天寿の全うが目標です

もやし

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「いったたたた、、、あのくそ猫め。人の善意を踏みにじるなんて、誰が許すともこの私が許さんぞー!」

木から落ちた時に自分が何者であるかを思い出したビスカは、咄嗟に風に魔力で干渉し、自分の体に纏うことで落ちる衝撃を和らげることに成功していた。
頭から落ちるのは回避出来た、と言っても代わりに尻に大打撃を食らったので恐らく青くなっているだろうそこを摩った。
そもそもビスカは魔法は得手ではないのだから、まぁしようがない。
命が助かっただけ儲けものだ。

自分が「廻る者」であると思い出した今はそう思う。まだ目覚めたばかりで、完全には世界に目をつけられてはいないらしい。

「急いで帰って、父さんと母さんに家を出るって言わなくちゃ・・・」

痛む尻の介抱もそこそこにバスケットを抱えると、ビスカは一目散に駆け出した。
案の定、こけて頭から地面に激突したが、気にせず再び走り出す。そうやって、ドタバタしていたビスカは、ついに猫がいなくなって居たことに気付かなかった。



陽も傾き、そろそろ夜を迎えるための支度をせねばと言う時間に騒々しく
「母さん!父さん!私家出する!!!!」
と言いながら、家に駆け込んできた泥だらけ傷だらけの娘を見て、全く動じない父親は、にこやかに微笑んだ。
「なんだ、結婚したい男でもいるのかい?お父さんに教えてくれるかな。ちょっとお話ししてくるよ。」
実は動じているのかもしれないが、優しく微笑む父親はいつも通りに見えた。
診療所は既に閉所の時間を過ぎていて、患者は見当たらない。ちょうど片付けをしていた所だったようで、父親の手には、片付け途中と見られる切れ味のいいハサミが握られている。

「違うよ、父さん。私ここに居られないの。父さん達を巻き込みたくないの」

脈絡のない話ながら、真剣に目を見つめながら言う娘に何か感じるものがあったのか、怪訝そうな顔をしつつハサミを下ろすと、父親はため息をついた。
「ビスカ、とりあえずお風呂の入っておいで、話はそれからにしよう。母さんがご飯を作っている筈だしね。」

そう促され、渋々ビスカはそれに従った。事は一刻を争うのであるが、流石に泥だらけの状態で何を言っても説得力が無いのが悲しい。そして尻も痛いのが、なお、悲しさに拍車をかけてくるのである。

「そうだ、お風呂入った後、この傷薬を怪我したところに塗っておいで。全くこんなに泥だらけになるなんて、淑女は程遠いな。」
「ちょっと父さん、それ余計なお世話!!」

はははと笑いながら渡される傷薬は、小さい頃から怪我をした時に塗ってもらっているもので、効能は高い。怒った風に見せつつ、バシリと奪い取るように受け取って両手で包む。
家族別れなければならない現実が、もう目の前にある。悲しみ、つらさ、悔しさ、様々な感情が涙になって溢れそうになったが、ぐっと喉を鳴らして堪える。
今までで1番と言えるほど、とても幸せな家族を、これから自分で手放さねば。



「廻る者」であるビスカは、天寿を全うできないで死ぬと、記憶を引き継いで転生し続ける生を生きている。
その存在は世界の歯車に組み込まれている自浄作用の1つだ。真価は死ぬ時にこそ発揮される為、世界は強烈な不運を装って、あの手この手で「廻る者」を殺しにかかるのである。
ビスカは過去3回も死んでいる。いずれも15歳を迎える事は出来なかった。
恐らく「廻る者」の中でもダントツ短命ダントツ最多死亡を狙える位置にいると自負している。その理由は「庇護者」が居ないこと。それに尽きた。

「庇護者」とは、一方的に殺され続ける「廻る者」側が生み出した存在と言われており、「廻る者」が世界に対抗する唯一の手段だ。
あらゆる災厄から「廻る者」を守るためだけに存在する「庇護者」は、時に父であり、時に母であり、時に恋人、人外であったりしたが、総じて言えるのは災厄に対抗できる程にありとあらゆる事において「強い」という事であった。勿論、ビスカのように簡単な魔法を使える「廻る者」もいるが、世界相手ではそんなものは子供騙しにしかならないのである。

基本的には「廻る者」発生と同時に覚醒し、その能力でもって「廻る者」のそばに参じ、すぐに守りに入るものとされるが、不思議なことにビスカには待てど暮らせど、一度たりとて来る事はなかった。
その為、毎度発生しては短命に終わってしまい、天寿など夢のまた夢ではなかろうかと言わんばかりの現状なのだ。

勿論ビスカとて黙って殺されたくはない。これでも必死に頑張って生きてきたのである。悲しくとも悔しくとも、それこそ死の瞬間までも戦い続けて来たのである。
そしてまた、天寿を全うする事を目標とする戦いが始まったのだ。
今度こそ生き抜いてやるのだ。何が何でも。



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