その男、有能につき……

大和撫子

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第五十話

「続・元の世界をちょいと拝見」~家族は今……・前編~

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 勿論返事はイエスだ。でも……正直さ、未だに心のどこかで家族に期待している自分もいて。もしかしたら居なくなって初めて俺の大切さに気付いたりしていないかなぁ。なんて事、ある訳ないのだけど……。現実的に考えて、父さんと母さんは「あの子どこ行っちゃったのかしら」と少し気にする程度で、弟は「まぁあんな駄目屑兄貴なんか居なくても良くね?」の一言で両親も「それもそうだね」と終わる、そんな感じだろうと予想される。と思いつつも、いやいや、いくら何でももう少し気にしてくれるって、と思う自分と。本当に予想通りだったらそれはそれでショックというか……。俺の居場所なんてどこにも……

「やはりまだ、決心がつきませんか?」

 そう、それなんだ。でも、ズルズルと後になればなるほどいつの間にか脳内で理想化して変に期待しちまいそうだし……

「複雑な心境です」

 うん、ホントこれ。

「まぁ、無理は体に良くないですからね。それでしたら何か他のちょっとした気になる事でも見てみますか?」

 でも……実はちょいと気にはなる件もあるし。央雅だって消したい過去をしっかりと乗り越えて来てるんだ。恐らく、リアンも。きっと、異世界であろうがなかろうが、人は多かれ少なかれ何か抱えて生きていくもので。その抱えているものを向き合って昇華するのか、それとも抱えたまま行くのか、見なかった事にするのか、人や周りのせいにするのかは各個人によるもので、きっと正解はないんだ。俺はそれでも、人や周りのせいにするのは嫌だな。

「いや、ここでこういう話題が出るという事は、きっとタイミングが来たんじゃないかとも思うのです」

 そうそう、『偶然を味方につけるアイテム』もある事だし、きっとそうなんだよ……

「だから、向き合ってみます」
「……分かりました。では、レオとノアに用意させましょう。少しの間寛いでお待ち下さい」

 リアンは少しだけ何か考えている感じだったけど、すぐにその場を立ち去った。程なくしてドアノックの音と共に、レオとノアがやって来た。呼ばれたら即対応、うーん、当たり前の事なんだろうけど、優秀だなぁ。じろじろ見ていたらやりにくいかもしれないし、ちょっと思考を整理しようかな。

 ……以前、王太子殿下とラディウス様が対峙した時、二人の間に割って入っていったけど、あれはリアンが王太子殿下の執事兼教育係だったからか。元々が国王陛下の執事だったなら、恐らく、国王陛下が王太子殿下の執事兼教育係に推したんだろうなぁ。だとしたら、未だに王太子殿下に物申す力は与えられているんだと思うし。そんな口ぶりで諭してたし、言う事を聞く聞かないは別にしてリアンが物申した行為自体を王太子殿下が咎めたりはしなかったもんな。さて、これ以上の詮索や憶測は失礼だ……

「お待たせしました、準備が整いましたよ」

 リアンはそう言ってベッドに近づいて来た。ノアとレオが、いつもの白いワゴンを押してその後に続ワゴンの上には白いポットが一つと、白いカップにソーサーが二つ置かれている。「失礼致します」ノアはそういいながら手にしていた折り畳み式の桜色の丸テーブルをベッドの隣に広げた。「ホットココアでございます」レオはそう言って、ポットからカップにミルクチョコレート色の液体を注ぐ。カカオの甘い香りに和む。テーブルにそれを二人分置くと、一礼してレオとノアはワゴンを端に置き、静かに出て行った。「レオ、ノア、有難う」と声をかける。「いいえ」と顔を赤らめて降り返る二人。照れたように俯きながら音を立てずに素早く部屋を出て行った。ふふ、やっぱり可愛いなぁ。

「さて、ご家族のどの辺りから見てみましょうかね?」

 リアンは穏やかに切り出した。これで、家族を吹っ切れる……かなぁ。もし、この世界から突然に元の世界に戻っちまったら、俺の居場所なんてあるんだろうか……いや、ごちゃごちゃ考える前にリアンの質問に答えるべきだろ、俺。

「そうですね。やっぱり自分が居なくなって行方不明と判明した辺りかから、ですね」
「承知しました。映像を流す前にお伝えしておきますが、あなたは一人ではありませんよ。あちらの世界では色々あったとしても、こちらではあなたの味方であなたの力になりたいと思っている者たちが仕えています。現に、私がお傍について共に拝見するのは、何かあった時に即サポートする為です。それに、あなたが過去に向き合いたいのは、根本から体を回復させる為でしょう?」

 そうだ、俺は何を恐れて……

「はい、危うく自分を見失うところでした。すみません、もう大丈夫、有難う!」

 人の心は操作支配出来ない、だから家族が俺の事をどう感じようが自由だ。捨てきれない幻想を家族に抱いて、しがみつくのは辞めよう。もし元の世界に戻っちまったら、その時はその時だ。今はこっちの世界の繋がりを大切にしよう。まずは俺の目標は、健康体になる事だ。勇気が湧いた。

「では、いきますよ」

 リアンは軽く右手をあげ、右中指と親指をこすり合わせてパチンと鳴らした。前回と同じだ。今朝新しく活けられた窓辺のダリアの花束が全体的に白く輝き始めた。その光は柱のように壁に向かって伸び、壁全体を明るく照らし出した。

 部屋の真ん中辺りに、3D映画のように浮かび上がる母親と父親、そして弟。リビングで弟の誕生パーティーをしているようだ。俺が居なくなった日だ……
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