リアルにファンタジーのほうがやってきた! ~謎の異世界からやってきたのは健気で可愛いモフモフでした~

ねこのにくきう

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第6章 時の揺り籠

6-10 無慈悲な現実、過酷な条件

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 司は、以前兎神に問い合わせをした内容の結論を聞きに行っていた。

「すまん、俺の聞き間違いじゃないよな? 念のため、もう一度確認していいか? 澪の件は、本当にいいんだな?」

「ええ、彼女たちに資格がお有りであれば、問題ありません。無論、秘密保持に関する契約は結んでいただきますし、万が一の身命の保証も出来かねないというのが前提で、承諾の書面を残して頂きますが」

 兎神は軽く言うが、司にとっては衝撃だった。澪の依頼を検討するとは言ったものの、十中八九、というよりは99%ダメだろうと高を括っていたのだから。まさか兎神が許可するとは思いもしなかった。

「えーと、これはどうするか……舞と宗司さんにも相談しなきゃいけないし、本人たちにもだよな。でも、兎神たちが許可したからって素直に伝えていいものか? うーん」

 司は迷っていた。いくら自己責任の契約をすると言っても、万が一、彼女たちの身命に関わった時のことを考えると気が気じゃない。司にとって、澪たちは赤の他人ではなく舞の親友という位置づけなのだから。

「ちょっと考えてから、本人たちには答えることにするよ。本当にどうしよう……」

「はい、それで構いません。例え、司様がどのような決定を下したとしても、我々は司様を全面的に支持致しますので」

 考え事をしながら自分の部屋に戻っていく司の頭の中は、どうしようで溢れていた。



 次の日、司は武神家を訪れていた。

 今日はリリもクーシュも同行していない。真面目な話なので。

「司が、私と舞に用事なんて珍しいな。また厄介ごとか? ははは!」

「宗司兄! ごめんなさい、司さん。悪気があって言ったわけじゃないんですよ?」

「あはは、大丈夫大丈夫。宗司さんがこういう性格だってことは昔から知ってるよ。それに厄介ごとっていうのは間違ってないですから」

 昨日、兎神と相談したことを宗司と舞に伝える。澪たちに話す前に、この2人の了解と協力が無ければ、実現が不可能だからだ。しばらく黙って司の話を聞いていたが、

「あ、の、バカ、ど、も、がぁ……」

 舞、素が出てる、素が出てる。司の前だから、急いで引っ込めて。それ程の内容だったのか、話を聞いた舞の堪忍袋の緒が切れそうになっている。

「そ、それで、私たちは何を協力すればいいんだ?」

 負のオーラを垂れ流す舞に冷や汗をかきつつフォローを入れる宗司。この話題を早く変えないと、妹が致命的な汚点を残しそうなので、兄は戦々恐々としている。

「まず、大前提としてだけど、この話をあの3人にしていいものか、それが問題なんだ。舞、いいか? 舞?」

「ブツブツ……はっ! え? あ、はい。そうですね。私個人の意見としては反対です。が、今後、司さんの味方を得るためには絶好の機会でしょう。あの3人なら気心も知れていますし。でも、話はしますけど、許可するかは別問題ですよ?」

「すまない、そして、ありがとう」

「いえ、殺そうとしたって簡単に死ぬような連中じゃありません。勿論、それ以前に死なないように地獄の訓練(デスマーチ)は確定ですが。私も危険に飛び込むことを黙って容認はできませんからね。一般水準に達しない限りは、ダメです」

 内容はわからないが、そこはかとなく危険な匂いがする。生きるも地獄、死んでも地獄的な何か。舞が言う、一般水準が一体どこにあるのか。

「では、私の役目は鬼軍曹だな! 僅かな時間で立派な兵士に育ててやるわ! ふははは! 久しぶりに剛志さんにも声をかけてみるか! これは楽しくなってきたぞ!」

 宗司と剛志の、マジカル・マッスル・ブートキャンプ、はっじまっるよ~的な予感がする。司は以前に体験しただけに、その辛さは知っている。が、何も知らない人があれを経験して果たして耐えられるのか?

 だが、舞たちのように日夜修練をしているような人間ではない、普通の学生を危険な場所に連れて行くためには、最低限のイロハは仕込む必要がある。司は3人の無事を祈るばかりである。



 話を聞いた3人は固まっていた。

「契約の件は了解しました~。当然のことですから問題はありません。問題なのは、その次です~。えーっと、もう一度、聞いていいですか~? 私たちは、何をすればいいんですか~?」

 理解が追いついてない3人の中で、澪が代表して聞き直す。2回聞いたところで、条件に変更はないのだが……信じられないのも無理はない。一般人なのだから。

「野戦用のフル装備、重量は20キロくらいだが、それを担いだ状態で20時間以上歩き続ける体力をつけることが、第1段階だ」

「ははは、やっぱり聞き違いじゃなかったよ……」

「私は絶対に無理。頭脳労働派だから肉体労働には向いていない。仮に、やれと言われても断固拒否。第一、20キロって私の体重の半分。物理的にも無理」

 現状、陸上の移動は徒歩しか手段がない。つまり、荷物を持った状態で移動できることが最低条件なのだ。あっちには車も電車もないのだから。

「だろう? しかも、これは第1段階だ。ここがクリアできないようでは、普通に生存することですら難しい。残念ながら、君たちでは無謀すぎるということだ。これは君たちが諦めるようにわざと言っているわけではない。司も舞も、この状態で1か月以上を過ごしているからな」

 実際1日20時間歩いていたわけではない。が、可能性として十分にあり得るのである。

 無慈悲に突き付けられた現実に言葉を失う3人。だが、これが生き残るための最低限の準備なのだ。宗司としても手抜きをするわけにはいかなかった。
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