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第4章 旅にアクシデントはお約束?
4-43 兎神の留守番と気苦労と嫌な予感
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時は少し遡り、司たちが出発した日。
干支神の屋敷に1人残った兎神は、家の管理と留守番しているヴォルフたちのお世話など、全ての仕事を一人で担っていた。かなりの仕事量にも関わらず、兎神に焦りは見られない。淡々と片っ端から仕事をこなしていく。
普段、カメラの前に立つことがないため目立たないのだが、干支神家の縁の下の力持ちは間違いなく彼だろう。屋敷内の統括として全ての管理をしており、涼しい顔で外務もこなしているザ・パーフェクト執事。彼にしてみれば、やれば終わる作業というものは慣れでどうにでもなるのである。
「ヴォルフ、みんなの調子はどうですか? 今日から、しばらく橙花たちがいませんので、何か問題があれば私に言ってくださいね」
「調子は変わりない。食事も足りている。そうか、司とリリも今日から出かけたのだったな。リリにとって貴重な体験になるだろうから、楽しんできてくれるといいのだが」
「大丈夫ですよ、ヴォルフが心配しなくても、リリには司さんがついてますから。きっと、たくさんの楽しい体験をして、立派になって、元気に帰ってきますよ」
兎神の質問に、リリの両親のヴォルフとルーヴが答える。やけに心配そうなヴォルフに比べて、ルーヴはそんなに心配していないようだった。ルーヴの司への全幅の信頼に応えるためにも元気に戻ってきてもらいたいものである。
「そう言えば、明日から交代で狩りに行きたいのだが……どうしたらいいんだ?」
「そうですね、狩りの計画、時間、緊急時の対応方法などを協議して、全員に伝えましょうか。とは言っても、メンバーのローテーションと規則を決めるくらいになるでしょうけど」
「そうだな、2匹組みで6時間以内としよう。遠出と無理はしないと司とも約束したしな。6時間過ぎても戻らない場合は、次と次の組の4匹組みで捜索隊を出すくらいか?」
「あとは、おおよその向かう方角を決めるくらいですか? まぁ、狩りをするのですから、目安くらいになるでしょうけど」
「ふむ、それくらいか。よし、ルーヴ、みんなを集めてくれ。私が説明しよう。明日からは運動不足解消のために狩りに出る」
「ええ、わかりました」
そんなこんなで、今日も一日の仕事が終わった。その日の夜、いつもなら、明日1日の仕事の段取りを決めてから、穏やかに過ごせた日々に感謝をして黙祷するのだが、私室で過ごす兎神の表情が、今日に限って晴れない。
「ふう、それにしてもこれをどうしましょうかね……」
司たちが、つかの間のバカンスを満喫している頃、干支神の屋敷では兎神が難しい顔をして考え込んでいた。彼の手の上には紅い結晶が握られており、テーブルの上には袋に入った砂のようなものが置かれていた。
「魔核を額と腕に持つ魔獣、死して砂になる、か……嫌な予感がしますね。それに、この大きさはどう考えても自然にできる規模ではありません。誰かが意図して作っている?」
覚えている人もいるかもしれないが、この紅い結晶は司の前回の遠征で、宗司がぶっ飛ばした魔獣が落としたものである。そして、砂は魔獣の残骸である。
宗司は魔獣の弔いを行った後、魔獣がなぜ砂になったのかを疑問に思ったが、考えてもどうせ答えなんかでないことを一瞬で悟り、紅い結晶と残骸の砂の一部を袋に詰めて持ち帰ったのだ。
他にも、残骸の周囲には舞が砕いた結晶の欠片が散らばっていたのだが、そちらは宗司が去った後に何者かが回収していった。宗司にはそれが何なのかも、重要なのかもわからなかったのだから仕方のないことだ。
しかし、これらを持ち帰っていたことを、宗司は今の今まですっかり忘れており、旅行に行く前日に思い出したので司の屋敷を訪れて兎神に渡していたのだ。その後、中身を確認した兎神の顔が驚愕に染まったのは珍しいことだった。
「もしもし、兎神です。ええ、ご無沙汰をしております。実は、早急に確認を頂きたい品がありまして、ええ、分析依頼ですね。サンプルは私が保有しています。そうですか? では、明日の午後ですね。わかりました、お待ちしております。急なお話でしたが、ご足労頂き感謝します。詳しいお話は明日直接いたしますので、ええ、では」
どうやら、兎神はどこかへ電話をして分析の依頼をしたようだ。何を確認する目的なのかは本人以外に窺い知れないが、彼なりの考えがあるのだろう。
電話を切り、屋敷の窓から外の月を見上げるその瞳には、少しだけ不安の感情が浮かんでいた。何かが不吉なことが起きなければいいのだが。
干支神の屋敷に1人残った兎神は、家の管理と留守番しているヴォルフたちのお世話など、全ての仕事を一人で担っていた。かなりの仕事量にも関わらず、兎神に焦りは見られない。淡々と片っ端から仕事をこなしていく。
普段、カメラの前に立つことがないため目立たないのだが、干支神家の縁の下の力持ちは間違いなく彼だろう。屋敷内の統括として全ての管理をしており、涼しい顔で外務もこなしているザ・パーフェクト執事。彼にしてみれば、やれば終わる作業というものは慣れでどうにでもなるのである。
「ヴォルフ、みんなの調子はどうですか? 今日から、しばらく橙花たちがいませんので、何か問題があれば私に言ってくださいね」
「調子は変わりない。食事も足りている。そうか、司とリリも今日から出かけたのだったな。リリにとって貴重な体験になるだろうから、楽しんできてくれるといいのだが」
「大丈夫ですよ、ヴォルフが心配しなくても、リリには司さんがついてますから。きっと、たくさんの楽しい体験をして、立派になって、元気に帰ってきますよ」
兎神の質問に、リリの両親のヴォルフとルーヴが答える。やけに心配そうなヴォルフに比べて、ルーヴはそんなに心配していないようだった。ルーヴの司への全幅の信頼に応えるためにも元気に戻ってきてもらいたいものである。
「そう言えば、明日から交代で狩りに行きたいのだが……どうしたらいいんだ?」
「そうですね、狩りの計画、時間、緊急時の対応方法などを協議して、全員に伝えましょうか。とは言っても、メンバーのローテーションと規則を決めるくらいになるでしょうけど」
「そうだな、2匹組みで6時間以内としよう。遠出と無理はしないと司とも約束したしな。6時間過ぎても戻らない場合は、次と次の組の4匹組みで捜索隊を出すくらいか?」
「あとは、おおよその向かう方角を決めるくらいですか? まぁ、狩りをするのですから、目安くらいになるでしょうけど」
「ふむ、それくらいか。よし、ルーヴ、みんなを集めてくれ。私が説明しよう。明日からは運動不足解消のために狩りに出る」
「ええ、わかりました」
そんなこんなで、今日も一日の仕事が終わった。その日の夜、いつもなら、明日1日の仕事の段取りを決めてから、穏やかに過ごせた日々に感謝をして黙祷するのだが、私室で過ごす兎神の表情が、今日に限って晴れない。
「ふう、それにしてもこれをどうしましょうかね……」
司たちが、つかの間のバカンスを満喫している頃、干支神の屋敷では兎神が難しい顔をして考え込んでいた。彼の手の上には紅い結晶が握られており、テーブルの上には袋に入った砂のようなものが置かれていた。
「魔核を額と腕に持つ魔獣、死して砂になる、か……嫌な予感がしますね。それに、この大きさはどう考えても自然にできる規模ではありません。誰かが意図して作っている?」
覚えている人もいるかもしれないが、この紅い結晶は司の前回の遠征で、宗司がぶっ飛ばした魔獣が落としたものである。そして、砂は魔獣の残骸である。
宗司は魔獣の弔いを行った後、魔獣がなぜ砂になったのかを疑問に思ったが、考えてもどうせ答えなんかでないことを一瞬で悟り、紅い結晶と残骸の砂の一部を袋に詰めて持ち帰ったのだ。
他にも、残骸の周囲には舞が砕いた結晶の欠片が散らばっていたのだが、そちらは宗司が去った後に何者かが回収していった。宗司にはそれが何なのかも、重要なのかもわからなかったのだから仕方のないことだ。
しかし、これらを持ち帰っていたことを、宗司は今の今まですっかり忘れており、旅行に行く前日に思い出したので司の屋敷を訪れて兎神に渡していたのだ。その後、中身を確認した兎神の顔が驚愕に染まったのは珍しいことだった。
「もしもし、兎神です。ええ、ご無沙汰をしております。実は、早急に確認を頂きたい品がありまして、ええ、分析依頼ですね。サンプルは私が保有しています。そうですか? では、明日の午後ですね。わかりました、お待ちしております。急なお話でしたが、ご足労頂き感謝します。詳しいお話は明日直接いたしますので、ええ、では」
どうやら、兎神はどこかへ電話をして分析の依頼をしたようだ。何を確認する目的なのかは本人以外に窺い知れないが、彼なりの考えがあるのだろう。
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