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第7話 はじめてのキス
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王国の裏手にある森の中。
ここは王族の所有する敷地内なので、城の者しか立ち入ることができない。だが衛兵やコックらは皆日々自分たちの仕事に従事しているため、人通りはゼロといってもいいほどだった。
いつもは僕と妖精のトルテが二人きりで安らぐその場所に、男二人の威勢の良い掛け声が響いている。
「あと五十回!」
「押忍!!!」
木にぼろ布団を巻き付けてそこにひたすらパンチを打ち込んでいる。ジャオの一切妥協しないトレーニングメニューに僕は素直に従っていた。
強くなると決めた。ジャオに守ってもらってばかりでは、男として情けない。
もしかしたら、すでにこの身は男ですらないのかもしれないが……それでも、せめて心意気だけは男でいたい。当たり前のように、自分で自分を守れる人間になりたいんだ。
「よし、休憩だ」
「ふー……」
持ってきた水筒に口をつける。
タンクトップをつまんで汗だくの顔を雑に拭くとお腹が出てスースーする。タオル持ってこればよかったな。ジャオにだらしない奴だと思われてしまっただろうか。
さりげなく視線を向けると、ジャオはハッとして思い切り目を逸らしてくる。なんだろう、今僕が見るより先に、僕のこと見てた?
ごく、ごく、ごく。喉を上下させてもう一度水分補給。ジャオは黙りこくって明後日の方向を向いている。だけどなんだかこちらをバリバリに意識しているような……ああ、なんだか僕まで気になってきた。
「ジャオ?」
「あ、ああ。よく頑張ったな。ベルは筋がいい」
「ほんとか~? お前って僕に甘いからさあ。真剣に稽古つけてくれよ?」
「真剣にやってる。それもやっただろう」
それ、とジャオが示したのは僕の手首についている石でできたアクセサリーだ。正確にはアクセサリーではない。身に着けられる重りである。これを付けて拳を突き出す練習をすると攻撃の速度が格段に上がる、とはジャオの弁だ。
「これはどうやって手に入れたんだ?」
「作った。俺はもっと重いものに変えたからそれはお前にやる」
「おさがりかよー」
「新しいのを作ろうか?」
「冗談通じないのな、お前……いや僕が悪かった。大切にするよ」
「どうして謝る?」
「手作りだったのかコレ。やっぱり器用じゃん!」なんて褒め言葉をとっさにのみ込んだもんだから憎まれ口が飛び出してしまったけど、ジャオは取り合おうともしないんだな。ほんと、読めない奴……。
けど、まあ、悪い奴じゃないことはわかった。たぶんコイツ、天然なんだ。
場慣れしていないならどんな話をしてもヒかないかな。そうだ、それなら普段はしない話も、少しくらいはしたっていいのかもしれない。
「そういえばこないだ、お前の夢を見たよ」
「……俺の?」
「うん。なんか少し大人のお前? が隣にいたんだけど、僕急にお腹が痛くなってさ、その場に倒れちゃうんだ」
「え……?」
手入れされていたジャオの重りがドサッと草むらに落ちる。一体どれだけ重量があるんだと突っ込もうとするが、できなかった。ジャオがあまりに恐ろしい気迫を纏って、ずんずんとこちらに歩み寄ってきたから。
そのまま僕の正面に座り込むと、じっと顔を覗き込んでくる。あまりにも険しい顔していたから怒っているのかと思ったけど、違う。顔面蒼白で、どちらかというと泣きそうだ。
ひた、と腹に手が置かれる。ジャオは今度は真剣に僕の腹を凝視して、撫でて、荒い呼吸を整えている。
「ジャオ、どした」
「ハッ、ハッ、ハッ」
「おーい」
「ハッ……あ、その……ケガ、してないかと思って……」
「夢の話だって!」
ハハハ、と笑い飛ばすがジャオはつられてはくれない。今度は縋るようにじっと僕の顔を見つめてくる。
「夢か……そういう夢は……よく見るのか……?」
「いんや? 見てもだいたいすぐに忘れちゃうしなあ」
「そうか…………」
それきり、喋らなくなってしまった。
コイツ、ちょくちょく情緒不安定になるよなあ。屋上で話した時もいきなり掴みかかってきて怖かったし。
なにかトラウマでもあるのかもしれない。英雄って気苦労多そうだもん。あんなに優しいお母さんがいるけれど、親に話せないことだってあるかもしれないんだ。これからはそういう時に、僕が話し相手になってやれたらいいな。
純粋に、そう思えた。僕はいつの間にか、ジャオを友人だと認めていたのだ。
まだ僕の腹を心配そうに覗き込んでいるから、ポンポンと頭を撫でてなだめてやる。ついと顔を上げたジャオは寄る辺の無い幼子のような顔をしていて、普段はあんなに凛々しいのにと少し驚いた。
ジャオはぐっと上に伸びあがって、つまり僕の下腹部から、徐々に僕の正面に座る体勢に戻って……
ギュッ
抱き締められた。
えっ? えっ? なんで……!?!?
理解不能だ。だがジャオはどうやら何かに傷ついているらしい。ここは黙って受け止めてやるべきか……。
いや、でも。まだジャオと過ごした時間は短すぎる。毎日一緒に過ごした幼馴染とかならともかく、どうして仲良くなってまだ日も浅い男友達同士で、こんなにも熱い抱擁を交わさねばならないのか。
抜け出そうと身じろぐと、ジャオが少しだけ腕に力を込めてくる。
無理やり逃げようと思えば逃げられない程の力ではない。だけど……僕より体格のいいジャオが、まるで僕に助けを求めるかのように縋り付いて来ているような気がしたから。
僕は抵抗をやめた。
ジャオの体温、あったかいな……ジャオも、僕の温もりを感じているのだろうか。
なんだかいい匂いがする。ジャオの匂いだ。汗の匂いも混じって、男らしくて、だけど……全然いやじゃない。
ふと、ベビーベッドの部屋で抱き締められた時のことを思い出した。
ミヤビさんの前だったし、妹たちも見ていたし……ジャオ、変な気があってあんなことしたわけじゃないと思うけど……女の子たち、僕らのこと勘ぐってたよなあ。
思えば僕らって急に距離が縮まったよな。僕がオトメとしてジャオの目の前に召喚されてから、屋上で出会い、教室でピンチを助けられて……今は稽古をつけてもらうために、こんな森の中に二人きりでいる。
そうだ、この森は城の敷地内だからまず人が来ることはないのだ。
それなら誰かに見られる心配もない。ジャオの好きなように、させてやれる。
…………好きなようにって、たとえばどんなふうに?
あれ。ヤバイ。なんだか急に恥ずかしくなってきたぞ。
ジャオ、あんなに取り乱していたし……そもそも僕にそんなやましい気持ちを抱いているはずはないのに……今、こんなに密着して、学校の奴らに見られたら、全員が全員、おかしいって、男同士でって、言うと思う……。
それなのに、コイツは何も言わずに僕を抱き締めてきて、それを僕も何も言わずに受け止めて、あらためて一体これってどういう状況?
途端に、ジャオと触れ合っている肌が燃えるように熱く感じる。ジャオが僕の頭を抱え直すたびに奴の匂いが体内に入ってきて、胸の内まで灼けるみたいだ。
って、僕が下心もってどうすんだ……!?
いやそもそも僕ってジャオのことそういう目で見てたのか!?
いや違う、それは断じて違うぞ。周りが変な目で見てくるから、だから意識してしまっているだけで……ジャオはもともと人との距離感がちょっとおかしいし、そういうのもこれから、僕が教えてやればいいだけの話だ。
だから落ち着け。お願いだから落ち着いてくれ、僕。
胸が苦しい。息が詰まって喘ぐような呼吸になる。どうにもならなくて、藁にも縋る想いでジャオの背中をかき抱いてしまった。ジャオがびくんと揺れる。ああごめんジャオ。そういうつもりじゃ。でもお前が悪いんだぞ。いきなりこんなふうに拘束するから。
僕が手を離したのをきっかけにジャオもようやく抱擁を解いてくれた。
それでも、絡みつくような視線は解けてくれない。
ジャオの手がひた、と僕の頬に触れる。僕は魔法にでもかかったかのように動けなくなっている。ジャオの瞳、いつもは青いのに……なんだか、赤く輝いているように見えて……すべて赤に染まった彼は、冷酷な顔つきに変貌してしまったようで、不安になる。
……目が、離せない……。
フワッ
唇同士が触れるだけのそれは、数秒で離れて、次に見たジャオの瞳は優しげなベイビーブルーに戻っていた。
自分が今どんな顔をしているのかもわからない。
こわい。
恥ずかしい。
どうしてこんなことになっているのかさっぱりだ。
金縛りが解けたようにようやく僕の腕が動く。遠慮がちにジャオの胸を押し返した。ジャオは僕の意志に従うかのように、そっと身体を離してくれた。
向かい合った状態で、気まずい沈黙。どうして何も言ってくれないんだよ。お前からしたんだろ。……なんか言えよ。
スゥ。ジャオが息を吸う気配。
奴が何か言葉を発するんだと思ったら急に怖くなって、僕は立ち上がってた。
この心地よい関係が変わるのがいやだ。
つらくて苦しくて切なくて……そんな気持ちで、そばにいるのはいやだ。
「解散! 今日はもう終わり!」
「え……ああ」
「じゃあなっ!」
頬が、唇が、目の奥が熱い。
なぜだか泣きそうになってる顔を隠したまま、駆け出した。
どうしよう。僕、いやじゃなかった。
ジャオに、男友達に、抱き締められて、キスまでされたのに……
いやじゃ、なかった…………。
ここは王族の所有する敷地内なので、城の者しか立ち入ることができない。だが衛兵やコックらは皆日々自分たちの仕事に従事しているため、人通りはゼロといってもいいほどだった。
いつもは僕と妖精のトルテが二人きりで安らぐその場所に、男二人の威勢の良い掛け声が響いている。
「あと五十回!」
「押忍!!!」
木にぼろ布団を巻き付けてそこにひたすらパンチを打ち込んでいる。ジャオの一切妥協しないトレーニングメニューに僕は素直に従っていた。
強くなると決めた。ジャオに守ってもらってばかりでは、男として情けない。
もしかしたら、すでにこの身は男ですらないのかもしれないが……それでも、せめて心意気だけは男でいたい。当たり前のように、自分で自分を守れる人間になりたいんだ。
「よし、休憩だ」
「ふー……」
持ってきた水筒に口をつける。
タンクトップをつまんで汗だくの顔を雑に拭くとお腹が出てスースーする。タオル持ってこればよかったな。ジャオにだらしない奴だと思われてしまっただろうか。
さりげなく視線を向けると、ジャオはハッとして思い切り目を逸らしてくる。なんだろう、今僕が見るより先に、僕のこと見てた?
ごく、ごく、ごく。喉を上下させてもう一度水分補給。ジャオは黙りこくって明後日の方向を向いている。だけどなんだかこちらをバリバリに意識しているような……ああ、なんだか僕まで気になってきた。
「ジャオ?」
「あ、ああ。よく頑張ったな。ベルは筋がいい」
「ほんとか~? お前って僕に甘いからさあ。真剣に稽古つけてくれよ?」
「真剣にやってる。それもやっただろう」
それ、とジャオが示したのは僕の手首についている石でできたアクセサリーだ。正確にはアクセサリーではない。身に着けられる重りである。これを付けて拳を突き出す練習をすると攻撃の速度が格段に上がる、とはジャオの弁だ。
「これはどうやって手に入れたんだ?」
「作った。俺はもっと重いものに変えたからそれはお前にやる」
「おさがりかよー」
「新しいのを作ろうか?」
「冗談通じないのな、お前……いや僕が悪かった。大切にするよ」
「どうして謝る?」
「手作りだったのかコレ。やっぱり器用じゃん!」なんて褒め言葉をとっさにのみ込んだもんだから憎まれ口が飛び出してしまったけど、ジャオは取り合おうともしないんだな。ほんと、読めない奴……。
けど、まあ、悪い奴じゃないことはわかった。たぶんコイツ、天然なんだ。
場慣れしていないならどんな話をしてもヒかないかな。そうだ、それなら普段はしない話も、少しくらいはしたっていいのかもしれない。
「そういえばこないだ、お前の夢を見たよ」
「……俺の?」
「うん。なんか少し大人のお前? が隣にいたんだけど、僕急にお腹が痛くなってさ、その場に倒れちゃうんだ」
「え……?」
手入れされていたジャオの重りがドサッと草むらに落ちる。一体どれだけ重量があるんだと突っ込もうとするが、できなかった。ジャオがあまりに恐ろしい気迫を纏って、ずんずんとこちらに歩み寄ってきたから。
そのまま僕の正面に座り込むと、じっと顔を覗き込んでくる。あまりにも険しい顔していたから怒っているのかと思ったけど、違う。顔面蒼白で、どちらかというと泣きそうだ。
ひた、と腹に手が置かれる。ジャオは今度は真剣に僕の腹を凝視して、撫でて、荒い呼吸を整えている。
「ジャオ、どした」
「ハッ、ハッ、ハッ」
「おーい」
「ハッ……あ、その……ケガ、してないかと思って……」
「夢の話だって!」
ハハハ、と笑い飛ばすがジャオはつられてはくれない。今度は縋るようにじっと僕の顔を見つめてくる。
「夢か……そういう夢は……よく見るのか……?」
「いんや? 見てもだいたいすぐに忘れちゃうしなあ」
「そうか…………」
それきり、喋らなくなってしまった。
コイツ、ちょくちょく情緒不安定になるよなあ。屋上で話した時もいきなり掴みかかってきて怖かったし。
なにかトラウマでもあるのかもしれない。英雄って気苦労多そうだもん。あんなに優しいお母さんがいるけれど、親に話せないことだってあるかもしれないんだ。これからはそういう時に、僕が話し相手になってやれたらいいな。
純粋に、そう思えた。僕はいつの間にか、ジャオを友人だと認めていたのだ。
まだ僕の腹を心配そうに覗き込んでいるから、ポンポンと頭を撫でてなだめてやる。ついと顔を上げたジャオは寄る辺の無い幼子のような顔をしていて、普段はあんなに凛々しいのにと少し驚いた。
ジャオはぐっと上に伸びあがって、つまり僕の下腹部から、徐々に僕の正面に座る体勢に戻って……
ギュッ
抱き締められた。
えっ? えっ? なんで……!?!?
理解不能だ。だがジャオはどうやら何かに傷ついているらしい。ここは黙って受け止めてやるべきか……。
いや、でも。まだジャオと過ごした時間は短すぎる。毎日一緒に過ごした幼馴染とかならともかく、どうして仲良くなってまだ日も浅い男友達同士で、こんなにも熱い抱擁を交わさねばならないのか。
抜け出そうと身じろぐと、ジャオが少しだけ腕に力を込めてくる。
無理やり逃げようと思えば逃げられない程の力ではない。だけど……僕より体格のいいジャオが、まるで僕に助けを求めるかのように縋り付いて来ているような気がしたから。
僕は抵抗をやめた。
ジャオの体温、あったかいな……ジャオも、僕の温もりを感じているのだろうか。
なんだかいい匂いがする。ジャオの匂いだ。汗の匂いも混じって、男らしくて、だけど……全然いやじゃない。
ふと、ベビーベッドの部屋で抱き締められた時のことを思い出した。
ミヤビさんの前だったし、妹たちも見ていたし……ジャオ、変な気があってあんなことしたわけじゃないと思うけど……女の子たち、僕らのこと勘ぐってたよなあ。
思えば僕らって急に距離が縮まったよな。僕がオトメとしてジャオの目の前に召喚されてから、屋上で出会い、教室でピンチを助けられて……今は稽古をつけてもらうために、こんな森の中に二人きりでいる。
そうだ、この森は城の敷地内だからまず人が来ることはないのだ。
それなら誰かに見られる心配もない。ジャオの好きなように、させてやれる。
…………好きなようにって、たとえばどんなふうに?
あれ。ヤバイ。なんだか急に恥ずかしくなってきたぞ。
ジャオ、あんなに取り乱していたし……そもそも僕にそんなやましい気持ちを抱いているはずはないのに……今、こんなに密着して、学校の奴らに見られたら、全員が全員、おかしいって、男同士でって、言うと思う……。
それなのに、コイツは何も言わずに僕を抱き締めてきて、それを僕も何も言わずに受け止めて、あらためて一体これってどういう状況?
途端に、ジャオと触れ合っている肌が燃えるように熱く感じる。ジャオが僕の頭を抱え直すたびに奴の匂いが体内に入ってきて、胸の内まで灼けるみたいだ。
って、僕が下心もってどうすんだ……!?
いやそもそも僕ってジャオのことそういう目で見てたのか!?
いや違う、それは断じて違うぞ。周りが変な目で見てくるから、だから意識してしまっているだけで……ジャオはもともと人との距離感がちょっとおかしいし、そういうのもこれから、僕が教えてやればいいだけの話だ。
だから落ち着け。お願いだから落ち着いてくれ、僕。
胸が苦しい。息が詰まって喘ぐような呼吸になる。どうにもならなくて、藁にも縋る想いでジャオの背中をかき抱いてしまった。ジャオがびくんと揺れる。ああごめんジャオ。そういうつもりじゃ。でもお前が悪いんだぞ。いきなりこんなふうに拘束するから。
僕が手を離したのをきっかけにジャオもようやく抱擁を解いてくれた。
それでも、絡みつくような視線は解けてくれない。
ジャオの手がひた、と僕の頬に触れる。僕は魔法にでもかかったかのように動けなくなっている。ジャオの瞳、いつもは青いのに……なんだか、赤く輝いているように見えて……すべて赤に染まった彼は、冷酷な顔つきに変貌してしまったようで、不安になる。
……目が、離せない……。
フワッ
唇同士が触れるだけのそれは、数秒で離れて、次に見たジャオの瞳は優しげなベイビーブルーに戻っていた。
自分が今どんな顔をしているのかもわからない。
こわい。
恥ずかしい。
どうしてこんなことになっているのかさっぱりだ。
金縛りが解けたようにようやく僕の腕が動く。遠慮がちにジャオの胸を押し返した。ジャオは僕の意志に従うかのように、そっと身体を離してくれた。
向かい合った状態で、気まずい沈黙。どうして何も言ってくれないんだよ。お前からしたんだろ。……なんか言えよ。
スゥ。ジャオが息を吸う気配。
奴が何か言葉を発するんだと思ったら急に怖くなって、僕は立ち上がってた。
この心地よい関係が変わるのがいやだ。
つらくて苦しくて切なくて……そんな気持ちで、そばにいるのはいやだ。
「解散! 今日はもう終わり!」
「え……ああ」
「じゃあなっ!」
頬が、唇が、目の奥が熱い。
なぜだか泣きそうになってる顔を隠したまま、駆け出した。
どうしよう。僕、いやじゃなかった。
ジャオに、男友達に、抱き締められて、キスまでされたのに……
いやじゃ、なかった…………。
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