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第6章 時の揺り籠
6-14 紫の巫女
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これは、いつの出来事か。
物語に登場するのは、一族の長の子として生まれた女と、狩人の血筋に生まれた男。女の名前はルーヴと言い、男の名前はヴォルフと言った。
ルーヴの家系は、代々不思議な力を持っていた。一族で、その力が特に強かったのはルーヴの祖母。祖母を中心として、一族はまとまり、大きな群れを成していた。
祖母は神の声を聞き、森の声を聞き、大地の声を聞くことができた。その余りにも強い力は、外見にも影響を及ぼして、本来であれば深緑であるはずの毛並みは、鮮やかな紫色をしていたという。
祖母の、そして一族の役目は、森の奥にそびえ立つ1本の神木を守ること。幾星霜か、祖母の代の遥か昔から、紫の巫女の血は継承されてきたのだ。一族の長の証として。
神木は森に祝福を与え、森は一族に恵みを齎し、そして一族は神木に仕えることで、永き時を自然に重ねてきた。
しかし、いつ頃からか。紫の巫女が生まれなくなったのは……。
祖母の子は、巫女の力を持ってはいなかった。たまには、そう言う事もあるだろう。
続けて三の子を産んだが、いずれも巫女の力を持ってはいなかった。落胆はしたが、そう言う事もあるだろう。例え自分の子でなくとも、一族から次の巫女が生まれればそれでいい。
この時は、誰もがそう思っていた。
異変に気付いたのは、その後どれくらい経ってからか。代を重ねても、一族からは深緑の子が生まれるばかりで、巫女の血統を現す紫の子が生まれない。おかしい。
祖母が健在だからだろうか? 巫女は一と決められているのか? 否。
その祖母とて、前任の巫女が健在なうちに生を受け、前任から役目を引き継いだのだ。では、なぜ次代の巫女が生まれなくなったのか。いくら考えても答えは出ない。
それから、かなりの時間が経ち、祖母が半生を過ぎた頃。
祖母の孫にあたるルーヴが生まれた。巫女の力を持たない深緑の子として。もはや、巫女の力は不要になってしまったのか。一族にそんな空気も流れるようになってしまっていた。
それから、またかなりの時間が経ち、祖母の命が尽きようとしていた頃。
小さかったルーヴは美しく成長して、狩人のヴォルフと番になった。この頃くらいからだろうか? 森に、血の匂いを巻き散らかす獣が現れたのは。
その獣は森を一直線に破壊しながら進み、遠くに憎悪の視線を投げかける。目的は森の奥、神木のようであった。なぜ狙うのかはわからない。血が固まったようなドス黒い色をした、この獣を魔獣と名付けることにした。
一族の役目は神木を守ること。魔獣が神木を狙うなら、撃退するまで。
戦いは、呆気ないものだった。生物としての致命傷を与えられても、尚動き続ける魔獣に疑問は沸いたが、倒れないならば倒れるまで戦えばいい。
森には多くの戦士たちがいた。生まれながらに狩人の資質を持った、深緑の戦士の前に、単独の魔獣は為す術もなく息絶えた。
しかし、襲撃はそれだけではなかった。散発的に、連続的に繰り返される襲撃を対処していくうちに、傷つき倒れる戦士たちが増えていった。
そこへ訪れた追い打ちのような悲劇。当代の、紫の巫女であった祖母が天寿を全うした。次代の巫女の陽の目を見ることなく、最後まで一族の未来を憂いて逝った。
それからは、もうぐちゃぐちゃだ。
長を失った群れ、それはただ同じ生き物が集まっただけの烏合の衆でしかない。連携も、統率も、何もまとまらなくなった一族は、度重なる襲撃に疲弊していき、数を激減させていく結果となった。
バラバラになって、しかし、それでも役目を捨てなかったのは、守り人たる一族の性か。
それから、さらに時を重ねて、ついに待望の瞬間が訪れる。
一族はバラバラになり、魔獣の襲撃は止まず、もはや仲間がどれだけ残っているのかもわからない。そんな絶望的な状況に、差し込む希望の光明。
ルーヴが2つの子を産んで、片方に巫女の血統が現れたのだ。深緑と、薄紫の双子。一族の祝福は得られなかったが、父親のヴォルフは大いに喜んだ。と同時に、見捨てられたわけではなかったのだと、ルーヴは神木に感謝した。勿論、考えるまでもなく、どちらの我が子も愛おしかった。
なぜ、巫女の血統が生まれなくなったのか。
なぜ、今になって巫女の資質の子が生まれたのか。
ヴォルフとルーヴは考えるが答えは出ない。だが、確実にわかることは何か意味があるということだけ。
双子の子供はすくすくと育っていた。もうすぐで目も開くだろうという時期まで待ってから、2人は神木に感謝を伝えることにした。
神木に向かえば、他の一族に会えるかもしれない。新しい巫女を中心に群れを再興しよう。
希望を胸に2人と双子が向かった先で見たもの、それは一族にとって絶望以外の何物でもない光景だった。
それは枯れかけた、否、もうほとんど枯れていた神木の姿。
視界に溢れるほどあった深緑の葉は数えるほどに、たくましく太かった枝は半分が折れ、瑞々しかった幹は土気色の表情を見せていた。
そして何より問題なのは、根元でこちらの様子を伺っている魔獣。魔獣は2人と双子を獲物と見るやいなや、即座に開戦の咆哮をあげた。
ヴォルフとルーヴに焦りの表情が浮かんだ。
物語に登場するのは、一族の長の子として生まれた女と、狩人の血筋に生まれた男。女の名前はルーヴと言い、男の名前はヴォルフと言った。
ルーヴの家系は、代々不思議な力を持っていた。一族で、その力が特に強かったのはルーヴの祖母。祖母を中心として、一族はまとまり、大きな群れを成していた。
祖母は神の声を聞き、森の声を聞き、大地の声を聞くことができた。その余りにも強い力は、外見にも影響を及ぼして、本来であれば深緑であるはずの毛並みは、鮮やかな紫色をしていたという。
祖母の、そして一族の役目は、森の奥にそびえ立つ1本の神木を守ること。幾星霜か、祖母の代の遥か昔から、紫の巫女の血は継承されてきたのだ。一族の長の証として。
神木は森に祝福を与え、森は一族に恵みを齎し、そして一族は神木に仕えることで、永き時を自然に重ねてきた。
しかし、いつ頃からか。紫の巫女が生まれなくなったのは……。
祖母の子は、巫女の力を持ってはいなかった。たまには、そう言う事もあるだろう。
続けて三の子を産んだが、いずれも巫女の力を持ってはいなかった。落胆はしたが、そう言う事もあるだろう。例え自分の子でなくとも、一族から次の巫女が生まれればそれでいい。
この時は、誰もがそう思っていた。
異変に気付いたのは、その後どれくらい経ってからか。代を重ねても、一族からは深緑の子が生まれるばかりで、巫女の血統を現す紫の子が生まれない。おかしい。
祖母が健在だからだろうか? 巫女は一と決められているのか? 否。
その祖母とて、前任の巫女が健在なうちに生を受け、前任から役目を引き継いだのだ。では、なぜ次代の巫女が生まれなくなったのか。いくら考えても答えは出ない。
それから、かなりの時間が経ち、祖母が半生を過ぎた頃。
祖母の孫にあたるルーヴが生まれた。巫女の力を持たない深緑の子として。もはや、巫女の力は不要になってしまったのか。一族にそんな空気も流れるようになってしまっていた。
それから、またかなりの時間が経ち、祖母の命が尽きようとしていた頃。
小さかったルーヴは美しく成長して、狩人のヴォルフと番になった。この頃くらいからだろうか? 森に、血の匂いを巻き散らかす獣が現れたのは。
その獣は森を一直線に破壊しながら進み、遠くに憎悪の視線を投げかける。目的は森の奥、神木のようであった。なぜ狙うのかはわからない。血が固まったようなドス黒い色をした、この獣を魔獣と名付けることにした。
一族の役目は神木を守ること。魔獣が神木を狙うなら、撃退するまで。
戦いは、呆気ないものだった。生物としての致命傷を与えられても、尚動き続ける魔獣に疑問は沸いたが、倒れないならば倒れるまで戦えばいい。
森には多くの戦士たちがいた。生まれながらに狩人の資質を持った、深緑の戦士の前に、単独の魔獣は為す術もなく息絶えた。
しかし、襲撃はそれだけではなかった。散発的に、連続的に繰り返される襲撃を対処していくうちに、傷つき倒れる戦士たちが増えていった。
そこへ訪れた追い打ちのような悲劇。当代の、紫の巫女であった祖母が天寿を全うした。次代の巫女の陽の目を見ることなく、最後まで一族の未来を憂いて逝った。
それからは、もうぐちゃぐちゃだ。
長を失った群れ、それはただ同じ生き物が集まっただけの烏合の衆でしかない。連携も、統率も、何もまとまらなくなった一族は、度重なる襲撃に疲弊していき、数を激減させていく結果となった。
バラバラになって、しかし、それでも役目を捨てなかったのは、守り人たる一族の性か。
それから、さらに時を重ねて、ついに待望の瞬間が訪れる。
一族はバラバラになり、魔獣の襲撃は止まず、もはや仲間がどれだけ残っているのかもわからない。そんな絶望的な状況に、差し込む希望の光明。
ルーヴが2つの子を産んで、片方に巫女の血統が現れたのだ。深緑と、薄紫の双子。一族の祝福は得られなかったが、父親のヴォルフは大いに喜んだ。と同時に、見捨てられたわけではなかったのだと、ルーヴは神木に感謝した。勿論、考えるまでもなく、どちらの我が子も愛おしかった。
なぜ、巫女の血統が生まれなくなったのか。
なぜ、今になって巫女の資質の子が生まれたのか。
ヴォルフとルーヴは考えるが答えは出ない。だが、確実にわかることは何か意味があるということだけ。
双子の子供はすくすくと育っていた。もうすぐで目も開くだろうという時期まで待ってから、2人は神木に感謝を伝えることにした。
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そして何より問題なのは、根元でこちらの様子を伺っている魔獣。魔獣は2人と双子を獲物と見るやいなや、即座に開戦の咆哮をあげた。
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