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朝方は少し冷えるとは言え、夏を前に薄い掛け布団のみで寝ていたビスカは、言い様のない寒気とドスドスと体に響くような低い振動を感じて目を覚ました。
目の前に広がるのは、なんら変わりのない自室であったが、何かが何処かにぶつかるような音と振動が続いている。
膜一つ隔てたような場所から聞こえてくる音に、着替えも忘れて思わず部屋を飛び出した。
リビングでは、既に起き出していた母親がテーブルの上に食料を並べて、鞄に詰め混んでいるところだった。
「おはようビスカ。今日は天気が少し悪くて買い出しは難しそうよ」
「おはよう母さん。今日の外は一体どんな天気になってくれちゃってるのかな!?」
なんかもう窓の外が朝なのに暗いし、たまに窓にガツガツぶつかっている固形のものが見えるし、その度に振動っぽいのが体に響いてくるし、もはやガガガガガガって連打状態だしなんだこれ。
そこへ朝から何やら出掛けていたらしい父親が玄関ドアから入ってきた。
少し濡れたのだろうか、湿った肩口を叩く姿はなんだかかっこよく見える。
「あぁ、おはようビスカ。ちょっと雹が降ってて外は危ないから出ないように。拳より大きいのもあるみたいだから、お前くらいなら吹っ飛ばされるよ」
「それって、当たると頭が単独で吹っ飛んで行くくらい危ないの?」
「ちょっとグシャってなるくらい」
「潰れちゃうのかぁ・・・」
事も投げに言っているが、外は想像以上に危険な状態になっていた。
しかし、現段階ではこの家自体に掛けられた父親の守護により、当面倒壊の危険はないらしい。
雹も、今の所はこの家の周辺のみで今はまだ留まっているとのことだった。
「気付いた段階で私が遮断しましたが、ビスカの気配にやはり気付かれていたのでしょう。先程、山頂付近で雨が降り出したようですから、次は山崩れあたりが来ると思いますよ」
「山崩れで一帯全部ってなると、ご近所さんも巻き込んじゃうじゃない!」
「このままだとそうなりますね」
蒼白になったビスカに、父親は淡々と返した。
父母は自身らの危険性も考え、村の外れに居を構えた為、村の中心からは歩いて30分程度の距離がある。
距離はあれど、一帯は山の麓に拓かれた場所であり、山が崩れれば当然飲み込まれる位置に出来ている。
山や川の恩恵を受ける利は大きいため、多少の危険は受け入れて生きて来てはいるが、今回は多少どころではない。
母親が鞄に財布を詰め込みながら、困ったように眉を下げた。
「ご近所さんを逃がしに行くのは難しいと思うの。私達が助けようと動けば、多少なり気付かれる。それこそ、これ幸いと村ごと流されるわ」
人数も200人ほどとそこそこ多く、点在する家々を回って全員を説得するのに一体どれほどの時間がかかるのか。その時間は残っているだろうか。
村人を巻き込むわけにはいかないが、知らせに行けば危険。このままで居ても危険。
ビスカとて大なり小なり、幼少よりお世話になった人が多く住んでいる村を守りたい気持ちは山々であるが、現状は早々に詰んでいるように思える。
ギュムギュムと食料を詰め込みつつ、母親は苦笑した。
「よほどビスカは廻る者として優秀なのね。絶対に逃がしたく無い感じがするわ」
「そんな優秀さ、要らないよぉ・・・」
「ホントよねぇ。災難でしかないもの」
全然嬉しくない事を言われ、思わずがっくりと項垂れてしまう。そんな優秀さよりも、切実に生き残る優秀さが欲しいものだ。
ところでぱんぱんに膨れてしまった鞄から溢れているのは、どう見ても生の肉なのだが、流石にそれは無理ではないだろうか。
手を出そうか迷ってるうちに、父親の深い溜息が聞こえて来た。
「私は別に村がどうなっても良いのですが、セチがどうしてもと言うものですから助けねばなりません」
「あら、当たり前じゃない。貴方なら出来るでしょう?」
珍しく挑発するような母親に対し、僅かに皺のよった眉間が父親の不本意な気持ちを全面にあらわしていた。
いつも温和で優しく病人を診ていた父親の言い様に驚くが、護るべき廻る者が危険に晒される庇護者とは“こういう”ものなのだろう。母親は困ったように肩を竦めただけだった。
どうやら、ビスカが起きる前に母親と父親の間で一悶着あったようだ。
「助けるのは勿論良いとして、方法はどうするの?助けに行く事は出来そうにないんでしょう?」
若干不機嫌さが増したように思える父親に聞けば、
「もうやる事は決めてあるから大丈夫だよ。とりあえず動きやすい服に着替えておいで。それまでに準備を済ませておくから」
と返ってきた。
その父親の手には生の肉。きちんと除外していただけたようで有難い事だ。
「じゃあすぐ着替えて来る!ちょっと待っててね!」
テーブルの端に置いてあったパンを掴んで口に突っ込みつつ、自分の部屋に駆け戻る。
昨日までとは違う日々が始まるのだから、食べれる時に食べておかねば精神は大事だ。
例え、ものすごくパッサパサで口の中の水分が消え失せても大事なのだ。
だが、窒息は勘弁願いたいものである。
朝方は少し冷えるとは言え、夏を前に薄い掛け布団のみで寝ていたビスカは、言い様のない寒気とドスドスと体に響くような低い振動を感じて目を覚ました。
目の前に広がるのは、なんら変わりのない自室であったが、何かが何処かにぶつかるような音と振動が続いている。
膜一つ隔てたような場所から聞こえてくる音に、着替えも忘れて思わず部屋を飛び出した。
リビングでは、既に起き出していた母親がテーブルの上に食料を並べて、鞄に詰め混んでいるところだった。
「おはようビスカ。今日は天気が少し悪くて買い出しは難しそうよ」
「おはよう母さん。今日の外は一体どんな天気になってくれちゃってるのかな!?」
なんかもう窓の外が朝なのに暗いし、たまに窓にガツガツぶつかっている固形のものが見えるし、その度に振動っぽいのが体に響いてくるし、もはやガガガガガガって連打状態だしなんだこれ。
そこへ朝から何やら出掛けていたらしい父親が玄関ドアから入ってきた。
少し濡れたのだろうか、湿った肩口を叩く姿はなんだかかっこよく見える。
「あぁ、おはようビスカ。ちょっと雹が降ってて外は危ないから出ないように。拳より大きいのもあるみたいだから、お前くらいなら吹っ飛ばされるよ」
「それって、当たると頭が単独で吹っ飛んで行くくらい危ないの?」
「ちょっとグシャってなるくらい」
「潰れちゃうのかぁ・・・」
事も投げに言っているが、外は想像以上に危険な状態になっていた。
しかし、現段階ではこの家自体に掛けられた父親の守護により、当面倒壊の危険はないらしい。
雹も、今の所はこの家の周辺のみで今はまだ留まっているとのことだった。
「気付いた段階で私が遮断しましたが、ビスカの気配にやはり気付かれていたのでしょう。先程、山頂付近で雨が降り出したようですから、次は山崩れあたりが来ると思いますよ」
「山崩れで一帯全部ってなると、ご近所さんも巻き込んじゃうじゃない!」
「このままだとそうなりますね」
蒼白になったビスカに、父親は淡々と返した。
父母は自身らの危険性も考え、村の外れに居を構えた為、村の中心からは歩いて30分程度の距離がある。
距離はあれど、一帯は山の麓に拓かれた場所であり、山が崩れれば当然飲み込まれる位置に出来ている。
山や川の恩恵を受ける利は大きいため、多少の危険は受け入れて生きて来てはいるが、今回は多少どころではない。
母親が鞄に財布を詰め込みながら、困ったように眉を下げた。
「ご近所さんを逃がしに行くのは難しいと思うの。私達が助けようと動けば、多少なり気付かれる。それこそ、これ幸いと村ごと流されるわ」
人数も200人ほどとそこそこ多く、点在する家々を回って全員を説得するのに一体どれほどの時間がかかるのか。その時間は残っているだろうか。
村人を巻き込むわけにはいかないが、知らせに行けば危険。このままで居ても危険。
ビスカとて大なり小なり、幼少よりお世話になった人が多く住んでいる村を守りたい気持ちは山々であるが、現状は早々に詰んでいるように思える。
ギュムギュムと食料を詰め込みつつ、母親は苦笑した。
「よほどビスカは廻る者として優秀なのね。絶対に逃がしたく無い感じがするわ」
「そんな優秀さ、要らないよぉ・・・」
「ホントよねぇ。災難でしかないもの」
全然嬉しくない事を言われ、思わずがっくりと項垂れてしまう。そんな優秀さよりも、切実に生き残る優秀さが欲しいものだ。
ところでぱんぱんに膨れてしまった鞄から溢れているのは、どう見ても生の肉なのだが、流石にそれは無理ではないだろうか。
手を出そうか迷ってるうちに、父親の深い溜息が聞こえて来た。
「私は別に村がどうなっても良いのですが、セチがどうしてもと言うものですから助けねばなりません」
「あら、当たり前じゃない。貴方なら出来るでしょう?」
珍しく挑発するような母親に対し、僅かに皺のよった眉間が父親の不本意な気持ちを全面にあらわしていた。
いつも温和で優しく病人を診ていた父親の言い様に驚くが、護るべき廻る者が危険に晒される庇護者とは“こういう”ものなのだろう。母親は困ったように肩を竦めただけだった。
どうやら、ビスカが起きる前に母親と父親の間で一悶着あったようだ。
「助けるのは勿論良いとして、方法はどうするの?助けに行く事は出来そうにないんでしょう?」
若干不機嫌さが増したように思える父親に聞けば、
「もうやる事は決めてあるから大丈夫だよ。とりあえず動きやすい服に着替えておいで。それまでに準備を済ませておくから」
と返ってきた。
その父親の手には生の肉。きちんと除外していただけたようで有難い事だ。
「じゃあすぐ着替えて来る!ちょっと待っててね!」
テーブルの端に置いてあったパンを掴んで口に突っ込みつつ、自分の部屋に駆け戻る。
昨日までとは違う日々が始まるのだから、食べれる時に食べておかねば精神は大事だ。
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だが、窒息は勘弁願いたいものである。
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