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第3章 干支神はファンタジーな一族を家に迎える
3-30 大樹様の麓で①
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事の始まりは、司が森で緑色の獣に出会った日に遡る。
緑色の獣と遭遇した司は、一目見て逃げることを選択した。しかし、司が動き始めた瞬間に、目にも止まらない速さで吹き飛ばされ、そこからさらに逃げようとしたところを追い打ちのように地面に叩き潰されて身動きが取れなくなった。
司はこの後の自分自身の処遇にかなり焦っていたが、緑の獣はそもそも司を殺す気はなかった。ただ、司がそこそこの強さを持っていることが分かったのと、即逃げの手を打ったので、少々焦って取り扱いが手荒になってしまっただけだ。
この時、緑の獣は匂いで司があるものを持っていることに気づいた。司に出会った瞬間に『それ』を嗅ぎ取り、どうやって確かめるかを考えていたら、司が逃げたので、つい手荒に取り押さえられたのだった。
そして、司を取り押さえて身近で匂いを確認した結果、やはり『それ』に間違いはなく、声をかけようとしたら、司が痛みと衝撃で気絶してしまった。そう、この時、司の命を救ったものの正体は、リリからもらったお守り。その中身は、リリの紫色の毛と大樹様の若葉。
リリは最初、司が自分の故郷であるウルの森を探しに行ったとは思ってもいなかった。でも、自分の直感に従って、自分の匂いのする紫色の毛と、大樹様から若葉を1枚もらい、それらをきんちゃく袋に入れて司にお守りとして渡したのだ。
当時、リリにはこうすることに何の意味があるのかな? と、ふと疑問に思ったが、それ以上に、なぜかそうしなければならない予感がしていた。そして、その予感は当たった。
幸運にも、司がウルの森で最初に出会った緑の獣が、リリの父親。ウルの森の、大樹様の守り人の代表として、たまたま森に侵入してきた者を確認しにきて、たまたま司を見つけた。この時、司が出会ったのが違う守り人だったとしたら? もし司がリリのお守りを持っていなかったら? 今、無事に立っていられた保証はどこにもない。
リリの父親、つまりは現存するウルの森の、大樹様の守り人の一族は古からの約定に従って行動している。当然、無断で大樹様の森へ入ってきた侵入者を許さない。司とリリの父親との力量の差は、初手の段階でわかりきっていた。司がどう足掻いても悲惨な結末しか待っていなかっただろう。
リリの父親にも誤算があった。司が持っているモノの匂いで、司が敵でないことはわかったが、すぐに逃げ出したことに焦って、かなり手荒に取り押さえてしまったのだ。取り押さえた衝撃と痛みで司は気を失ってしまい、しょうがなく口に咥えて拠点まで運ぶことになった。
現在のリリの父親の拠点、つまりは舞とリリがやってきた大樹様の根元に仮住まいがあり、そこまで運ばれた司は、目が覚めるまでに数時間を要した。
「まぁ、こんな感じで、ここに連れてきてもらって、リリの父親……そういえば、名前、聞いてなかったな。お互いに状況の確認をして、今に至るというわけだ。正直、最初ここで目が覚めた時には、生きた心地がしなかったけどな。ここはどこだ? まだ死んでないってことは、これから食われるのか? って。ここから、この状況からどうやって逃げればいいのか。真剣に考えた」
「そこまでは、わかりました。……それで、怪我の程度はどれくらいなんですか? 普通に動けているならそんなにひどくないのでしょうか? あと、なんで私たちが来た時に、リリのお父さんに踏まれていたんですか?」
舞が当然の内容を確認しようとする。リリも同じ内容を聞きたかったのか、真面目な顔でブンブンと首を振っていた。
「それは……たぶんだけど肋骨あたりにヒビが入ってるくらいかな? 今でもちょっとは痛いけど、でも、もう結構良くなってきたんだ。そのせいで何日も身体を動かしていないから身体が鈍ってて、リリの父親に軽くトレーニングしてもらってたんだけど、まったく歯がたたなくて……丁度、負けた時に、舞たちが来たというか、なんというか」
舞は開いた口が塞がらないとばかりに、物凄い呆れた顔をした。リリも同じくである。つい先ほどまで、司の怪我の具合を心配していた2人は一体どこにいってしまったというのか。しかし、司の行動も大概である。
「司さんってバカなんでしょうか? それとも、もう手遅れなくらいに脳筋化が進んでいるのでしょうか? 骨にヒビが入って、数日で治るわけがないじゃないですか。普通ならガチガチに固定して絶対安静ですよ。それなのに、怪我をしていてトレーニングするなんて、まるで宗司兄を見ているようです。呆れてモノが言えません。それに……」
司の呆れた行動に対して、くどくど、くどくどと、舞のお説教が始まった。まぁ、当然の、自業自得の結果である。今回は果たしてどれくらいの時間がかかるのか……。
そのままの状態で数十分ほど経過した時、拠点にもう1匹の狼が戻ってきた。その狼は、司と一緒にいるリリを一目見た瞬間に、全速力で駆け寄ってきた。
「っ!? リリっ!?」
リリも、その姿を一目見て、その声を聞いて、誰かがすぐにわかった。例え、どれだけ離れていても忘れるはずがない、間違えるはずがない。
「お母さん……。おかあさん、おかあさーん!! うわーん!」
2匹の狼は、お互いに駆け寄ると、今まで離れていた時間を取り戻すかのように、固く寄り添うのだった。……そして、それをしばらく見守っていた最後の1匹が加わり、3匹は仲良く一塊の毛玉となった。
その光景は綺麗で、見る者に3匹の絆の強さを感じさせる、とても尊い時間だった。
緑色の獣と遭遇した司は、一目見て逃げることを選択した。しかし、司が動き始めた瞬間に、目にも止まらない速さで吹き飛ばされ、そこからさらに逃げようとしたところを追い打ちのように地面に叩き潰されて身動きが取れなくなった。
司はこの後の自分自身の処遇にかなり焦っていたが、緑の獣はそもそも司を殺す気はなかった。ただ、司がそこそこの強さを持っていることが分かったのと、即逃げの手を打ったので、少々焦って取り扱いが手荒になってしまっただけだ。
この時、緑の獣は匂いで司があるものを持っていることに気づいた。司に出会った瞬間に『それ』を嗅ぎ取り、どうやって確かめるかを考えていたら、司が逃げたので、つい手荒に取り押さえられたのだった。
そして、司を取り押さえて身近で匂いを確認した結果、やはり『それ』に間違いはなく、声をかけようとしたら、司が痛みと衝撃で気絶してしまった。そう、この時、司の命を救ったものの正体は、リリからもらったお守り。その中身は、リリの紫色の毛と大樹様の若葉。
リリは最初、司が自分の故郷であるウルの森を探しに行ったとは思ってもいなかった。でも、自分の直感に従って、自分の匂いのする紫色の毛と、大樹様から若葉を1枚もらい、それらをきんちゃく袋に入れて司にお守りとして渡したのだ。
当時、リリにはこうすることに何の意味があるのかな? と、ふと疑問に思ったが、それ以上に、なぜかそうしなければならない予感がしていた。そして、その予感は当たった。
幸運にも、司がウルの森で最初に出会った緑の獣が、リリの父親。ウルの森の、大樹様の守り人の代表として、たまたま森に侵入してきた者を確認しにきて、たまたま司を見つけた。この時、司が出会ったのが違う守り人だったとしたら? もし司がリリのお守りを持っていなかったら? 今、無事に立っていられた保証はどこにもない。
リリの父親、つまりは現存するウルの森の、大樹様の守り人の一族は古からの約定に従って行動している。当然、無断で大樹様の森へ入ってきた侵入者を許さない。司とリリの父親との力量の差は、初手の段階でわかりきっていた。司がどう足掻いても悲惨な結末しか待っていなかっただろう。
リリの父親にも誤算があった。司が持っているモノの匂いで、司が敵でないことはわかったが、すぐに逃げ出したことに焦って、かなり手荒に取り押さえてしまったのだ。取り押さえた衝撃と痛みで司は気を失ってしまい、しょうがなく口に咥えて拠点まで運ぶことになった。
現在のリリの父親の拠点、つまりは舞とリリがやってきた大樹様の根元に仮住まいがあり、そこまで運ばれた司は、目が覚めるまでに数時間を要した。
「まぁ、こんな感じで、ここに連れてきてもらって、リリの父親……そういえば、名前、聞いてなかったな。お互いに状況の確認をして、今に至るというわけだ。正直、最初ここで目が覚めた時には、生きた心地がしなかったけどな。ここはどこだ? まだ死んでないってことは、これから食われるのか? って。ここから、この状況からどうやって逃げればいいのか。真剣に考えた」
「そこまでは、わかりました。……それで、怪我の程度はどれくらいなんですか? 普通に動けているならそんなにひどくないのでしょうか? あと、なんで私たちが来た時に、リリのお父さんに踏まれていたんですか?」
舞が当然の内容を確認しようとする。リリも同じ内容を聞きたかったのか、真面目な顔でブンブンと首を振っていた。
「それは……たぶんだけど肋骨あたりにヒビが入ってるくらいかな? 今でもちょっとは痛いけど、でも、もう結構良くなってきたんだ。そのせいで何日も身体を動かしていないから身体が鈍ってて、リリの父親に軽くトレーニングしてもらってたんだけど、まったく歯がたたなくて……丁度、負けた時に、舞たちが来たというか、なんというか」
舞は開いた口が塞がらないとばかりに、物凄い呆れた顔をした。リリも同じくである。つい先ほどまで、司の怪我の具合を心配していた2人は一体どこにいってしまったというのか。しかし、司の行動も大概である。
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司の呆れた行動に対して、くどくど、くどくどと、舞のお説教が始まった。まぁ、当然の、自業自得の結果である。今回は果たしてどれくらいの時間がかかるのか……。
そのままの状態で数十分ほど経過した時、拠点にもう1匹の狼が戻ってきた。その狼は、司と一緒にいるリリを一目見た瞬間に、全速力で駆け寄ってきた。
「っ!? リリっ!?」
リリも、その姿を一目見て、その声を聞いて、誰かがすぐにわかった。例え、どれだけ離れていても忘れるはずがない、間違えるはずがない。
「お母さん……。おかあさん、おかあさーん!! うわーん!」
2匹の狼は、お互いに駆け寄ると、今まで離れていた時間を取り戻すかのように、固く寄り添うのだった。……そして、それをしばらく見守っていた最後の1匹が加わり、3匹は仲良く一塊の毛玉となった。
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