漆黒帝と呼ばれた男 ~異世界から来たのでステータスやスキルはありませんけど、こちらには科学文明の力があるので最強です~

ねこのにくきう

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第一章 謎の組織、異世界へ行く

悪事11 謎の組織、盗賊(笑)を蹴散らしてみる

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 全身黒タイツの変態が目の前に現れる。
 その時の衝撃は、心中を察して余りあるだろう。合掌。

(スキャン開始……終了)

 更に、襲う予定だった男がいきなり現れたことに、商人風の男たちはかなり面食らった様子だったが、とりあえず話を合わせる様にした。

「え、ええ、本当にいい天気ですね。絶好の商売日和ですよ。私たちは休憩中ですけれど、あなたはどうされたので?」

(商人と言う割には積荷無し、元素反応は鉄がたくさんで銀が微量か。馬車の中身は仲間かな? そちらにも鉄の反応か。これで何をどう商売する気だか……ニッグが聞いた通りで当たりかな?)

「君たちは、私を襲いに来た愚か者たちということで、いいんだよな? いや、別に答えなくてもいいよ、わかっているから。が欲しいんだろ?」

(こいつら初めから全然隠す気ないだろ……普通に話し合いたいだけなら、護衛を回り込ませようとするとか悪手以外の何物でもないぞ。商人風1、護衛風4、馬車に5か)

「……そこまでわかっていて、のこのことやってくるとはバカなのか? それで竜の子供はどこにいる? 大人しく渡せば命は助けてやろう」

 先ほどまでニコニコと気味の悪い愛想笑いを浮かべていたのに、急に人相が悪くなった商人風の男は盗賊さながらの脅し文句を吐き、同時に馬車の中から武器を持ったチンピラ風の仲間が飛び出してきた。

「待て待て、交渉事はそう急ぐものじゃない。焦っていては相手に足元を見られるぞ?」

「お前、この状況で気は確かか? まぁいい、身体に聞けばいいだけの話だ。おい、殺さない程度に痛めつけろ」

 それぞれが剣を持って、意気揚々と襲い掛かってきた護衛風の男たち4人。荒事には慣れていて、今回の相手は1人、しかも丸腰なのだから楽勝な仕事であった。いつもならば。

 棒立ちの『統領』に向けて振り下ろされた凶刃。
 しかし、それは身体に当たる前に、彼の右手によって遮られた。と同時に、攻撃した護衛風の男の身体がグラリと揺れて地面に落ちる。

「へ?」

 その現実離れした光景に、商人風の男からマヌケな言葉が口から洩れる。
 続く2人目、3人目、4人目も同じように武器を『統領』に献上して倒れていく。
 ほんの20秒ほどの間に4人が倒された。しかも、どうやって倒されたのかが全く分からないことで周囲に動揺が広がっていく。

「うむうむ、これは危なかった。危うく切り殺されるところだったよ」

「おい! 話が違うぞ!? こんなに強いやつだなんて聞いてない!」

「泣き言を言っててもしょうがないだろ! やればいいんだよ、やれば! 早く行け!」

 チンピラ風の男たちがやけくそになって襲い掛かるが、結果は同じことだった。
 『統領』は、その場から1歩も動かず、チンピラ風たちの武器を回収してお昼寝会場を作り上げる。

(このチンピラ風の男たちは金で雇われたようだな。護衛風の男たちも同じか? 最後まで近寄ってこない商人風の男がリーダーかな?)

「チッ! 役立たず共が!」

 作戦は失敗したと悟ると、倒れている仲間たちと馬車を捨てて逃走を図る商人風の男。
 逃げ足には自信があるのか、かなりの速度で走っていたのだが、

「ひぃぃぃ」

 突然、前方に降ってきた巨大な物体の衝撃波でひっくり返り、大地を揺るがす振動でイモムシの様にゴロゴロと転がった。

「ふふふ、君が求めていたものはこれだろう? さぁ、欲しければ、交渉してみるといい」

 後ろから声をかけられた商人風の男が恐る恐る前を見ると、

「な、んで……こんなところに成体の竜が」

 黒い絶望がいた。



 『統領』を1人送り出したウエストバーンたちは周囲を警戒しながら待機していたが、黒竜王が本来の姿で降臨したのを遠目に見ると、その後すぐに大地を揺るがす振動が伝わる。

「あー、可哀想に……」

 騎士団の誰かが本音をポロリ。
 相手は自分たちを襲いに来た盗賊で、本来であれば情状酌量するような相手ではない。
 しかし、自分たちも先日経験したばかりの、あの底知れない恐怖を味わっているかと思うと同情したくもなってしまう。

「何かあったのか?」

「どうやら終わったようですよ。ニッグ様が降りられたようなので」

 振動に気づいたウエストバーンが馬車内から顔を出したが、護衛の騎士が報告したたったそれだけのやり取りで全てを悟った。

 そして、そのタイミングで馬車の中からメアの大きな声が響く。

「はい! え? ボス様!? なぜ、お声が聞こえるのですか!?」

 メアの左耳には、凝った意匠の装飾を施された赤い宝石のイヤリングが輝いていて、まるで誰かと通信しているかのような独り言を話し始めた。

「お父様、皆さん、ボス様が賊を全員捕らえたので迎えに来てほしいとおっしゃっています。すぐに向かいましょう」

 何が何だかわからないが、とりあえず『統領』と合流してから話しを聞けばいいかと思うウエストバーンだった。



 お昼寝会場に合流したウエストバーンたちが見たのは、泡を吹いてひっくり返っている商人風の男と、無造作に転がされていた護衛とチンピラだった。

「ボス様!? ご無事ですか!? ニッグさんも大丈夫ですか!?」

「ええ、怪我はありませんよ。あ、こいつらは気を失っているだけですので、メア様は近づいてはいけません」

 到着と同時に馬車から飛び出して『統領』たちに駆け寄るメアを見て、複雑な想いを隠せないウエストバーンだったが、誰1人も殺すことなく全員を倒した『統領』の手腕に感心していた。

 こう言う事には慣れているのか、護衛の騎士がテキパキと賊を捕縛していき、あっという間に10個の簀巻きが完成した。

「ウエストバーン様、そこの商人の格好をした男がリーダーのようです。チンピラのような者たちは金で雇われたようなことを言ってました。目的ですけど、ニッグをよこせとか言ってきたので、欲しければ自分で交渉しろと言ったら気絶しましたよ。はっはっは」

「やはり、先ほどの地響きはニッグ様か……」

 賊を見つめるウエストバーンと護衛騎士たちの視線に哀れみが宿る一方、メアはそれが何のことだかさっぱりでクエスチョンマークを浮かべていた。

「う、ううう……はっ! あの竜は!?」

「やぁ、おはよう。竜? お前、夢でも見てたんじゃないのか?」

「そんなバカな!」

 唯一、物理的に気絶しなかった商人風の男が目を覚ました。起きると同時にものすごい勢いで周りを見渡したのだが、発見できたのは子竜バージョンのニッグだ。

「それで、賊は基本的に死罪だそうだが、問題ないか?」

「っ! 先に手を出したのはお前のほうだろう! 私を誰だと思っているんだ! 私はグリニッジ男爵の縁者だぞ! 今すぐ解放すれば不問にするが、もし手を出せばお前の一族全てに報復が下るぞ!」

 思いの外、上手く釣られてくれたことに内心ニッコリする『統領』と、バカかこいつと思っていることを隠さないウエストバーン。

「ほう、では、そのグリニッジ男爵とやらに責任を問えば良いということか?」

「お前如きが男爵に物申せる立場だと思っているのか! そんなことをすれば不敬罪で逆に死罪になることがわからんのか! 愚民めが!」

「と、申しておりますが、ニブルタール王国では為政者にこのような愚行が許可されているので? もしそうだとしたら、国そのものの存在に疑念を持ちますけどね」

「いや、本当に申し訳ない……以前から良くない噂が絶えない人間だったのだが、これほどの愚か者だとは思いもしなかった……」

 しかめっ面で怖い顔をして商人風の男を見つめるウエストバーン。
 いままでの穏やかで気さくな雰囲気は微塵も消え、氷のような厳しさが顔を出す。これが、彼の為政者としての表情なのだろう。

「お前はグリニッジ男爵の関係者なのだな?」

「そうだと言っている! 早く、私たちを開放しろ!」

「私は、ニブルタール王国のウエストバーン辺境伯だ。お前のような無法者を抱えるくらいなのだから、そのグリニッジ男爵とやらはこの国で随分と高い地位にいるようだな。国王陛下にもお伺いを立ててみないとな」

 ウエストバーンが印章をかざしながら自己紹介をすると、商人風の男はサァーっと顔を真っ青に変化させた。顔は知らなくても、貴族を表す印章のことは知っていたようだ。

「ウエストバーン辺境伯、誤解です! 私が行商をしていたところを、この者がいきなり襲い掛かってきたのです! 私たちは幸いにも死者はでませんでしたが、かなりの手傷を受けてしまいました! 裁くなら、この者のほうです!」

「ほう? 私の家のほうが悪いというわけか? では、グリニッジ男爵は、ウエストバーン辺境伯と戦争を希望するということなのだな?」

「なぜ、そうなるのですか! 私たちに手を出してきたのは、この得体のしれない黒い男です! ウエストバーン辺境伯には関係がありません! この国の上に立つ者として、無法者に罪を問う時ですぞ!」

 憎まれっ子世に憚る、見ていて滑稽なくらい雑な弁明なのだが、当人だけはこの場さえ逃れられれば何とかなると思っているようだった。ここまで口が回るのだから、これが初めてではないのだろう。

 が、今回ばかりは狙った相手が悪かった。

「この、ボス殿は、ウエストバーン辺境伯の娘メアの婚約者だ。つまりは、既に我が家の関係者となるわけだが、まさかそれを知らなかった、の一言で済ますつもりか?」

「「はえぇ!???」」

 2方向から驚きの声があがったが、今はそれに構っている暇はない。

「そのボス殿が、貴殿に対して本当にこちらから不埒な行為を行ったのであれば、貴族同士の諍いには神明裁判を行う習わしだ。私は甘んじて受け入れるつもりだが、そちらが不服を申し立てるならば戦争しかなかろう」

 商人風の男はそれを聞いてブルブルと青ざめて震え始めた。

「その神明裁判というのは?」

「うむ、ニブルタール王家の正統継承者、つまりは現国王陛下が執り行う儀式だ。方法は至ってシンプル。双方、神像の前で、己のするのだ。裁定は神が下してくださる」

(説明を聞いてもわけがわからん。お互いに証明して、それでどうなるというのか。裁判とは違うモノなのか? 後で詳しく聞いておくか)

「では、国王陛下に奏上してからグリニッジ男爵へ通達を行う。1月後に王都で武術大会もあることだから時期も丁度いいだろう。それまでは拘束させてもらう」

「ウエストバーン辺境伯! ご慈悲を! 神明裁判だけはご勘弁を! 何卒、ご慈悲を!」

 商人風の男はそれまでの態度はどこへやら、体裁の一切をかなぐり捨てて跪いた。地面にめり込まんとするくらいの勢いで額を擦り付けて命乞いする姿は異様だった。

「お前が言う様に、そちらに非が無ければ何も問題にならぬことだ。それとも何か? お前は、私に嘘をついたということか?」

 周囲の気温が一気に下がったかと錯覚するくらいの威圧。
 辺境伯という肩書通りの迫力、ただのおっさんというわけではなかったようだ……。


 後から判明することだが、神明裁判では犯した罪の内容によって厳しい裁定が下る。
 過去の行われた判例では、罪人はその場で全身から血を拭き出してのた打ち回る。ほどんどの場合、裁かれた側は助かることはなく、公開死刑のような立ち位置となる。

(何それこえーよ……そんな危ない事を俺にさせるつもりだったのか、このおっさんは。それにしても神ねぇ、本当にいるのかねぇ。仕組みもよくわからんし、今後のために調べておいたほうが良さそうだな)


 周囲が殺伐する雰囲気の中、1人だけ顔を赤くしてチラチラと『統領』を窺うメアだけは平和な世界に存在していたのだった。まる。
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