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第六十六話
護身術修行開始! 果たして身につけられるのか?!
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「ハァハァ……ご、ハァハァ……ごめん、リアン……ハァハァ……」
中腰になって俯き、肩で息をする。継いでゴホッゴホッ……込み上げるように出始める咳。苦しい、悔しい……
「いいえ、別に大丈夫ですよ。取りあえず咳が治まったらあちらで少し休みましょう」
背中を叩いてくれていたリアンは、何でもない事のように言う。咳が治まるのを待つと、俺の肩を支えるようにして木陰に設けられている木製のベンチへと誘導した。一人で歩こうにも、目の前が白く霞んで眩暈がしやがる。リアンに支えられながらゆっくりと腰をおろす。しばらくして漸く呼吸が整ってきた。それを見計らったように、
「咽ないように気をつけて、ゆっくり飲んでくださいね」
リアンはそう言って、右の手の平を上に向けると出現した白いマグカップを差し出した。「有難う」と言って両手で受け取る俺に、
「少し熱いですから、火傷に気を付けて」
と、一言添える。マグカップの中身はお湯だ。喉を潤して体を温めるろという事だか。有り難く頂こう。ゆっくりと飲む。
サラサラと爽やかな秋風が、辺りの木々の葉を揺らした。抜けるような蒼天に、彩光世の特色である虹色の雲が薄っすらとベールのように広がる。ここは森林を切り開いて作られた競技場だ。形状は古代ローマの円形競技場に近いだろうか。
……しかし、ホントに情けないなぁ……
昨日、水命界で魔術を教わった後、王子と『秘密の花薗』で過ごした。今朝から早速『武術修行』って事で、リアンからまずは剣術を習おう、て事になったんだけど……。ストレッチから始まって軽くジョギング。それから再びストレッチをして、姿勢、剣の持ち方、そして基本の型までは良かったんだ。さほど息切れもしないし、普通に出来るんじゃないか、と。剣は勿論、切っても切れない模造刀な。それで、軽く素振りから入ろうという話になって、それからすぐに息が切れてきて……この体たらくぶり。こんな事じゃ、出来る出来ない以前の問題じゃないか、俺って本当に役立たずだ。
「すまない、リアン。せっかく貴重な時間を割いて貰ったのにこんなザマで……」
申し訳無さ過ぎて消えたい……。
「それは、全く気にする必要ないですよ。筋は悪くにと思いますしね。それに、人に何かを教えるという事は、想定外の連続です。その想定外の出来事をどうクリアして教えていくのか、それが教える者の腕の見せ所なのではないでしょうか。惟光様も、新しい仕事につけば子供に何かを教える場面に数多く遭遇するでしょう。きっと、同じように感じると思いますよ」
リアンは気にするな、というように穏やかに微笑む。殆どポーカーフェイスが多い彼にすれば珍しい事だ。それ故、こんなに優しい表情が出来る奴だったのか、と驚くほどだ。彼の言葉……人に何かを教えるという事についての考えには大いに頷ける。しかし……
「ええ、それはよく分かるような気はします。でも……」
「それに!」
リアンはそれ以上言うなというように、右手人差し指を唇にあてた。
「あなたがこうなる事は想定内でしたからね。むしろ、準備段階のジョギングでそうなるだろうと予測していましたのに、随分と持つようになられた! と軽く感動すら覚えましたよ」
と、お道化たように笑いながら両手を広げる。
「……ごめん。そして有難う」
それしか言葉が見つからなかった。何とかして俺が気に病まぬようにと、必死な想いが痛いほど伝わるから。
「さて、時間さえたっぷりあれば、じっくり体力作りから、といきたいところですし本来そうすべきなのですが、自体は切迫していますからね。次の案に移りましょう」
次の瞬間、いつものポーカーフェイスに戻る。右人差し指を眼鏡のエッジに当てて俺を見つめた。スッと背筋を伸ばし、その視線を受け止める。落ち込んでいる暇はねーな。何とかして、いざという時の護身術を身につけないと!
中腰になって俯き、肩で息をする。継いでゴホッゴホッ……込み上げるように出始める咳。苦しい、悔しい……
「いいえ、別に大丈夫ですよ。取りあえず咳が治まったらあちらで少し休みましょう」
背中を叩いてくれていたリアンは、何でもない事のように言う。咳が治まるのを待つと、俺の肩を支えるようにして木陰に設けられている木製のベンチへと誘導した。一人で歩こうにも、目の前が白く霞んで眩暈がしやがる。リアンに支えられながらゆっくりと腰をおろす。しばらくして漸く呼吸が整ってきた。それを見計らったように、
「咽ないように気をつけて、ゆっくり飲んでくださいね」
リアンはそう言って、右の手の平を上に向けると出現した白いマグカップを差し出した。「有難う」と言って両手で受け取る俺に、
「少し熱いですから、火傷に気を付けて」
と、一言添える。マグカップの中身はお湯だ。喉を潤して体を温めるろという事だか。有り難く頂こう。ゆっくりと飲む。
サラサラと爽やかな秋風が、辺りの木々の葉を揺らした。抜けるような蒼天に、彩光世の特色である虹色の雲が薄っすらとベールのように広がる。ここは森林を切り開いて作られた競技場だ。形状は古代ローマの円形競技場に近いだろうか。
……しかし、ホントに情けないなぁ……
昨日、水命界で魔術を教わった後、王子と『秘密の花薗』で過ごした。今朝から早速『武術修行』って事で、リアンからまずは剣術を習おう、て事になったんだけど……。ストレッチから始まって軽くジョギング。それから再びストレッチをして、姿勢、剣の持ち方、そして基本の型までは良かったんだ。さほど息切れもしないし、普通に出来るんじゃないか、と。剣は勿論、切っても切れない模造刀な。それで、軽く素振りから入ろうという話になって、それからすぐに息が切れてきて……この体たらくぶり。こんな事じゃ、出来る出来ない以前の問題じゃないか、俺って本当に役立たずだ。
「すまない、リアン。せっかく貴重な時間を割いて貰ったのにこんなザマで……」
申し訳無さ過ぎて消えたい……。
「それは、全く気にする必要ないですよ。筋は悪くにと思いますしね。それに、人に何かを教えるという事は、想定外の連続です。その想定外の出来事をどうクリアして教えていくのか、それが教える者の腕の見せ所なのではないでしょうか。惟光様も、新しい仕事につけば子供に何かを教える場面に数多く遭遇するでしょう。きっと、同じように感じると思いますよ」
リアンは気にするな、というように穏やかに微笑む。殆どポーカーフェイスが多い彼にすれば珍しい事だ。それ故、こんなに優しい表情が出来る奴だったのか、と驚くほどだ。彼の言葉……人に何かを教えるという事についての考えには大いに頷ける。しかし……
「ええ、それはよく分かるような気はします。でも……」
「それに!」
リアンはそれ以上言うなというように、右手人差し指を唇にあてた。
「あなたがこうなる事は想定内でしたからね。むしろ、準備段階のジョギングでそうなるだろうと予測していましたのに、随分と持つようになられた! と軽く感動すら覚えましたよ」
と、お道化たように笑いながら両手を広げる。
「……ごめん。そして有難う」
それしか言葉が見つからなかった。何とかして俺が気に病まぬようにと、必死な想いが痛いほど伝わるから。
「さて、時間さえたっぷりあれば、じっくり体力作りから、といきたいところですし本来そうすべきなのですが、自体は切迫していますからね。次の案に移りましょう」
次の瞬間、いつものポーカーフェイスに戻る。右人差し指を眼鏡のエッジに当てて俺を見つめた。スッと背筋を伸ばし、その視線を受け止める。落ち込んでいる暇はねーな。何とかして、いざという時の護身術を身につけないと!
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