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第7章 話が進んだら変更します
7-18 どこまでも広がっていく砂地獄
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食べ物がない。
それは俺たちが狩る獲物は勿論だが、時々無性に食べたくなる木になる実も苦い草もだ。
異変が始まったのはいつだったか覚えていない。
初めは、最近獲物が減ったくらいにしか感じなかったのに、おかしいと気づいた時には1日の大半をかけて食料を探す様になっていた。
獲物が消え、木が消え、森が消えていく。
替わりに増えたのは黄土色の砂だけだ。
食べる物が無くなれば、何も食べない日が続けば続くほどに身体に力が入らなくなる。
それは、素早い動きで獲物を探す俺たちにとっては致命傷だった。
「長、どうでしたか?」
長時間動けない子供たちを残して、遠くまで食料を探す日々。
それは体力が多い大人の役割だが、食べれなくなればそれすらも危うくなる。
群れに残した若いのが手ぶらで戻った俺に心配そうに問いかけるが、良い返事が出来なくて心苦しい。
「すまない、今日は何も見つけられなかった。この辺はもうダメそうだ。明日からはもっと東に行こうと思う。留守中に問題はなかったか?」
「あそこの水ももう無くなりますので、私も賛成です。でも、この枯れた世界はどこまで広がってしまうのでしょうか……。こちらは悪い知らせがあります。ライアの子の1人が亡くなりました。一番小さい身体で生まれた子だったので……」
「ライアの子……そうか」
「食べる物が少なくて、女たちの乳が出なくなっている者が増えています。今は出る者が頑張っていますので辛うじて命を繋ぎ止めている状態ですが、それでもこの状態が長く続けば、そのうち気狂いが出て仲間に手を出す者が出てもおかしくない状況です」
彼らにとって仲間を食らうことは禁忌。
そして、禁忌を犯した者には死を与えるのが唯一の掟であった。
普段であればそんな愚行に出る者は極稀にしか生じない。
しかし、極限の飢餓状態に陥った時に、冷静な判断が出来るかと言ったらわからない。
「もうそんなにしないうちに日が明ける。今日、狩りに出ていた者たちは休ませてやってくれ。日中は動かずに体力を温存するように皆には伝えておいてくれ」
「長はどうするのですか?」
「私は今夜の移動に備えて何か食べられるものを探しに行ってくる。いいか? 皆には休む様に言うのだぞ?」
俺に出来るのは体力の限り獲物を探して捕らえること。
それが出来ねば、この群れの長たる資格がない。
日中の移動を避けて夜になれば延々と続く砂の大地を歩いて、木のある場所を探す。
空から水が降らなくなって久しい。
砂の世界に木が生えているところには僅かにも水が残っていることがある。
食べる物が乏しい今は、僅かな水でも貴重なのだから。
「今日は小ぶりが2匹だが獲物が取れたぞ! すまないが乳の出る女たちから食べてくれ。残ったら狩りに出る男たちだ」
「私たちよりも、まず長が食べてください。もう何日も長は食べていません」
「俺は大丈夫だ。まだ、こんなにも動ける。早く走れるし、力も十分に強い。甲羅の獣を相手にしても負けないぞ」
「……ご自身の身体を、一度見てあげてください」
群れの者たちが心配そうに俺を見るが、何を言いたいのかわからない。
俺の身体がどうしたというのか。
今日もまた、子を看取った。
何か問題が発生すれば、体力の弱い子から力尽きていくのは自然の摂理。
だが、我らの子が続けて亡くなっていくのはとても辛い。
一番強かった群れの女たちや男たちも、以前とは見る影もないくらいにやせ細っているのが嫌でも目に映る。
俺たちに残されている時間は少ないだろう。
一刻も早く、十分な獲物が取れる場所を見つけなければならない。
俺たちですら、こんな状態なのだ。他の群れは大丈夫だろうか?
自分たちが死にかけているのに、他人の心配をするのも不思議な気分だが、何気なくそんなことを考えてしまった。
食べる物がない。
子が半分亡くなって、群れの男や女にも力尽きるものが現れた。
先日亡くなった男が死ぬ間際に呟いた言葉が、今の状況の全てだろう。
「私はもうダメです。私が死んだら……身体を元気のあるものたちで食べてください。このまま何もできずに絶えていくのは辛い。こんな想いをするのは私だけで十分です。禁忌を犯してでも生き延びる道を、決断は長に任せます……」
「今までご苦労だった。安らかに眠れ」
俺たちが一体何をしたというのか。
これは世界から与えられた試練なのか。
それとも死ねという意志なのか。
この渇いた大地に果てはあるのだろうか。
俺たちに生きる未来はあるのだろうか。
誰でもいい、誰か、教えてほしい。
それは俺たちが狩る獲物は勿論だが、時々無性に食べたくなる木になる実も苦い草もだ。
異変が始まったのはいつだったか覚えていない。
初めは、最近獲物が減ったくらいにしか感じなかったのに、おかしいと気づいた時には1日の大半をかけて食料を探す様になっていた。
獲物が消え、木が消え、森が消えていく。
替わりに増えたのは黄土色の砂だけだ。
食べる物が無くなれば、何も食べない日が続けば続くほどに身体に力が入らなくなる。
それは、素早い動きで獲物を探す俺たちにとっては致命傷だった。
「長、どうでしたか?」
長時間動けない子供たちを残して、遠くまで食料を探す日々。
それは体力が多い大人の役割だが、食べれなくなればそれすらも危うくなる。
群れに残した若いのが手ぶらで戻った俺に心配そうに問いかけるが、良い返事が出来なくて心苦しい。
「すまない、今日は何も見つけられなかった。この辺はもうダメそうだ。明日からはもっと東に行こうと思う。留守中に問題はなかったか?」
「あそこの水ももう無くなりますので、私も賛成です。でも、この枯れた世界はどこまで広がってしまうのでしょうか……。こちらは悪い知らせがあります。ライアの子の1人が亡くなりました。一番小さい身体で生まれた子だったので……」
「ライアの子……そうか」
「食べる物が少なくて、女たちの乳が出なくなっている者が増えています。今は出る者が頑張っていますので辛うじて命を繋ぎ止めている状態ですが、それでもこの状態が長く続けば、そのうち気狂いが出て仲間に手を出す者が出てもおかしくない状況です」
彼らにとって仲間を食らうことは禁忌。
そして、禁忌を犯した者には死を与えるのが唯一の掟であった。
普段であればそんな愚行に出る者は極稀にしか生じない。
しかし、極限の飢餓状態に陥った時に、冷静な判断が出来るかと言ったらわからない。
「もうそんなにしないうちに日が明ける。今日、狩りに出ていた者たちは休ませてやってくれ。日中は動かずに体力を温存するように皆には伝えておいてくれ」
「長はどうするのですか?」
「私は今夜の移動に備えて何か食べられるものを探しに行ってくる。いいか? 皆には休む様に言うのだぞ?」
俺に出来るのは体力の限り獲物を探して捕らえること。
それが出来ねば、この群れの長たる資格がない。
日中の移動を避けて夜になれば延々と続く砂の大地を歩いて、木のある場所を探す。
空から水が降らなくなって久しい。
砂の世界に木が生えているところには僅かにも水が残っていることがある。
食べる物が乏しい今は、僅かな水でも貴重なのだから。
「今日は小ぶりが2匹だが獲物が取れたぞ! すまないが乳の出る女たちから食べてくれ。残ったら狩りに出る男たちだ」
「私たちよりも、まず長が食べてください。もう何日も長は食べていません」
「俺は大丈夫だ。まだ、こんなにも動ける。早く走れるし、力も十分に強い。甲羅の獣を相手にしても負けないぞ」
「……ご自身の身体を、一度見てあげてください」
群れの者たちが心配そうに俺を見るが、何を言いたいのかわからない。
俺の身体がどうしたというのか。
今日もまた、子を看取った。
何か問題が発生すれば、体力の弱い子から力尽きていくのは自然の摂理。
だが、我らの子が続けて亡くなっていくのはとても辛い。
一番強かった群れの女たちや男たちも、以前とは見る影もないくらいにやせ細っているのが嫌でも目に映る。
俺たちに残されている時間は少ないだろう。
一刻も早く、十分な獲物が取れる場所を見つけなければならない。
俺たちですら、こんな状態なのだ。他の群れは大丈夫だろうか?
自分たちが死にかけているのに、他人の心配をするのも不思議な気分だが、何気なくそんなことを考えてしまった。
食べる物がない。
子が半分亡くなって、群れの男や女にも力尽きるものが現れた。
先日亡くなった男が死ぬ間際に呟いた言葉が、今の状況の全てだろう。
「私はもうダメです。私が死んだら……身体を元気のあるものたちで食べてください。このまま何もできずに絶えていくのは辛い。こんな想いをするのは私だけで十分です。禁忌を犯してでも生き延びる道を、決断は長に任せます……」
「今までご苦労だった。安らかに眠れ」
俺たちが一体何をしたというのか。
これは世界から与えられた試練なのか。
それとも死ねという意志なのか。
この渇いた大地に果てはあるのだろうか。
俺たちに生きる未来はあるのだろうか。
誰でもいい、誰か、教えてほしい。
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