リアルにファンタジーのほうがやってきた! ~謎の異世界からやってきたのは健気で可愛いモフモフでした~

ねこのにくきう

文字の大きさ
241 / 278
第6章 時の揺り籠

6-38 遭い入れないものとの遭遇

しおりを挟む
 紅い目。

 司が知る限り、これと同じ物を持っていたのは例の魔獣である。
 それは、知能は無く、死ぬまで衝動のままに暴れるだけの厄介な生き物だった。

 しかし、目の前にいる男は、見た目は完全に人間のソレで目だけが紅いという異様さだ。

「司さん、アレはやばいです。宗司兄と同等か、それに近いレベルです」

 舞が男から視線を外さずに司へ伝える。
 よく見れば、舞の顔には冷や汗が浮かんでいる。
 それ程までに自分との力量差があるのがわかったのだろう。

 舞が言う事も問題だが、司はまずルーヴを確認した。
 身体の所々に血が滲んでいて、今にも倒れそうにふらふらとしているが、リリに支えられて辛うじて立っている状態だ。良い状況とは言えない。

 次に源の様子を。
 見たこともないほどに憎しみの形相をしている。
 恨み骨髄といった印象で、明らかに冷静さを欠いている。

 さらに言えば、相手は単体でルーヴが追いつめられるほどの戦闘力があり、ヴォルフが攻めきれずにいる実力者ということか。

「恐らく、こちらで戦えるのはヴォルフだけ……怪我1、子供2、戦力外3ってところか」

 戦況は極めて悪いと言っても過言ではない。

「あなたは、面白い波長を持っていますね」

 突然、男が声をかけた。
 男の視線は1人に固定されていて、司は目が合った瞬間ゾッとした。
 纏わりつくような、それでいて内面を探ってくるかのような、粘着質で不快な感覚。

 そんな状況で弾かれる様に飛び出した者がいた。
 不意打ちで殴りかかるが、ヴォルフの攻撃を回避している輩に早々当たるものではない。

「おやおや、これまた随分と死にぞこないの登場ですね。それに、その楽しい視線を向けられるのも久しぶりなのですが、お知り合いでしたか?」

「うるさいわ! お前はわしを覚えておらんかもしれんが、わしはお前への恨みを片時も忘れたことはない」

 何が源をそこまで言わしめるのか。

「ふむ、そこまで熱心な獲物を逃がした記憶はないのですけれど……はて」

 臨戦態勢に囲まれているのに、考え事をする素振りを見せるのは余裕の表れか。

「まぁ、記憶にないので考えてもわかりませんね。それよりも、私はそちらの方に興味があります。その波長は、どこかで見た記憶が……」

 しかし、それもすぐに飽きたように視線を司に戻して、ゆっくりと歩き出す。

「それ以上、近づくな!」

 男が司に近づこうとしたのを見て、ヴォルフが爪で切りかかるが最低限の動作で回避されていた。

 そして、司たちはその場を動けないまま男の様子を窺っている。
 ヴォルフの手に負えないような怪物に対して、迂闊に動いて刺激することができないからだ。

「……思い出しました。あのわけのわからない神域、あそこの雰囲気に似てますね。そう言えば、神域を調べに行ったあの女は何も報告せず、今どこでサボっているのか」

 調べに行ったあの女という単語を聞いて、ほんの僅かに反応してしまった司。
 その反応を男は見逃さなかった。

「その反応は、何かを、知っているようですね? どうやら、ゆっくりとお話を聞く必要があるようです」

 口の形が三日月の様に裂けて、男が気持ち悪い笑顔で嗤う。

「そんなことはさせん!」「させません!」

「!? ま、待て! 舞! ダメだ!」

 弾かれたように源が、舞が男に襲い掛かった。
 舞の手には、いつの間にか旋棍が握られており、全力攻撃をするつもりらしい。

 ヴォルフの攻撃同様に避けるかと思ったが、予想外にも男は何もしなかった。
 無防備な身体に源の拳が、舞の打撃が突き刺さるが、男は微動もしない。

「化け物め!」

 源と舞が波状攻撃を繰り出すが、男は避けるつもりもないようだった。
 源は兎も角、舞の打撃は普通の人間なら骨が砕けてもおかしくないほどの攻撃力がある。
 それらを叩き込まれても何も感じていないというのは異常だ。

 しかし、舞の表情を見る限り、手ごたえはあるのだろう。

「痛みを……感じていない?」

 それは、舞と宗司から報告があった魔獣のソレ。
 腕を破壊しても痛みに怯むことなく振り回して攻撃してくるという、常軌を逸した特性。
 だが、ヴォルフの攻撃は全て回避しようとしているのが謎だ。

「あなたたちに、用はありません」

 一振り。

 たった一撃、腕を振るっただけで2人の身体が宙を舞った。

「舞!」「舞さん!」「じいちゃん!」

 源と舞が左右に吹き飛んで、地面を転がった。
 味方が近すぎて同士打ちになることを恐れてヴォルフが引いていたのが仇になった。
 すぐさま状態を確認しに行きたいが、目の前の男がそれを許してくれるとは思えない。

「さて、邪魔者はいなくなりましたので、話を聞きましょうかね」

 完全に接近され、すでに相手の間合いの中、司は覚悟を決めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...