無愛想な君から笑顔が消えた

明星杏

文字の大きさ
上 下
6 / 29

第6話

しおりを挟む
月島さんが帰ってきた。時差ボケで体調を崩し部屋で寝ていて話せなかったが、帰ってきたという事実が胸の鼓動を高鳴らせた。一通り掃除が終わり夕ご飯を作るまで休憩をもらった。慧は月島さんが体調を崩していることを聞いて駆けつけてくれた。一緒にお見舞いをするため部屋に入り、顔を覗いた。月島さんは部屋に入ってきた俺らに気づかず寝ている。寝顔はいつもの月島さんと違ってごく普通の女の子だった。ふと慧を見ると頬に汗をかいている。
「慧、暑いの?そんなに走ってきた?笑」
慧は何も話さなかった。俺はもしかしたら熱があるのかと心配して慧に近づいた。目が潤んでいることに気がついたが、どうしたらいいか分からなくて「おい~、どうしたんだよ~笑」と慧の涙を手で拭うことしかできなかった。俺はこんなもんなのか。慧がいたから月島さんに助けてもらえたのに、慧がいたから俺は今笑っているのに何もできない。ごめんな。心の中でそう謝った。

その日の夜も慧と屋上テラスに行き、2人で話した。
「ごめんな。今日めっちゃ困らせちゃったよな。笑」
「いや大丈夫だよ。何があったのか教えて…ほしい。俺!慧にほんとに感謝してるから!力にならせてほしい!」
「いやなんか、俺どうこうの話じゃなくてさ。中学の頃の紫織の話になるんだけど。小学生からの幼馴染って言っても俺が毎朝"おはよう"っていうと紫織が"うん"って返すだけの関係だったんだ。なのに俺はそんな紫織に心惹かれてた。まあ一目惚れに近いんだけど。でさ、あいつ自殺しようとした事あって。見つけた時にはもう意識がなくて出血が酷くて病院運ばれて。それを聞いて俺見舞いに行ったんだよ。そしたらまだ目が覚めてなかった。傍でずっと見守ってた篠宮さんが"紫織様のお友達ですか。無愛想で無口な紫織様とお友達になってくださり、ありがとうございます。"って泣きながら言ってて。詳しく話を聞くと"容態が急変する可能性もあるから"って医者に言われたらしくて。その時紫織の顔を見るのは最後かもしれないと思ってじっと見つめてた。結局その日は目が覚めなくて。今日の寝顔あの時の紫織の顔のまんまだったから思い出して…涙止まんなくなった……。」
好きな人が自…殺……慧のその悲しみは計り知れない。辛い思いをしてるのは俺だけじゃなかったんだ。俺らは出会う前からそれぞれ辛く苦しい思い、寂しく悲しい思いを感じてきていたんだ。
「なんかさ、転校初日に一緒に昼ご飯食べたの覚えてる?あん時の優真が昔の俺みたいでさ。俺も何も反応してくれない、目も合わせてくれない紫織にめっちゃ話しかけてたんだ笑 昔はもっと無愛想だったから常に紫織に付き纏ってて。でも紫織は俺が見えてないかのようにいきなりクラッカー鳴らしても、虫捕まえてきて見せても反応しなかったんだよな笑 強ぇよな」
悲しみに包まれた空気を振り払うかのように思い出話をする慧。月島さんとの楽しい思い出を話している時の慧の顔は夜にもかかわらず太陽のように輝いていた。2人はいつでも色んな表情を見せてくれる。それが新鮮でいつまでたっても飽きない。2人はこの夜空の星の数だけの表情を持っているのだろう。

次の日、月島さんは元気になっていた。久々に話すと緊張する。
「ごめんな。昨日帰った時挨拶できなくて」
「ううん!大丈夫。それよりほんとにもう元気なの?」
「元気だって笑 心配してくれてありがとな。」
「優真ー!ちょっと来て」
爽一郎さんに呼ばれた。
「ごめん!呼ばれちゃったからまた休憩のとき話そ!いってくる!」
紫織さんは"いってら~、頑張って"といい、自分の部屋へと向かった。
「優真さ、紫織のこと好きだろ?」
「え…? え!? いやいやいやいや!そんなんじゃなくって…あの、なんていうか……」
自分でも分かりやすすぎるだろと思った。やってしまったと顔を両手で覆い隠した。爽一郎さんは声を出して笑っていた。大笑いしているはずなのに落ち着いていて上品。声もミュージカル俳優のように透き通っていて綺麗だった。心が浄化され、傷だらけのハートが両腕で暖かい胸に包まれたようになるのを感じた。
「ここだけの話、俺は慧か優真じゃないと紫織の結婚は許さないつもりだからな。よろしく。」
優しい笑顔で微笑んだその顔は月島さんにそっくりだ。月島さんは誰が好きなのだろうか。ふと思った。やっぱり慧か、それとも俺が知らない誰かか。そもそも好きな人なんているのか?俺の可能性はあると言えるだろうか……いや、ない。絶対にない。こんな事考えてたら虚しくなるだけだ。今は3人での学校生活を思う存分楽しむだけ。ただそれだけでいいんだ。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

喜如嘉小学校2部

SF / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

ショートショート集「どうしてこうなった高校」

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

暗号通貨の謎: 100億円の挑戦

O.K
エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

くさびの神殿

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:14

処理中です...