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第3章 干支神はファンタジーな一族を家に迎える
3-23 武神の少女の本質、そして……② the power
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実戦に勝る練習は無し。昔の人の言葉は偉大ですね。これはいい経験になります。相手が本気で殺す気で来ていますから、私も自ずと全力で応戦しなければいけません。道場ではどうしても命のやり取りはできませんから、生易しい稽古になりがちです。もちろん稽古とは言え、それぞれが真剣に取り組んでいますし、油断すればケガにもつながります。しかし、実戦の空気感というものは、稽古(そこ)では培えないということが、この身を持ってわかりましたね。こんな時に不謹慎ではありますが、少しだけ楽しくなってきました。
色々と試しましたが、どうやら普通の打撃では厚い筋肉に阻まれて効果が薄いようです。手合わせで宗司兄を殴っt……げふんげふん、打っているのと同じような感覚がありますから、効いていないわけではなさそうなんです。特に関節や重心を崩す動きは、効果的のようでした。しかし、これは時間をかければかけるほど体力の容量の少ない私のほうが不利になってしまいますね。
これまでの攻防で大凡の把握できたことを総合して、地球では見たこともない形をしていても生き物の概念は守っているようです。生物としては、かなり異質ではあるのですが。ちょっと変わっているのは身体の、額と右腕のひじの少し上の辺りに紅くて丸い石のようなものがある点ですね。右手と左手でずいぶんと力強さが違いますし、あの石に何か秘密でもあるのでしょうか?
狙いを変えてみましょうか。相手の攻撃してくるタイミングに合わせて、あの右ひじの石を砕きます。
已然として衰えることなく襲い掛かってくる魔獣をいなしながら、反撃の機会を待ちます。もう、かれこれ15分くらい動き続けていますし、受け流しているとはいえ相手はバカみたいな力の攻撃をしてきますから、受けている旋棍の持ち手も痺れてきました。これ以上は厳しいかもしれません……。
均衡が崩れず、少し焦り始めたその時、ついに千載一遇のチャンスが訪れました。相手も苛立ちがピークにきたのか、攻撃が単調になってきて、そして何より、私がこんなに近接しているのに、両腕を大きく振り上げて、また叩き潰そうとするなんて。
渾身の一撃を魔獣の右腕側に避けると、私の目の前には、大きく振り下ろされたことで大地を叩く右腕と、ひじに埋もれる丸い石。攻撃によって最大の力を発揮した腕は伸びきっており、魔獣は前のめりに体勢を崩しています。
私は攻撃を避けたときの動きを生かし、そのまま全身を1回転させて、全体重と遠心力を十分にのせた旋棍を、丸い石をめがけて思い切り打ち付けます。旋棍が石に当たった瞬間に少しの抵抗を経て、ガラスにひびが入るような、ビキッという無機質な音が聞こえました。そして、私の攻撃は石を通過して、勢いそのままに魔獣の腕にも抉るように突き刺さりました。
攻撃を受けた魔獣の右の腕は、すぐに地面から持ち上がることなく、ぴくぴくと痙攣をおこしているようでした。どうやら、腕の筋を損傷でもしたようですね。手ごたえありです。
このチャンスを生かさない理由はないでしょう。右腕側から攻めます。相手の反撃に警戒をしながら、内外から徹底的に右腕を打ち付けると、魔獣の右腕はだらんと垂れ、もう使い物にならない状態になりました。
片腕になればこっちのものです。今度は左腕側に回り込み、連打を浴びせます。魔獣は片腕になったことで攻撃することもままならず、たまらず防御しようとした左腕にも容赦することはありません。
攻撃することしばらくして、魔獣の動きが突然変わりました。私の接近に合わせて、今まで防御していた左腕を大きく外側に振りぬいたのです。苦し紛れの攻撃でしょうか?私は身を低くして攻撃を躱すと、がら空きになった脇目掛けて攻撃を繰り出します。遠慮なく攻めさせていただくことにしましょう。
しかし、魔獣の狙いは別のところにありました。左に大きく振りぬいた腕の反動そのままに、使えないはずの右腕を使ってラリアットのように攻撃してきたのです。これには、さすがに虚を突かれ、咄嗟に避けることができず、旋棍を交差させて防御することで直撃を避けるしかありませんでした。
魔獣の腕が当たった瞬間、私の身体は簡単に吹き飛ばされ、地面を転がることになりました。旋棍越しに受けた腕も痺れて力が入りません。なんという力ですか。
そして、その決定的な私の隙を見逃す魔獣ではありませんでした。吹き飛ばされて、急いで起き上がろうとした私に追いすがるように、魔獣も駆け出し、すでに攻撃の体勢に入っていました。
「っ! 舞さん!」
私の虚をついた行動で、そして体勢を崩して防御をすることができない私に対しての渾身の一撃。横目には、リリが急いで駆け寄ってこようとするのが見えました。
魔獣が腕を大きく振りかぶる動きが、さながらスローモーションのように、コマ送りで見えました。ああ、これが走馬燈というものですか。これは……もう避けられませんね。不覚です。まさか筋を断った腕を振り回して攻撃してくるとは思いませんでした。生物である以上は生半可な痛みじゃないと思うのですが、痛覚がないのですかね?
一応、苦し紛れに旋棍で防御をしますが、こいつの力と体重差の前だと防御も焼け石に水でしょうね。これを食らった後、まだ動けるといいんですが……。
回避は諦めて受ける覚悟を決めた私に対して、魔獣の攻撃はいつまでたってもやってきませんでした。なぜならば、私に到達する、その前に、魔獣の腕を正面から受け止めていた人がいたからです。
「ふううう、やっと追いついたな」
魔獣の渾身の攻撃を止めたのは、この見慣れた背中と暑苦しい声の主は。私が幼いころから毎日のように道場で見てきた姿。数え切れないくらい、お互いに技の研鑽を試合った仲。追いかけて、追いかけて、血のにじむ努力を積んでも到達できないその背中。
歴代の武神流(ぶしんりゅう)の血族の中で最も武の才能に愛され、たったの齢22にして武神のすべてを極めた者。本気の死合で現当主のお父様をも退け、同門の皆から剛の兵(つわもの)とまで言わしめた男。
私の兄、武神流皆伝、武神(たけがみ)宗司(そうじ)。
いつもと違って、今日の宗司兄は、ちょっとだけ格好いいです。
色々と試しましたが、どうやら普通の打撃では厚い筋肉に阻まれて効果が薄いようです。手合わせで宗司兄を殴っt……げふんげふん、打っているのと同じような感覚がありますから、効いていないわけではなさそうなんです。特に関節や重心を崩す動きは、効果的のようでした。しかし、これは時間をかければかけるほど体力の容量の少ない私のほうが不利になってしまいますね。
これまでの攻防で大凡の把握できたことを総合して、地球では見たこともない形をしていても生き物の概念は守っているようです。生物としては、かなり異質ではあるのですが。ちょっと変わっているのは身体の、額と右腕のひじの少し上の辺りに紅くて丸い石のようなものがある点ですね。右手と左手でずいぶんと力強さが違いますし、あの石に何か秘密でもあるのでしょうか?
狙いを変えてみましょうか。相手の攻撃してくるタイミングに合わせて、あの右ひじの石を砕きます。
已然として衰えることなく襲い掛かってくる魔獣をいなしながら、反撃の機会を待ちます。もう、かれこれ15分くらい動き続けていますし、受け流しているとはいえ相手はバカみたいな力の攻撃をしてきますから、受けている旋棍の持ち手も痺れてきました。これ以上は厳しいかもしれません……。
均衡が崩れず、少し焦り始めたその時、ついに千載一遇のチャンスが訪れました。相手も苛立ちがピークにきたのか、攻撃が単調になってきて、そして何より、私がこんなに近接しているのに、両腕を大きく振り上げて、また叩き潰そうとするなんて。
渾身の一撃を魔獣の右腕側に避けると、私の目の前には、大きく振り下ろされたことで大地を叩く右腕と、ひじに埋もれる丸い石。攻撃によって最大の力を発揮した腕は伸びきっており、魔獣は前のめりに体勢を崩しています。
私は攻撃を避けたときの動きを生かし、そのまま全身を1回転させて、全体重と遠心力を十分にのせた旋棍を、丸い石をめがけて思い切り打ち付けます。旋棍が石に当たった瞬間に少しの抵抗を経て、ガラスにひびが入るような、ビキッという無機質な音が聞こえました。そして、私の攻撃は石を通過して、勢いそのままに魔獣の腕にも抉るように突き刺さりました。
攻撃を受けた魔獣の右の腕は、すぐに地面から持ち上がることなく、ぴくぴくと痙攣をおこしているようでした。どうやら、腕の筋を損傷でもしたようですね。手ごたえありです。
このチャンスを生かさない理由はないでしょう。右腕側から攻めます。相手の反撃に警戒をしながら、内外から徹底的に右腕を打ち付けると、魔獣の右腕はだらんと垂れ、もう使い物にならない状態になりました。
片腕になればこっちのものです。今度は左腕側に回り込み、連打を浴びせます。魔獣は片腕になったことで攻撃することもままならず、たまらず防御しようとした左腕にも容赦することはありません。
攻撃することしばらくして、魔獣の動きが突然変わりました。私の接近に合わせて、今まで防御していた左腕を大きく外側に振りぬいたのです。苦し紛れの攻撃でしょうか?私は身を低くして攻撃を躱すと、がら空きになった脇目掛けて攻撃を繰り出します。遠慮なく攻めさせていただくことにしましょう。
しかし、魔獣の狙いは別のところにありました。左に大きく振りぬいた腕の反動そのままに、使えないはずの右腕を使ってラリアットのように攻撃してきたのです。これには、さすがに虚を突かれ、咄嗟に避けることができず、旋棍を交差させて防御することで直撃を避けるしかありませんでした。
魔獣の腕が当たった瞬間、私の身体は簡単に吹き飛ばされ、地面を転がることになりました。旋棍越しに受けた腕も痺れて力が入りません。なんという力ですか。
そして、その決定的な私の隙を見逃す魔獣ではありませんでした。吹き飛ばされて、急いで起き上がろうとした私に追いすがるように、魔獣も駆け出し、すでに攻撃の体勢に入っていました。
「っ! 舞さん!」
私の虚をついた行動で、そして体勢を崩して防御をすることができない私に対しての渾身の一撃。横目には、リリが急いで駆け寄ってこようとするのが見えました。
魔獣が腕を大きく振りかぶる動きが、さながらスローモーションのように、コマ送りで見えました。ああ、これが走馬燈というものですか。これは……もう避けられませんね。不覚です。まさか筋を断った腕を振り回して攻撃してくるとは思いませんでした。生物である以上は生半可な痛みじゃないと思うのですが、痛覚がないのですかね?
一応、苦し紛れに旋棍で防御をしますが、こいつの力と体重差の前だと防御も焼け石に水でしょうね。これを食らった後、まだ動けるといいんですが……。
回避は諦めて受ける覚悟を決めた私に対して、魔獣の攻撃はいつまでたってもやってきませんでした。なぜならば、私に到達する、その前に、魔獣の腕を正面から受け止めていた人がいたからです。
「ふううう、やっと追いついたな」
魔獣の渾身の攻撃を止めたのは、この見慣れた背中と暑苦しい声の主は。私が幼いころから毎日のように道場で見てきた姿。数え切れないくらい、お互いに技の研鑽を試合った仲。追いかけて、追いかけて、血のにじむ努力を積んでも到達できないその背中。
歴代の武神流(ぶしんりゅう)の血族の中で最も武の才能に愛され、たったの齢22にして武神のすべてを極めた者。本気の死合で現当主のお父様をも退け、同門の皆から剛の兵(つわもの)とまで言わしめた男。
私の兄、武神流皆伝、武神(たけがみ)宗司(そうじ)。
いつもと違って、今日の宗司兄は、ちょっとだけ格好いいです。
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