259 / 278
第7章 話が進んだら変更します
7-2 決断の時
しおりを挟む
兎神は迷っていた。
この1年で、あらゆることを試して、肉体のコンディションは整いつつあるのにも関わらず、司の容体が良くならない。
カノコが言うには、心に問題があるらしいが、真偽のほどはわからない。
「私たちは、司様の負担になっていたのでしょうか」
兎神としては、誠心誠意をもって司に仕えていたつもりだった。
そして、もしかしたら、このまま目が覚めることはないのか? という恐怖も感じていた。
「きっかけ……か」
兎神はカノコたちに相談することにしたが、正直どうすればいいのかわからなかった。
一方、カノコはというと、
「これはチャンスだね」
自室で、第三者が見たら引くような黒い笑みを浮かべていた。
「司がいないことで、ここの統率が取れなくなりつつある。兎神たちの意識や思考も司に重点が置かれるようになったから、私はほとんどフリーになれてる」
カノコの手の中には、紅く光輝く石があった。
「これを、みんなにバレない様に作るのは苦労したなぁ。でも、予定通りだ」
以前、マリスの身体から見えていたような、脈打つような紅い石が。
「後は、話に少しずつ嘘を混ぜながら、あの計画に誘導するだけかな」
どうやら、何か良からぬことを企んでいるような雰囲気だった。
司への処置に関して、今後の方向性を決めるために集まって会議を行う。
メンバーは宗司、兎神、橙花、蒼花、カノコの5人。
「遅れてすいませんでした。少し、引き継ぎに時間がかかってしまいました」
「いえ、問題はありませんよ。舞様は少し根を詰めすぎです。多めに休まれたほうがよろしいくらいかと」
「ありがとう。でも、今が頑張る時だから。休むのは、後でもできるわ」
そこへ、遅れてきた舞が合流した。
「それでは、定期会議を行います。議題は……」
各自が担当になっている情報をまとめるために、司の容体についての実情、実行中の処置の効果確認などが報告されていく。
「1年が経過して、司様が回復される兆しが見られません。何か別の解決方法が必要なのかもしれません」
「兎神、いいかい?」
手探りで行ってきた治療が万策尽き、兎神が新たな方策を考えることを提案しようとしたとき、満を持してカノコが名乗りを上げる。
「これ、使ってみないかい?」
そう言って懐から取り出したのは、あの紅い石。
「あなた……それをどこで手に入れたのですか?」
「まぁ、そんなことは些細なことだよ。今、大切なことは司をどうやって回復させるのか、だろう? それ以外の事なんか、後で考えればいい事さ」
兎神が鋭い視線を投げるが、それを受けるカノコは涼しい顔だ。
「それって、あの石ですよね? それと司さんが何の関係があるのです?」
「これはね、君たちが魔核と呼ぶものだ。これが持つ役割はいくつかあるけど、その1つに人間でいえば心臓にあたる働きがあるんだ」
「私たちは外見こそ人間のように見えるかもしれないけど、人型であるだけの別の生物だ。もちろん心臓なんていう器官はない。その代わり、魔核が魔素を身体に循環させる役割を持つんだ。現に、私のここにも同じ物が入ってる。現物を、見てみるかい?」
カノコは自分の胸を指さして、にやりと笑う。
「司の身体は高エネルギーで保たれた状態だけど、そのエネルギーが循環しないから、本来の生命活動を妨げているんじゃないかい? だから、魔核で補助してあげれば息を吹き返すんじゃないかと考えているんだ」
「確かに一理あります。しかし、それには重大な欠点があります。宗司様からどんなものかをお聞きしていますが呪詛のようなものの塊なのでしょう? そんなものを司様に投与することはできません」
「落ち着きなよ。これは、アレとは違うものさ。嫌な気配は感じないだろう? 心配だったらリリちゃんに調べてもらえばいい。善悪を、|判断する能力があるんだろう?」
判断に迷った兎神は、リリの感覚を頼ることにして、
「何かご用ですか?」
事情を知らないリリは、急に呼ばれたことを不思議に思いながらトコトコと現れた。
「リリ様、これを見て何か感じますか?」
「? 不思議な感じがしますね。何て言うか、とってもモヤモヤします?」
リリが出したのは悪い感じはしないが良いとも断定できない、そんな答えだった。
「それと何となくですが、少しだけ兎神さんと同じ気配を感じる気がしないでも? たぶんですけど悪いモノではありませんね」
「!?」
リリが出した結論は何を意味するのか。
「そうですか。ありがとうございました。これはお返しします。処置については、少し考えさせてください」
兎神は石をカノコに返すと、部屋を後にした。
その背中をカノコがじっと見ていたのは気のせいではないだろう。
この1年で、あらゆることを試して、肉体のコンディションは整いつつあるのにも関わらず、司の容体が良くならない。
カノコが言うには、心に問題があるらしいが、真偽のほどはわからない。
「私たちは、司様の負担になっていたのでしょうか」
兎神としては、誠心誠意をもって司に仕えていたつもりだった。
そして、もしかしたら、このまま目が覚めることはないのか? という恐怖も感じていた。
「きっかけ……か」
兎神はカノコたちに相談することにしたが、正直どうすればいいのかわからなかった。
一方、カノコはというと、
「これはチャンスだね」
自室で、第三者が見たら引くような黒い笑みを浮かべていた。
「司がいないことで、ここの統率が取れなくなりつつある。兎神たちの意識や思考も司に重点が置かれるようになったから、私はほとんどフリーになれてる」
カノコの手の中には、紅く光輝く石があった。
「これを、みんなにバレない様に作るのは苦労したなぁ。でも、予定通りだ」
以前、マリスの身体から見えていたような、脈打つような紅い石が。
「後は、話に少しずつ嘘を混ぜながら、あの計画に誘導するだけかな」
どうやら、何か良からぬことを企んでいるような雰囲気だった。
司への処置に関して、今後の方向性を決めるために集まって会議を行う。
メンバーは宗司、兎神、橙花、蒼花、カノコの5人。
「遅れてすいませんでした。少し、引き継ぎに時間がかかってしまいました」
「いえ、問題はありませんよ。舞様は少し根を詰めすぎです。多めに休まれたほうがよろしいくらいかと」
「ありがとう。でも、今が頑張る時だから。休むのは、後でもできるわ」
そこへ、遅れてきた舞が合流した。
「それでは、定期会議を行います。議題は……」
各自が担当になっている情報をまとめるために、司の容体についての実情、実行中の処置の効果確認などが報告されていく。
「1年が経過して、司様が回復される兆しが見られません。何か別の解決方法が必要なのかもしれません」
「兎神、いいかい?」
手探りで行ってきた治療が万策尽き、兎神が新たな方策を考えることを提案しようとしたとき、満を持してカノコが名乗りを上げる。
「これ、使ってみないかい?」
そう言って懐から取り出したのは、あの紅い石。
「あなた……それをどこで手に入れたのですか?」
「まぁ、そんなことは些細なことだよ。今、大切なことは司をどうやって回復させるのか、だろう? それ以外の事なんか、後で考えればいい事さ」
兎神が鋭い視線を投げるが、それを受けるカノコは涼しい顔だ。
「それって、あの石ですよね? それと司さんが何の関係があるのです?」
「これはね、君たちが魔核と呼ぶものだ。これが持つ役割はいくつかあるけど、その1つに人間でいえば心臓にあたる働きがあるんだ」
「私たちは外見こそ人間のように見えるかもしれないけど、人型であるだけの別の生物だ。もちろん心臓なんていう器官はない。その代わり、魔核が魔素を身体に循環させる役割を持つんだ。現に、私のここにも同じ物が入ってる。現物を、見てみるかい?」
カノコは自分の胸を指さして、にやりと笑う。
「司の身体は高エネルギーで保たれた状態だけど、そのエネルギーが循環しないから、本来の生命活動を妨げているんじゃないかい? だから、魔核で補助してあげれば息を吹き返すんじゃないかと考えているんだ」
「確かに一理あります。しかし、それには重大な欠点があります。宗司様からどんなものかをお聞きしていますが呪詛のようなものの塊なのでしょう? そんなものを司様に投与することはできません」
「落ち着きなよ。これは、アレとは違うものさ。嫌な気配は感じないだろう? 心配だったらリリちゃんに調べてもらえばいい。善悪を、|判断する能力があるんだろう?」
判断に迷った兎神は、リリの感覚を頼ることにして、
「何かご用ですか?」
事情を知らないリリは、急に呼ばれたことを不思議に思いながらトコトコと現れた。
「リリ様、これを見て何か感じますか?」
「? 不思議な感じがしますね。何て言うか、とってもモヤモヤします?」
リリが出したのは悪い感じはしないが良いとも断定できない、そんな答えだった。
「それと何となくですが、少しだけ兎神さんと同じ気配を感じる気がしないでも? たぶんですけど悪いモノではありませんね」
「!?」
リリが出した結論は何を意味するのか。
「そうですか。ありがとうございました。これはお返しします。処置については、少し考えさせてください」
兎神は石をカノコに返すと、部屋を後にした。
その背中をカノコがじっと見ていたのは気のせいではないだろう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる