リアルにファンタジーのほうがやってきた! ~謎の異世界からやってきたのは健気で可愛いモフモフでした~

ねこのにくきう

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第4章 旅にアクシデントはお約束?

4-49 旅にアクシデントはお約束?①

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 妙子の注意を聞き、各自準備ができたところで、船はゆっくりと洞穴内に進んでいく。入口付近は外からの光で明るかったが、奥に進むにつれて段々と暗闇が濃くなってきた。

「ごくり……暗くなってくると雰囲気あるなぁ。ちょっと怖いかも……って、なんで優は目を閉じてるの? 眠いの?」

「ふ、段々と暗くなることはわかっている。1分も目を閉じていれば暗順応する」

「いやいや、何も無理に夜目を効かせようとしなくても……このまま進むわけないじゃん」

20メートルも進めば、普通の人間の目にはもう月の隠れた夜の闇に近い。このメンバーでまともに周りの様子が見えているのは、夜目が効くリリくらいだろう。いくら優が暗順応させても人間には限界がある。

「ここからは少し暗い場所が続くからね、ライトをつけるよ。爺、よろしく」

「イエッサー! マム!」

 妙子がそういうと、玄次郎が大きな声で返事をした。その後、ガシャンと音が鳴って、船の前方を眩い光が煌々と照らす。船に備え付けられていた照明機器を点灯したようだ。

「ぎゃぁぁぁ、目がぁ、目がぁ……」

「ほら~、言わんこっちゃない。優にしては間抜けな展開だよね~」

 優が両目を抑えてのた打ち回る。暗順応した状態で照明の強烈な光に曝されたからだろう。効果は抜群だったようだ。それにしても、優のセリフはどこかの大佐を彷彿とさせる……きっと気のせいである。


 暗黒の空洞を船は静かに進んでいく。いつも賑やかな妙子も操船に集中しているため、洞穴に入ってからはほとんど無言だ。

「この洞穴は、私の一族が島を開発する前から存在していて、つまりは自然にできたものですね~。島は南側から北側へ段々と登っている地形になっていますから、洞穴があるのは北側だけです~。結構、複雑に入り組んでいるので、迂闊に入ると迷子になるんですけどね~」

「へ~、これって自然にできてるんだね~。不思議。でも、こんなところに入ろうとする人なんているの? 船でないと無理だろうし……」

「詠美ちゃん、どこの世界にもバカはいるもんじゃよ。しかも、島に船でくる連中には入るなと注意しておるんじゃ。だが、それでも興味本位で入り込むバカモノがおる。しかもそう言った輩に限って、勝手に遭難して、その結果救助を求めるんじゃよ。愚かなことじゃ」

 玄次郎が本当に迷惑そうに、ため息をついて言う。もしかしたら救助の要請は、この場所の地理を知っている玄次郎たちのところにくるのかもしれない。


 玄次郎たちと会話をしつつ、船は自然の迷路を進んでいくと、前方に光が見え始めた。どうやら、この先には広い空間が広がっていて、そこから光が漏れてきているようだ。

「わ~! すっごい! なにこれ!」

「これは凄いですね、確かに澪が自慢するだけあります……幻想的で、言葉を失いますね」

「ふむ、この青は……色素? それとも光の反射? むぅ、わからない」

「ふっふっふ、どうですか? なかなかでしょう~?」

 そこに広がっていたのは青い世界。天井部から光が差し込んできて、一面を青一色で染め上げる。海はもちろん、岩壁にも青い光が反射して揺ら揺らと。海面に波が立つと、光が乱反射してキラキラと宝石のように輝く。

 一行はしばし言葉を忘れ、幻想的な光景に魅入る。幾千年の時をかけて作られた自然の芸術というものは、どうしてこうも人の心を揺さぶるのだろう。言葉を、時間を、呼吸さえも忘れて、人々の心を縫い止める。

 人間には到底成し得ないことだからこそ、この光景を見た人々は感動をするのかもしれない。感動とは、人の心を豊かにする栄養素。そして、未知、不可能、そう言った答えのわからないミステリアスなことがあればあるほど、人々の心を引き付けてやまない感動のスパイスとなる。


「ん? どうしたんだ? リリ」

 みんなが感動して動きを止める中、司の腕に抱かれていたリリだけが身じろぎをしている。何か気になることでもあるのだろうか? 

「司さん、何か聞こえませんか? たぶん、誰かの声、だと思います」

 周りのみんなに聞こえないようにリリが司に伝える。疑問に思いながらも、司は耳を澄ませるが、彼の耳には何も聞こえない。ただ海の音が聞こえるだけだ。

 それはそうだ、狼の耳と人間の耳ではそもそもの機能に差がありすぎる。リリに辛うじて聞こえるレベルの音では人間に聞き取ることは不可能に近い。

「また聞こえました。やっぱり、誰かの声です。これは……助けを求めています?」

 リリの耳が声のする方へぴくぴくと動いて、その内容を聞き取るために集中し始める。

「!! 司さんごめんなさい。ちょっと行ってきます」

「リリ? 何を……」

 司が何かを言うよりも先に、リリが司の腕をすり抜けて甲板に降りる。そして、次の瞬間、本来の大きさに、3メートルの姿に戻った。

 司たちが呆然とする中、リリは甲板を力強く蹴ってジャンプすると、壁を三角跳びの如く蹴りながら奥へ奥へと進んでいって、すぐに姿が見えなくなってしまった。
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