恐い。
でも、エントさんがもうおしまいって言ったから。
出来るだけ忘れられるように頑張ってみよう。
こんな恐怖、きっとすぐに薄れるはず。
……が恐いとか、思わなくなるはず。
平気。平気。
平気だって、思わなきゃ。
「…………そう言えば左頬が痛くない」
「うん。もうそこの傷は完全に癒えてますよ。傷跡一つ残ってません」
「えええぇ?? あんなにザックリいってたのに??」
「人狼の僕が舐めて癒やしたのだから当然です。ホラ、ご覧なさい」
エントさんはどこからか手鏡をひょいと取り出して、私の前に差し出してくれた。促されるまま手鏡の中をのぞき込む。
「…………本当だ」
黒髪黒目、いつも通りの私の顔だ。
傷跡なんてなんにもない。
あんなに穢らしくこびり付いていた血も精液も綺麗さっぱり拭って貰っていて、昨日の私と同じに見える。酷い目に遭った事なんてちっとも無かったかのような、考え方が歪む前の私と全く同じに見える。
いや、心なしかお肌が前よりモッチモチで綺麗になっているような。
ちょっと美白になったような?
まさかエントさんの唾液の効果? いやまさかね。
でも私お肌のお手入れとかあんまり興味なくて、カッサカサの荒れまくり肌だった。でも今は、私の肌とは思えない感じの美肌になってるよなあ。こんなに綺麗な色白美肌じゃなかった筈だよねえ。
人狼の唾液まさかの万能美容液か?? や、逆に恐いわ。
例えそうだったとしてもまあ、悪い事じゃないから深く考えるのは止そう。
「フーカの瞳は神秘的ですね。濡れたような吸い込まれそうな美しい黒。ずっと見つめていられそうです……」
「えええ?? 私の国には腐るほどいますよ黒目なんて。私の目なんかよりエントさんの瞳の色の方が綺麗じゃないですか。抜けるような青空みたいな綺麗な青で」
「僕の瞳なんて、この地方ではそこら辺にぽこしゃかいますよ。フーカの瞳の方が美しいです。でも金狼はちょっとレアですけどね」
「金色……キツネ……」
「オオカミです!」
エントさんはちょっとぷんすかしながら、尻尾をパッタパッタと敷布に叩き付けつつも、私の髪を優しい手つきで撫でている。
「髪も、こんなにツヤツヤと輝く黒い毛並みは初めて見ます。フーカはどこもかしこも美しいですねえ……」
眼鏡越しの美しい青の瞳をうっとりとさせながら囁いてくる。
「美の化身みたいなエントさんに言われても」
「! 僕はフーカにとって好ましい外見ですか? だったら嬉しいです」
にこにこと満面の笑みで尻尾を振るエントさん。
揺れる尻尾にぴこんと機嫌良く立っているオオカミ耳を見ると、強ばりがちな心がふうっと、ほどかれていくる感覚がする。
だって三角の耳は人間にはない。尻尾があるなら人間じゃない。
だから私は安心できる。
「有り難うございますエントさん。私の血なんて美味しくもなかったでしょうに、治療のために気持ち悪いモノ舐めさせてすみません」
「フーカの血は甘くて美味しかったですよ? 大変心満たされました。そんな事より、まだ何処か痛むところはありませんか?」
「甘いんだ……私の血……。ええと、痛いところは全くないです。右肩も、おおお凄い完治している……!」
私は槍に突き刺されたばっかりだった筈の右肩をくるんくるんと回転して見せた。一ミクロンも痛くない。
「凄すぎる。人狼の唾液万能か」
私の上げた感嘆の声にエントさんは眉をハの字にさせて哀しそうな表情を浮かべた。オオカミ耳はぺたんと伏せられ、尻尾もしゅんと大人しくなる。
「フーカの言うように万能だったら良かったんですけど。ごめんなさい。残念ながら違ったのです」
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