リアルにファンタジーのほうがやってきた! ~謎の異世界からやってきたのは健気で可愛いモフモフでした~

ねこのにくきう

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第5章 地球と彼の地を結ぶ門

5-36 空飛ぶ島⑤

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 遅めの夕食を済ませて、後は明日に備えて休むだけになった3人と2匹。今日は火の番で起きている必要もないので、全員が十分な休息をとることができるだろう。

「うわ~、星がとても綺麗ですね~。物理的に空が近いのもあるでしょうけど、こんな絶景はココでしか見られそうにありません……綺麗です」

 日が暮れることで現れたもの、それは満天の星々であった。しかも、雲の位置は司たちの足の下のため、視界を遮るものはない。さらに高高度のため、空気もとてもクリアで、星を見るのにこれほど適した場所もないだろう。

 リリに背中を預けて、並んで空を見上げるだけで、貸し切りのプラネタリウムである。舞としては、ここに宗司がおらず、司と2人きり……は無理か、高確率でリリがいるはずなので2人と1匹なら、かなりロマンチックな展開であったのに残念である。ちなみに、クーシュは定位置で既におねむである。

「へ~、似たような星座もあるもんだな。あそこに見えるヤツなんてカシオペア座、あっちはオリオン座にそっくりだよな。星座に詳しいわけじゃないからメジャーなのしかわからないけど」

「そうですね、ちょっとだけ形が違いますけど、ほぼほぼ同じです。不思議なこともあるものですね~。しかも、空気が澄んでいるせいか、地球で見るよりもハッキリと星が見えますね」

「キラキラがたくさんです! あ、流れ星です!」

「……なぁなぁ、君たち、君たち。いい加減、私をいないもののように扱うのはやめてくれないかな? そろそろ兄も会話に混ざりたいのだが?」

 どうやら物理的に排除ができないので視界からフェードアウトしていたようだ。舞からチッという舌打ちのような音が聞こえたのは気のせいではないだろう。

「あれ? 宗司兄、いつの間にそんなところにいたのですか? お休みのテントはあちらですよ? さぁ、どうぞお休みください」

「いやいやいや、私も会話をだな……」

 実の兄に対して酷い扱いである。

「人とは不思議な生き物よな……」

「肯定」

 司たちから少し離れたところで休んでいる母鳥と竜は、3人と1匹のやり取りを不思議そうに見つめていた。野生の世界では不要に思われる行動も、人間にとってみれば大切な生活の要素なのである。人間とは、いくつもの矛盾を抱えている生き物なのだ。

 そんな感じで、この日の夜は穏やかに更けていった。



 次の日、司たちが準備を整えてから、リリの案内で向かったのは島の中心にある湖。

 否、湖だったもの。大きな窪みだけがそこにあった。昨日の時点で、湖の水は小さい竜がほぼ全てを飲み干し、今残っているのは岩山から注ぐ僅かな水量のみ。むしろ水たまりといっても差し支えない。

 しかし、量は少なくとも不思議な力を持つ水。実際、水をかけられた草が急激に成長し、即座に実をつけるようなバカげた効果を目の当たりにしている。さらに母鳥の話ではここから降り注いで大地に恵みを齎すとも言っていた。

 まず、宗司が水たまりに近づき手を浸す。

「うむ、間違いないな。あそこにあった泉と同じか、それ以上の何かを感じる」

「じゃ、ここで依頼実行ですかね?」

 司は荷物から金属製のケースを取り出すと、地面に置いてロックを解除する。開封されたケースから現れたのは例の赤い石。前回の遠征の際に宗司が持ち帰った魔獣の核である。

『……そして、石が変化したものを確認して、場合によっては滅して頂きたい。私たちの想定が最悪の時は、かなり危険を伴うと予想しています。それをどうにかできる可能性があるのは、現状、泉を理解している宗司様だけです』

 その石を目にした母鳥が目を顰め、子供たちを守るように司たちから距離をとった。反応を見る限り、どうやら相当に良くない物のようだ。

「さぁ、ここからは何が起こるか予測できないからな。各自、最大限に気を付けるように。後、緊急事態の場合は、予め話してある優先順位で行動しろ。いいな?」

 宗司の問いかけに、神妙な顔で頷く2人。

「では、司、石をくれ」

 司から赤い石を受け取って、水たまりに近づいて行く宗司。そして、石を水に浸した瞬間に、赤い輝きを伴って、それは爆発的に変化した。

「! おぬしたち! そこから離れるのだ! アレに飲み込まれるぞ!」

 司たちは、突然大声で警告をあげた母鳥に驚いて顔を向けたが、すぐに宗司のことが心配になって視線を戻す。

 水を吸って急激に成長する赤いモノ。楕円上の石から多角形の水晶へ、さらに変則的に巨大化して不定形の液体に。赤いモノはあっという間に宗司の身体を包み込む。

「宗司兄!」

 司は、急に駆け出そうとする舞の身体を羽交い絞めにして止める。しかし、兄が晒されている未知の現象に冷静さを失ったのか、舞は細腕とは思えないほどの力で司の拘束を振りほどこうと暴れる。いつもとは立場が逆だが、今はそんなことを考えている余裕がない。全力で押しとどめる司も必死である。

「舞! 狼狽えるな! 私を信じろ!」

 最後にその言葉を残して、宗司は赤いモノの中に飲み込まれて行った。
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