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第6章 時の揺り籠
6-54 幸せな夢に囚われたままで
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武神舞は難しい顔をしたまま考え込んでいた。
目の前にはベッドに横たわり、今も眠ったままの司の姿がある。
司には3匹の、色違いのペンギンのような生き物がくっついて、それぞれがスヤスヤと安らかな寝息を立てている。
いや、眠るという表現には語弊があるかもしれない。
今も司の心臓は動いていないし、呼吸もしていない。
大凡、生命維持活動を行っていないのに、身体は朽ちることがない不思議な状態。
「母鳥さんが言うには、状態は安定しているはず。なのに、何で生命活動が再開しないの? 他にも何か問題がある?」
「舞ちゃん、そろそろ休まない? 根を詰めすぎても良いことはないよ?」
舞に声をかけたのは青葉澪。
以前の間延びしたような口調は鳴りを潜めて、しっかりとした印象を受ける。
「ううん、澪。私はもう2度と後悔したくないの。だから、今できることは全てやるわ」
「だからって、舞ちゃんが無理して倒れたらどうするの? そんなことを司さんが望んでいると本当に思ってる?」
双方が主張を曲げない状況では議論は平行線だ。
「舞、ドクターストップ。今から2時間は寝るべき。選手交代、2番エイミー」
「ええ!? よくわからないけど任された? それより舞は本当に休んだほうが良いよ? もう何日連続で起きてるのよ……」
「そうです。肌の状態もよくありません。司さんが起きた時に、舞、老けたね、何て言われたらきっと立ち直れませんよ?」
「……少し休みます」
舞は渋々といった様子で近くのソファーに横になると、ものの数秒で眠りについた。
澪が指摘した通り、とても疲れていたようだ。
「やっと寝てくれましたか。優、どう思います?」
「自傷行為。司に対する罪悪感も相まって、自分を痛めつけることで心を埋めようとしてる」
「うへ、舞ってそんなことするタイプじゃなかったはずなんだけど……」
舞にとって、それだけ司の存在が大きくなっているという事だろう。
司を失うかもしれないという恐怖を打ち消すために、それまでは考えられないような自傷行為に走るようになってしまうくらい。
「あれから、もう1年も経つんだもん……舞だって辛くないわけがないよね」
「そうよね。私たちもできる限りの協力はしましょう。交代で司さんの様子を見るくらいはできますからね」
「同意。私は橙花のところに行ってくる。今日の報告と今後の対応を検討」
3人は、それぞれができることをするべく動き出した。
「司さん、ちょっと寝坊が過ぎますよ? あんまり長い間待たせると舞ちゃんだけでなく、他の人たちも怒っちゃいますからね?」
司の復帰を待ちわびているのは、舞だけではないのだから。
一方、兎神たちはというと。
「司の身体は正常値の領域に入ったと思うよ。状態も安定してる。もうフェルスの補助はいらないかもね。だけど、肝心な生命活動が停止したままだ。どこに原因があると思う?」
「勿体ぶらないでください。司様の心身の状態が安定して早1年が経つのです。それで尚、覚醒しないのは何が問題ですか? このままでは、色々な方面で深刻な状況になりかねません。特に、リリ様が危うい」
カナコたちは司の状態について報告と意見交換をしているようだった。
「司様が回復されるのが第一です。しかし、このままではリリ様が心を病んでしまう。司様が目覚められたときにリリ様がどうにかなってしまっていたら、きっと取り返しのつかない状況になります。最早、一刻の猶予もないのです」
「私たちの見立てでは、身体の方はもう問題なく再活動するはずなんだ。だけど、覚醒しない。だったら、問題は司の心にあるんじゃないかな? ずっと夢を見ている兆候が続いているからね。起きたくない、目覚めたくない、と考えているのかもしれない」
「司様が覚醒することを拒絶していると? そんな馬鹿な事が……」
そこまで言って、考え込む兎神。
「司様にとって、私たちの存在が負担になっているかもしれない?」
「いや、君たちだけ、と言うわけではないだろう。だが、現実世界が司の負担になっているのはほぼほぼ間違いないはずだ。或いは、ずっと夢の世界に浸っていたいと思うほどに、幸せな夢を見続けているのかもしれないね」
肉体的な処置はやろうと思えば何とかなる。
しかし、眠り続けている患者に精神的な疾患が見つかったとして、それはどうやって治療すればいいというのか。
「いっそのこと、ショック療法でバシッとやってみるかい? 外部刺激ってやつさ」
カノコが身も蓋もない発言をする。
「いえ、それもアリかもしれません。身体の方は確実に完治しているんですよね?」
「ああ、それは間違いなく。宗司にも、母鳥殿にも確認してもらっている。暴走しそうなほど蓄積した気はフェルスたちが消費したと。むしろ、あの状態で正常な生命活動が再開されないのがおかしいとも言っていたね」
どうやら新たな決断を行う時が来たのかもしれない。
目の前にはベッドに横たわり、今も眠ったままの司の姿がある。
司には3匹の、色違いのペンギンのような生き物がくっついて、それぞれがスヤスヤと安らかな寝息を立てている。
いや、眠るという表現には語弊があるかもしれない。
今も司の心臓は動いていないし、呼吸もしていない。
大凡、生命維持活動を行っていないのに、身体は朽ちることがない不思議な状態。
「母鳥さんが言うには、状態は安定しているはず。なのに、何で生命活動が再開しないの? 他にも何か問題がある?」
「舞ちゃん、そろそろ休まない? 根を詰めすぎても良いことはないよ?」
舞に声をかけたのは青葉澪。
以前の間延びしたような口調は鳴りを潜めて、しっかりとした印象を受ける。
「ううん、澪。私はもう2度と後悔したくないの。だから、今できることは全てやるわ」
「だからって、舞ちゃんが無理して倒れたらどうするの? そんなことを司さんが望んでいると本当に思ってる?」
双方が主張を曲げない状況では議論は平行線だ。
「舞、ドクターストップ。今から2時間は寝るべき。選手交代、2番エイミー」
「ええ!? よくわからないけど任された? それより舞は本当に休んだほうが良いよ? もう何日連続で起きてるのよ……」
「そうです。肌の状態もよくありません。司さんが起きた時に、舞、老けたね、何て言われたらきっと立ち直れませんよ?」
「……少し休みます」
舞は渋々といった様子で近くのソファーに横になると、ものの数秒で眠りについた。
澪が指摘した通り、とても疲れていたようだ。
「やっと寝てくれましたか。優、どう思います?」
「自傷行為。司に対する罪悪感も相まって、自分を痛めつけることで心を埋めようとしてる」
「うへ、舞ってそんなことするタイプじゃなかったはずなんだけど……」
舞にとって、それだけ司の存在が大きくなっているという事だろう。
司を失うかもしれないという恐怖を打ち消すために、それまでは考えられないような自傷行為に走るようになってしまうくらい。
「あれから、もう1年も経つんだもん……舞だって辛くないわけがないよね」
「そうよね。私たちもできる限りの協力はしましょう。交代で司さんの様子を見るくらいはできますからね」
「同意。私は橙花のところに行ってくる。今日の報告と今後の対応を検討」
3人は、それぞれができることをするべく動き出した。
「司さん、ちょっと寝坊が過ぎますよ? あんまり長い間待たせると舞ちゃんだけでなく、他の人たちも怒っちゃいますからね?」
司の復帰を待ちわびているのは、舞だけではないのだから。
一方、兎神たちはというと。
「司の身体は正常値の領域に入ったと思うよ。状態も安定してる。もうフェルスの補助はいらないかもね。だけど、肝心な生命活動が停止したままだ。どこに原因があると思う?」
「勿体ぶらないでください。司様の心身の状態が安定して早1年が経つのです。それで尚、覚醒しないのは何が問題ですか? このままでは、色々な方面で深刻な状況になりかねません。特に、リリ様が危うい」
カナコたちは司の状態について報告と意見交換をしているようだった。
「司様が回復されるのが第一です。しかし、このままではリリ様が心を病んでしまう。司様が目覚められたときにリリ様がどうにかなってしまっていたら、きっと取り返しのつかない状況になります。最早、一刻の猶予もないのです」
「私たちの見立てでは、身体の方はもう問題なく再活動するはずなんだ。だけど、覚醒しない。だったら、問題は司の心にあるんじゃないかな? ずっと夢を見ている兆候が続いているからね。起きたくない、目覚めたくない、と考えているのかもしれない」
「司様が覚醒することを拒絶していると? そんな馬鹿な事が……」
そこまで言って、考え込む兎神。
「司様にとって、私たちの存在が負担になっているかもしれない?」
「いや、君たちだけ、と言うわけではないだろう。だが、現実世界が司の負担になっているのはほぼほぼ間違いないはずだ。或いは、ずっと夢の世界に浸っていたいと思うほどに、幸せな夢を見続けているのかもしれないね」
肉体的な処置はやろうと思えば何とかなる。
しかし、眠り続けている患者に精神的な疾患が見つかったとして、それはどうやって治療すればいいというのか。
「いっそのこと、ショック療法でバシッとやってみるかい? 外部刺激ってやつさ」
カノコが身も蓋もない発言をする。
「いえ、それもアリかもしれません。身体の方は確実に完治しているんですよね?」
「ああ、それは間違いなく。宗司にも、母鳥殿にも確認してもらっている。暴走しそうなほど蓄積した気はフェルスたちが消費したと。むしろ、あの状態で正常な生命活動が再開されないのがおかしいとも言っていたね」
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